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【ファミリー~Jリーガーと家族 ⑨】 サンフレッチェ広島 森﨑浩司選手(前編)

『GIANT KILLING extra』の新しいインタビューシリーズが始まりました。

Jリーガーが語る、家族の物語《ファミリー》。いつも応援している選手たちの、普段見せない顔に、ぜひ出会ってください。

9人目の登場は、サンフレッチェ広島・森﨑浩司選手です。

これまでに登場した選手たち

  • 【1人目】 川崎・小林悠選手(前編後編
  • 【2人目】 広島・森﨑和幸選手(前編後編
  • 【3人目】 浦和・柏木陽介選手(前編後編
  • 【4人目】 鹿島・土居聖真選手(前編後編
  • 【5人目】 湘南・菊池大介選手(前編後編
  • 【6人目】 柏・中川寛斗選手(前編後編
  • 【7人目】 川崎・谷口彰悟選手(前編後編
  • 【8人目】 鹿島・永木亮太選手(前編後編



仕事柄、携帯電話を2台持っているのだが、ある日、その2台に同時に着信があった。僕は画面に表示された名前を見て、思わずニヤリとすると、両方の通話ボタンを押した。

「どっちが先に話す?」

右耳からは森﨑もりさき浩司こうじ、左耳からは森﨑もりさき和幸かずゆきの声が聞こえてくる。いくらサンフレッチェ広島での練習を終え、クラブハウスを出るタイミングが一緒だからといって、双子が見せる奇妙なシンクロに驚かされた。二人も「マジですか」と言って、それぞれ電話口で爆笑していたが、そんなとき、決まって遠慮するのが弟の浩司だった。


これまで二人とは何度も話をしてきたし、もはや取材した回数は数え切れない。その中ではたわいない会話もあれば、真剣に悩みを告白されたこともあった。だから、本人たちも僕も、新たに教える、もしくは知る事実はないだろうと思っていた。

ところが、である。今回の取材で浩司は、「僕が引退セレモニーで、『カズ(和幸)がいたから今日までプロサッカー選手としてプレーできた』と話したのにはちゃんと理由があったんですよ」と言う。そこには浩司が、双子の兄・和幸と過ごしてきた17年間に及ぶプロ生活はもとより、プロサッカー選手になれた原点があった。

気がつけば、僕は身を乗り出していた。まだ、知らない二人の物語があったのかと……。

浩司にとって現役最後のホームゲームとなった10月29日、2万人を越える大観衆を前に彼が話したスピーチを、より深く理解するには、少しばかり時間を巻き戻す必要がある。



双子であることが恥ずかしくなり、距離を置いた思春期

広島市安芸あき矢野やので生まれた二人は、今でこそ身長177cmと、プロでは決して大きい部類には入らないが、子どもの頃は目立つほど背が高かった。

「この間もちょうど母さんとその話になったんですけど、幼稚園の年長のときには、身体からだが大きくなりすぎて、制服や帽子、鞄が似合わなくて恥ずかしかったって言われました」

そう笑って浩司は当時を懐かしむ。双子ということもあり、何をやるにも一緒だった二人は、小学校2年生になると、地元の矢野FCでサッカーを始めた。

「きっかけは確か運動会だったと思うんですよね。各学年の代表者が走るリレーがあって、1年生のときにカズと一緒に選ばれて。そのとき、6年生の先輩に『お前ら足も速いし、運動神経もいいから、矢野FCでサッカーやらないか?』って声を掛けてもらったんです。それでカズと一緒に体験練習に参加した。

それこそ今、思い出したんですけど、当時、サッカーのスパイクがなくて。野球のスパイクは持っていたから、最初はそれをいてやっていましたね(笑)」

彼らが優れていたのは、体格や足の速さだけではなかった。

「なんか足でボールを扱うことが全く難しくなかったんですよね。いわゆる止めてるというサッカーの基礎が、最初から自然とできた。正直、なんでみんなはできないんだろうって思っていたくらい。たぶん、そこはカズも同じ感覚だったと思いますよ」

身体も大きく、うまければ重宝されるのは必然だった。2年生のときから高学年のチームでプレーしていた彼らは、自分たちが6年生になると、サッカー少年の憧れである、全日本少年サッカー大会にも出場した。

「ポジションは僕がFWでカズがその後ろ。チームメイトも僕らにボールを預けて、二人だけで攻めて点を取っちゃうみたいな。他のみんなもうまかったから、20対0で勝つなんてこともありましたね。だから、うちの監督が、相手の監督に『頼むからあの双子を代えてくれ』って言われたというエピソードを聞いたこともあります(笑)」


ただ、そのころちょうど、彼らは思春期を迎えようとしていた。サッカーで目立つだけならまだしも、双子であることで注目され、比較されることに、徐々に羞恥心しゅうちしんが芽生えていった。

「小学校のときは出る大会出る大会でほとんど優勝しているくらいダントツに強くて。それもあって、ただでさえ注目されているのに、僕らは双子ということで目立つから、大会の開会式や試合前の整列では、みんながジロジロと見てくるんですよね。なんか、ショーウインドウの中のマネキンみたいな気分がして、すごく嫌だった。それまで、カズを意識したことは一度もなかったんですけどね」

それは浩司だけでなく、和幸も同じ思いだったのだろう。

「中学生になると、余計にその気持ちは強くなって、二人でいるところを周りに見られたくなかったんです」

だから、彼らは一緒にいることをやめた。 (前編了)


取材・文=原田大輔(SCエディトリアル)
写真=佐野美樹

森﨑浩司(もりさき・こうじ)

1981年5月9日、広島県生まれ。MF。サンフレッチェ広島のユースで育ち、双子の兄・和幸と共に広島一筋でプレー。2004年にはU-23日本代表としてアテネ五輪に出場。2012年をはじめ3度のJ1優勝に貢献し、今シーズンをもって17年間に及ぶ現役生活から引退することを決意した。


後編へ続く