モーニング創刊40周年勝手に記念企画「名作家秘話」〈その④ なきぼくろ〉

「モーニング」創刊40周年記念、貴重なオーラルヒストリーは今回でひと区切り! F沢先輩が二代目担当として数年間伴走した作家、『バトルスタディーズ』なきぼくろさんについて!

「モーニング」創刊40周年記念、貴重なオーラルヒストリーは今回でひと区切り!

第1回〈山田芳裕〉はコチラ>>

第2回〈榎本俊二〉はコチラ>>

第3回〈カレー沢薫〉はコチラ>>

 

F沢先輩が二代目担当として数年間伴走した作家、『バトルスタディーズ』なきぼくろさんについて!

 

──貴重な回顧企画もラストになります。なきぼくろさんの担当も長かったですよね。

他の作家に比べると全然短いですね。単行本は第1巻から担当してましたが、作品担当は初代が異動して引き継いだので正味何年だろ。単行本で十数巻ぐらいでしょうか。

そこそこ長くもあり大して長くもなし、あっという間の楽しすぎる数年間でした。作者の日々是成長を目の当たりにして、すさまじいパワーに圧倒されっぱなしでしたね。

 

──デビュー前から注目してたんですね。

新人賞(第34回MANGA OPEN)への応募作『どるらんせ』はもちろん読んでまして、一般的な漫画とはちがうイラストっぽい絵柄が印象的だし、ストーリーは取りとめもないけどガキンチョたちがいきいきと描かれてるし、さらには原稿のウラ面の「PL学園高校卒業」という経歴が目を引きました。

掲載レベルではないが将来性に期待ということで高い点はつけませんでしたが、なんだか気になる新人でしたね。

──推しより押しだったんですね

単行本第1巻を担当することになり、初めて会ったんですけど、むやみやたらとピンとしてる、キラキラギラギラハキハキしてるなどなど、漫画家一般とはかなり異なるパーソナリティで、さすがは元高校球児、PLのレギュラーとして甲子園に出たヤツはやっぱちがうわと感心すると同時に、自分のようなほぼ帰宅部からすると、まぶしすぎる、気圧される、勝手がちがいすぎて戸惑う面もありましたね。

 

──相性はよくなさそうですね。

でもね、やっぱ野球好きのはしくれとしては、元甲子園球児と仕事ができるなんてむちゃむちゃうれしい、いい気がどんどん身体に入ってくるわけです。

メンタルもフィジカルも人一倍たくましいし、何事もものすごく積極的だし、ジメジメベトベトした自分ですけど、生きてる実感を与えてもらいましたね。

 

──ドーピングみたいな人ですね。

やがて単行本担当だけでなく作品担当も兼ねることになり、毎週毎週ベタな付き合いが始まるわけですが、関西の人は感覚的によくわかると思いますけど、思ってた以上に「イラチ」で片時もじっとしてられないハイテンションな人で、一話18ページを往年のトキワ荘作家的スピードで仕上げ、週刊連載なのに原稿が数本先行してるとか、自分のつたない経験とまずしい想像を絶するものがありましたね。

 

──関西人で体育会系は最強なんですね。

二代目(担当)襲名後、数巻目にして「DL学園野球部冬の時代」問題に直面しました。

父親の無理解な過干渉に絶望した鬼頭が飲酒の上無免許で暴走事故を起こし、チームは奈落の底に突き落とされる。作者自身の体験がベースになってはいますが、半自伝的作品といっても「バトスタ」はあくまでフィクションだし、暗い展開は避けるのがベターじゃないかと思うのが人情。だがしかし、高校野球を通じて「生きる術」を描きたい、リアリティを追究したい作者としては渡らねばならない橋だったわけです。

ネガティブな反響もかなり多くて、しばらく生きた心地はしませんでしたが、ここを乗り越えなければどうしたって先に進めなかったようだし、物語をキレイゴトで済ませない作者の意地にはいまでも、いいぞ、あっぱれと思いますね。

 

──人が右向けば左を向くタイプですね。

こういう時代だから作者公式SNSやりなよと勧めたけれど、自分はああいうのアカン、ようやりませんと言うから作品公式はマメにやろうと思い、連日更新するよう努めてましたが、担当のつぶやきは面白くないと感じたんでしょうね、そのうち作者もアカウントを作り、あれこれダイレクトに発信してくれるようになりました。

自分でグラフィックを作ったり動画を編集したりしてポーンとアップする。ホント多才だなと思ったし、どうすれば有効活用できるかとか独自に分析してるんですね。全然あざとくはない戦略から「バトスタカー」の企画が出てきた時は、おまえはアホかと思いましたね。

 

──死ぬ時は前のめりのタイプですね。

中古のワゴン車を買ってバトスタのラッピングをして自分たち担当を同乗させて街宣活動をしようと言い出したわけです。費用は作者が身銭を切って全額負担し、実際に制作されました。

宣伝費とか会社の予算には当然限りがあるし、ゼニカネの問題じゃなくはないけれど、やると言ったらやる、走り出したら止まらない暴走機関車みたいな人間なんですね。

漫画家になってよかったです。一歩まちがうと何をしでかすかわからない危険な男なので。

 

──イケイケのノリノリのキレキレですね。

自分は正直ね、はるか年下の仲間とつるんで元日に富士山目指して突っ走るみたいのはちょっと苦手だから、いっしょに街宣とかおいおい勘弁してくれよと思ってました。でも乗りかかった船だから乗るぞとハラをくくったん矢先のコロナ禍で暴走だ街宣だどころではなくなってしまった。

熱しやすく冷めやすいのがデキる男の特長でもあり、バトスタカーはいったんお車庫入り(ママ)となりますが、やがて思いがけない有終の美が訪れます。それはまた別の話。

 

──コロナがもたらした悲喜劇ですね。

2018年、関西独立リーグ(現・さわかみ関西独立リーグ)の新球団・堺シュライクスが発足しました。

作者の大先輩である松坂世代の大西宏明さん(PL学園~近大~近鉄~オリックス~横浜~ソフトバンク)が監督に就任し、松本祥太郎オーナーとも作者が意気投合。全面協力させてくださいという話になりました。チケットや宣伝物にイラスト提供、毎年夏のコラボイベント開催など、コロナを乗り越え、さまざまな形でタッグを組んでいます。

作者は野球が好きというより人間が好きなので、大西さんや松本さんの人柄に触れ、ゼロからスタートする球団の発展に関われるヨロコビに激しく反応したんだと思います。

 

──シュライクスは大いに気を吐いてますね。

話は戻ってバトスタカーですが、各都道府県ごとに1台配備して日本全国走らせるという野望はコロナ禍で消え失せましたが、アツい、アツすぎる作者は少年野球チームに無償で贈呈したいと言い出した。

最も熱望してくれた広島のチームにもらわれていくこととなり、シュライクス主催ゲームでセレモニーが行われました。いろんな縁がつながって結果ハッピーなのは作者の人柄の賜物ですが、後先考えない行動というか衝動はやっぱヤバいですね。

 

──いずれ全国統一してほしいですね。

漫画の主人公は作者の自画像、自己投影だと思うので、バトスタの笑太郎はほぼイコール作者と言えますが、作者自身が漫画的というかヒーロー的というか、周りにおのずと輪ができるし笑いはとれるし体調不良でイベントの立ち合いをサボって喝入れられたりTwitterで連載情報を先出して喝入れられたり自分のほうがはるかに年上ですが喝入れられることが多かったですね。

織田信長というのは作者みたいな人ではなかったかと思われるほどですね。

 

──是非に及ばずですね。

コロナ禍を逆手に取り、デジタル作画~リモート制作に成功、ソフト、ハードの両面でますます進境著しく、画力も向上の一途をたどる作者ですが、これ以上画が巧くなってほしくない、洗練しすぎないでほしいという気持ちもありますけど、無限へと突き進むんだろうと思います。

ぜひとも絵本を描いてほしい、子どもたちとの日常活動を生かして博物誌やら昆虫記もなど、いろんな積み残しや未練をオレの目の黒いうちにぜひとも実現させてほしいですね。

↓モーニングの名作が読みやすいアプリのDLは↓