【第4回・最終回】もうひとつの『彼岸島』 -松本光司 目次コメントの世界-

『彼岸島』コラム・最終回。ついに、松本光司先生の真の姿が明らかになる…!

 

 

みなさん、こんにちは。ライターのナカザワです。

 

『彼岸島』著者・松本光司先生の「目次コメント」を検証するこのコラムも、

ついに最終回となりました。

 

過去回はこちら

 

今まで3回のコラムではいくつかのテーマに沿って、

目次コメントを解き明かしてまいりました。

また、「何が松本先生を『彼岸島』執筆へ突き動かしているのか」、

作品を描き続ける「原動力」を探ってまいりました。

 

しかしこのたび、

そんなチャチな考察が吹き飛ぶほどの

衝撃の事実が明らかになったのです。

 

というか、

今まで黙っててスミマセン。

コラムを書き始める前からずーっと明らかだったのです!

 

 

 

 

 

【検証結果5 とにかく観てる映画の数がすごい】

 

600回を超える連載のうち、

なんと過半数の350個のコメントが、

「観た映画の感想」でした。

ひたすら。

来る日も来る日も。

 

 

このコラム企画を始めるまえ、コメントの一覧を見た私は、

高く積み上げられた「映画感想」の壁にぶち当たり、途方に暮れました。

 

そこでひとまず映画以外で割とよく登場していた話題、

「子ども」「季節感」「体調」

を中心に考察することにしました。

 

「真正面から行くのはキツイ。よし、地下道を突破しよう」

と、ちょうど今連載中の展開と同じようなことを考えたのでした。

 

 

…とはいえ、

結局避けて通るわけにはいかなくなりました。

 

映画の感想こそが

「松本光司 目次コメントの世界」の

真髄なのですから。

 

というわけで、さらに細かく章立てて紹介していきます!

面白いと思うかどうかはあなた次第!

 

 

 

[ポイント1 アクションが好き]

 

洋の東西を問わず、また最新作からクラシックな名画まで、

松本先生はたくさんの映画を観ていらっしゃいます。

 

中でも最も多くご覧になっているジャンルにはやはり

洋画のサスペンス、ホラー、アクションが挙げられます。

コメント内に作品の登場した回数が多い監督は以下のとおり(カッコ内は代表作)

 

8回 スティーブン・スピルバーグ (『インディ・ジョーンズ』シリーズ、『ジュラシック・パーク』)

7回 ブライアン・デ・パルマ (『ファントム・オブ・パラダイス』『アンタッチャブル』)

4回 ジョン・カーペンター (『遊星からの物体X』『ニューヨーク1997』)

4回 リドリー・スコット (『ブレードランナー』『オデッセイ』)

4回 サム・ライミ (『死霊のはらわた』『スパイダーマン2』)

 

 

こんなこと申し上げては先生に大変失礼なのですが、

まさにボンクラ映画青年が好きそうなラインナップです。

 

とりわけデ・パルマ監督への敬愛は非常に深いようで、

 

 201447

画『パッション』を観ました。大好きなデ・パルマ最新作。やっぱり面白い

 

 201313

画『レイジング・ケイン』を観ました。やっぱりデ・パルマは面白い。

いつもジャケットはつまらなそうだけど中身は最高

 

 

さらには、

 

 201522/23

画『ミュート・ウィットネス』を観ました。デ・パルマばりのサスペンスがたまらない

 

 と、別の人の作品を褒める際にわざわざ引き合いに出すほど。

 

 

一方、登場作品数最多のスピルバーグには複雑な思いを抱いてらっしゃるようで、

 

 201421

イマイチだったはずの映画『フック』を見返した所、感動してしまった。スピルバーグは侮れない

 

 201425

イマイチだったはずの映画『ミュンヘン』を見返したら、最高に面白い。恐るべし、スピルバーグ

 

 と、なぜか素直に認めたくないツンデレな態度を取っていました。

そのお気持ちは……なんとなく分からないでもないです。

 

 

こういった映画作品の影響は、

邪鬼〈オニ〉の造形などにも及んでいるように思えます。

  

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彼岸島 48日後…』「第88話 女の匂い」 彼岸島からの物体X?

 

 

[ポイント2 社会派ドラマが好き]

 

一方で先生は、邦画のアクションをあまりご覧にならないようです。

例えば時代劇、任侠もの、実録ヤクザものなどが登場することは殆どありません

(むしろそういう映画こそ、丸太や日本刀が似合ってる気もしますが…)

 

どんな邦画を観ているかというと、

登場回数が多い作品はこちらのスタッフのものでした。

 

8回 松本清張(原作) (『鬼畜』『黒い画集 あるサラリーマンの証言』)

7回 野村芳太郎(監督) (『鬼畜』『砂の器』『拝啓天皇陛下様』)

6回 新藤兼人(監督・脚本・原作) (『しとやかな獣』『絞殺』『裸の十九歳』)

5回 増村保造(監督) (『清作の妻』『華岡青洲の妻』)

 

 201145号 

映画『鬼畜』を観ました。野村芳太郎最高です。『八つ墓村』もいいけど、僕はこっちの方が

 

 201629

映画『絞殺』を観ました。まぁ何とも壮絶で、切ない映画

この監督は『裸の十九歳』といい、心の核の部分で何だか共感してしまう。

 

 洋画のサスペンスと違って邦画の場合は、

「社会派サスペンス」と呼ばれる作品がお好きなようです。

この4人は同一作の原作と監督を担当するなど互いの関わりあいも強く、

「社会の欺瞞」「虐げられた人々の視点」「経済成長の影に潜む心の闇」

といった題材を強烈に炙りだしています。

 

思えば『彼岸島』においても、吸血鬼の存在は一種の

「虐げられたマイノリティ」を象徴しているのかもしれません。

最終的に人間の方がマイノリティになってしまうのですが。

 

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「第百五十五話 灯籠」 明は迷う。吸血鬼化した兄を殺してよいのか?
平和に暮らす吸血鬼村を、人間の都合で滅ぼしてよいのか

 

 

[ポイント3 女優・若尾文子が好き]

 

まずはコメントをご覧ください。

 

 200846

『しとやかな獣』を観ました。若尾文子が素晴らしい

 

 201141

『清作の妻』『妻は告白する』『しとやかな獣』若尾文子は素晴らしい。

 

 201713

映画『祇園囃子』を観ました。とにかく若尾文子が美しい

 

 201727

『お嬢さん』を観ました。若尾文子を見ているだけで楽しいかも。(笑)

 

 

監督・脚本・俳優も含め、

コメントに「個人名」で登場する回数は最多!

艶のある美貌と高い演技力を持ち、

「悪女」を演じたら比類する者がないと言われた名女優です。

 

そういえば、松本先生の読み切りデビュー作「彼女は笑う」などからも、

悪女的なモチーフへのこだわりが感じられます。

ひとえに若尾文子からの影響なのかもしれません。

 

 

 

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「第六十二話 あの男」 度を越した悪女

 

 

 

というわけで、3つのポイントから簡単に

松本先生が愛する映画と『彼岸島』のつながりを見てみました。

 

目次に登場する350作品もの映画を

全て取り上げることはできないのですが、

「造形」「テーマ」「キャラクター」といった部分で

影響関係が垣間見れたのではないでしょうか。

 

みなさんもぜひ『彼岸島』とのつながりを感じつつ、

これらの映画作品を楽しんでみてください。

 

 

というわけで、4週にわたり『彼岸島』目次コメントを調査し、

ご紹介してきました。

 

総括いたしますと、

「松本先生は奥様とお子さんたちに囲まれ

日々四季を感じたり趣味の映画を楽しんだりして幸せに暮らしながら

プロの漫画家としてひたむきに仕事と向き合ってらっしゃる」

 

という、この上なく素晴らしい検証結果が出ました。

 

 

松本先生、これからも『彼岸島』シリーズを楽しみにしています!

 

 

 

 

 

 

 

【検証結果6 しかし どうも 気になることが…】

 

 

――深夜2時。
1か月にも及ぶ、目次コメントや単行本とのにらめっこが終わった。
検証から解放された私は深い溜息をつき、

見るともなくただリストに視線を落としていた。

 

すると抗いがたく、或る違和感が思考の片隅に黒い雲を作りはじめ、

次第に私の全身をすっぽりと覆ってしまった。

 

おかしい。偏っている。

 

私は大慌てでリストを初めから洗い直した。

すると、こんなデータが現れたのだ。

 

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過半数を占める映画コメント。

その分布が偏っている…。

日を追うごとにますます増えていたのだ…!

 

2003年にはごく2つに過ぎなかった「映画の感想」は

どんどん肥大化していき、2017年にはとうとう

目次コメントを100%覆い尽くしてしまった…。

 

 

 

最後に私生活の話題が登場したのは2014年初頭。

 

 20148 

子どもとプールで泳ぎました。たまには日の下もいいものです

 

 201422/23 

息子と2人、としまえんに行って来ました。いやぁ楽しかった

 

 

その日を最後に、すべての私的な話題がぷっつりと途絶えた。

 

…そして3年半もの月日が経った。いたずらに。映画の感想だけで。

 

一体どうしたんだ、松本先生。

友達が結婚したとか、そういう幸せな話は?

お子さんと一緒に出かけたエピソードは?

新年のあいさつを欠かすなんて先生らしくない!

身体に不調があったら目次に書いてくれ! 逆に心配だ!

 

 

…あれから、

 

先生の身に何が起きていると言うんだ!?

 

 

家庭を忘れ、四季を忘れ、健康上の一切の問題も忘れ、

ただただ面白い映画をインプットし、

ただただ面白いマンガをアウトプットする…。

 

それはまるで、

憑りつかれたような……

 

 

 

 

……!!

 

 

まさか、

松本先生は、

創作の鬼、

 

いわゆる

創鬼〈オニ〉になってしまったのでは…!?

 

 

創鬼〈オニ〉と化した先生は、すべての記憶をなくし

ひたすら面白い創作のことだけを考えつづけ、

しかも人間とは比べものにならない生命力を得てしまったのだ…。

 

そうか、すべて辻褄が合うぞ。

だからあれ以来、健康上のトラブルは全然起きないし、

最後の最後までお子さんの話題だけは登場しつづけていたのも、

人間としての先生の心が必死に葛藤していたからなんだ…!

 

 

これこそ…

松本先生が『彼岸島』を描き続ける

「原動力」の正体…!!

 

 

 

 

……

 

 

もうひとつの『彼岸島』、

そこには

創鬼〈オニ〉と化した先生がたったひとり棲んでいた。

 

 

真実を知ってしまった私は、

ただ祈ることしかできなかった。

 

 

「単に、コメントを毎週考えるのが面倒臭くなっただけであってくれ」

と。

 

 

おわり

 

 

 

 

 

 

【オマケ】

当コラムで検証に使った「松本光司先生 ヤンマガ目次コメント」のPDFデータがこちらからダウンロードできます。ぜひご活用ください。

 

 

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