漫才の甲子園・M-1と野球の甲子園の共通点、唯一無二の個性を形造ったケンドーコバヤシ氏の原風景…。なきぼくろが思う「ケンコバの不思議」に真正面から斬り込む! 熱望し続けた対談がついに実現!
なきぼくろ(以下、な): 本日はお忙しい中対談を引き受けてくださりありがとうございます。
ケンドーコバヤシ(以下、コバ): こちらこそありがとうございます。
な: ケンコバさんにお会いするのは、今回が3回目になりますね。
コバ: 2回も『漫道コバヤシ』に出演していただいて、その節はありがとうございました。
な: 2回とも緊張しすぎて、答えるのに必死でした…。中学生の頃から『オールザッツ漫才』を観ていて、初めてお会いした時に「『火垂るの墓』の節子にキン肉バスター」というケンコバさんのネタを色紙に描いたんです。昔から見てますよっていうアピールが空回りして、いらんことしたなと思っていました。
コバ: めちゃめちゃ嬉しかったですよ。
な: 『なるトモ!』、『にけつッ!!』、それから『人志松本のすべらない話』。他にもYouTubeやラジオなどでケンコバさんを追いかけていたら、ある「不思議」に気づいたんです。
コバ: 僕のサクセスストーリーを追ってくれていたんですね。不思議ですか?
な: ケンコバさんのような謎だらけの芸人さんって、他にいないと思うんです。
コバ: 確かに謎多き男っちゅうのは僕のテーマでもありますから。
な: 獄中出産って、生い立ちからすでに謎じゃないですか。
コバ: 諸説ありますけどね。
な: 以前は僕がインタビューされる側だったので、今回は僕が思っているケンコバさんの「謎」の部分について、作品の内容と絡めながら聞かせてください。
M-1と甲子園の共通点とは?
な: 『バトルスタディーズ』は、「甲子園を目指す」というテーマから始まり、今では方向性が変わってきて、満大附属の針生というキャラや横羽間高校の面々など、「甲子園が全てじゃない」というキャラが出てきました。
コバ: 横羽間高校に至っては、プロさえ興味ないと言っていますよね。
な: なぜそういう話を描き出したのか、実は自分自身でもわからなくて、ケンコバさんを考えた時に、M-1と甲子園って少し似てるなと思ったんです。
コバ: ずっと『バトスタ』を読み続けている身からすると、なぜ方向性をシフトさせたのか僕も気になってるんですよ。
な: 野球やるなら甲子園目指すし、漫才やるならM-1目指すみたいな不文律があると思うんです。今のお笑い(M-1)と甲子園の共通点ってあると思いますか?
コバ: それで言うたら僕は横羽間高校側ですが、いきなりそこをついてきますか…(笑)。『バトスタ』が高校野球やからややこしい答えになっちゃうんですけど、M-1(甲子園)に出てる人ら(選手)はめちゃめちゃ大好きなんです。ただ『M-1グランプリ』の演出がめちゃくちゃ嫌いなんです。これは公言してますし、「お前らスポーツ選手か!」って吐き捨てるように言うてるんです。僕の若い頃から見てくれてるならわかると思いますけど、スポーツマンとは程遠い芸風ですし。
な: ケンコバさんはアカンこと全部していくスタイルですね。
コバ: 予選でウケた時に舞台袖でハイタッチしたり、本気で泣いたシーンがオープニング映像で流れたり。事象としてはあっても良いと思うけど、演出で表に出すことではないなと。スポーツマンか!!
な: 僕も中の人たち(選手)は好きやけど、それを取り巻く環境に違和感を感じていて、作中でケンコバさんの考え方に近いことを描いているんです。
コバ: 言われてみれば、近年の『バトルスタディーズ』はそういう流れでしたね。今の決勝戦も心配してます。先のことなんで聞けないですけど。
な: めっちゃ難しい問題に突っ込んで行っちゃいました。でも迷いはないし、今のお笑いと甲子園を無理やり引っ掛けた訳でもない。ただ今の時代が全体的にそんな雰囲気になっている感じがしているんです。
コバ: 僕が「M-1を嫌い」って言うてることを世間が絶賛してるんです。だからどんどん肩身の狭い思いはしてます。出場者の中に同調者もいますが、「勝つためにはそこもしないとダメなんです」と。
な: 過程を見せていくということですよね。奥行きみたいなものを想像してほしいのに、努力したことや苦労したことなど、全部観た上で感動したいみたいになってますよね。
コバ: 数年前から変やなって思うてたんです。いっとき「涙活」がワイドショーで紹介されて、映画の宣伝文句でも「4回泣けた」とか「全米が泣いた」とか…。僕は人が泣いたやつを観たいと思えないんですよね。笑うたって言われたら観たいですけど。
な: ケンコバさんはそういうところとは反対側にいますもんね、それについて肯定も否定もしないし、時代にも合わせてるのに尖っている。まさにそこが一つ目の謎ポイントなんです。『アベプラ』(報道リアリティーショー ABEMA Prime)』という報道番組にも出演されているじゃないですか。
コバ: 『アベプラ』も観てるんですか!
な: ジャンルの違う番組やラジオにたくさん出てるのに、チューニングをしっかり合わせにいってるのは、天然なのか、それとも意図しているのでしょうか?
コバ: 1970年代にアメリカで活躍されたニック・ボックウィンクルという僕の大好きなプロレスラーがいるんです。プロレスファンの一部だけが知っている名言がありまして、それが「相手がジルバできたらジルバ、ワルツできたらワルツ、俺のダンスはそれだ」って言うたんです。
な: かっこいいですね!
コバ: 「相手の土俵で戦う」って言葉がめちゃくちゃ好きで、テンポもステップも全部相手に合わせて戦う彼の思想はカッコいいですよね!
な: 堤下さんのYouTube(相手の土俵)に出られた時もめちゃくちゃ面白かったですよ。ケンコバさんは最後まで堤下さんが欲しがってる言葉をあげずに終わって。
コバ: 後日堤下が「言いたいこと言えなかったからリベンジさせてくれ」言うてきて、この間トークライブに呼ばれたんです。その時も2時間同じことをやってやりましたよ(笑)。
な: カジサックさんの時もそうでしたよね。めちゃめちゃぶん回して帰るみたいな。
コバ: 「テレビ」から「YouTube」に引っ越したあいつらには、「YouTubeでウケるのはこれ!」っていうのを提示する使命感があるんです。だから、悔しくて、泣いて、立ち上がった俺の話を引き出したいんですよね。もちろん苦労はありましたけど。
な: わかっていながら逆を行くんですね! そうやって常に尖り続けているのに、エンタメとして全部おもろく成立するのがほんまに不思議です。よー考えたら『なるトモ!』でも『オールザッツ漫才』でも破壊役じゃないですか。
コバ: 破壊役って言ってもらえるのは嬉しいですね。
な: 『にけつッ!!』では、逆にキャプテンみたいな位置に回って、ケンコバさんがジュニアさんをよしよしするみたいな。
コバ: ジュニアさんは荒馬ですから。
な: その辺は高校時代にラグビー部でキャプテンされてたのと繋がっているのかなと思うたんです。
コバ: 僕も50歳を超えて、自分に向いていたかもしれない職業がわかったんです。それは、芸人じゃなくて、刑事やったなって思います。
な: 確かに(笑)!
コバ: 泣き落としもあれば剛腕もあって、刑事になってたら今頃、上の地位に就いてたかもなって思います。
な: いろいろ破壊してるかもしれないですね。
コバ: システムをね(笑)。
諸説あり! ケンコバさんの個性を形造った原風景に迫る。
な: 周りはM-1でのし上がる雰囲気がある中、ケンコバさんはコンビを解消して、ピン芸人になられているじゃないですか。
コバ: M-1でのしあがるという感覚は僕よりも少し下の世代ですね。僕は同期に中川家がいるんですけど、当時はまだM-1のことをすごい大会というふうに捉えていませんでした。
な: その後は、M-1の人気がすごかったじゃないですか。みんなが「甲子園! 甲子園!」言うてる時に、ケンコバさんはどういう感覚だったんですか? その方々より先に独自の路線で売れていったじゃないですか。
コバ: みんなは高校進学したけど、俺は社会で働いてるみたいな感覚ですかね。
な: もうそこには行く気がないみたいな?
コバ: M-1で優勝するということは、紳助さんと松本さんのお墨付きになるんです。でも僕は、本部に認められてない道場というか、異端の路線が好きなんですよね。
な: そういう方って他にいないですよ。
コバ: こっちの道のほうが険しいと思われていますが、実は楽なんです。インディーズバンドではないけど、ある種の気楽さもあるし。
な: 松本さんがケンコバさんを褒めちぎってるのをテレビで観たことがあるんです。そういう状況になった時に、ほとんどの人は松本さんを慕うのに、ケンコバさんはそうはならなかったじゃないですか。他の人だったら涎垂らすようなところを自分から避けていましたよね。
コバ: 確かに、そんなに距離が近い感じはしないですね。自分でもそういう自覚はあります。
な: 失礼な言い方かもしれないですけど、野良犬みたいだなと思っていました。
コバ: めちゃめちゃ良い表現じゃないですか! 大好きな言葉ですよ。
な: 愛想はあるけど人に懐かないみたいな。『人志松本のすべらない話』でも活躍してるのに、松本さんのプライベートの話にケンコバさん出てこないですし。
コバ: プライベートでご一緒することはほとんどないですね。
な: 野球でも仕事でも、でかい人に巻かれたいみたいな感覚ってあると思うんです。
コバ: その楽さもわかります。
な: そういう掴みどころのないものを描きたいという思いがあって、ケンコバさんのそういうところを形造った原風景みたいなものをお聞きしたいです。
コバ: 自覚はしてなかったですけど、言われてみれば「あれはそうだったかもな」というのが、二つありますね。想像よりはしょぼいと思いますけど。
な: めちゃめちゃ気になります!
コバ: うちのオカンが書道教室をやっていて、俺はその子供やから物心が付く前から習わされていたんです。家の軒先に机を並べて近所の参加者を呼んで、寺子屋みたいになっていました。俺も一緒になって練習してるから段位も上がっていくんですが、それがすごい嫌やったんです。
な: 嬉しいはずやのに、なんでですか?
コバ: 綺麗に書いてるからそりゃ昇段するんですけど、「この家の息子やから」って周りの人は思うやろなって。
な: 贔屓してるみたいな。
コバ: それが嫌で嫌で、僕は突然「オカン、見ててくれ」って言うて、筆を燃やしたんです。
な: それは突然すぎます(笑)!
コバ: 書道家の母ですから、僕のことを張り倒して「あんた、頭おかしなったんか!」って怒鳴り散らしたんです。
な: いろいろすっ飛ばしてるんですよね。
コバ: この葛藤は母親にも言うてなかったですし、人の庇護のもと成長していく自分がすごく嫌やったんです。
な: 一貫してますね。
コバ: 言われて気づきました。もう一つは、うちの姉ちゃんがめちゃめちゃ可愛かったんですよ、僕は思ったことなかったですけど。
な: 弟やし、そうですよね。
コバ: 小学6年生の時、僕が友達3人と帰ってる最中に中学生からカツアゲされたんです。その上さらに、「お前ら明日家の金パクって俺らのとこ持って来い」って言われたんです。空手やってたけど全く通用しないし、カツアゲされたことが悔しくて悔しくて。明日どうするか話すんやけど、みんな怖がっていたから、「お前ら明日来なくていい、俺だけで行く」って言うたんです。空手で負けてるからどうしようか思うて、その夜一人でバットに釘打っていました。それを振り回して、少年院行ったろうと思うてました。
な: やばいですね(笑)。
コバ: 俺は明日から少年院や思うてたから、釘を打ちながら泣いていたらしいんです。
な: 負けるほうが嫌やったんですね。
コバ: そこに姉ちゃんが来たんです。僕が全て打ち明けたら「私に任せとき」と言って出て行ったんです。
な: おもろい展開になってきた…。
コバ: おそらく、姉ちゃんに惚れてる地元の全中学校を仕切ってる大不良みたいな奴のところまで交渉しに行ったんです。その後何も起きず、僕が数ヵ月後中学校に上がっても、カツアゲしてきた不良達は僕に近づいてこないんですよ。それが、めっちゃ嫌やったんです。ほんまやったら少年院行ってるはずやのに、姉ちゃんに助けられたんや思うて。
な: 少年院行ったほうが箔もつくし。
コバ: すごい恥ずかしかったから、周りにも姉ちゃんなんていないって言うてたんです。なまじっか有名な姉ちゃんやから、イカつい先輩が俺に優しくしてくるのもトラウマレベルで嫌やったですね。
な: でかい人に巻かれたくないみたいな感覚は、子供の頃からあったんですね。
コバ: 僕のことを見る周りの冷たい目線を子供ながらに感じてたんですかね。
な: その道って遠回りというか、周りから遅れをとってしまいがちじゃないですか。
コバ: 冷たい目で見られるよりは、僕はこっちのほうがまだ心地よかったんですよね。
な: ドカンと売れた時に、心のどこかで寂しさを感じたことはありますか?
コバ: 「俺は孤高だ」と思うようにして、うまく変換できてるかもしれませんね。気持ちいいみたいな。
な: なるほど、みんながそっちの道を歩いてるのが嫌なんじゃなくて、こっちの道を走るのが好きみたいな。
コバ: 王道を行ってないことに対して自己満足を得てるのかもしれません。
な: 芸人の先輩からも一目置かれてるみたいな雰囲気が、視聴者の僕にも伝わってくるんですよね。
コバ: どうなんでしょう。でも嫌な感じに接してくる人はいないので、僕は藁ジョージ(丈二)みたいな男なんですかね。
な: ほんまにそうなんです。ケンコバさんほどうまくはできてないですけど、だからこそお話を伺いたかったんです。今の『バトスタ』を描く上でケンコバさんからは計り知れないほどの影響を受けているので。
後編へ続く!!
文責:編集部
※本対談は2024年11月、感染対策をして取材を行いました。
※本対談の後編は、44巻に掲載予定です。
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