『BLUE GIANT』シリーズの原作者が手掛けるビジネスマンサバイバル劇『サラリーマンZ』。原作者NUMBER 8氏が語る「日本の会社の美しさ」とは?

“非常事態×労働哲学”というキャッチコピーとともに、週刊「モーニング」で昨年8月から連載がスタートした『サラリーマンZ』。映画や小説でも大ヒットを果たした『BLUE GIANT』シリーズの編集者(現在はstoryを担当)のNUMBER 8氏と、『テロール教授の怪しい授業』の超絶筆致でスポットを浴びた石田点氏のタッグが贈る注目の本作のコミックス2巻が4月23日(火)に発売される。 新橋のオフィス街を舞台に、大量のゾンビに襲われた企業の社員たちが生き延びるため信条を戦わせながら奮闘する姿を通じ、多様化した現代で働き、生きることの意義をドラマチックに問う本作。かつて自身も出版社でサラリーマンとして働いていたNUMBER 8氏が考える「日本の会社とサラリーマンのすばらしさ」とは? 担当編集を交えた特別インタビュー!

“非常事態×労働哲学”というキャッチコピーとともに、週刊「モーニング」で昨年8月から連載がスタートした『サラリーマンZ』。映画や小説でも大ヒットを果たした『BLUE GIANT』シリーズの編集者(現在はstoryを担当)のNUMBER 8氏と、『テロール教授の怪しい授業』の超絶筆致でスポットを浴びた石田点氏のタッグが贈る注目の本作のコミックス2巻が4月23日(火)に発売される。
新橋のオフィス街を舞台に、大量のゾンビに襲われた企業の社員たちが生き延びるため信条を戦わせながら奮闘する姿を通じ、多様化した現代で働き、生きることの意義をドラマチックに問う本作。かつて自身も出版社でサラリーマンとして働いていたNUMBER 8氏が考える「日本の会社とサラリーマンのすばらしさ」とは? 担当編集を交えた特別インタビュー!

 

 

型にはまらず、「なんでも書ける」の気持ちで手掛ける漫画原作

 

――大手出版社の編集者として漫画に携わっていたとお聞きしますが、子どものころから漫画はお好きだったのでしょうか?

NUMBER 8: もともと漫画を読むのが好きな子どもではあったんですが、家が「あんまり漫画を読み過ぎるとバカになる」という古い方針だったんですよね。小遣いも限られていて読み放題とはいかなかったので、子どものころは漫画に飢えていたようなところはありました。

――その「飢え」から漫画編集者を目指したのでしょうか?

NUMBER 8: 漫画を読むのはすごく好きでしたけど、正直、作る側になろうと思ってはいませんでした。就活も世代的に就職氷河期で、あらゆる職種を受けましたし。それがたまたま出版社に採用してもらえて、さらにたまたま漫画の部署に配属されて…という流れです。面接では漫画のことをしゃべった気もしますが、いざ入社が決まったら「女性ファッション誌の編集部がおもしろそうだな」とか思っていました(笑)。

――就職後は、いきなり漫画の編集部に配属されたのでしょうか?

NUMBER 8: 最初に配属されたのは年齢層がやや高めの青年誌で、そこでなんとか漫画づくりの仕事を覚えました。『BLUE GIANT』シリーズの石塚真一さんはその頃、新人漫画賞に応募されてきたときに担当に立候補してからの付き合いです。その後は、少年誌の編集部に行き、もう一度青年誌に戻ったときに石塚さんと『BLUE GIANT』を一緒にやらせてもらって、その後、会社を辞めて今の仕事をしています。

――現在は漫画原作だけでなく、小説、映画脚本など、多彩な活躍をされています。

NUMBER 8: メインの仕事は漫画原作ですが、編集の仕事も続けているし、小説や脚本は一度しかやっていないので…。肩書を並べるなら、漫画原作者/編集者/小説家/脚本家になるのかな…。自分で口にすると、すごく恥ずかしいんですけど。

担当: 「ハイパーメディアクリエイター」とかにしなくていいんですか?(笑)

NUMBER 8: その肩書も一瞬考えたんですが、今の若い方々には通じないので(笑)。

――現在は、『BLUE GIANT MOMENTUM』『サラリーマンZ』『風の槍』『SOV』と、幅広いジャンルの漫画原作を並行して手掛けていらっしゃいます。

NUMBER 8: ジャズ、パニックもの、戦国時代、少年兵と、全部ジャンルが違っています。実のところ「僕の味はこれだ!」とか「自分の型」みたいな意識は自分の中にもあまりなくて、それよりは「なんでも書けるぞ!」という根拠のない気持ちを強く持とうと思いながらやっています。同時に、やはり漫画家さんに描く価値があると思ってもらえる原作を書かなきゃいけないと常に肝に銘じています。いい加減なものは書いちゃいけない、と。

担当: 担当の目から見ると、どの作品もしっかりドラマが作られていて、そこにNUMBER 8先生らしさを感じますよ。会話のおかしみみたいな細かい部分にも気が配られていますよね。

NUMBER 8: 人物の会話はすごく大事だと思っていますし、そのためになるべくいろんな人と話したいと思っています。でも、編集者さんが全然かまってくれないので、夜な夜な自腹で飲み屋さんに行って会話の研究をしてますね(笑)。

パニックの中でシリアスな表情が描かれる 『サラリーマンZ』より

 

――作画は石田点先生が担当されていますが、原作の共有などはどういった形で行われているのですか?

NUMBER 8: 文字で書いた原作をお渡しする、文字原作です。そこから石田先生に構成を作っていただいています。

担当: 『サラリーマンZ』は編集者が原作担当と作画担当で分かれていて、編集者同士で原作やネームを共有し、お二人の間に入る形でやらせていただいていますね。

NUMBER 8: 僕が前にいた会社だと、一人の担当編集が原作と作画の先生を両方担当していましたけど、やっぱり会社によって違いはあるんですね。3ヵ月くらいで、原作と作画のそれぞれの担当さんが交代したりするとおもしろそうですね。

――石田先生の作画については、どんな印象を受けられていますか?

NUMBER 8: いつも、すごい絵を描いてくださって、僕の頭の中にあるイメージ以上のものが上がってくるので、毎回本当にすごいと感じています。人やゾンビがたくさん出てくるので、描くのはすごく大変だと思いますし、絵の密度も素晴らしいですね。もう石田先生には足を向けて寝られない。本当にありがたいです。

 

 

今も決して無価値ではない、日本の成功者たちの言葉

 

――会社でサラリーマンとして編集者をしていた当時とは、仕事や生活のスタイルも変わられたかと思います。一番変わったと感じるのはどこでしょうか?

NUMBER 8: 出版社ってしんどい部分もあるけれど、やっぱり会社自体が楽しい場所なんですよね。独立して会社に行かなくなってから、しみじみ「孤独だなぁ…」と感じるようになりました。編集者も全然かまってくれないので! …という冗談はさておいて(笑)、気持ち的にはそこが一番の違いでしょうか。ひとりだと自分のペースで何かができるというメリットもあるんですが、僕の感覚だと寂しさのほうが上回っています。

担当: 孤独は創作の源泉になるとも言われていますし、きっと編集者も心を鬼にしてそうしていると思うんですが…(笑)。

NUMBER 8: なるほどね? ありがとうございます、本当に(笑)。

――会社のように人が集まる場所からひとりで仕事をする環境に移ると、情報のアンテナが短くなってしまう、みたいな感覚もあるのでしょうか?

NUMBER 8: それは独立してからのひとつの課題です。普通に過ごしていれば、会社に通っていたときのほうが自然に得る情報量はやっぱり多いです。ひとりだと情報に対する感度も低くなってしまうので、なるべく意識して取り入れる情報を減らさないようにと思っています。また「観察者効果」みたいな言葉もあるじゃないですか。誰かが見ていてくれるだけで救われるとか、よりパフォーマンスが発揮できるみたいな。今になってみると、それも含めて会社に属することのメリットはとても大きいと思います。

主人公、前山田は常に”組織”で動くことを重視する 『サラリーマンZ』より

 

――では『サラリーマンZ』についてのお話に。そもそも本作の連載はどんな経緯で決まったのでしょうか?

NUMBER 8: 担当編集さんとは以前から面識があって、会社を辞めると話したら「じゃあウチでなんかやりますか?」と、サラッと声をかけていただいたんです。

担当: いやいや、僕は「講談社でやるしかないでしょう!」って、熱くお誘いしましたよ?

NUMBER 8: そうでしたっけ? でも、早々に声をかけていただいたのがものすごくありがたくて、企画を考えることになりました。「サラリーマンだったわけですし、サラリーマンものでどうでしょう?」と提案をいただいて、「じゃあ…」ということで、サラリーマン対ゾンビという企画ができました(笑)。

――その構図はどう思いつかれたんでしょうか?

NUMBER 8: 会社には新人から偉い人まで、いろんな人がいるじゃないですか。それぞれが会社では自分の仕事を担当していて、そのうえで趣味とか、仕事と関係ないところでも個々に能力を持っている。そうした人たちを全部ひっくるめたのが会社という組織だと思います。そこで大きな「何か」が起きたときに、みんなどうするんだろうと会社員時代にも考えたことがあって。体力のない上司はみんなからどう扱われるのか、そこからリーダーシップってなんだろうとか…。その延長で、日本のひとつの会社とそこで働く人々が極限の事件に巻き込まれたら、いろいろおもしろいことが起きるだろうと思ったんです。最初のとっかかりになったのはそこでした。

――主人公の前山田は、常に昭和期のビジネスパーソンの名言を引用するユニークなキャラクターになっていますね。

NUMBER 8: 書店に行くと、名経営者の名言集がビジネス書コーナーに今も大量に並んでいますよね。日本の形を作った、運も含めて成功した人の言葉が今までずっと残っているのは必要とされているということだろうし、それをもう一度大事にしてみてもいいんじゃないかと思ったんです。それで、過去のものではあるけれど、決して無価値ではない名言を体現する存在になってほしいということで、「前山田さん」が生まれました。そして、経済の停滞などもあってみんな少し自信を失っている印象を受ける中で、「日本はそこまで自信を失わなくてもいいんじゃないの?」という気持ちも僕の中にすごくあって。前山田のふるまいには、そうした思いも入っています。

――その一方で、現代的なビジネス感覚を備えた桐谷も作中では前山田と並ぶような活躍を見せています。

NUMBER 8: 日本の会社はいいものだと言いたい反面、今の社会やビジネスの変化を見れば、欧米型の経営学とか志向を身に付けた人たちが当たり前に出てくるのもわからなくはないんです。そこで「日本の創業者哲学バンザイ!」みたいな視点だけを描いてもしょうがないので、両方をちゃんと並走させたいと考えて「桐谷さん」が生まれました。そうして、考え方が異なる両者が対立するような部分がありつつ、でもわかりあえる部分もある構図を描きたいと思いました。

 

 

「ひたすら会社のために!」と語るビジネス名言はあまりない?

 

――主人公たちが勤める会社を、新橋にあるオフィス向けのプリンターというか、複合機のリース会社にしたことにも何か理由があるのですか?

NUMBER 8: 主人公たちが務める会社は、いろいろな場所に入れて、あらゆる業種と関わりを持つような、顔が広い会社がいいなと考えました。複合機リース業なら、一般的なオフィスだけでなく官公庁にも出入りすることがあるだろうし、営業メンバーなら他社の人と顔もつながっているだろうということで、タケフクという会社を思いつきました。

担当: 作中に出てくる営業ルートを参考に紙で地図を作るといったアイデアもNUMBER 8先生の中にはあったんじゃないですか。

NUMBER 8: 複合機を扱っている点で、紙にして残そうというこだわりがある会社になりましたね。なんとなくアナログ感がある感じがぴったりだなと思っています。

――前山田と桐谷、どちらもビジネス格言をゾンビパニックのシチュエーションに当てはめるのが難しそうですが、そのあたりのご苦労はありますか?

NUMBER 8: 探すのは大変といえば大変です。ただ、前山田さんに関してはちょっとだけズレていて、シチュエーションに対してドンピシャなことを考えているかというとそうでもないんです。少しズラした感じの「ここでそれを言うか?」といった言葉をあえて選ぶようにしていて、そのあたりにおもしろみを感じてもらえるといいなと思っています。

独自の流儀で出来事に真摯に向き合う前山田 『サラリーマンZ』より

 

――ビジネス格言で、NUMBER 8先生がいちばんお好きな言葉はなんでしょうか?

NUMBER 8: どれだろう…。みなさんすごい実績があって、参考にする本にも「すごい人だぞ!」と書かれている人たちの言葉なので(笑)。でも、あえて挙げるなら1話めで出ている本田宗一郎さんの「悲しみも、喜びも、感動も、落胆も、常に素直に味わうことが大事だ」という言葉はけっこう好きです。自分を殺す感じが全くないというか。

――昭和のビジネスというと、なんとなく滅私奉公みたいなイメージもありますが、作中で出てくる名言を見ていると意外にそんな感じではないです。

NUMBER 8: 「会社のために!」みたいなことを言っている人は、あまりいないように感じます。むしろ前述の本田宗一郎さんの言葉は「感情に素直になることが大事だ」みたいなことを言っているわけで、今のコンプライアンス重視の会社の空気とは真逆の印象を受けたりもして。

――先生ご自身は、サラリーマン生活をされたころ、大事にしていたことはなんですか? 座右の銘などありましたら……

NUMBER 8: 座右の銘はパッと出てこないんですが…会社って、変化がないように見えて内部は意外に流動的じゃないですか。自分が全然経験のないところに異動したり、同じように上司も後輩もぐるぐると変わっていったり。そういったときも、せっかくなので隣の席の人や同じ部署になった人とは仲良くしたいという感覚は常に持つようにしていました。ほかの人と一緒に働いているわけですし、「チーム」という感じ・感覚はすごく大事にしたかったんです。会社を辞めた人間が言うのもなんですけど…(笑)。

――『サラリーマンZ』の中に、ご自身の経験が活かされているところはありますか?

NUMBER 8: 1話目に前山田が部下の顔色が悪いことを心配する場面がありますが、ああいった社内で当たり前にある何気ないやりとりは、すごく自分の会社時代のことを思い出しますし、そうした部分に会社の大事さを感じています。同僚に「お前、今日顔色悪いぞ」と言えるのは、言い換えると「お前のことをいつもちゃんと見ているぞ」ってことですから。独立したこともあり、リモートワークのメリットはよくわかっていますが、それと引き換えに、会社で顔を合わせているからこそわかる仲間の小さな変化に気づけなくなる面もある。そういう状況に寂しさを感じる部分もあります。

――原作を書いていて、やっぱり会社っていいなと思う気持ちはありますか?

NUMBER 8: 毎日、ずっと思ってますよ。なんなら書いていない時間も「会社っていいなあ」と思っています(笑)。

 

 

「日本の会社員ってすごいぞ!」と思える作品を作り上げたい

 

――今の日本の会社や、サラリーマンが置かれている状況をNUMBER 8先生はどう感じていらっしゃいますか?

NUMBER 8: 今はものすごくいろいろなことに気を遣う世の中になって大変だと思います。そして、40代、50代といったベテランサラリーマンが自信をなくしているように感じます。仕事で確かな経験を積んできているんだから自信を持って働かないと、下の世代の人達は何を見て働けばいいのかわからなくなってしまうんじゃないかと思うときもあります。やりたい仕事があって、どうすれば会社の中で自分のやりたいことができるのか、それを考えることがサラリーマンとして生きる中でいちばん大事じゃない? と考えることも多いです。仕事が楽しくないという人も一定の割合でいるとは思うんですが、なんというか「もったいないな」と感じます。

――最後に、本作をご覧になる読者の方にメッセージをお願いします。

NUMBER 8: 僕は、実際に世界が一斉にゾンビ禍に襲われたとしても、日本のサラリーマンは生き延びるんじゃないかなと思っています。日本の会社とその社員には、他の国にはないある種の強さや美しさがあるんじゃないかと考えていますし、『サラリーマンZ』ではそういった魅力を描きたいと思っていますので、読者のみなさんにそこを楽しんでいただけるとうれしいです。このあとの展開でも、日本の会社組織の力が活かされるようないろんな選択肢をおもしろく書いて、「日本の会社員ってすごいぞ!」みたいな空気を読者のみなさん含めて一緒に作り上げられるといいなとも思います。ぜひよろしくお願いします。

 

 

『サラリーマンZ』を読めるのはこちら

『サラリーマンZ』2巻は4月23日(火)発売!!



 

NUMBER 8氏が挑むもうひとつの意欲作『SOV』連載開始!1話を読む!

 

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