『母の元カノと暮らした。』初単行本化記念企画! 芥川賞作家・李琴峰さん ✕宮城みち 〈10年ぶりの再会〉特別対談

母を亡くした中学生男子を、“母の元カノ”3人が育てる。一風変わった共同生活が話題の『母の元カノと暮らした。』。最新1巻の発売を記念して、『彼岸花が咲く島』で第165回芥川龍之介賞を受賞された李 琴峰さんと宮城みち氏の対談が実現しました。 実はこのお二人…「はじめまして」じゃないんです。

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母を亡くした中学生男子を、“母の元カノ”3人が育てる。一風変わった共同生活が話題の『母の元カノと暮らした。』。最新1巻の発売を記念して、『彼岸花が咲く島』で第165回芥川龍之介賞を受賞された李 琴峰さん宮城みちの対談が実現しました。

実はこのお二人…「はじめまして」じゃないんです。

 

『母の元カノと暮らした。』1巻発売(12/23)を記念して 3話無料!! (~1/4)

 

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李 琴峰(り・ことみ)

日中二言語作家、日中翻訳者。
1989年台湾生まれ。2013年来日。2017年、初めて日本語で書いた小説『独り舞』が第60回群像新人文学賞優秀作に選ばれ、デビュー。2021年、小説『ポラリスが降り注ぐ夜』で第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞を、『彼岸花が咲く島』で第165回芥川龍之介賞を受賞。

 


世の中は「強いセクシャルマイノリティ」ばかりじゃない。


李琴峰(以下、李):『母の元カノと暮らした。』読ませてもらいました。状況設定が面白いですね。自由奔放な晴海に翻弄された元カノたちが、その晴海の息子を引き取って育てる…。ほのぼのとした日常シーンに触れて、温かい気持ちになりました。

宮城みち(以下、宮:李さんにそう言ってもらえて、とても嬉しいです。私も李さんの小説は以前から読ませてもらっていて。『ポラリスが降り注ぐ夜』には、セクシャルマイノリティは「テレビに出ている活動家のように強くならないといけない」と思いこんでいる女性が登場するんですけど、「強さ」を引き受けられる人ばかりじゃないよねって、この作品に教えてもらえた気がします。李さんの小説には、勇気をもらいました。こうして再会できて光栄です。

:ありがとうございます。宮城さんが漫画家になられていると知らなかったので、対談のご依頼を頂いた時は驚きました。

:本当にお久しぶりです!

:学生時代以来ですね。お元気そうでよかったです。

:東 小雪さんが主催されたセクシャルマイノリティの交流イベントでお会いしたのが最初ですよね。後日、共通の友人宅で鍋パをして…。

:それ以来、連絡が途絶えてしまいました(笑)。

:申し訳ないです…(笑)。当時は東京の大学に通っていたのですが、その後は地元の沖縄に帰ってしまいました。李さんは当時、留学生だったんですよね。

:2011年に早稲田大学で1年間留学をして、宮城さんとお会いしたのはその時ですね。その後2013年に再び来日して、大学院で勉強を始めて。それ以降はずっと日本で暮らしています。

:その後のご活躍はずっと追いかけていました。母語ではない日本語で小説を書かれて、数々の賞を受賞されて…初対面の時に感じた「この人、頭いいなあ」と感じた印象は間違ってなかったんだ…と。ちなみに李さんは、漫画は読まれますか?

:最近は執筆や講演であまり読めていませんが、学生の頃はそれなりに。中高生の頃は『デスノート』や『名探偵コナン』『犬夜叉』、大学生の頃は日本語の勉強を始めていたので『ちはやふる』『進撃の巨人』を日本語版で読んでいましたよ。そう言えば、城平京さん原作の漫画が結構好きで、今年『スパイラル~推理の絆~』を再読しました。

:読んでる漫画が同世代…!

 

「死ぬ」という言葉を取り出すために、小説家の道へ。

:私はこうの史代さんの『この世界の片隅に』を読んで、時代の大きな流れの中でも逞しく生きる人間の営みがあるんだ…って素直に感動を覚えて、漫画家という職業に興味を持ち始めました。李さんは小説家を目指すきっかけとなった本ってありますか?

:そもそも本を読むことが好きだったんです。子供の頃から世界文学全集などに触れていたので、小説は身近な存在でした。中学生の時には小説やエッセイを書き始めて…。

:まさか日本語で、ですか?

:当時は中国語ですよ。作家にはなりたかったんですけど、そう簡単になれるものではないことはわかっていたので、作家以外の道を確保しながら夢を追いかけていました。この本がきっかけで小説家を目指した…ってものは正直ないですが、高校の教科書で芥川龍之介の『蜘蛛の糸』を読んだのが、「日本の作家」を意識した最初の出来事だったと思います。

:台湾の教科書にも芥川龍之介が載っているんですね。なぜ李さんは日本語で小説を書こうと思われたんですか?

:その後来日して大学院で勉強をして。小説は書いてみたいけど、日本語は母語じゃないから難しいだろうな、と思っていたんです。日本の一般企業に就職したのですが、ある日の通勤電車で……「死ぬ」っていう言葉が、急に自分の中に降りてきたんです。

:お仕事が大変だったんでしょうか…?

:いえ、仕事のストレスでそこまで思い詰めるほどのことは。なぜか分からないけど、急に「死ぬ」が降ってきた。しかも、日本語で。この気持ちを何とか取り出さなければと感じて書き始めたのが、デビュー作の『独り舞』でした。
※「死ぬ。」というショッキングな書き出しから始まる小説『独り舞』は、レズビアンの台湾人女性が、セクシャルマイノリティであることがきっかけで災難に巻き込まれる物語。第60回群像新人文学賞優秀作に輝いた。

:「死」は子供の頃からずっと自分につきまとってきた想念というか…自分の存在に対して折り合いをつけられない部分があって、実際に「死のう」と思ったこともあります。私にとっては切実な問題として心のなかに存在していた思いがあの朝、私の中で顕在化したのだと解釈しています。

 

『彼岸花が咲く島』の執筆は、結末を決めないまま走り出した。

:芥川賞を受賞された『彼岸花が咲く島』では、日本語と中国語が入り混じった独特の言語システムなど、世界観の作り込みに驚かされました。設定は書いていく中で付け足していくものなんですか?

:文化・風習・歴史、そして言語の在り方などは、最初からすべて決めてから書き始めました。そのための現地取材や参考文献は、執筆を始める前に準備をしておきましたね。

:では最初から、あの結末も想定して…。

:それは決めていませんでした。物語のゴールについては、概ねの流れは決まっていたんですが、主人公たちがどんな選択をするか、島の未来はどうなるか、ということに関しては、書きながら次第に道筋が浮かんできました。

:そうなんですか…ネタバレになってしまうから、結末を語れないのがもどかしいです!

 

セクシャルマイノリティとして。
「分からなかったらしかたない」という線引き。

:作中でセクシャルマイノリティを扱うことに、難しさを感じる瞬間ってありませんか? どこまで読者に私の意図が伝わっているか…とか。

:分かりやすさを求めることや、読者に楽をさせることが小説の役割ではないと思っているので、全てを分かってもらうように説明するというのはやっていないです。もちろん、ある程度までは必要に応じて説明しますよ。例えば台湾特有の文化や歴史が出てきたり、『星月夜』だとウイグル人の文化が出てきたりするので、そういうところは必要に応じて注釈をつけたり、地の文で説明したりします。ただ、その「ある程度」を超えると、言い方が悪いかもしれないけど「分からなかったらしかたない」「分からない方が悪い」という線引きも必要だと思います。

:なるほど…私は色んな意見に悩んでしまうタイプなので、表現をすることが怖くなってしまうことがあります。

:100%分かってもらう必要はないと思います。例えば本を読んで100%理解できたか? って聞かれたら、結構怪しいですよね。一方で、セクシャルマイノリティといっても一枚岩ではなくて、人それぞれの感じ方や考え方があるので、むしろそういったところの配慮に難しさを感じます。そういえば、宮城さんの前作『バリキャリと新卒』(KADOKAWA刊、「えすえす」名義)も読みましたよ。誰かに寄り添いたい人間関係が上手く表現されていて、同性愛者のリアルを感じました。

:そう言ってもらえると自信になります…!

 

「リアル晴海」は作中よりも破天荒!

:李さんの物語の登場人物には、実在のモデルがいたりするんですか?

:『ポラリスが降り注ぐ夜』に登場する一部のお店については、新宿二丁目が醸成してきた空気感を大事にするために、明確なモデルを作りました。ただ、登場人物に関しては、これまで見聞きしてきた人の要素を少しずつもらって構成しているので、特定のモデルはあまりいないと思います。宮城さんの作品はどうですか?

:晴海には、明確なモデルがいます。今も仲の良い友人なんですが、勤めていた企業で支社の女性と寝まくって、でも優秀だから新支社の立ち上げを任されたり…。

:なかなか破天荒ですね(笑)。

:とにかくエネルギッシュで、人を惹きつける魅力がある方です。李さんにもぜひご紹介したいです(笑)。

 

李さん、忘れられない元カノはいますか?

:最後に…『母の元カノと暮らした。』に今後期待される展開はありますか?

:そうですね…「3人の元カノ」がかつて晴海とどんな素敵な恋をしていたのか。晴海はなぜ魅力的なのか。そういったお話に期待したいですね。あと、第3話で登場した、主人公のゆうくんに近い家庭環境で暮らす竹田さん。ゆうくんはもちろん、最近登場した赤嶺さんとの交流、これからの関係性の変化が楽しみになりました。

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▲ゆうくんに恋して、赤嶺に恋をされてる恋多き女子。がんばれ竹田さん!

:本当に長い時間ありがとうございました…久しぶりにお話ができて、楽しかったです。

:落ち着いたらご飯に行きましょう。東京に来るときは絶対連絡してくださいね。

:もちろんです! 最後にもうひとつ、良いですか?

:なんでしょう?

:「忘れられない元カノ」はいますか?

:(噴き出しながら)その話はご飯を食べながらゆっくりしましょう(笑)。

文責:編集部 本取材は2021年11月「GoogleMeet」を利用して、リモートで行いました。

 

『母の元カノと暮らした。』1巻発売(12/23)を記念して無料話増量中!

3話無料!!(~1/4)

 

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『彼岸花が咲く島』文藝春秋 刊 定価:1,925円(税込)

 

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『ポラリスが降り注ぐ夜』筑摩書房 刊 定価:1,760円(税込)

 

『母の元カノと暮らした。』単行本発売中!

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