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【ファミリー~Jリーガーと家族 ⑤】 湘南ベルマーレ 菊池大介選手(前編)

『GIANT KILLING extra』の新しいインタビューシリーズが始まりました。

Jリーガーが語る、家族の物語《ファミリー》。いつも応援している選手たちの、普段見せない顔に、ぜひ出会ってください。

5人目の登場は、湘南ベルマーレ・菊池大介選手です。

これまでに登場した選手たち

  • 【1人目】 川崎・小林悠選手(前編後編
  • 【2人目】 広島・森﨑和幸選手(前編後編
  • 【3人目】 浦和・柏木陽介選手(前編後編
  • 【4人目】 鹿島・土居聖真選手(前編後編



められた思い出よりも、怒られた記憶のほうが強く残っている。それが今なお、菊池きくち大介だいすけの原動力であり、活力になっているからなのだろうか。中学を卒業と同時に親元を離れ、平塚の町で一人暮らしを始めた彼は、両親と過ごした懐かしい日々を少し照れくさそうに振り返った。

「褒められた記憶ってあんまりないんですよね。どちらかというと、厳しめでした(笑)。それもサッカーのことになると特に」


やんちゃだったからか、褒められた思い出より怒られた記憶が強い

今もプレーする湘南ベルマーレで、わずか16歳にしてJ2のピッチを踏んだ菊池は、神奈川県横浜市で生まれた。転勤族だった父親の影響で、小学生時代を鳥取県米子よなご市で、中学生時代を長野県佐久さく市で過ごした彼は、とにかく活発だったという。

「生意気でしたね。言葉遣いも悪かったし、文句を言うこともめちゃくちゃ多かったと思いますね。サッカーに対しても普段の遊びにしても負けず嫌いで、ドッジボールでボールが当たっても言い訳して認めないような子どもでした」

“やんちゃ”だったから、当然、両親に怒られることも多かった。

「サッカーが楽しかったのもあるし、遊びに夢中だったから勉強は全然で(笑)。だから、いつも勉強や学校のことで母さんに怒られてました」


ボールを蹴る姿も含めて、泥だらけになって遊んでいるシーンが想像できると伝えると、「やっぱり」と爆笑しながら菊池は、怒られた記憶を引っ張り出す。

「これは中学のときのことなんですけど、オレ、よくうそついてたんですよね(笑)。テストの後って、必ず何点だったかって聞かれるじゃないですか。だから母さんに『テスト返ってきてるの?』って聞かれても、本当はもう返されているのに『まだかなぁ』って言ってごまかしてたんです、オレ(笑)。子どもだから、どこかでそのまま乗り切れるだろうって思ってる。でも、内心はいつ嘘がばれるかヒヤヒヤして、一日がものすごく長く感じるんですけどね。まあ、最終的にその嘘がばれる。それも絶対に。それで『あんた、言ってることと違うじゃない』って結局、テスト用紙を見せて怒られてました。母さんは本当にいろいろと細かくて、基本的にいつも怒るのは母さん。それが溜まっていくと、父さんから“いかつい”雷が落ちるんです」

母・香織かおりさんについては「一緒にいる時間が長いからこそ、すべてを見透かされていた」と話してくれた。一方、仕事で忙しい父・英之ひでゆきさんは家にいる時間も少なく、「父さんが一日休みのときはうれしかった」と童心に返ったようにはにかんだ。父・英之さんと過ごせる時間は貴重だっただけに記憶も鮮明だ。だが、ここでも思い出すのは怒られたエピソードだった。

「一番覚えているのは、幼稚園の年長で、買ってもらったばかりのゲーム機をなくしたときですね。あのときは、父さんにかなり怒られました。家の近くに神社があったんですけど、そこで反省しろってことだったのか、探してこいって言われたのかは覚えてないけど、一人でめちゃくちゃ泣いた記憶がありますね」

幼稚園のときにはじめたサッカーは、米子に引っ越すと、さらに夢中になった。小学校6年生で全国大会に出場したように地元では抜きん出た存在で、それは佐久に引っ越して中学生になってからも変わらなかった。ナショナルトレセンにも選ばれ、順調にプロへの階段を駆け上がっていく。中学を卒業して湘南に入るまで、サッカーで大きな挫折ざせつを経験したことはなかった。だからこそ、両親はサッカーにおいても厳しい言葉を息子に掛け続けたのではないだろうか。

「両親は小学校のときも、中学校のときも、それこそ今もほとんど自分が出る試合は見に来てくれて……あっ、子どものころもやたらとサッカーでも怒られてましたね」

丁寧に振り返ってくれたからか、記憶の扉が一気に開く。

「母さんはプレーについてだとか、取り組む姿勢や気持ちに対してもめっちゃ言ってきましたね。『あそこ、もうちょっといけたんじゃないの?』とか、『何でシュート決められなかったの?』って。ずっと見ていて目が肥えてきたのか、中学生になったくらいから怒られることがすごく増えて。父さんもそう。不甲斐ふがいないプレーをした試合の後は、帰りの車で全然、しゃべってくれなかったり。オレもちょっとむかついてたし、面倒くさいから黙ってましたけどね。プロになったばかりのときも、両親ともにかなりいろいろと言われましたね。それこそ、父さんは今も厳しいっす」

その厳しい言葉の一つひとつが挫折を知らない彼の反骨心を鍛えた。彼をさらなる高みへと導いてくれたのは、他でもない両親だった。それはプロになった今も変わらないという。 (前編了)


取材・文=原田大輔(SCエディトリアル)
写真=佐野美樹

菊池大介(きくち・だいすけ)

1991年4月12日、神奈川県生まれ。MF。父親の転勤で小学生時代を鳥取県米子市で、中学生時代を長野県佐久市で過ごし、高校入学と同時に湘南ベルマーレユースに加入。J2最年少出場記録となる16歳2ヵ月25日で公式戦のピッチに立つ。2010年にはザスパ草津に期限付き移籍したが、翌年、湘南ベルマーレに復帰。2012年からは背番号10をつけ、中心選手として活躍している。


後編へ続く