移籍連載開始記念!『片喰と黄金』誕生秘話を語る。北野詠一先生インタビュー

2021年10月19日より、ウルトラジャンプ(集英社)から移籍し、コミックDAYSにて連載を開始した『片喰と黄金』。その移籍を記念し、本作をさらに楽しむための企画を実施中です!今回はその2回目として、作者の北野詠一先生へのインタビュー記事を掲載!移籍連載のお話に加えて、『片喰と黄金』の誕生秘話、作品のこだわりポイントなどをお聞きしましたので、ぜひご覧ください!

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2021年10月19日より、ウルトラジャンプ(集英社)から移籍し、コミックDAYSにて連載を開始した『片喰と黄金』。その移籍を記念し、本作をさらに楽しむための企画を実施中です! 

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今回はその2回目として、作者の北野詠一先生へのインタビュー記事を掲載!移籍連載のお話に加えて、『片喰と黄金』の誕生秘話、作品のこだわりポイントなどをお聞きしましたので、ぜひご覧ください! 

最初は「少年漫画」のネームだった!?

――「ウルトラジャンプ」で連載されていた本作は、28話よりコミックDAYSへと移籍します。

移籍が決定するまでにどのような経緯があったのでしょうか?

北野 ウルトラジャンプの連載は27話で打ち切りになる予定でした。ですので物語をたたむつもりだったのですが、今の編集さんに相談したところ移籍の話が持ち上がり、集英社さんにも承諾していただいて、コミックDAYSで連載することになったんです。それで急遽内容を変え、28話以降も続ける方向で描き始めました。

―貧乏主従コンビのアメリアとコナーが黄金を目指して旅をする本作ですが、この二人がカリフォルニア・ゴールドラッシュに参加するというアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?

北野 最初からゴールドラッシュの話を描くと決めていたわけではないんです。これまで描いてきた音楽(※1)や空手(※2)の漫画では、主人公とサブキャラをライバル関係にすることが多かったから、今回は視点を変えて主従関係にしてみようと。それなら歴史物かなという考えに至り、前々から興味があった「旅漫画」を描いてみたかったこともあって、ゴールドラッシュについて調べ始めました。するとこれがかなり面白い題材で、「主従コンビ×ゴールドラッシュ」でいこうと決まった感じです。

(※1)『30センチスター』

(※2)『てのひらの熱を』

――主人公がアイルランド移民であることもユニークな設定です。

北野 土地を離れて旅をするにはそれだけの理由があるだろうと、土地を耕している人たちが飢饉などで移動せざるを得なくなるという筋を考えました。ゴールドラッシュの少し前にアイルランドで「ジャガイモ飢饉」が起こったことを知り、調べるほどにこれはぜひ描きたいなと思えてきて、アイルランドからスタートすることにしたんです。

――そんな経緯で作品のバックボーンが固まったのですね。

北野 最初にネームを出したときは、少年誌の企画だったんです。でも、カッコよく主人公が活躍するタイプの漫画ではなく、どうしても話が地味になってしまうので、なかなかネームが通らなくて……(笑)。少年誌に寄せようとして無理やりネームをいじったこともありましたが、それも良くないなと思い、青年誌でチャレンジすることになって。連載が決まるまで紆余曲折がありましたね。

――本作を描くにあたって影響を受けた作品があれば教えてください。

北野 初めて読んだ少年漫画が、うすた京介先生の『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』なんです。その頃からコメディやギャグ漫画が好きですし、この作品でも笑える部分を大切にしています。作品の世界観に一番影響を与えているのは、子どもの頃に読んだ『大草原の小さな家』ですね。アメリカの草原をポツンと旅するような雰囲気への憧れがずっとありました。だからゴールドラッシュの話を描こうとなったときに、自分の中でしっくりきたんじゃないかな。

――ちなみに漫画家の道に進んだきっかけは何だったのでしょうか?

北野 小さい頃から絵が好きだったので、なんとなく漠然と漫画家になりたいなと思っていて、そのまま大きくなったら、こんな感じになりました(笑)。

お互いの魅力を引き出し合う二人一組のキャラクター作り

――キャラクターについてお伺いします。アメリアとコナーはどのようにして生まれたのでしょうか?

北野 アメリアはエネルギーの塊みたいな人にしようと思って描き始めました。キャラとしても黄金を目指して旅をするくらいのエネルギーが必要でしたし、私自身の好みも反映されています。キャラの対比を作るためにコナーはおっとりした性格にして、ぴったりくる二人の組み合わせを考えていきました。

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▲いつでもエネルギッシュなアメリアと穏やかなコナー。喜び方でも性格の違いが一目瞭然

――本作ではジョンマン(ジョン万次郎)やテッド(セオドア・ジュダ)など、実在の人物も登場していますが、そこで意識していることはありますか?

北野 ちゃんと資料に当たって、彼らの生きざまと矛盾した言動をとらないように心掛けています。歴史に名を残している人はいわゆる“キャラが立っている”ので、キャラメイクはしやすかったですね。

――テッドが、その功績のイメージに反して小柄で眼鏡かけたキャラなのは驚きました。

北野 テッドに関しては、仕事のほかは何もできない人をイメージして体力も筋力もないキャラになりました。それなら背が低い方が説得力を持たせられるかなと思って。そんなテッドを補うように、アンナはパワフルなキャラクターで、自然と体の大きな娘になっていました。

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▲おしどり夫婦なセオドア夫妻。テッドのデザインは先生の趣味全開だそう

――ダラやイザヤなど、オリジナルキャラはどうでしょうか?

北野 ダラは残念ながらストーリーの中で死んでしまうことが決まっていたので、最初はぶっきらぼうで嫌な感じの子にして、だんだんと仲良くなるタイプのキャラにしていました。ただ、彼に対する愛着がどんどん湧いてきてしまって、何とかしてダラが死なないエンドはないだろうかと本気で模索したのですが……(笑)。

――イザヤのビジュアルはひときわ目を引きます。こういう美青年を描きたいというのはあったのでしょうか?

北野 イザヤはビジュアル先行で作ってみたキャラクターですね。私はいろいろな作品から触発されて、「自分もこういうキャラを作ってみたい」というところから着想を得ることも多くて、イザヤはまさにそのタイプでした。見た目がとても美しくて捉えどころのない人間を私なりに描いてみようと。

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▲アメリアが「妖精」かと思うほどの容姿。しかし、その実態はなかなかの変人

――旅が進むにつれてアメリアとコナーの関係性も変わってきています。二人の関係を描く上でのテーマはありますか?

北野 あります。でも、ネタバレになりそうなので、詳しいことは言わないようにします(笑)。アメリアとコナーはお互いのことをもっとも大切に想っている。そこは最初からずっと変わらない点です。

――互いを大切に想う二人一組のキャラが、本作の魅力を紡ぎ出しているように思います。

北野 だいたい二人一組でキャラクターを考えるようにしているんです。ニューヨークの最強ギャング・ブッチャーの右腕になるイライジャも最初は登場しませんでした。だけどブッチャーだけを動かそうとするとうまくいかないことが多くて、彼の性格のある部分を分離させてイライジャを置いてみると、話がまわりだしました。二人一組のペアは互いの魅力を引き出してくれるから、それぞれのペアの結びつきは自然に強くなっていきますね。

調べだしたら止まらない!19世紀のカーテンの紐はどうなってる?

――本作は19世紀のアメリカを舞台にしていますが、歴史に関する取材はどのようにされているのでしょうか?

北野 連載開始前にアイルランドとアメリカに行ってきました。もう一度、取材旅行に行く予定だったのが、新型コロナウイルスの流行で難しくなってしまったのは残念でした。あとは当時のことが書かれた関連書籍をできるかぎり読んでいます。日本語の資料がそんなに多くない時代なので、そこは苦労しますが、洋書をがんばって翻訳しながら、時代背景を理解するように努めています。

▲実際のコニーアイランドの砂浜。ジョンマンは、この砂浜にカリフォルニアまでの地図を描いたのだろうか

――コミックスの巻末に掲載されている詳細な解説はとても勉強になります。

北野 監修についていただいている高野一良先生の存在が大きいです。登場する歴史ネタに関する資料について教えていただいたり、私なりに調べて書いたものをチェックしていただいたり。高野先生のお力添えがあってのものです。

――当時の町並みを再現するにあたって苦労したことや、気をつけていることはありますか?

北野 グレートフォールズとかコニーアイランドの豊かな自然はあまり変わっていないのでそれほど苦労はないですね。19世紀アメリカに関する映画や、絵画に描かれている背景を参考にしながら描いています。ただ、欲しいところのカットが都合よくあるわけではないので……。例えば、カーテン。この当時はどうやってカーテンをまとめていたのかわからなくて、探しても全然見つからない。アシスタントさんと映画を観ながら、どこかにカーテンが出ていないか探しまくります。調べるのは楽しいのですが、締切はやってきますから、ほどほどのところで諦めて、わからないときは吹き出しで隠してごまかします(笑)。

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▲北野先生が撮影したグレートフォールズの写真と、それをもとに描かれた風景

――当時の状況を細部まで再現されているんですね。

北野 できるだけやりたいなと思っています。一番困ったのは16話の蒸気船に乗るシーンです。本当はもっと客室とかを描きたかったんですけど、蒸気船の資料を探しても全然見つからなくて。それでアメリアたちはずっと外の甲板で喋ることになってしまいました(笑)。

シリアスな場面で大切にしているのは“ギャグ”…!?

――貧困や奴隷制、差別など重いテーマを取り扱うことも多い本作ですが、そのなかでもギャグシーンが随所に散りばめられています。シリアスとギャグのバランスに関して、こだわりやルールなどはありますか?

北野 私はもともとギャグやコメディが好きだから、読むなら楽しいほうがいいかなと思って、意識的にギャグシーンを入れるようにしています。それに言いたいこともやりたいことも我慢しないのがアメリアなので、どんなに苦しい状況でも面白いことを考えてしまうはずで、そこにギャグは生まれてくるし、人間らしさもにじみ出てくるんじゃないかなと思っています。

▲イザヤをもてなすためのアメリアの渾身のギャグ。しかし、イザヤには不評だったようだ

――今後、彼女たちが立ち寄る予定の場所や先生が描きたい場所などがありましたら教えてください。

北野 今いるセントルイスを出発したら、今後はいよいよ大草原です。ここで描きたいことはたくさんありますが、やはり一番はバッファローですね。バッファローが好きなので、とても楽しみにしています!あとは、アウトドアの旅ということで、キャンプ飯も描いていきたいです。

――今後の見どころや注目して読んでほしいところを教えてください。

北野 実はコナーのことをまだあんまり描いてないんですよね。今後はコナーのパートをしっかり描く予定ですので、彼の頑張りに注目してほしいです。

――最後に読者の方へメッセージをお願いします。

北野 差別や人種、貧困の話を扱っているので、小難しい話なんじゃないかと思ってしまうかもしれませんが、全然そんなことはありません。気楽に読んでいただいて大丈夫です。読んだあとの感想が「猫が丸いな」でもいいので(笑)。とにかく楽しんでもらえたら嬉しいです。

▲「丸い猫」ことトサの可愛さにも要注目! 

――北野先生、ありがとうございました!

 

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特集記事の第1回「『片喰と黄金』移籍連載開始記念!だいたい5分で追いつく! アメリア&コナーの旅路! 」とあわせて、ぜひチェックしてください! 

 

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