【担当とわたし】「パルノグラフィティ」板垣巴留×担当編集<その2>

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主要漫画賞を総ナメにして話題を呼んだ『BEASTARS』(秋田書店刊)を連載中の板垣巴留先生。なんとKiss11月号より、板垣先生の家族を描いた自伝的ショートホームドラマ『パルノグラフィティ』を新連載!そして、コミックDAYSでも第1・2・3木曜日更新でおっかけ連載が開始!

この驚きの展開はいかにして生まれ、なぜ「エッセイ漫画」を板垣先生は描くことになったのか――!?そこに込められた想いを、今回の新連載を立ち上げた担当編集とともに板垣巴留先生に裏の裏まで語ってもらった特別対談3本立て!

>>その1はコチラ

…板垣巴留 『パルノグラフィティ』作者
>『パルノグラフィティ』1話はコチラから!
…Kiss編集・徳留 『パルノグラフィティ』担当。
>担当編集の詳しいプロフィールはDAYS NEOに掲載!

板垣「『パルノグラフィティ』を描く時は、農耕民族になる感じです」

──『パルノグラフィティ』のお話は打ち合わせから生まれるのですか?

徳留:そうですね。巴留さんの現在に影響を与えている子供時代の原体験をうかがって、これは漫画にしたらユーモラスになりそうだなと思うことを、二人で1話ごとピックアップしていく感じでしょうか。

──お話作りには苦戦されますか?

板垣:『BEASTARS』より全然楽です(笑)。元ネタがあることなので。『BEASTARS』みたいにゼロから話をつくるわけではなくて、ありのままを調理して出すだけなので。
徳留:でも、『パルグラ』には『BEASTARS』にも通じるストーリー性があると思うんですよ。
板垣:確かに、だんだん近くなってきている感じはありますね。ゆるくゆるくやろうと思っていたんですけど、『BEASTARS』の手法になぞらえてやると、途端にペンが速くなるというか。
徳留:メクリとヒキも思いっきり効かせてもらってますし、コマ割りのケレン味にしてもエッセイ漫画なんだけど、かなりストーリー漫画のそれで。その妙味が『パルグラ』の魅力だなと。

──少年誌で漫画を描くこととの違いはありますか?

板垣:現時点で描いたネームだけでも、結構違います。少年漫画ってやっぱり驚かせてやろうとか、絶対に読者の心に残してやろうとか、そういう強迫観念に駆られる気持ちがあるんです。なんていうか……戦闘民族になる(笑)。でも『パルグラ』を描く時は、農耕民族になる感じです。だから優しい気持ちで描けてるのかな。

──『BEASTARS』は週刊連載ですが、並行してどのようにお仕事を進めているのでしょうか?

徳留:タブー中のタブーに触れてきましたね……。
板垣:いやいや(笑)。わりと『BEASTARS』のネームが終わるのが夕方頃なので、そこからご飯食べたりお風呂に入ったりして自分の中の「レゴシ」を抜いてから、ネームを始めます。ネームモードというのがあるので、同じ日に進めたほうが、わたしはやりやすいです。

板垣「漫画は紙とペンだけで映画に近いものが作れる」

──第1~3話ではお母さんと長女の「りーちゃん」のエピソードが語られました。お二人とも確かにキャラ立ちが半端ないですよね。

板垣:そうですね……でも家庭ってだいたい変じゃないですか。友達の家に行ったら「この子のお兄さん、こういう人なんだ」みたいな奇妙さがあったり。その奇妙さ、面白さを漫画家としてのわたしがどう描けるかが大事なのかなという気持ちです。まだどう動いていくか分からないんですけど、まずは序盤で家族の「キャラ紹介」をしていくつもりです。

──第2話はお母さんの紹介になっていますね。『ジョーズ』の影響で真っ赤な「血の海」を描いたら、幼稚園の先生にリテイクを食らうエピソード。でもお母さんは「上手ね~!!」と褒めてくれる。

徳留:この第2話のネームをいただいて、「これは『パルグラ』面白くなるなぁ……」という感慨がありましたね。この時に母が認めてくれなかったら、今の漫画家・板垣巴留先生はなかったかもしれない。これって具体的な出来事としては板垣家ならではのエピソードですけど、同時に根っこの親子の感情はどこの家庭にもあるような普遍的なものとも思えて。
板垣:いい具合に無関心というか、やりたいことをやらせてもらっていました。

──第3話は、板垣さんの漫画の第一読者でもあった長女の「りーちゃん」とのお話ですね。

板垣:りーちゃんはかなり異質というか、ずっと空の上にいるような人で。
徳留:おかしいのは、巴留さんも「批判されないだろう」と計算して、お姉さんに漫画を見せていることで(笑)。「この姉妹関係、趣ありすぎ!」って、ネームを読んで唸りました。だけど、この時の漫画が『BEASTARS』の連載までつながっていくわけですよね。

第2話より

第3話より

──美大に入った時は、漫画家になるつもりはなかったんですか?

板垣:映像学科に入って、映画関係の裏方に就きたいと思っていました。だけど、自分は機材を覚えたりする能力がまったくなかったので、「これは向いてないぞ」と気づいて。映画作りにはモノをつくる以外の能力がたくさん必要なんです。それで、4年生の時に漫画家になろうと思いました。 だけどやっぱり大変なお仕事なんだろうとは思っていたので、一度就職をして人生経験を積んでから、30代くらいで青年誌に投稿しようという人生プランを立ててみたりもして(笑)。今考えると、めちゃくちゃナメた考えだなと思いますし、就活も落ちて当然だったなと思います。

──漫画と映画で創作に向かう意識はかなり違うのですか?

板垣:漫画は紙とペンだけで映画に近いものが作れるんですよね。ロケハンもいらないし、機材とかもいらない。
徳留:反対に映画とかアニメとか映像関係の人に話を聞くと、「漫画は大部分を漫画家さんと、あとは担当編集とでやらないといけないから大変そう」とも言われることがあるから、巴留さんには漫画という表現方法が最も合っていたということかもしれませんね。
板垣:漫画はコスパが良い創作だなって思います(笑)。

板垣「こういう形で家族のことを描いて残せるのは、よかったなと思いますね。」

──板垣さんの中で、ご家族の影響はやっぱり大きかったのでしょうか?

板垣:育った環境なので、みなさんと同じように影響は受けていると思います。どう影響されているか、『パルグラ』を描きながら、自分の中で解き明かしている気がします。
徳留:3話目以降もすでにネームをいただいていて、4話目が次女のお姉さんとのお話。5話目が家族全員のお話で、6話目が父とのお話になります。どれも巴留さんの現在を形成しているんじゃないかなと思えるエピソードですね。あとは巴留さんが9つのときに亡くなられているのですが、今も記憶に色濃く残っているという母方の祖父とのこともぜひ描きましょうとも打ち合わせしています。

──ご家族について描いてよかったと思うことは?

板垣:こういう形で家族のことを描いて残せるのは、よかったなと思いますね。
徳留:精神年齢37歳の板垣巴留さんが出てきましたね。
板垣:出ちゃってますか?(笑)
徳留:数々の漫画賞を受賞されたり、若くして漫画家として稀有な経験もされているので、どこか老成された部分を感じる時があるんですよ。達観しているというか。
板垣:週刊連載って時間の経ち方が変わるんです。今年で26歳になったんですけど、全然そんな感覚じゃなくて、37歳くらいになった感じなんです。だから、「あ、まだ26か」みたいな(笑)。
徳留:前々から思っていたんですけど、なんでキリのいい40歳じゃなくて、中途半端な37歳なんですか?
板垣:(感覚的に)40歳だと時間が経ち過ぎなんです(笑)。
徳留:ご自分の感覚にその3歳差の機微があるのが、『パルグラ』でもいかんなく発揮してもらっている、日常に溶け込んでいる面白さを見い出す巴留さんの表現力に繋がっているなぁって気がします。

次回も担当編集の作家との関わり方など、『パルグラ』の舞台裏を余すことなく公開します!板垣巴留先生から漫画家デビューを目指す人へのメッセージも!

 

<第3回はこちら>

 

 

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単行本8月6日(木)発売予定!

 

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