前回の対談では、「我が道を行くケンドーコバヤシとは?」というケンコバさんの本質を捉えにいったなきぼくろ。しかし結果は「見えそうで見えない」しかし、そこがいいとなきぼくろは言う。スカートの中も人の本質も、あるいは漫画も「見えそうで見えない」という真理が人を惹きつける魅力なのかもしれない。果たしてこの対談で、なきぼくろが見たい「ケンコバの本質」は見えるのか…。
SNSはドーピングに他ならない。
なきぼくろ(以下、な): エロもバイオレンスもいけて、まじめな報道番組もできる。さらに『人志松本のすべらない話』みたいなドメジャーな路線も走れるってすごいなって思うんです。全てのジャンルを網羅してる芸人さんって他に知らないんですよ。しかもそれをずっと続けてるじゃないですか。
ケンドーコバヤシ(以下、コバ): アメリカのプロレスが大好きで、あの人たちは「俺たちはパンツとシューズだけバッグに入れれば、世界中で飯が食える」って言うんです。あの土地に行ったら悪玉やるし、この土地に行ったら善玉やるしっていう感覚が、すごくカッコよくて。
な: それやのに、ずっと「ケンコバ」さんなのがすごいですよね。悪玉と善玉のちょうど真ん中にいるのがケンコバさんみたいな。しかもキャプテンやられてたのが謎すぎます。立候補されたんですか?
コバ: 指名でしたけど、なんで俺やねんとは思うてました。
な: 『にけつッ!!』を観てると思うんですけど、裏回ししてるお父さん感が出てて、めちゃめちゃわかります。
コバ: 同世代で独身なの俺くらいやのにお父さん感出てます(笑)?
な: 脇役もやるのに主役もやってはって、ここも謎ポイントです。ずっと第一線で活躍し続けてると、周りが騒ぎ出すじゃないですか。「俺もケンコバさんみたいになる!」とか。
コバ: 僕の場合はなかったですね。
な: 芸人さんの活躍の場がSNSやYouTubeに広がり、みんな手を出したから俺もやろうって人が多いと思うんです。ケンコバさんはやられてる人を否定しないけど、ご自身はやられてないじゃないですか。気持ちが揺らいだりはしないんですか?
コバ: 僕らが若い頃は、女の子との出会いはナンパやったんです。今の子らに「溢れ出す20代の性欲はどうしてんの?」って聞いたら、「SNSでこっそりやるんです。地下アイドルとも出会えますよ」って言うんです。その時、少し揺らぎましたね。
な: それラジオでも聴きました! DMですよね?
コバ: でも僕は地下アイドルはタイプじゃないんでええわ思いました。
な: 僕は漫画の宣伝もせなアカンかなと思ってSNSを始めたんです。
コバ: むしろ宣伝してくれって言われませんか? 僕らは言われるんですよ。番組の企画書の隅っこに「出演者の方々にもSNSで発信していただいて…」って書いてあるんです。僕は見て見ぬふりしてますけど。
な: 直感なんですけど、SNSってある種ドラッグ的な部分があると思うんです。中毒になってしまうという。ケンコバさんはなぜSNSをやらないんですか?
コバ: カッコいい理由とカッコ悪い理由があって、前者のほうから言うと、僕は一人アンチドーピング機構なんです。本業・本ネタ以外のところで力を借りて勢いをつけるのは、ドーピングに他ならない。それは宣伝部とか然るべき部署が仕事をするべきやし、トークライブやラジオをやってるので、本音を呟くならそっちでええやんって思うてます。
な: なるほど。カッコ悪い理由というのは?
コバ: 面倒臭いし、どこかで僕のネジが緩んで、今これ言うたらウケるやろと思ったことを言うてまうと思うんです。例えば、「今本番禁止の風俗で本番交渉してます」みたいな。
な: めっちゃおもろい(笑)。僕らはその奥行き(謎の部分)を楽しませてもらっているんです。テレビやラジオで風俗の話をされてる時に、「ほんまはこの人優しいんちゃうか」みたいなのを想像しながら視聴するのが楽しいです。
コバ: 狙い通りですよ。私生活が謎の人物でありたいし、それが出来てたらトークした時に「ほんまかな? 嘘かな?」というファンタジーを作れるので。
な: 絶妙ですよね。めちゃめちゃ難しいことをやられてますよ。
コバ: SNSをやっていたら無理なことですよね。その時大阪いるやんってなったら辻褄合わなくなっちゃうんで、常に謎にはしておきたい。
な: 一周回って、SNS離れしている人も今は多いですよね。
コバ: デジタルデトックス的な。「やめます」って宣言する人も出てきてますからね。
な: そもそもやらないことを続けてるケンコバさんは、もしその時代が到来したらキングになるわけじゃないですか。
コバ: 少数派でありたいので、そうなったら「俺やる」って言うんちゃいますかね。
な: 自分のことを掴ませたくないみたいな感覚ですよね。ケンコバさんみたいになりたいけどなれない葛藤みたいなのを作中でも少し描いていて、読み手からすると「何が描きたいねん」って思うかもしれないけど、そう思われるのが嬉しいんです。「結局なんやねん」が褒め言葉というか。ちゃんとオチは作ろうと思ってますし。
コバ: 落とそうとしてるんですか?
な: 綺麗な感じではないかもしれないですけどね。僕の直感ですが、作者が何を描きたいかを全て理解したがる人が多い気がしているんです。芸人さんやM-1で言えば、裏側も考え方も全てを理解して感動したいみたいな。推し活とかもそう。
コバ: プライベートも全て込みで理解したい、みたいなね。ありますよ。
な: その気持ちはわかるんですけど、奥行きを想像してくれないっていうのが寂しくもあって。ケンコバさんはそこを出すために何を意識されているんですか?
コバ: 「鶏口牛後」という四字熟語があって、僕はこの言葉に違和感があるんです。むしろ僕は、大きい組織の異端児でありたいと思っていて、今は理想のポジションを手に入れたと思うてます。芸人の事務所で一番大きい組織の中にいながら、その本流にいない。意識はしてないけど、「人と違う自分が好き」という気持ちがそうさせるのかもしれません。
な: 過去にそういうタイプの芸人さんっていましたか?
コバ: B&Bさんとかはそうだと思うんですけど、いわゆるはみ出し者は辞めてしまうんですよ。
な: 今でも続けてるケンコバさんは、そこの穴をこじ開けた張本人ですね。今も昔も高校野球は「全員こうしてください」っていうルールに縛り付けられていて、僕はそこに窮屈さを感じるから、甲子園に全く興味がないんです。
コバ: 今のバトスタを読んでいると、そこを突いていますよね。
な: 高校野球をディスっているわけではないから、さっきのM-1のお話にすごく共感できました。プレーヤーは好きやけど、周りが鬱陶しいみたいなことは、どうせ描くなら描きたいです。
コバ: 「高校球児はこうあれ」っていう雰囲気は、僕がM-1に抱く違和感と一緒かもしれないですね。
エンタメはセックス?
な: 最後に一個だけ聞いてもいいですか。
コバ: ここまできたらなんでも答えますよ。
な: ちょっと究極になってしまうんですけど、エンタメってファンとセックスしてるようなもんやと思うんです。してほしい、してあげるとか、これウケるかなってやってみて、ウケるウケへんみたいな。ケンコバさんはどういうセックスしてますか?
コバ: 簡単に言えば、イカしてやる、イカされるってことですよね。その質問の答えになってるかわからないですけど、また僕の歴史の話をしてもいいですか?
な: もちろんです!
コバ: お笑い界で他におらんのちゃうかってくらい、僕はファンとセックスしてないんですよ。
な: そうやろなって思うのが不思議です。
コバ: 悪い言い方になっちゃいますけど、ファンが一番手出しやすいから、そこに行くのもわかるんですけど、僕はほんまになくて。この年齢になって、なんて無駄な意地をはってたんだと後悔してるんです。普通に良い思い出やん。
な: よく聞く話ではありますよね。
コバ: 最近ギャルもののAVを観てるんですけど、ギャルは若手の時の俺のファン、男優は若手の俺っていうふうに想像して観るという変な性癖が芽生えまして。
な: あはははははは(笑)。バリおもろい!
コバ: 意味わかんないですよね。あの頃の俺を男優さんに投影してるんです。そうして観てると、「そうか、ファンの子やからめちゃめちゃスムーズにいくねんな」って。こっちの要求なんでも飲んでくれるんねやって思いながら。
な: とことんわからない方ですね(笑)。僕ら視聴者はずっとイカせてくれないって感じなんでしょうね。
コバ: 焦らしてるんですね。
な: ずっとイカされるようで、イカされないみたいな。そういうせめぎ合いがおもろくて、ケンコバさんは無意識にやってはるんですね。
コバ: もしかしたら自分のラインをどこかで決めてるのかもしれないですね。
な: 僕はそういう掴みどころのない人が大好きで、作品作りでも真似してしまっています。横羽間高校の話をされると、自分から遠ざけてしまって、捕まる前に自分から逃げてしまうんですよね。不安にさせたくて。
コバ: 特に今の大阪大会決勝はめちゃめちゃ不安ですよ。
な: エゴが走りすぎると良くないのはわかってるんですけど、それに気持ちよさすら感じてて。
コバ: 下手したらカタルシスがないまま終わってまうんかなって思ってしまうイニング数にもなってきましたし。
な: 最後はどういうふうに盛り上げて、横羽間高校戦の時の盛り上がりを超えなアカンって気持ちはもちろんあるんです。でもふとした時にそれをやりたくなくなる瞬間があって。
コバ: 僕ら週刊連載を読んでいる身からすると、ここまで佳境に入ってきたら、本当ならもっと手前に何かするよなって思いますし、その割には次の代のこともしっかり描いてるぞって思いながら読んでるんです。『バトルスタディーズ』は僕ら読者のことを全然イカせてくれない。
な: 僕がへそ曲がりなこともあって、期待に応えることができないタイプなんです。でも10巻〜18巻あたりでやろうとはしたんです。
コバ: 期待されたら嫌なんですか?
な: DLの3年生のところ面白かったって言われたら二度と彼らを出したくなくなってしまうんです。
コバ: 森川ジョージ先生も「どうせ鷹村とブライアン・ホークの話をしてくれ」って言われるから取材を全て断っていると聞きました。「あれは名勝負でしたね!」って言われ続けてたら嫌になってくるらしいですね。
な: そんな大先生とは比べ物になりませんが、このまま描き続けていたらもっと売れるんやろうけど、「俺が俺じゃなくなる!」って思って描けなかったんですよね。それやったら俺が描きたいのを描こうと思って描き続けたら、もう43巻まで出版されてしまいました。どこかでケンコバさんみたいになりたくて、「高校野球ってこういうもんや」って良くも悪くも楽観視している、ジョージというキャラを出してみたりして。
コバ: そういうことやったんですね。
な: 直接的な意味じゃなく、読者とどういうセックスしていったらいいんやろって考えているんです。
コバ: なきぼくろさんは発信する側やから、いわば主導権を握っているわけじゃないですか。
な: 実際のセックスでも、僕は吐精に興味がないんです。自分が気持ちよくしてもらうよりは、気持ちよくしてあげたいんです。
コバ: そういう人がいるというのは知ってます。ホーリー(聖人)ですよ。ちなみに僕はドMです。
な: ただそれが漫画となると、できてるのかできてないのかがわからないから、ケンコバさんにお聞きしたいんです。
コバ: セックス論で言うと、なんやろね…。どうせイカされるなら、すごいでかい観光バスが偶然通りかかって写真いっぱい撮られたいです。
な: 独特すぎて…(笑)。
コバ: ここでイクのはもったいないなって思ってしまいそうですね。
な: なるほど、そしたら僕は頑張って焦らし続けます。たくさんお話伺わせていただきましたが、やっぱり最後まで掴ませないですね。さすがです。
コバ: こんなに自分が研究されてるとは思いませんでしたよ。
な: お会いしてもわからない方で、でもそれが僕にとっては最高でした。僕もそうありたいと思いましたし。
コバ: おすすめはしない生き方ですよ。「知らんがな精神」ですから。
な: ほんまに知らんがなですよね! 本日はありがとうございました!
コバ: こちらこそありがとうございました! めちゃめちゃ楽しかったです!
文責:編集部
※本対談は2024年11月、感染対策をして取材を行いました。
※本対談は43巻に掲載された対談の後編です。
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