奇才・山岸汰誠登場!『ペーパーホラーショー』作者解剖 座談会レポート

平成最後の奇作、発売。 “描いたものが具現化する”漫画家と、その能力によって引き起こされるトラブルを描くファンタジック・サイコ・サスペンス『ペーパーホラーショー』。コミックス第1巻発売を記念して、新鋭作家・山岸汰誠先生を担当編集が囲む座談会を開催! 百戦錬磨の編集者が“どうかしている”と称賛する作者、その人物に迫る!

奇才・山岸汰誠登場!『ペーパーホラーショー』作者解剖 座談会レポート

平成最後の奇作、発売。

“描いたものが具現化する”漫画家と、その能力によって引き起こされるトラブルを描くファンタジック・サイコ・サスペンス『ペーパーホラーショー』。コミックス第1巻発売を記念して、新鋭作家・山岸汰誠先生を担当編集が囲む座談会を開催! 百戦錬磨の編集者が“どうかしている”と称賛する作者、その人物に迫る!

“天才かくずか”――インタビュー中に垣間見えるその片鱗は、果たしてどちらか?

…山岸汰誠。漫画家。
「コミックDAYS」で『ペーパーホラーショー』を連載中。
…スズキ。「ヤングマガジン」「コミックDAYS」編集者。漫画投稿サイト「DAYS NEO」の運営なども手掛ける。
https://daysneo.com/editor/ayaichi/
…市橋。「ヤングマガジン」「コミックDAYS」編集者。
https://daysneo.com/editor/nichi/

――本日はよろしくお願いします。山岸先生のご担当は、スズキさんと市橋さんおふたりでされているんですね。最初に担当に就かれたのはスズキさん?

スズキ:はい。山岸くんが「Blood Bios(ブラッドビオス)」という作品をヤンマガの新人賞に投稿してくれて、その時に「担当につきたい」と自分から希望しました。僕は新人賞のチーフなので、役得にならないようにそれまではなるべく差配役に徹していたのですが…山岸くんのことは数年ぶりに「どうしても、自分で担当したい」と思って。

――それは、作品のどんなところに惹かれて?

スズキ:“描きたさ”に満ち溢れているところです。そのリビドーをサポート&制御する役割として、編集者が必要なタイプだと感じたので。何より…最初に原稿を読んだ時に、僕がマガジンに配属された年の月例賞の選考会議で「進撃の巨人」を読んだ時の感覚を思い出したんです。

↑別冊少年マガジンで連載中の『進撃の巨人』はアニメ・実写映画化を果たす大ブームに。

 

スズキ:「何これ、描きかけじゃん」と最初は思いましたが、読んでみたらめちゃくちゃ面白かった。ただ、当時の評価は「すごく良い」と言う人とそれ以外とで割れていたんです。その時と同じような“未完成感”を、山岸くんの作品にも感じて。だから「ああ、これは見届けたい」と。…天才かくずの、どっちかだろうと
山岸:こわいなあ(笑)。

↑2016年10月期の「ヤンマガ」月間新人漫画賞で入選+TOP賞を獲得した、山岸先生の『Blood Bios』。「欠点を挙げればキリがないが、それは全て伸びしろ」とスズキさんのメッセージが寄せられている。

――当時のスズキさんのコメントには「欠点が伸びしろ」とありますが、具体的に言うと?

スズキ:絵が下手とか(笑)。 …でもそれも、“これから上手くなる”下手。欠点がそのまま欠点な人もいるんですが、山岸くんは欠点だらけイコール、伸びしろしかない人だった。そういう人を担当するのが楽しいし好きなんですよ、成長を見守るのが。
山岸:スズキさん、最初の電話で、「担当を勝ち取ったよ」って言ってました。
スズキ:部内で他にも担当を希望している者がいたんですが、…話し合いで勝ち取りました。(にやり)

――(拳で話し合ったのかな…?)先生はその時、どうお感じになりましたか。

山岸:それまで、いろいろ描いて他の雑誌にも投稿していたんですけど、返事が来ないのが普通で。だから、「すげー…すごいなあ」って思いました。初めて担当がついて、嬉しかった。後になって、スズキさんと直接会った時は、“一緒に頑張ろう”っていう、熱量がある人なんやなーって思いました。
スズキ:いいこと言うね。(にやり)
山岸:あと、「僕はベテランだよ」みたいなことを言ってました。
一同:(笑)
山岸:だから安心しました。「ああ、頼れるねんなー」って。
スズキ:言ってないよ! ほんとにそんな言い方したっけ?(笑)

――タッグを組んだあと、次の作品はすぐ出来たんでしょうか。

山岸:いや、けっこう、没になったと思います。
スズキ:僕は担当する作家さんには「ネームは、編集者が手伝えるのは10点分しかないから、90点以下だったら全部没です」と必ず最初に言うんです。特に山岸くんは当時まだ学生で10代だったので、とにかくたくさん描いてほしかった。まずは絵が上手くならないと、どうにもならないですから。受賞作よりも、上に行かなきゃいけないので

――先が見えない100本ノック、先生としては、辛くはなかったですか?

山岸:僕だけのフィルターじゃなく、別の人のを通してもらえるのは嬉しいなって思っていました。僕は…結果がほしかったから。
スズキ:結果重視だよね。それでその後、ちばてつや賞で『スーパーフレア』という作品が期待賞をとって、続いて『ランナウェイ』という作品でもう一度月間賞に出しました。

↑ちばてつや賞ヤング部門第76回で、期待賞を受賞した『スーパーフレア』。男2人が出会い、星を救うため困難に立ち向かうSFアクション。

 

山岸:『スーパーフレア』の時はスズキさん「めっちゃ良い」っていう反応ではなくて、「もっと頑張ろう」と思ってたんです。その時に「現実を舞台にした“ノンファンタジー”を描いてみたら?」って言われて。それで『ランナウェイ』を作って見せたら「これ面白い」って褒めてくれた。
スズキ:なんかめちゃくちゃ面白かったんですよ。内容覚えてないけど(笑)。それでまた、入選とトップ賞を獲った。賞金45万円、ね。
山岸:(にやり)

――(うれしそう…。)賞金は何に使われました?

山岸:バイト、辞めました。
一同:(笑)
山岸:カラオケで働いていたんですが、平日は全然お客さん来なくて、4時間くらい立ってぼおーっとしてるバイトで…暇やったんです。

↑“暇なカラオケでのバイト体験”は作中にも生かされて…?

 

スズキ:バイトを辞められたちょうどその年の夏、「コミックDAYS」の連載作品ネームコンペがあったんです。それで、「連載用ネーム描いてみる?」と。
山岸:『ランナウェイ』から、絵が現実になるっていうアイディアと“テキサス兄弟”というキャラクターだけ持ってきて、『ペーパーホラーショー』を作っていきました。

↑人気漫画家を目指す落合少年。描いたものが…現実に現れる!?

 

スズキ:そのまま連載が決まったんですが、その時彼はまだ京都の大学の3年生だったんです。だから「決まったけどどうする?」って聞いたら、「あ、じゃあ休学しまーす」…って。
市橋:決断が早い。
スズキ:「京都だと、打ち合わせとかどうする?」って言ったら「あ、上京しまーす」! …ほんとにそのくらいのスピードで決めてたよね?
山岸:はい。僕、「作家になりたいな」って思っていて、美大のイラスト科にいたんですが。卒業できても作家になれるって保証はないから、「卒業することに、あんま意味はないんかなー」って思い始めていて。だから、「やってみよう」って。
スズキ:上京決まって、部屋も一緒に探したもんね。家の下の階に何があるんだっけ?
山岸:塾。
スズキ:「塾生たちのパワーが上がってくる」って言ってたよね。
山岸:…そんなに来なかった。
一同:(笑)

――新しいお家に越してきて、連載が始まって。連載を始めるにあたり、苦労されたことはありますか?

山岸:あんまりネームで悩むってことはなかったかなと思います。ただ絵は下手やったから「どうしよっかなー」って思って。連載が始まるまで時間あったから、練習しました。大学で出来た数少ない友達のひとりに「毎日動物園行って動物描けよ」って言われたから、毎朝、動物園の動物を描いたり。
スズキ:毎日⁉ 何を描いてたの?
山岸:キリンとかカバ…。あんまり動かないから描きやすくて。でも本当は、動いているのを描けるといいらしいですよ。見て一瞬で覚えて、自分の頭の中で描く。そこまで出来たら、すごい…いいと思います。
スズキ:既存の漫画作品の模写も練習したよね。ネームと一緒に、袋に入れて送ってもらって。人間向上委員会が手紙を送ってくるのと同じやつです(笑)。

↑先生曰く「漫画家っぽいやつ」。

 

山岸:動物園ではデッサン、模写では漫画の描き方みたいなのを練習するから、違う勉強になりました。
スズキ:人の原稿を完璧に模写しようとすると、パッと見では気付かない技術まで真似することになりますよね。「こう描くにはどうしたらいいんだろう?」「あ、トーン2枚重ねてたんだ」と、プロの技術をなぞれる。動物園でのデッサンは自分自身の技術を磨くことなので、また別物なんです。…たまに誤解している人もいますが、模写は絶対おすすめです

――上達のために努力できたのはなぜでしょう。

山岸:友達に「絵が下手」って言われなければ気付かなかった、ひとりじゃ。言ってくれたから「頑張ろう」と思えたかなあ。

――他に、物語についてなど、スズキさんから何かアドバイスはされましたか?

スズキ:いや、絵以外ではあんまり口出しません。漫画家さんのタイプにもよるんですけど、山岸くんの場合は、先回りして展開について意見を言うことは絶対しません。彼は素直なんで、意見を言えば言うほど丸くなっちゃうから。…だって、僕からは“テキサス兄弟”なんて出てこないもん
一同:(笑)

↑作中で登場する「テキサス兄弟」は、先生の思う“テキサスらしさ(?)”が詰め込まれたぶっ飛びキャラクター。

 

スズキ:「コックデス」とかも。普通「デスコック」じゃない?(笑)そういう、理屈じゃ説明できないところが彼の魅力だと思ってるんで。そもそも連載1話目から、いきなり「琵琶湖の魚が死んでる」ときて、その理由が「くさい」。読んでいて、「は、どういうこと?」って思いましたよ。「…めっちゃ面白い。何コイツ?」って。

――「何コイツ?」が、スズキさんが作家さんに惹かれるポイントなんですか?

スズキ:好きです。あとは“尖り”を調整していくだけなんで。言うとしてもネームが出来てから「ここちょっとわかんなかったよ」とか「何が伝えたかったの?」とか、「ここの視点から描いたほうが状況が伝わるよ」とかくらい。それも彼の場合、映像から作っていて、動きの流れが頭に全部入っているので、相談しやすい。これは強みですよ。

↑頭に浮かんだ映像を絵に起こしているため、コマをまたいで位置が変わってしまったりといった“矛盾”が起きづらく、また相談によって視点の変更もスムーズ。

 

スズキ:伝わりづらい部分を、読者目線で聞いていくのが仕事ですね。彼は、自分では変わっている自覚がないんです。2回目に会った時、何故かスケボー持ってきたりするくせに(笑)。
山岸:福井(※先生の地元)で流行ってたんですよ。
スズキ:普通持ってこないもん。そのうえ「割りばしが飛べるようになったんですよ」って。
山岸:飛べるのすごいんですよ。

――割りばしって…

↑高さ3mm。

 

山岸:ちょっとでも浮くのがすごいんですよ!

――今もハマってらっしゃるんですか?

山岸:今はもう、やってないです。
一同:(笑)
山岸:最近は、筋トレ始めて。毎日腕立てしてます。腹筋も。20回
スズキ:背筋もでしょ?
山岸:背筋は…もうやめました。ちょっと滑稽なんで。
一同:(笑)
山岸:あ、あと、昨日はさぼりました。
スズキ:(笑)先週始めて、既に背筋はやめつつ、計5日間くらいやった段階であると。
山岸:でもなんか、変わってきた感じありますね
一同:(笑)
山岸:ここ(華奢な肩のあたりを指さして)、『ドロヘドロ』みたいだよなー、と思って。筋肉好きなんですよ僕。なんでそれに近づいてきたなって。
スズキ:…こんな感じで本当に彼は、自覚がなく変わっているんですよ。先日も、山岸くんがいきなり坊主にしてきたので「どうしたの、反省したの?」って聞いたら、「なんか、辛くて」って。その時期って、作品の中でも、落合が辛そうにしていた辺りだったよね。
山岸:作品に自分の気持ちも出てまうというか、おんなじ気持ちになってしまう時があるから。あの時は原稿も遅れていて辛くて。進化せんとあかんなーと思って、髪をバリカンで。
スズキ:自分で剃ったんだ。もう、狂気のクリエイターじゃん(笑)。
山岸:でもその週、結局間に合わなかったですね、坊主にしたけど。
スズキ:でも、休載にはならず、連載前のストックを貯めたままずっと来れてるよ。休んでいいよって言っても、休まない

――すごい…。もう「コミックDAYS」での連載も20話を越えましたが、これから物語はどうなっていくんでしょうか。

山岸:終わり方、は、考えています。それに向かっていろいろ入れていけたらいいなって。
スズキ:僕たちもこれからのこと、1回山岸くんに聞いたよね。聞いたけどちょっと…
スズキ&市橋:よくわかんなかった

――よくわかんなかった!?(笑)

スズキ:この物語世界の根底にあるものと、収束していくところ――「こうなっていく」という展望が彼の中にはあって。その理由を含めて説明していただいたんですけど、ちょっと我々には理解がしきれなかった。から…「じゃあそれでいきましょう」って。

――理解、しきれなかったのに!?(笑)

スズキ:なんか多分、すごいんだろうなって(笑)。そもそも、「落合、主人公じゃないんです」って言われた時も衝撃だったから。
山岸:3部作みたいに考えていて。今までのところは、第1部です。

↑第19話に突然記された「第一部終わり」の文字。驚いた読者も多いのでは。

――今後の展開や、各話の内容についてなど、作品づくりで衝突することは?

山岸:ないですね。
スズキ:「やりたい」と「止めたい」が衝突することはないです。こっちが思った以上であればいいので。ただ、彼にはハードルを高めに設定しているから、1回だけそれを下回っていた時に「あれ?」って言って、全直ししてもらったことはあります。

――全直し…! 先生としては「面白くなかったなら、面白くしなきゃ…!」と?

山岸:ふへへ
市橋:なんで笑うの?(笑)
山岸:いや、そんなにやる気がある感じではないんです、僕。なんか、……………………
スズキ:…え、喋り終わった!?(笑)
山岸:いえ、考えてたんです。
スズキ:そっか。…自分ではやる気ないと思うの?
山岸:そんなに純粋なやる気ではないような気がして…。なんていうか…「認めてほしいから」、「いい表現をしたいから」、とかじゃない。「楽しいから描いている」とか、「俺が革命を起こすぞ!」とかでもなくて。「足りないから、描いてる」みたいな感じはしてて。
スズキ:何が足りないの?
山岸:なんか…“ひとり”として数えられるように頑張ってる感じはしてるんですね。

――ひとり…“一人前”として?

山岸:今のままじゃ、“ひとり”じゃない。多分僕は、ひとりって数えられないぐらいの人間だから…。
スズキ:……かっこいい…。
市橋:かっこいい…。

――かっこいい…。

山岸:…いや…やめましょう! かっこよくはないから!
一同:(笑)

――ありがとうございました! 山岸先生の感性が、さらに深く感じられた気がします。……ところで実は、そんな先生の感性を頼って、お悩み相談をしたいという方がいらしているのですが。

山岸:え……………え?

ということでインタビュー後半パート、山岸先生の出張お悩み相談の様子は明日配信!

家族や恋愛、体型についての深刻な悩み、果ては消費生活における葛藤まで――悩める子羊たちを山岸先生はどう導くのか? 乞うご期待! (※お時間とお心に余裕がある方は、ぜひ……)

山岸汰誠先生の描く『ペーパーホラーショー』はコミックDAYSで連載中!
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