マンガ家を目指す人が知っておくべき「法律」と「お金」の話 第5回 マンガ家の支出

【法律とお金の話⑤】マンガ家の赤裸々なお金事情part2! 今回は「支出」について!

これからマンガ家になりたい人が知っておくべき、著作権や肖像権などの「法律」と、原稿料や印税などの「お金」にまつわることを、会話形式でわかりやすく解説。第5回のテーマは「支出」について

 

第1回「表現の自由」についてはこちら

第2回「権利」についてはこちら

第3回「契約」についてはこちら

第4回「収入」についてはこちら

 

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マナブ:DAYS高校のマンガ部部員。高校1年生男子。プロのマンガ家を目指して頑張り中。 

詳田(くわしだ)先生:DAYS高校の女性教師でマンガ部顧問。あらゆることに詳しい。とにかく詳しい。

 

はじめてのアシスタント

 

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詳田先生:あらマナブくん、こんにちは。なに描いてるの?
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マナブ:あ、先生こんにちは。建物のパースの練習をしてるんです。こないだ織茂白夫(おもしろお)先生のところにアシスタントへ行ってきたんですけど、背景描いてみたら「パースがおかしい」って指摘されちゃいまして……。
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詳田先生:新しい課題が見つかったのね。
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マナブ:はい。トーンやベタみたいな単純作業は早く卒業して、背景やモブを任されるようになりたいです。
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詳田先生:いい刺激を受けたみたいね。
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マナブ:ええ、プロの実際の作業を生で見ることができて、すっごく参考になりました。いい修行になります。負けてたまるか!
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詳田先生:その意気よ! いまは腕を磨くことね。
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マナブ:はい! ところで、織茂白夫先生のスタジオって、アシスタントが僕を入れて5人いるんですよ。アシスタント代をもらうときに初めて気がついたんですけど、これを人数分払い続けているわけですよね。マンガ家ってすっごいお金かかるんだなーって思いました。
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詳田先生:そうねえ……。昔からよく「紙とペンさえあれば作家になれる」なんて言われてるけど、マンガも同じだと思うの。紙とペンさえあれば、読者にありとあらゆる物語を読ませることができる。そこが素晴らしいじゃない。とはいえ、マナブくんの言うとおり、プロのマンガ家になると実際にはさまざまな経費が必要になるのも事実。今日は、そんなマンガ家の「支出」について話をするわね。
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マナブ:宜しくお願いします!

 

マンガ家に必要な初期コストは?

 

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マナブ:それで、どんなお金が必要になるんです?
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詳田先生:大きくわけると、最初に必要だけど一度買えばしばらくはそれで済む初期コストと、描き続けるために必要なランニングコストね。
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マナブ:最初に必要なお金って、たとえば何ですか?
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詳田先生:そうね。前にも話をしたけど、デジタル環境へ移行するならパソコンとモニター、ペイントツール、タブレット、スキャナとプリンターとか。
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マナブ:早くデジタル環境へ移行できるくらいお金を貯めたいです!
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詳田先生:頑張りましょうね。あとは、データをバックアップしておくハードディスクとか。
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マナブ:そうか。バックアップ大事ですよね。このあいだ友達が「データが飛んだーっ!」って泣いてました。ハードディスクがクラッシュして、復旧できなかったみたいで。
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詳田先生:お気の毒に。あと、資料写真を撮るために、デジタルカメラもあったほうがいいわね。
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マナブ:あ! アシスタントに行った織茂白夫先生のところでも「この写真で背景お願い」って話がありました。先生が自分でロケハンしてきたって言ってましたね。
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詳田先生:写真を元に背景を描くことは多いのよ。でも、著作権の問題があるから勝手に誰かの写真をトレースするわけにはいかないし。
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マナブ:あーそうか、あたりまえですけど写真にも著作権あるんですよね。
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詳田先生:そうね。だから、どこか旅行したり、珍しい場所に行った時には、いつか使えるかもしれないって思って、写真を撮っておくマンガ家も多いみたいよ。
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マナブ:なるほど。
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詳田先生:あとは、たとえば誰かにインタビューするなら、ICレコーダーみたいな録音機材も。写真も録音も、スマートフォンで代用できるけど、同時に複数の用途では使えないから、専用機材を持っておいたほうが無難ね。
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マナブ:スマホだと、バッテリー切れも怖いですよね。

 

マンガ家のランニングコストは?

 

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マナブ:じゃあ、ランニングコストってなにがあります?

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詳田先生:まずアシスタント代と、その交通費や食事代ね。ここが占める割合ってやっぱり大きくて、アシスタント代だけでもらっている原稿料を超えちゃうような先生もいるみたいよ。

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マナブ:うわ!

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詳田先生:前に話をしたマンガ家の主な収入源の1つ「原稿料」で赤字だったとしても、単行本の「印税」で補填できればいい、という考え方ね。もちろん単行本が売れないと大ピンチだけど。

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マナブ:うわあああああ。

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詳田先生:デジタル環境に移行したらアシスタントを在宅作業にできたから、仕事場の面積を狭くできた、つまり家賃が下がったなんて話もあるわね。デジタル専門のアシスタントさんを、「デジアシ」と呼んだりもするわ。

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マナブ:あ、なるほど! アシスタントもデジタル環境なら、仕事場まで行かなくていいんだ。

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詳田先生:ネットだけでやりとりして、1回も会ったことのないアシスタントがいる、みたいな状況も増えてきているみたいよ。

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マナブ:あー、それはそれで、生の現場が見られなくなるから、ちょっと寂しいような気もしますね。

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詳田先生:そうね、生原稿はデジタルにはない凄みがあるから、マンガの原画展なんかを観にいっておくのもいいかもしれないわ。

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マナブ:原画展、面白そうですね!

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詳田先生:あとは、データをバックアップするのにクラウドサービスを併用すると、月額で費用がかかるわ。資料写真では、商用利用可能な「ストックフォトサービス」を利用するっていう手もあるわね。「ゲッティイメージズ」とか「アマナイメージズ」あたりが有名かな。これも1枚いくらとか、月額いくらとか、つまりランニングコストね。

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マナブ:ふむふむ。

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詳田先生:アナログ環境だと、原稿用紙、スクリーントーン、インク、ホワイト、筆、ペン先、ペン軸、下書き用のえんぴつや消しゴムなんかも、どんどん消費していく消耗品だからランニングコストになるわね。

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マナブ:織茂白夫先生がスクリーントーンを惜しみなく使ってるのを見て、すごいなーって思いました。

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詳田先生:デジタル環境は初期コストが大きいけど、ランニングコストは抑えられるって聞くわ。逆に、アナログは初期コストは抑えやすいけど、ランニングコストがかかるのよね。

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マナブ:むむ。

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詳田先生:あとは、ストーリーを考えたり絵を描くための資料代。現地取材するなら出張旅費。担当さんとの打ち合わせで喫茶店に入るならコーヒー代……は、担当さんが出してくれるかもね。でも、打ち合わせ場所へ行くための交通費は必要だわ。こういうのもみんな経費ね。

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マナブ:むむむむ。

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詳田先生:連載を持つようになったら、公益社団法人日本漫画家協会に入っておくのもいいわよ。年会費が2万円かかるけど、国民健康保険の代わりに文芸美術国民健康保険組合に加入できるようになるの。

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マナブ:協会と組合ですか。協会はなんとなくイメージできるんですけど、健康保険ってよくわからないです……。

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詳田先生:マンガ家も立派な社会人だから、知っておいた方がいいわね。まず、日本国民はみんな、なんらかの公的医療保険に加入する義務があるの。代表的なのが「国民健康保険」ね。ほら、マナブくんも保険証を持っているでしょ?

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マナブ:はい、持ってます。お父さんの「フヨウ」に入ってるって、聞いたことがあるような。

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詳田先生:そう、これまでのマナブくんには収入がなかったので、サラリーマンのお父さんに養ってもらう「扶養家族」だったの。これが、マンガ家になって年収130万円以上になると、お父さんの扶養から外れることになるわ。つまり、自分で国民年金や国民健康保険料を払う必要があります。

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マナブ:わー、そういう制度なのか。

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詳田先生:雛鳥が成長して巣立つときが、年収で決められているという感じね。で、マンガ家は「自営業」なので、基本は各自治体の国民健康保険に加入することになるの。で、この保険料は、前年の所得に連動します。つまり、稼げば稼ぐほど保険料が高くなるわ。

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マナブ:ひゃー。

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詳田先生:これに対して、日本漫画家協会に入ることで加入できる文芸美術国民健康保険組合の保険料は、固定で月額1万9600円。だから、住んでる地域によって少し違うけど、たとえば東京都23区内なら、独身で年間所得がだいたい230万円を超えるようなら、文芸美術国民健康保険組合のほうがお得って言われてるわね。これもランニングコストの1つよ。

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マナブ:そうか、そういうお金も必要になってくるんですね。

 

マンガ家は経営者

 

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詳田先生:そう。だから、これからマナブくんがマンガ家になったら、ちゃんと収入と支出を記録して、収支のバランスを考えていかなきゃダメよ。
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マナブ:収入と支出か。なんだか「お小遣い帳」みたい。
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詳田先生:お小遣い帳というより、会社の経理や会計ね。マナブくんがマンガ家になったら、個人事業主。つまり、経営者なの。
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マナブ:経営者!
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詳田先生:実際、個人事業主で収入が多くなったら、節税のため法人化、なんて話もあるわ。そうなったら社長ね。
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マナブ:社長!
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詳田先生:ちゃんと経営をするには、収入と支出などの記録を残しておく必要があるわ。帳簿に記入する「記帳」っていうんだけど、まあ、個人事業主用の会計ソフトを買っちゃったほうが早いかもね。会社で言えば「売上」と「経費」。いくら稼いで、いくら使ったか。売上から経費を引いた差額がプラスなら黒字、マイナスなら赤字。
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マナブ:数字って苦手です……。
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詳田先生:必要なのは足し算、引き算、掛け算、割り算くらいよ。それも、会計ソフトが自動集計してくれるわ。収入がそれなりにあるなら、餅は餅屋で、税理士さんにお願いしちゃうのも手ね。これもランニングコストの1つ。
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マナブ:ふえぇ……専門家にお願いできるくらいマンガが売れるように頑張ります。
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詳田先生:まあ、連載を持つようになったら税務署に「開業届」を提出したほうがいいでしょうね。どうせなら、青色申告の承認申請も。このあたりは「税金」の話に繋がってくるんだけど……そろそろマナブくんの頭から湯気が出そうだから、別の機会にしましょうか。
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マナブ:よろしくお願いします!
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詳田先生:とりあえず、必要な物を買うときは、ちゃんと領収書を保存しておきましょうね。いまはそれだけ伝えておくわ。じゃあ、頑張ってね。
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マナブ:勉強になりました。先生、今日もいろいろありがとうございました!!

 

ここを読めばざっくりわかる!今回のツボ!

・「アナログ」は、初期コスト < ランニングコスト
・「デジタル」は、初期コスト > ランニングコスト
・マンガ家は経営者なのだ
・収支計算には会計ソフトを使うと便利

 

 

連載最終回のテーマは「税金」の予定です!!

 

 

 

 

 

 

 

文/鷹野凌

監修/山内真理(公認会計士・税理士)

イラスト/萩原あさ美