【第1回】もうひとつの『彼岸島』 -松本光司 目次コメントの世界-

ハァハァ なんてことだ…俺たちの読んでいた『彼岸島』は…島の…ハァハァ 島の…ハァハァ 島の…ほんの片隅しか…ハァハァ 描いてなかったんだ……ハァハァ ハァハァ

 

みなさん、こんにちは。ライターのナカザワと申します。

 

先日「「コミックDAYS -編集部ブログ-」にゴキゲンなコラムを書いてほしい」

との依頼があり、

では講談社の青年誌のマンガから一本を選び、いろいろ分析してみよう、

ということになりました。

 

そこで今回私がチョイスしたのはこちら。

 

 

『彼岸島』!

 

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累計発行部数700万部を超える、いわずと知れた大人気サバイバルホラーです。

みなさんにも大変馴染みのある作品だと思います。

 

そんな『彼岸島』の著者・松本光司先生。

関連本や映画化に際した企画で、過去に何度もインタビューを受けていらっしゃいます。

作品誕生のきっかけ、キャラクターの意外な元ネタなど、

ファンにはたまらない『彼岸島』の創作秘話について著者自らが大いに語ってくださっているのです。

 

のです、が。

私、

こう思うんです。

 

 

もっと…よこせェ…松本先生の…言葉をォォ…!

(血に飢えたザコっぽく)

 

 

インタビューの受け答えじゃなく、松本先生の生の言葉・リアルな息遣い・心の動きを感じて、

もっと深く『彼岸島』の真実に迫りたい…。そんなことをしばしば考えていました。

 

とはいえ、松本先生は公式SNSをやっていらっしゃらず、

我々一介のファンが生の言葉を聞くのは難しいのではないか…と

憂いていたその時。手にしていたヤングマガジンの最終ページに、光が差したのです。

 

 

 2017年 40号

映画『ゴシック』を観ました。これはホラーというよりも、

ホラーを作った人たちの前日譚。相変わらず下品な金持ち達の狂騒が最高。

 

 

そうか、目次コメントだ!

雑誌の巻末に毎週載っている目次コメント。わずか数十字にすぎませんが、

今までの連載分を集めれば膨大なテキストとなります。

 

『彼岸島』という、表の物語世界。

その影に寄り添い続けた、

いわばもうひとつの『彼岸島』ストーリーが明らかになるのです。

 

というわけで、

 

過去15年分のヤングマガジンをさかのぼり、

松本光司先生の目次コメントを徹底調査しました!

 

 

 

 

 

【調査結果1】温度差がすごい

 

まずこれをご覧ください。

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「第五十四話 師匠の涙」

 

主人公・明が初めて、邪鬼〈オニ〉のなりそこない・亡者と遭遇したシーンです。

身の毛がよだつほど恐ろしい。

 

で、その号の松本先生のコメントがこちら。

 

2004年12号

今さらですが、コタツを買いました。なんか休まります。

 

 

つづいてこのシーン。

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「第八十三話 おしおき」 巨大な邪鬼・太郎を操る

 

邪鬼使いが人間狩りを始める、おぞましい一幕です。

そんな彼のおぞましい勃起の影には、

 

2004年46号

タンスを買いました。部屋が少しきれいになりました。

 

タンスを買って喜ぶ松本先生の姿が。

 

 

 

そう、彼岸島という地獄の裏には、松本先生の平穏な日常が広がっていたのです。

 

 

コタツとタンスがおうちにやって来る。

暮らしがあったかくなる。

家族の団らんが広がる。

そんな営みが、素朴なタッチで目次に記されていく――。

 

吹雪の中で殺し合いしてる奴らとは大違いです。

 

 

こちらは、培養された蚊に襲われ吸血鬼化してしまうシーン。

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『彼岸島 最後の47日間』「第26話 血の池」

 

目を覆いたくなるほど恐ろしい光景です。

そのとき松本先生はどうしていたかというと、

 

2011年14号

子どもにせがまれてなんとか『ドンキーコング リターンズ』をクリアしました。 ぐったりです。

 

 

つづいて兄貴の名シーン。

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「第九十七話 落下」

 

命を犠牲にした戦いぶりが感動を呼びました。

そのとき松本先生は何と言ったか。

 

2005年10号

最近、嫁がオレンジレンジにハマっています。

 

 

はたまた、狂気に満ちた雅の殺戮回。

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「第二百七十九話 雅とユキ」

 

 登場人物、読者、すべての者が戦慄しました。

そのとき先生が発した言葉は。

 

2009年19号

秋吉、さおりん、結婚おめでとう!! いつまでも仲良くね。

 

 

 

松本先生、ぽかぽかしすぎやあしませんか。

 

 

秋吉とさおりんだけじゃなく、ケンちゃんやユキにも優しくしてあげてください…。

 

 

ことほど左様に、目次コメントのぽかぽかさをブーストさせているのは、

異常なほどの「結婚率」「出産率」「子ども登場率」なのです。

 

 

連載開始から間もない、第四話の号。

2002年52号

担当さんが結婚しました。おめでとうございます。

 

大変おめでたいことです。

しかし、その回は最初の修羅場…

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「第四話 仲間」 この頃の明はまだ短髪

 

 

 

それからなんと、松本先生自身がご結婚。

2003年9号

結婚しました。

 

一方、お話は血みどろが加速。

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「第十話 死体処理」 ケーキ入刀をイメージした?

 

 

 

さらに半年後。

2003年35号

今度は友人が結婚しました。いやぁ、結婚式っていいものですね。2人ともおめでとう。

 

さて、主人公・明は…

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「第三十二話 出口」 入刀ならず

 

 

というように、先生の幸せな日常が明たちの悲惨さを際立たせます。

 

 

そもそも、連載が始まって2か月ちょっとで

作家と担当編集がダブルで結婚するなんて、

幸せの詰まった樽の蛇口が全開になっているんじゃないでしょうか。

 

対照的に次々と血を吸われ、干からびていく登場人物…。

 

明…みんな……がんばれ…。 負けるな…。

 

図らずも、彼岸島で生き抜く人々にいっそう感情移入してしまうのでした。

 

 

 

今週はここまで。

次週は松本先生のお子さんの話題、そして季節の話題について検証します。

 

つづく