【担当とわたし】「青野くんに触りたいから死にたい」椎名うみ×担当編集対談<その3>

漫画家と編集者との出会い、作品の生み出し方を取材する本シリーズ。 第1弾「青野くんに触りたいから死にたい」作者・椎名うみとその担当編集のトーク、完結編!

【担当とわたし】「青野くんに触りたいから死にたい」椎名うみ×担当編集対談<その3>

漫画家と編集者との出会い、作品の生み出し方を取材する本シリーズ。

第1弾は「青野くんに触りたいから死にたい」作者・椎名うみとその担当編集のトークをお届け。前回更新のパート2では、「青野くん」に辿りつくまでの道のりが明らかに…! 今回のテーマは、“担当編集との付き合い方”そして…“ホムンクルス”!?


<その1>

<その2>

…椎名うみ。
「青野くんに触りたいから死にたい」作者。
「青野くんに触りたいから死にたい」1話はコチラから!
…アフタヌーン編集・たしろ。
椎名うみ担当編集。
たしろ編集の詳しいプロフィールはDAYS NEOに掲載! 

椎名「最初の1ページですべてが決定されちゃうんです」

――前回、初連載作「青野くんに触りたいから死にたい」のアイディアが生まれ、お2人の間で物語の“指針”が定まったところまでお伺いしました。その時点で、作品自体の内容はもう固まった感じなのでしょうか。

椎名:とにかく最初に生まれたのは、彼氏が幽霊になっちゃった女の子が「君に触れないなら死ぬしかないじゃん」って言っている1シーンでした。それがもう全部の始まりで、そのあとはドミノ倒しで作っていった感じです。物語の軸って、最初の1ページで決定されちゃうんですよ。

――キャラクターもその時点で、すでに出来上がっていた?

椎名:はい。最初の1ページ、最初のキャラクターを描いた時点で、為す術なしなんです。もういじれないんですよ。1コマ描けば決まっちゃうから、逆に掴んでない段階では1コマも描けないんです。
たしろ:確かに、最初から異様に掴んでいる感じはあったね。

担当「編集長に土下座して、青野くんを始めさせてもらった」

――それでは、連載のネームはすんなり仕上がったんでしょうか。

たしろ:1話と2話のネームは、2人の間で5回くらい直してから、2016年3月のアフタヌーン編集部の連載会議に出したんです。が…。
椎名:だめだったんだよね。
たしろ:編集長は椎名さんをすごく買っていて、「この人をとにかく世に出したい」っていう風に言ってくれていたんですけど、「メインキャラの片方が死んでいる話はフラストレーションがたまりすぎるから、可能なら、これ以外の企画を考えてほしい」って言われました。
椎名:考えたんだよね、それで。
たしろ:編集長が言うリスクは理解できました。でも、それでまたネーム制作で長期間かかってしまうのは嫌だったんです…とにかく早く連載経験を積ませてあげたいと思っていたので。そこで「1か月だけ別の企画考えましょう。それがしっくりこなかったら、「青野くん」でいきましょう」って言って、期間限定で全然違う話を考えたんですよね。でも…まあ正直つらかった。
椎名:私はつらくはなかったよ! 描いていて面白かったよ。ただ、つまんなかったのよ、「青野くん」より(笑)。だから、やっぱりこれは捨てましょうって言って。
たしろ:「私たちも1か月頑張ったから」って言って、編集長には「すいませんでしたあ!!!」って土下座して(笑)。「じゃあいいよ、やんな」って言ってもらえた。…でも最初に連載会議に出したネームは、今の1・2話とは違うんだよね。
椎名:最初の1話は、“好きな人と抱き合ったの初めて”のエピソードまでで、2話目で青野くんが体に侵入する流れでした。
たしろ:だけど会議で「1話と2話くっつけたほうがいいんじゃね!?」「1話が『好きな人できた』で終わっちゃうと、この物語に何を期待して読んでいけばいいかがわかりにくい」って先輩編集者に言われて…。
椎名:たしろさんも私も「それだー!」ってなりました(笑)。

【画像クリックで、「青野くんに触りたいから死にたい」1話が丸ごと読める!】死んで幽霊になった彼氏と再会するシーンと、その彼氏が“違う一面”を見せるシーン。異なる2要素が、第1話に両方含まれることに。

 

たしろ:確かにこの後、2人がイチャイチャするだけの漫画にも見えるし、何か別のことが展開していくようにも見えるし…予想の範囲が膨大すぎるんですよね。それって、お店の看板になんて書いてあるかわかんないみたいなこと。何屋だかわからないと、何が食べられるかわからない…そんなお店、誰も入らないですよね(笑)。期待ができないっていうのは、そういうことです。でも1話で憑依まで描くと、怖さとかエロさが表出するので、看板の文字が少しはっきりするんです。そういった修正も含めて、1話が今の形で世に出るまでにトータル12稿かかりました。でも、そこからまた苦労したよね。

椎名「作法がわかって、補助輪なしで自転車に乗れるようになった」

椎名:4話までがすっごく直しが多かったの。ネームの書き方がやっぱしわかんなくて。4話も、最初のネームでは黒青野くんが優里に「キスして」って言って、優里が「きっ…キス!?」って驚くところで終わってた。でもそれだと、「出来事が起こったところで終わってしまっていて、出来事を受けたリアクションが描けてない」ってたしろさんに言われたの。

↑美桜の家に弾かれたことをきっかけに、“黒青野”に変化。最初のネームでは、その後のキスによって起きた出来事や、優里の嘘が露見するシーンは次の話になっていた。

 

たしろ:4話で言うと、2人の間ですれ違いが起きていることをお互いが知って、ショックを受けるっていう部分がリアクション。優里が嘘をついていたことを青野くんが知るあたりだけど、ここまで描ききらないと、話としておさまりが悪いんですよね。
椎名:現状のネームに直してあらためて、「第4話はここまで描いて初めて物語が成立するんだね」って二人で話したね。「美桜ちゃんと出会う導入があり、黒青野になり、そのあと会話するまででひとつの話だ」って。
たしろ:漫画の中の出来事って、キャラクターのリアクションを引き出すためにあると思うんですが、そこがワンセットになってない時がその時期まではしばしばあって。「青野くん」は出来事自体がべらぼうに面白いので読めちゃうんですけど…でもリアクションもちゃんと1話の中に入れていきましょう、って話をしたね。
椎名:なるほどーって思ったな~。
たしろ:それからは、ほぼ毎回リアクションまで描ききってくれるようになったので、大きな直しはなくなりましたね。2巻からはすっごく楽になりました。
椎名:楽になった〜。それまで暗中模索で描いていたけど、「あ、こういうこと!?」って“物語の作法”がフッとわかって。やっと補助輪なしで自転車乗れるようになった(笑)。

――自転車…!?

椎名:自転車の乗り方って、言葉で説明できないじゃないですか。感覚で掴むしかないから、それまではこけまくって、後ろに支えがないと進まなかったけど、ある日突然「あ、漕げ…るー!!」…そんな感じです。
たしろ:それも、連載を始めなかったらわからなかった。なので…編集長にマジ感謝だね。
椎名:マジ卍だね!

担当「椎名さんは伝えるための苦労を厭わないし、努力に弛みがない」

たしろ:なので、2巻以降は小さいコマの相談くらいになりました。例えば6話では「顔のアップが多いから、状況を説明するような、ロングで背景入りのコマを入れよう」とか。

↑藤本が優里を呼び出して、廊下で話すシーン。廊下のロングショットがあるので、3人の位置関係がわかりやすい。

 

椎名: 「キャラクターたちがいる場所がわからないから」って、本当にその通りだよね。上手な作品の例とかも教えてくれて。
たしろ: 編集者にとっても、作家さんの原稿にダメ出しするのって、すごく勇気が要ることなんです。それでも作品が面白くならないとだめだから言うんですけど…椎名さんは、直しは面倒だなって感情ももちろんあるはずなのに、読者に「お金を払ってもらってる」っていう意識や「伝えたい」っていう願望が強いからか、「そのほうが読者が読みやすいんだったら、普通にそうするよ!」って応じてくれる人なんです。だから、すごく信用して話が出来る。
椎名:て、照れるー!(笑)
たしろ:「他者とコミュニケーションをしたい」「伝わらないと虚無」っていう価値観だから、苦労や手間を厭わないし、そこに弛みがない。作家さんとして、とても得難い才能だなと思います。
椎名:ありがとうー!(笑)多分ですけど、「伝わったらいいな、でも努力は面倒だな」っていう人は、これまで自然な状態でもわりと“伝わってきた”人たちなんだと思うんですよ。私は、気を抜くと「お前、何やってんの!?(笑)」みたいな感じになることが凄く多かったから…。
たしろ:努力しなきゃ、って感じだったんだ。
椎名:うん。世界はシビアだったね!(笑)

椎名「編集さんと合わないと地獄だから、諦めずに探したほうがいい」

たしろ:面白い漫画を作ろうと必死でネームを考えるのは、作家さんにとっては海中に潜り続けるように苦しいことなんです。編集もちょっと苦しいですが(笑)。苦しんでる作家さんを「苦しいけどもう少しがんばろうよ〜!」って引きとめるのが編集の仕事なんですが、「もうこれ以上は無理です!」って言ってる人を無理やり引き留めたら、その人は息ができなくて死んじゃうじゃないですか(笑)。私は、割と粘って潜ってしまう編集だと思うんですが、椎名さんは私以上に粘る体力と執念がある。だから、二人でじっくり潜っていられるんです。
椎名:なんでそれができるかって言うと、二人ともが「面白い!」って思うものが、海底にあるって信じているから。だとしたら、死にそうになっても海底にタッチしたいですよね。でなければ、潜った意味がないから。
たしろ:…っていうメンタリティが椎名さんと私は同じなんだよね。
椎名:「海底に好きなものないです、ニモが見たいんです」っていう漫画家さんもいると思う。でも、そういう人に「海底まで一緒に潜りましょうよ」って編集さんがついたら、「ニモが見れて満足してるのに、引き留めてくる」ってなる。そうなると、「あの編集いちゃもんつけやがって」って地獄になっちゃう。
たしろ:「ニモ見られたから陸に上がります」って言ってる人を、私が「ニモが目的じゃないでしょー!!」って掴む、みたいなことだ(笑)。漫画家さんはニモが目的、わたしは海底が目的…目的が合致していないと、お互いにしんどくなっちゃいますよね…。
椎名:いい・悪いではなく、面白さのチャンネルが編集者と漫画家で合うか合わないかの問題だと思うんです。商業漫画として越えなきゃいけない最低ラインはあるけど、面白さの種類は本当に千差万別だから、「この編集者とはチャンネルが合わないかもしれないな」と感じたら、チャンネルが合う人を諦めずに探した方がいいと思います。

――合うか合わないかを知るためには、どうしたらよいでしょうか?

たしろ:考えてること・感じていることをまずとにかく正直に出し合って、お互いの感覚や思いを握り合う感じでしょうか。これって実際にネームを作ったりしてみないとなかなかわからないことなので、難しいんですが…。でも、一定期間付き合って「あ、なんか合わない」と思ったら、違う編集者とやってみることを考えてもいいと思います。編集と合わないからといって、その人やその人の漫画に価値がない、ということでは絶対にないので…!

椎名「肉を削るように努力をしないと、ホムンクルスになっちゃう」

椎名:何にしても、これからも覚悟して、肉を削るように努力をしないと、伝わる漫画は絶対描けないと思います。ほんのちょっと油断すると、私の漫画は異形のホムンクルスになっちゃう。

――ほ、ホムンクルス・・・????

椎名:物語を作ることを人間に作ることに例えるとします。目指している人間像は「私がエモーションを感じる、たった一つの方角の終着点」なんですね。そこを目指して連載をしているわけですが、まだ途中なので、今はこの「足」を作っている段階なんです。

椎名:完結まで思い通りに描けたら、こういう“物語”という人体が完成するはずなんですが…

椎名:でも、本当にちょっとでも油断したら、今こうやって足だけ作れていたとしても、シュッと歪んで、ホムンクルスができてしまう。

――「ホムンクルス」というのはつまり、物語がどんな状態になったことなんですか?

 

椎名:物語で伝えるべきことがうまく伝えられていなかったり、いらないエピソードがごてごてついちゃったり、目先の面白さに引かれて物語を作ってしまっているような状態ですね。それで、私、ずっと不安だったことが2つあって…。

――と言うと…。

椎名:まずはホムンクルスにならずに人間を描き切れるか? もうひとつは、そもそも目指している完成形の人間自体に価値があるのか、この世に必要なものなのか? この2点が不安だったんです。
たしろ:私は2つ目の「完成形に価値があるのか?」ということを不安に思ったことはないんですよ。椎名さんが描こうとしているものに価値があるってめちゃくちゃ信じてました

――そんなふうに信じられたのはなぜですか?

たしろ:これまでの椎名さんとのやりとりを通して、「この人が描くものなら間違いないし、見たい」って思いがあったからです。それを、私は他人だからこそ無防備に信じていられるんです。
椎名:そうなんです。たしろさんも両方心配しているかと思ってたんですが、たしろさんの心配は最初から「ホムンクルスになるかどうか」だけだったんですよね。
たしろ:椎名さんがずっと「この物語に価値があるのか、必要とされるものなのか」っていう不安を抱いていたことは、しばらくは私もはっきりわかっていなかったんですよね。でも、会話を重ねるうちにその不安に気づいたし、椎名さんは椎名さんで、私がホムンクルスの心配しかしてないってことがわかってきて。
椎名:そうなんですよね~。でも、そんな私が、この作品に価値があるんじゃないかって肌感覚で信じられるようになったのは、たしろさんが「椎名さんの漫画を信じてるよ」っていうのを何度も何度も伝えてくれたのと、読者の方が熱を持って感想をくださったからですね。そういう言葉が、心の器にたまっていって、ある日あふれたって感じでした。「この物語を書いていいんだ!」って。だからほんとに、周りの人のおかげで「私の作ろうとしている“人間”には価値がある、このまま描き切ろう」って思えるようになったんです。
たしろ:大丈夫、絶対に面白いよ。最後まで走り切りましょうね!!
椎名:ありがとう〜(笑)。でも、この面白さは本当に面白いのか? 人に届くのか? これでいいのか? …っていうことを、一瞬一瞬、思考停止せずに、これからも二人で考え抜いて作っていきたいです!
たしろ:うわああ〜、もう、ほんとにすごい人だなあ…! 椎名さんがこういう方だから、わたしも背筋が伸びるというか、がんばろうって思えます!
椎名:て、照れる〜〜〜!!!(笑)。

――では、最後に読者さんに伝えたいことがあるとしたら…

椎名:「いつも、読んでくださって、ありがとうございます」
たしろ:…に尽きる感じですね。いやー、自分たちのこと喋るのって難しかったね。でも有意義だったね!
椎名:うん!
たしろ:何か言い残したことありますか?
椎名:特にナイヨー!

――ありがとうございました!

…濃厚なトークを全3回にわたり繰り広げてくれた椎名うみのアフタヌーン連載作「青野くんに触りたいから死にたい」は、現在3巻まで発売中! 2人の作る物語の行く末に、これからもぜひご注目ください。