マンガ家を目指す人が知っておくべき「法律」と「お金」の話 第2回 マンガを描くだけで手に入る権利って?

【法律とお金の話②】作者が持つ著作権と、原稿料・印税の関係や、 名誉や人格が守られる仕組みを解説します。

 

これからマンガ家になりたい人が知っておくべき、著作権や肖像権などの「法律」と、原稿料や印税などの「お金」にまつわることを、会話形式でわかりやすく解説。第2回のテーマは「あなたの権利」について。

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 マナブ:DAYS高校のマンガ部部員。高校1年生男子。プロのマンガ家を目指して頑張り中。 

詳田(くわしだ)先生:DAYS高校の女性教師でマンガ部顧問。あらゆることに詳しい。とにかく詳しい。

 

プロかどうかは権利に関係ない

 

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マナブ:うーん……。
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詳田先生:あらマナブくん、どうしたの? 頭抱えちゃって。イブニング編集部への持ち込み、ダメだったの?
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マナブ:あ、先生こんにちは。持ち込みは、すごくいい感じでした。担当の編集者さんがついてくれることになりまして。マンガを描いて食べていく、夢への第一歩が踏み出せました!
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詳田先生:まあ、すごーい! おめでとう。ならどうして、そんな浮かない顔をしているの?
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マナブ:実は……。見てください、これ。僕が以前投稿サイトにアップしたマンガが、勝手に転載されていて……。それどころか、セリフが一部書き換えられて、赤の他人に自作宣言までされちゃってるんですよ。
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詳田先生:あら……これはひどいわね。
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マナブ:プロデビュー前の作品だから、泣き寝入りですよね。うう、悔しいなあ。
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詳田先生:いいえ。マナブくんの権利に、プロかどうかは関係ないわよ。
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マナブ:へ? そうなんですか!?
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詳田先生:作品として表現した瞬間、自然に発生するのが「著作権」なの。これは、立派な著作権侵害よ。
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マナブ:僕、出版社を通じてどこかに作品を登録しなきゃいけないと思ってました。あ、まさか、ヘタな作品はダメとかないですよね……?
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詳田先生:うまいかヘタかも、関係ないわ。人の考えや気持ちが個性的に表現されていればOKよ。
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マナブ:そうなんですね。著作権って、イマイチよくわからないんですけど、具体的にはどういう権利なんです?

 

 

作品を生み出すと、いろんな権利が手に入る

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詳田先生:著作権というのは、自分の作品がどのように利用されるかを、自分で決められる権利のことよ。もう少し掘り下げると、おおまかに「お金を得ることができる権利」と、「著作者の名誉や人格を守る権利」の2つに分けられるわ。
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マナブ:お金と名誉ですか。
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詳田先生:そう。お金にまつわる権利は「著作権(財産権)」とも表記するわね。例えば「マンガ誌に掲載する」というのは、言い替えると、作品を印刷で紙に複製することによって、多くの人に読んでもらえるようにすることよね。
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マナブ:そうですね。
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詳田先生:この、複製する権利のことを、著作権法では「複製権」と呼ぶの。その複製物、つまり紙のマンガ誌を、全国の書店やコンビニなどに流通させて、販売・配布する権利は「譲渡権」。レンタルコミックのように、レンタルする権利は「貸与権」よ。そして、著作者であるマナブくんは、そういった「作品を利用する権利」と引き替えに、出版社から対価を得る形になるわけ。それが「原稿料」や「印税」ね。
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マナブ:へえ! そういう仕組みだったのか。
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詳田先生:最近だと紙ではなく「ウェブマガジンに掲載する」とか「マンガアプリで配信する」といった、電子的な形で読んでもらうのも一般的よね。この場合はデジタル化という「複製権」に加えて、「公衆送信権」というの。
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マナブ:紙と電子で違うんですね。
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詳田先生:そう。著作権って、いろんな権利の束なのよ。どのように利用するかによって、権利が細分化されてるの。
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マナブ:え、他にもあるんですか?。
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詳田先生:ええ。マンガを原作にしたアニメや映画を製作する、いわゆる「二次利用」なら「翻案権」。映画を配給したりDVD・ブルーレイなどを販売/貸与する「頒布権」。スクリーンに映す「上映権」。海外展開するなら「翻訳権」。ちょっと変わったところでは、読んで聞かせられる「口述権」なんて権利も……あ、そろそろ頭から湯気が出そうね。
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マナブ:ぷひゅー、頭がパンクしそうです……。僕はただ、面白いマンガを描いて有名になりたいだけなのに。著作権を使ってお金を得るって、なんだかすごく難しいことのような気がしてきました……。
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詳田先生:ごめんごめん、一度にたくさん言い過ぎちゃったわね。じゃあ、こんなふうに考えてみて。マナブくんがせっかく描いた作品も、ひとりの力では届けられる読者の数が限られてしまうわよね。だから、出版社などに「マナブくんの作品を利用する権利」の一部を預けたり許可したりすることで、全国・全世界に届けてもらうの。そして、権利を預けた対価として、マナブくんはお金を得るってわけ。
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マナブ:あ、それならわかる気がします!

 

 

名誉や人格を守る権利

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マナブ:……あれ、そういえば、お金ともう1つあるって言ってましたっけ?
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詳田先生:よく覚えてたわね。もう1つの、名誉や人格を守るのが「著作者人格権」。例えば、マナブくんはペンネーム使ってるんだっけ?
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マナブ:はい、「もちもち☆たまご肌」ってペンネーム使ってます。
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詳田先生:面白い名前ね……まあいいわ。もし仮に、マンガ誌に掲載することになったとき、勝手に「べたべた★あぶら肌」にされたら?
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マナブ:めっちゃ嫌です
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詳田先生:そうよね。勝手に本名を公開されても、嫌よね。
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マナブ:もっと嫌です!!
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詳田先生:それが「氏名表示権」。どういう名前を表示するかを決められる権利ね。ペンネームでもOKだし、自分の意志で「表示しない」というのもアリ。
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マナブ:あ、そうか。それが名誉ってことですか。
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詳田先生:そういうこと。他にも、そもそもその作品を公表するかどうか、公表するなら、いつどのような手段で公表するかを決められる「公表権」。作品を勝手に改変されない「同一性保持権」。
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マナブ:またいろいろありますね……。
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詳田先生:こんどはこの3つでおしまい。
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マナブ:ホッ。
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詳田先生:この「著作者人格権」は、さっきの「複製権」や「公衆送信権」などと違って、誰かに売ったり譲ったりできないの。
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マナブ:あ、そういう違いがあるんですね。
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詳田先生:そう。だから、仮にマナブくんが描いたマンガの「複製権」や「公衆送信権」などをぜんぶ誰かに譲り渡してしまったとしても、この「著作者人格権」だけは手元に残るわ。
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マナブ:なんか切り札みたいですね。
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詳田先生:そうね。作品を公表するかどうか、著作者としてどう名乗るか、そして、勝手に作品を改変されない権利は、マナブくんが死ぬまで、マナブくんだけが持っている権利なの。

 

 

著作権侵害の刑罰は窃盗罪より重い

 

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マナブ:そうだ、忘れてた! 結局、勝手に転載されちゃった僕の作品って、著作権でなんとかなるんですか?
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詳田先生:差止請求ができるわ。マナブくんの作品を勝手に転載しちゃった行為は、まず「複製権」と「公衆送信権」の侵害に当たるわね。セリフを勝手に書き換えてるから「同一性保持権」の侵害や「翻案権」の侵害にも当たる。あとは、「描きました」って赤の他人が自作宣言してるから、「氏名表示権」の侵害でもあるわね。
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マナブ:差止請求ですか。具体的に、どうすればいいんです?
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詳田先生:まず、勝手に投稿している相手に「やめろ」と言うことね。それで削除してもらえればラッキー。
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マナブ:実はそれもうやったんですけど、完全に無視されてます……。
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詳田先生:まあ、自作宣言してるくらいですもんね。次に、この投稿サイトのサービス事業者に通報すること。プロバイダ責任制限法というのがあって、権利侵害が相当に明らかな場合はわりとすぐ削除してくれるケースが多いわ。
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マナブ:あ、この「著作権侵害を通報する」ってやつですか。
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詳田先生:そうそう。ここでは、自分が著作権を持っている作品という証明が必要になるんだけど、以前自分で投稿サイトに公開している作品であれば信頼性が高いと判断してもらえそうね。
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マナブ:よかった!
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詳田先生:悪質な場合は、刑事事件になることも。著作権侵害の刑事罰は、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金。窃盗罪より重い刑罰よ。
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マナブ:ふえぇ……とりあえず、あとでしかるべきところに通報しておきます。
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詳田先生:マンガでご飯を食べていくなら、自分の作品は大事にしなきゃね。
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マナブ:よーし…! もっともっと頑張って、他人に勝手に自作宣言されないくらい、有名になってやる!
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詳田先生:前向きね。頑張ってね!
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マナブ:はい、頑張ります! 先生、いつもありがとうございます!

 

 

 

ここを読めばざっくりわかる!今回のツボ!

・著作権は描いた瞬間発生する
・著作権をうまく使うと、お金が手に入れられるかも
・名誉や人格を守る、著作者人格権
・差止請求や損害賠償請求もできる

 

 

 

次回は「契約」についてお話する予定です!!

 

 

文/鷹野凌

監修/福井健策(骨董通り法律事務所代表パートナー、日本大学芸術学部客員教授)

イラスト/萩原あさ美