マンガ家を目指す人が知っておくべき「法律」と「お金」の話 第4回 マンガ家の収入

【法律とお金の話④】マンガ家の赤裸々なお金事情! まずは「収入」について!

 

これからマンガ家になりたい人が知っておくべき、著作権や肖像権などの「法律」と、原稿料や印税などの「お金」にまつわることを、会話形式でわかりやすく解説。第4回のテーマは「収入」について。

 

第1回「表現の自由」についてはこちら

第2回「権利」についてはこちら

第3回「契約」についてはこちら

 

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マナブ:DAYS高校のマンガ部部員。高校1年生男子。プロのマンガ家を目指して頑張り中。

詳田(くわしだ)先生:DAYS高校の女性教師でマンガ部顧問。あらゆることに詳しい。とにかく詳しい。

 

デジタル制作環境を整えるにはお金が要る

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マナブ:(うっとり……ぐぬぬ……ふぅ……むむっ……)
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詳田先生:あらマナブくん、こんにちは。感情の起伏が激しいみたいね。なんか百面相みたい。

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マナブ:あ、先生こんにちは。僕の読み切りが載ったイブニングが届いたんで、改めて読み返してたんです。いやあ……初めて載ったことはすごく嬉しいし誇らしいんですけど、こうやって他の連載作品と並べて比べると、僕の絵ってこんなにヘタクソだったのかって悔しくて。
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詳田先生:改めて、おめでとう。でも、次の課題が見つかった、ってところかな。引き続き頑張りましょう! ところで初めての原稿料は、なにに使うの?
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マナブ:ありがとうございます。デジタル執筆環境の資金にするため、ひとまず貯めておこうと思ってます。
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詳田先生:まあ! 自分への投資ね。計画的で、偉いわ。パソコンにモニター、イラスト制作ソフトにタブレット、アナログからの移行だとスキャナやプリンターも欲しいかな?
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マナブ:パソコンとモニターは、親からお下がりを貰えることになったので、ひとまず大丈夫です。ほんとならこれだけで少なくとも10~15万円は必要なんで、ありがたいです。スキャナはA3対応のプリンター複合型機で、安いのなら5万円くらい。ペイントツールは、定番の「クリスタ(CLIP STUDIO PAINT)」が、最上位モデルでも3万円弱。ここまではいいとして……。
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詳田先生:問題はタブレットね。

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マナブ:そうなんです。板状タブレットなら高くても2万円くらいで手軽だし扱いも楽そうなんですけど、お店で触ってみると、直感的に操作できる液晶タブレットのほうが僕にはいいな、って思えて。でもそうすると、フルHDの安いのでも10~15万円くらい。ハイエンドなのだと30万円以上。
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詳田先生:iPad Pro と Apple Pencil っていう手もありそうね。iPad 用の「クリスタ」がつい先日出たばかりよ。
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マナブ:あ、知ってます。「PC版とほとんど変わらない」って噂ですよね。iPad なら手軽に持ち運べるし、お金に余裕があればサブ機として使いたいです。いずれにしても、絵を描く道具にはこだわりたいんですよね。
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詳田先生:商売道具ですもんね。こだわるのはいいことだわ。

 

 

アシスタントの給料相場は?

 

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詳田先生:でも、今回の読み切り原稿料だけじゃ、まだ足りないってことよね。
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マナブ:はい。でも、実は担当編集者さんから、アシスタントをやってみないか? って提案されているんです。プロの現場を生で経験できる上に、お金も貯められて一石二鳥だ、と。
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詳田先生:まあ、すごい。でもなんだか浮かない顔ね。うちの高校は、バイト禁止されてないわよ?

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マナブ:いやあ……これまで普通にバイトした経験もないし、僕の画力でいきなりプロの先生のところへ行って仕事をするなんて、足を引っ張っちゃわないかな? ってちょっと怖くて。
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詳田先生:担当さんから「やってみないか?」って言ってくれたのよね? それなら最低限の実力は兼ね備えてるってことよ。プロの技を盗むチャンスとも言えるし。それに、マナブくんが連載を持つようになったら、アシスタントを雇う側になるでしょうから、どうやって指示を出すのか見ておくのはいいことよ。
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マナブ:……そうですね、頑張ってみます。
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詳田先生:いただいたお給料分は働かないとね。
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マナブ:ですね! ところで、アシスタントの給料って、どれくらいなんでしょう?
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詳田先生:経験が浅いアシスタントは、日給8000円から1万円くらいが相場ね。交通費と食費は、込みの場合と別途支給の場合があるから、確認しておいたほうがいいわ。
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マナブ:ふむふむ。何日くらい入るものなのかな?
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詳田先生:週刊連載だと週2~5日、月刊連載だと月5~15日くらいみたい。日給8000円として、週刊連載の週4勤務なら月給12万8000円、月刊連載の月10日勤務なら月給8万円。月刊連載のアシスタントだけだと食べていくのが難しいので、仕事場を掛け持ちする人も多いみたいよ。
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マナブ:……さすがに、授業をサボって行っちゃダメですよね?
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詳田先生:私の立場でOKとは言えないわね。でも「学生可」ってアシスタントの募集もあるみたいだから、土日だけでもいいかどうか相談してみるといいわ。
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マナブ:そうですね、まず担当さんと相談してみます。
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詳田先生:ちなみに、マナブくんは実家住まいだから考えなくてもいいんだけど、地方出身者は大変よ。たとえば中央本線高円寺から三鷹あたりや、山手線の池袋あたりはマンガ家が多く住んでいるけど、1Kのアパートでも家賃だけで4万円以上するもの。
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マナブ:僕は恵まれた環境なんだなあ。
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詳田先生:まあ、最近は在宅の「デジタル・アシスタント」も増えてるみたいね。でも、通わなくていいようにするためには、まずデジタル制作環境を整えなきゃいけないのよね。
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マナブ:頑張ってお金貯めます!

 

 

マンガ家の収入源その1:原稿料

 

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詳田先生:せっかくの機会だから、マンガ家の収入について、もうすこし詳しく話をしましょうか。
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マナブ:はい! お願いします。
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詳田先生:マンガ家の収入源は、大きくわけて3つあるわ。まず、マナブくんが今回貰ったのと同じ、マンガ誌などへ掲載される際の「原稿料」。雑誌ごとにルールがあるんだけど、新人が初連載するときの原稿料は、だいたい1ページ5000円から1万円くらい。
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マナブ:雑誌によって違うのかー。
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詳田先生:たとえば原稿料が1万円だとしても、そのまま1万円が入ってくるわけじゃないの。消費税がかかったり、源泉所得税が引かれたりするから。「言われた額より少ない!」なんて怒らないようにね。このあたりはややこしいから、また別の機会に話をするわ。
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マナブ:税金かあ。なんだか、社会の一員になったって感じがしますね。
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詳田先生:そうね。マンガ家ももちろん、立派な社会の一員よ。
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マナブ:ですよね!

 

 

マンガ家の収入源その2:印税

 

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詳田先生:さて、マンガ家の収入源その2は「印税」。単行本を出すときね。
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マナブ:そういえば先日、単行本を出すときは「出版権設定契約」を交わすって話がありましたね。
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詳田先生:そう。紙の単行本は一般的に、刷った部数、つまり「発行部数」×「定価」×「印税率」が、マナブくんが受け取る印税額になるわ。印税率は10%が多いみたいね。初版1万部で定価540円とすると、印税額は54万円。その後、重版されるごとに印税が入ってくるの。
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マナブ:『重版出来!』ですね。「よおッ、パン」って柏手、いいなあ。
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詳田先生:紙の本は印刷・製本コストがかかるから、 どれくらい売れるかを出版社が予測して発行部数を決めるの。刷りすぎて売れなかったら返品されちゃうから、発行部数の判断はシビアだわ。ただ、印税は発行部数で計算されるから、もし売れなかったとしてもマナブくんへの印税額には関係ないわ。
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マナブ:そうなんですね……。あれ、「紙の本」ってことは「電子」では違うんですか?
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詳田先生:ええ。電子の場合は、発行部数ではなく実際に購入された数、つまり「実売数」、定価ではなく「実売価格」になるの。ユーザーが購入してダウンロードするとき自動複製すればいいから、在庫を持つ必要がない。だから実売数での計算なの。
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マナブ:なるほど。じゃあ、定価ではなく実売価格というのはどういうことです?
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詳田先生:世の中の一般的な商品は、メーカーが小売価格を拘束するのが独占禁止法で禁じられているわ。だから、たとえば家電メーカーが発表する価格は「希望小売価格○○円」とか「参考価格○○円」だったり、「オープン価格」って表記されて値段がわからなかったりする。それをいくらで売るかは、各小売店の自由ってこと。ところが、紙の本は例外的に、出版社が定価を決めているの。これが「再販価格維持契約」ね。
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マナブ:定価って例外なのですか!
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詳田先生:そうなの。でも、紙の本と違って、電子の本は定価販売じゃないの。つまり、各電子書店のセールなどで販売価格が変わるの。だから実売数×実売価格という計算。
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マナブ:あー、そういえば電子コミックって、よくセールやってますよね。
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詳田先生:電子書店のセールは、過去の完結した作品が掘り起こされる良いきっかけにもなっているみたいね。ちなみに、電子の印税率は、出版社や雑誌によってけっこう違うみたいよ。

 

 

マンガ家の収入源、その3はいろいろ

 

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詳田先生:マンガ家の収入源その3は、いろいろね。マンガが人気になったら、ノベライズやアニメ化、ドラマ化や映画化、舞台化、グッズの展開、はたまた翻訳版で海外展開なんて話になるかもしれないわ。
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マナブ:アニメ化! 実現したいなあ。
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詳田先生:アニメ化でさらに人気になって単行本が売れる、という相乗効果もあるみたいね。
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マナブ:まずは連載目指して頑張ります!
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詳田先生:そうね、頑張って! あと、人前に出て話すのが苦じゃないなら、番組への出演料とか、イベントの登壇料・講演料なんてのも考えられるし、芸術系の大学や専門学校の先生になるって道もあるけど、「マンガを描く」こととは少し違う話になるわね。今日はこれくらいにしておきましょうか。
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マナブ:勉強になりました。先生、今日もいろいろありがとうございました!!

 

 

 

ここを読めばざっくりわかる!今回のツボ!

・デジタル制作環境構築には、それなりにお金がかかる
・マンガ家の収入源は、原稿料と印税、その他
・印税は、紙と電子で計算が異なる

 

 

 

次回以降は「お金」の話について。まずは「支出」の予定です!!

 

 

 

文/鷹野凌

監修/山内真理(公認会計士・税理士)

イラスト/萩原あさ美