【担当とわたし】「青野くんに触りたいから死にたい」椎名うみ×担当編集対談<その1>

幽霊になった“彼氏”との恋を描き、1話目が公開されるや否や30万PVを突破した話題作『青野くんに触りたいから死にたい』創作秘話を、作家・椎名うみとその担当編集が語る!

【担当とわたし】「青野くんに触りたいから死にたい」椎名うみ×担当編集対談<その1>

原稿を描いて投稿した漫画家。 その原稿を読んで担当希望した編集者。 こうして出会った2人はその後どのように作品を作り上げたのか――?

幽霊になった“彼氏”との恋を描き、1話目が公開されるや否や30万PVを突破した話題作『青野くんに触りたいから死にたい』。その創作秘話を聞こうと作家・椎名うみとその担当編集に対談してもらったら、想像以上の熱量と濃度の“創作論”が飛び出した!全3本立てでお届けします。

 

<その2>

<その3>

…椎名うみ。
「青野くんに触りたいから死にたい」作者。
「青野くんに触りたいから死にたい」1話はコチラから!
…アフタヌーン編集・たしろ。
椎名うみ担当編集。
たしろ編集の詳しいプロフィールはDAYS NEOに掲載!

椎名「初めての持ち込みで名刺をもらった意味がよくわからなかった」

——本日はよろしくお願いします。

椎名:よろしくお願いします…いえーい!
たしろ:うん。いえーい!

——えーっと…まずは椎名さんがマンガを描き始めたキッカケから教えていただけますか?

椎名:はい。ちっちゃい時からちょこちょこ落書きみたいなことはしていたけど、ちゃんと「漫画」を書き出したのは23歳からです。生まれた時から魂がオタクなのでオタクなことはずっとしたかったんですけど、あんまりそういうことをしてなくて…。21歳くらいの時に、「あぁもう自由に生きよう。よしオタクになろう」と思って。アニメや漫画にたくさん触れ始めてから、漫画も描きだしたって感じです。
たしろ:なんで漫画にしたんですか? 「オタク表現」をするなら、小説でもよかったんじゃ?
椎名:小説が書けなかったのもあるし、漫画の方が読んでもらえるかなぁって。読む時の敷居が低そうだから。それで、独学で始めました。
たしろ:今は線画までアナログで仕上げはデジタルだけど、最初はフルデジタルだったんだよね。
椎名:すごい貧乏だったからアナログの道具が買えなくて(笑)。デジタルはソフトだけあれば書けるかなって…。あと、尋常じゃなく下手だったので左右反転とか自由変形ができないと成り立たなかったんですよね。ただ、デジタルを使っていても地獄のようでした。とにかく絵が書けないので。
たしろ:よくそれで漫画描き続けられましたよね。
椎名:最初の頃は、pixivに2・3枚とかで上げていた程度で、漫画とは言えない感じでした。ネットなら物語として成立してない“ぶったぎり”であげてもいいじゃないですか。「物語として成立させよう」と思って書いたのは、「太っちょバレリーナのみつこ」からです。意志が弱いのでだらだら描いてたら、42ページに半年くらいかかっちゃいましたが。

 

↑最初の四季賞応募作「太っちょバレリーナのみつこ」。主人公や周りのキャラクター達の粒だつ“感情”が、連なるエピソードの中で描かれる。

――アフタヌーンの新人賞(四季賞)に投稿して佳作を受賞された作品ですね。

椎名:はい、ただ実は「みつこ」は四季賞に応募する前に、別の雑誌に持ち込んだんです。
たしろ:あ、そうだそうだ。
椎名:その編集部で名刺もらって「またネーム持ってきて来てね」って言われたんです。でもそれが初持ち込みだったので、名刺と「ネーム持ってきて」という言葉の意味がよくわからなくて。「名刺もらった…けど次のネーム持ってこいって言われた…ってことは、この作品はだめだったってことなのかぁ…」と思って。「じゃあ、もったいないし、最後にもうひとつ投稿するか」って、アフヌーンの四季賞に原稿を送ったんです。
たしろ:それ、おそらく「担当につきます」って意味だったと思うんですけど、その編集さんがウカツで助かった!(笑)次会う約束ぐらいしないとだめですね。
椎名:あ、それくらいやってもらえるとわかりやすかったです。その時は単に「がんばれ」ってことかと思ったんですよ。

――「編集者が名刺を渡す=担当についた」ってことが一般的なんでしょうか?

たしろ:編集者によるとは思いますが、私は「この人とやろう」と思わなければ基本的には名刺を渡さないタイプです。

担当「最初は椎名さんの才能の形がわからなかった」

――ちなみに、四季賞を選んだのはなぜですか?

椎名:私の場合は、自分の描いたものはちょっと変な漫画なのかなぁと思っていたから。四季賞は変な漫画に間口が広いイメージがあったから、ここかなって思いました。
たしろ:まあ、そういうイメージはありますよね(笑)

――その投稿作を見てたしろさんが担当についたわけですね。担当について、最初にどのような会話をしたんですか?

たしろ:「みつこ」が、ちゃんと完成させた初めての原稿と聞いたのと、まだコマ割りとか画面がアマチュアっぽい感じだったんで、まずは練習した方がいいと思って。商業誌を最初から狙うのも段階が高すぎたので、まずはもう1本 四季賞に応募できる作品を、という話をしました。
椎名:「画面が商業誌としてまだ成立してないので、いっぱい描いて練習しなきゃいけないね!」って言われて、私も「そうだなー!」って思ったんですよ。
たしろ:でも実は、私その時はまだ、自分が椎名さんに感じている面白さがなんなのかよくわかっていなかったんですよ。だから、すごい力があることは間違いないのに「次はこういうものを書いたらどうですか」っていう具体的な提案ができなかった。例えば「このキャラクターのこういう感じが好きだから、ぜひそういうものを書いてほしい」って言える作家さんもいるんですけど…椎名さんには言えなかった。だから、次の短編は「すきなものをとりあえず描いてください」って雑な投げ方した気がします。
椎名:そういえばたしろさん、一番最初会った時に「好きな漫画何?」って色々聞いてきましたもんね。
たしろ:うん。その時は、「寄生獣」「ちはやふる」「エマ」…とか、どエンタメばっかり出てきたんですよね。
椎名:どエンタメ、かつ大河系!
たしろ:「みつこ」の時は、まだ椎名さんの才能の形がわからなかったけど、本人の志向としてはどエンタメだった。だから、ピーキーな方向を志向する人じゃなさそうだということは感じていたんですが……後々わかったのが「他人に伝わらないと虚無だ」と強く思っている人だってことだったんですよね。

椎名「漫画は伝えるツール。言語。他人に伝わらないと虚無。」

椎名:え、だって、虚無でしょう? 漫画って伝えるツールじゃないですか。つまり言語ってことじゃないですか。例えば私がですよ…ぱぴぷぺぽぽぺぺぱぺぺぱ〜!

――………!?

椎名:……みたいな感じのことを突然言ったとするじゃないですか。今、この場に虚無しか生まれなかったですよね? 全く意味がわからなかったから。だから漫画も伝わらないと虚無です!
たしろ:アハハハハ、めっちゃいい話だな、それすごいわかりやすいね!
椎名:でしょー!? 「ぱぴぷぺ〜」って言ってる私は「すごい気持ちい〜」って思ってるかもしれないけどさぁ(笑)。
たしろ:聞いてる方は、「やべ、こいつ何だ?」って思うよね。
椎名:自分が気持ちいいからってその虚無を発生させるのなら、相手からお金をいただくんじゃなくて、私が相手にお金を払わなきゃいけないんですよね。でも漫画家で生活するんだったら、読者の方からお金をいただかなくてはいけない…そしたら、ちゃんと伝わるように描かないと!
たしろ:いいこと言うなー。ほんとそうだよね。
椎名:そうですよ〜! ママじゃないんだから〜、読者の方は〜。伝わるように描くのは当たり前で、更にいいところもないと読んでもらえないじゃないですか! 初期のころはホントにもっと絵が下手だしネームもコマ割りもダメだった。だから、いいところを作らなきゃいけなかった!
たしろ:冷静だなぁ(笑)。
椎名:自分で作れそうないいところ、人よりもちょっとでも何かありそうなところを考えた結果、「“感情を描くこと”だったらちょっとは見れるものが描けるだろう」と思ったんですよ。それで「みつこ」はすごく微妙な感情をいっぱい書いてるんです。ホントに技量がないので、そこにすがりました。
たしろ:その狙いは、すごく当たってます。最初の四季賞審査の時に絶賛していた3名のうち、私以外は男性だったんですが、2人とも「自分には絶対この作品で描かれている“感情”を拾いきれないから担当できない」って言ってた。「この作家さんはすごいと思うけど、自分が担当についてもできることは何もない」って、それくらい感情の描き方がすごかった。

担当「作家さんと同じ虹が見えていないと担当できない」

たしろ:それで、編集長から「たしろが担当すれば?」って言われたんですけど、実は私も椎名さんをうまく担当できるか、めっちゃ自信なかったです。
椎名:え、なんでなんでー?
たしろ:だって、作家さんには虹が12色に見えてるのに、私が7色にしか見えてないとしたら、担当できない。「椎名さんには12色見えてるのに私には7色だなぁ」ってなったらと思うと…
椎名:でも。もし自分が12色見えてたとしても一般的には7色しか見えないとしたら、自分が12色見えてることは特殊なことですよね。そしたら、漫画を描くんなら、7色にしか見えない人にも12色に見えるように描かなければ全く意味がないですよね。
たしろ:そう。でも、やっぱり担当として伴走する私が12色のきれいさをわかってないといけない。そうでないと「7色にしか見えてない読者」にどう伝えればいいか言えないじゃないですか。だから本当は作家さんと同じくらい、その尊さと素敵さをわかってないとダメなんですよね。わかっていなくてもできるとは思うけど、わかってた方がよりいい。
椎名:いいですね……たしろさんはこういう風に、ちゃんとはっきり順序だてて説明してくれるので私にとってはありがたいです。感覚で言われるよりも、理屈で言われた方がわかりやすいです。

担当「作家と編集は『物語に何を求めてるか』の感覚が合うことがすごく大事」

椎名:あと、たしろさんにその頃言われたことで、覚えてることあるよー! それ、ずっと私の指針になってる!
たしろ:えぇぇ! 何て言った!?(笑)
椎名:「人と人が出会うのが物語です」って言われた。
たしろ:おぉぉ〜…どういうことだ!?(笑)
椎名:次の短編「ボインちゃん」の最初のネームは、主人公の女の子が誰とも“出会わない”内容だったんです。人はいっぱい出てくるんだけれども、主人公と対になるような重要な相手、そういう人と出会わなかった。
たしろ:あ〜、そういうことか。
椎名:「誰かと誰かが出会わなきゃいけないんだ」って言われた時、に「あっ!」って凄いしっくり来たんですよ。それで、次のネームでは主人公と正反対のキャラクターを登場させたんです。それからはずっと、物語を描くときはそれを思って描いています。あともうひとついいこと言ってました。「誰かと誰かが出会って、主人公が最初にいた位置からどれだけ遠くに行くか。それが感動の大きさです」…って。

 

【画像クリックで、「ボインちゃん」が1話まるごと読める!】人よりも少し乳房が大きいことがコンプレックスな主人公。しかし、あるクラスメイトとの交流で、少しだけ“変化”が生まれて…。



たしろ:…って、私が言ったの!?(照)
椎名:言ったの!(笑)そういうことを最初にたしろさんが言ったとき、「この編集さんとやりたい」って凄く思いました。
たしろ:「人と人が出会うのが物語なんだ」っていう感覚が合致した、ってことが大事なんだよね。作家と編集は「物語に何を求めてるか」の感覚が合うことがすごく大事だと思います。欲望の形は人によって違うので、そこが違う人と漫画を作るのはなかなか大変ですから。あ〜〜〜…なんかもう、ほんと、今日はいい1日だなぁ(笑)。私、うれしいなぁ!
椎名:たしろさん…私のこと好きですね、さては!
たしろ:大好き〜!

——・・・・仲良いですね・・・。

 

~つづく~

 

——「描き方が見つからない」スランプ時期や、「青野くんに触りたいから死にたい」立ち上げなどを語るインタビュー中編は4月27日公開予定! 「ぱぴぷぺぽ語」話の続きも…!?