こんにちは。
マンガ大好きライターの砂流(スナガレって読みます)です。
マンガ『彼岸島』の定番武器のひとつである“丸太”。
丸太は『彼岸島』の主力武器のひとつ。島にはいたるところに丸太が転がっており、手で持って戦う以外にも、軽トラの先端に尖らせた丸太をつけて補強したり、城門破壊兵器として使用されています。
▲丸太で作った城門破壊兵器
この丸太、本当に武器として使えるのでしょうか?
科学の観点から検証をしてもらうことにしました。
■話を聞いた先生
今回、話を伺ったのは、マンガやアニメの世界を科学的に検証している『空想科学読本』の柳田理科雄先生。
柳田理科雄
1961年鹿児島県種子島生まれ。東京大学理科I類中退。学習塾講師を経て、1996年に「空想科学読本」を上梓し、ベストセラーに。空想科学研究所主任研究員。明治大学理工学部非常勤講師。
■丸太は武器として本当に強いのか?
── 本日はよろしくお願いします。『彼岸島』を読んでみてどうでしたか?
怖いマンガだけど、なんとか自分たちで工夫して先へ進むんだ、吸血鬼を倒すんだという前向きな意欲にわくわくしました。
── どんなに絶望的な状況でもあきらめないですしね。
そのうえ、めちゃくちゃ強い。
── その強さを支えているもののひとつに“丸太”があります。『彼岸島』ではいろいろ場面で丸太が大活躍しますが、丸太は武器として使えるものなのでしょうか?
島に丸太があるというのが、実はすごいことです。木は、家をつくるなど、いろいろなことに使えるので、つい伐りすぎてしまう。結果、まったく木がない島も多いんです、イースター島とか。
でも、幸い彼岸島には豊富に丸太がある。武器としても、非常に優秀だと思います。
── バットとか鉄パイプのほうが、武器として強そうですが。
鉄パイプやバットを武器にすると、使っているうちに曲がってしまい、使いものにならなくなります。
丸太も一定の力をかけるとボキっと折れるでしょうが、中が密だから、なかなか折れません。たとえば、直径20センチの丸太は、1トン近くある車を支えられます。でも、人が手で握れるような直径3~4センチの鉄パイプでは、それは無理ですよね。
鉄パイプやバットよりも、丸太のほうが優れた武器だと思います。
── なるほど。
丸太や鉄パイプなどの鈍器は、人によってそれぞれ「ちょうどいい重さ」がありますよね。その点でも、師匠が丸太を使うのは理にかなっています。
ーー 師匠は登場人物の中でもとくに大きいですしね。ちなみに、師匠が持っている丸太の重さは、どれくらいなのでしょうか?
師匠が丸太を使っているシーンで、丸太が端から端まで描かれているものがないので仮定の話になりますが、目測では直径が20センチ、長さは2メートルほど。丸太がかなり丈夫なところから、杉ではなく樫の丸太を使っていると想像するのですが、だとしたら重さは31キロになります。
プロ野球のバットが850グラムくらいなので、バット35本分の重さの丸太をぶん回している感じですね。
── えっ。30キロって重すぎませんか?
間違いなく重いですね。でも、師匠は身長262.5センチ、体重198キロもあるので、使いこなせるんじゃないでしょうか。
── なるほど。師匠にしてみれば、島にあるものでちょうどいい重さで強度もある武器を探すと、丸太に勝るものはないと。
そうですね。師匠には丸太が合っていると思います。
■丸太はどれくらい攻撃力があるのか?
── 師匠が丸太で壁を壊すシーンがあります。このときの師匠と丸太の攻撃力はどれくらいなのでしょうか?
数値を出すにはいろいろな仮定をしないといけないですが、ここでは「壁をぶち壊すのにどんなエネルギーが必要か」ということで考えますね。
丸太が壁にぶつかるエネルギーは、運動エネルギーの式で計算できます。質量というのは重さのことです。
壁のような岩石質のものを破壊するのに必要なエネルギーは、重さ×100ジュールといわれています。ジュールというのは、エネルギーを表す科学の単位で、「100グラムのものを1メートルから落とす」、これが1ジュールです。
壊れた壁の体積を出せば重さも出てくるので、そこに100ジュールをかけると破壊のエネルギーがわかります。そこから、丸太の質量(31キロ)を使って、師匠がどんなスピードで丸太を壁にぶつけたかも計算できます。
まず、壁の重さ。断面を見ると、壁の厚さは10センチぐらいですかね。
このコマから、師匠が破壊した壁の面積を求めましょう。師匠の身長が262.5センチなので、穴の縦の長さを250センチとしていいかな。横は、190センチくらいでしょうか。
この穴は楕円形なので、面積は「3.14×縦×横×1/4」で計算できます。そこに壁の厚さをかければ、壁の体積がわかります。
最後に、こういうコンクリートや、岩の壁は1リットルで2.5キロあるので、これをメートルに直して計算すると重さが出ます。
(計算して)なるほど。師匠は930キロぐらいのコンクリートを一挙に壊していますね。
── 丸太一本で1トン近い壁を…。
はい。丸太一本で壊しています。
── 師匠もすごいけど、丸太がすごいんじゃないかという気持ちになってきました。
確かに丸太もがんばっていますが、ここで仮定した壁の厚さは10㎝ですよね。丸太の直径に比べると半分の厚さなので、こういう使い方をしても丸太は折れないと思います。丸太としては、普通のがんばりでしょう。
── すごいんだなあ、丸太。
そして、最終的に壁の重さ(930キログラム)に100をかければエネルギーが出ます。
つまり、9万3000ジュール。
師匠がどのくらいの速さで丸太を壁にぶつけたのかも計算してみましょう。さきほどの運動エネルギーの式をもとに計算すると、秒速77.6メートル。これに3.6をかけると時速になって、すなわち時速279キロ。
師匠は、279キロの速さで丸太を壁にぶつけたということです。新幹線より少し遅いぐらいです。
── すごいですね。師匠と丸太の組み合わせは理にかなっていることがよくわかりました。
作品内では師匠はこういった使い方をしていませんでしたが、“丸太を投げる”という手もあります。
── 投げた場合どうなるのでしょうか?
31キロのものを時速279キロで投げた場合、いちばん飛距離が出る45度で投げると613メートル飛ばせます。600メートル先に邪鬼がいたとして、師匠が丸太を投げれば倒せるかもしれない。
── 聞けば聞くほど、武器としては丸太が最強という気がしてきました。
師匠みたいな人だったら、丸太がすごい武器なのは間違いありません。
■師匠+丸太+石=最強!?
── ちなみに、丸太以外にも、師匠が投げたらすごい武器になるものはありますか?
師匠であれば、その辺の石を投げるだけですごい武器になりますよ。
── 石……ですか?
そうです。仮に師匠が「砲丸」を投げた場合、どのくらいの飛距離になるか。砲丸は7.26キログラムなので……(計算して)
2.5キロ飛びます。
ですので、10キロくらいの石を投げ続ければ、空襲と同じくらいの威力があると思います。
── お話を伺っていると、師匠の使い方を間違えてなければ師匠だけで吸血鬼側に勝てたのではないかと思えてきました。
いや、そういうふうに考えるのはどうでしょうか。やはり、みんなで戦うことが大切だと思います。たとえどんな強い人がいたとしても、歩のない将棋は負け将棋ですから。
── うーん、なるほど。本日は、ありがとうございました。
■まとめ
いかがでしたでしょうか?
科学で検証してもらった結果…
・師匠は丸太を時速279キロでぶん回せる
・師匠が丸太を投げればメートル飛ばせる
など、丸太と師匠の組み合わせが最強ということがわかりました。
柳田先生には、丸太以外にも、『彼岸島』の名物シーンを科学で検証してもらっています。そちらの記事の公開もお楽しみに。
柳田先生、ありがとうございました!