2014年、ガンバ大阪がJ1昇格年に優勝。あの圧倒的な“ジャイアント・キリング”は、サッカーファンなら誰でも記憶している。今回は、「モーニング」連載中の人気作品『GIANT KILLING』の読者でもあり、現役サッカー選手、ガンバ大阪の遠藤保仁が登場。ジャイキリの名シーンを振り返りながら、プロとして戦い抜くためのメンタルについて語ってくれた。
撮影/山口宏之 取材・文/木下千寿
遠藤 保仁
1980年1月28日、鹿児島県生まれ。1998年、鹿児島実業高等学校卒業後、横浜フリューゲルスに入団。京都パープルサンガ(現:京都サンガF.C.)を経て、2001年、ガンバ大阪に加入。「日本代表国際Aマッチ出場数最多記録保持者」「東アジア最多出場記録」「2009年アジア年間最優秀選手」「2014年JリーグMVP」など、多くの記録を持つ。近著に『「マイペース」が引き出す可能性』(2018年/講談社刊)がある。
『「マイペース」が引き出す可能性』
大舞台でも緊張せず、何があってもブレることのない遠藤保仁のメンタルを徹底解説した一冊が好評発売中。スポーツ分野に限らず、受験を控える学生、プレゼンなど発表の場が多い社会人にとっても、“心の調整”は必要不可欠。「緊張」「不安」「焦り」などに負けることなく、常に自分らしくいるための簡単メソッドが収録されている。
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<作品の感想>
『GIANT KILLING』のような、監督目線のサッカーマンガってこれまでなかったので、その視点がおもしろいなぁと読んでいました。達海が監督になって、とんでもないことを言いだしたり、とんでもない練習をさせたり……。試合においても、斬新なアイデアがいろいろ出てきて、見ていて飽きないですよね。テキトーなことを言っているように思えて、実はきちんと調べ上げている。でも、それを外には見せない達海に僕は共感します。将来、監督という立場を担うことがあれば、達海スタイルが理想ですね(笑)。
1「キャプテンの重責」
▲キャプテンとしての責任を果たそうと、自分のすべてを懸けて長年ETUを支えてきたベテラン選手、村越。だがキャプテンを外されると聞き、新監督の達海に怒りをぶつける。(#06より)
「チームの責任を一人で背負ったり、一人に任せたりするチームは好きじゃない」
村越みたいに責任感の強いキャプテン、多いでしょうね。僕とはタイプがぜんぜん違いますけど。僕の場合、5年ほどガンバのキャプテンという立場にはいましたが、とくにキャプテンらしいことをしていたわけでもなく、重責を担っていると意識したことはなかったですね。キャプテンだからといってみんなにわざわざ何か言うこともなかったし、大きな声を出してチームを鼓舞したりもしなかった。そういうことは、東口(順昭)とかに任せていましたね(笑)。みんなには申し訳ないけれど、キャプテンマークは付けていても、僕自身はキャプテンに向いていないと思っていました。
キャプテンには、チームに安心感を与えたり、選手や監督から「最後はあいつに任せられる」と頼りにされたりするような選手がなる傾向はあります。チームをよく知っているという点から、長年在籍している選手が任されることもある。今、ガンバでは三浦(弦太)という選手がキャプテンをやっています。彼はまだ若い選手なので、言いづらいことも多いはず。なので、彼をサポートできるように目を配っています。
村越のように「チームのために」と考えられることはすごいことだと思いますが、僕はもともと「あいつがキャプテンだから」って責任を一人に任せちゃうようなチームは好きじゃない。チーム全員がそれぞれ「自分がキャプテンだ」っていう気持ちでいるべきだと思うので。チームって、誰か一人のものじゃない。チームのために一人一人がいるわけですから、試合の勝敗やチームの強さに、キャプテンや副キャプテンという立場はまったく関係ないんです。
2「理想の監督像」
▲キャンプ初日、練習を自習にしたり、グラウンドのボールを1個だけにするなど、達海の奇想天外な指示に戸惑う選手たち。しかし達海はその裏で、着々とチームの構想を練っていた。(#10より)
「もし将来、監督という選択肢があるのなら彼のような監督を目指したい」
達海の、テキトーそうに見えて実はとんでもなくサッカーをよく知っているというところには憧れます。一人一人のプレーをきちんと見ていたり、チームが勝つために徹夜で相手チームの分析をしたりと、選手に見えない部分でいろいろやっているというのは、それだけチームを強くしたいという、達海の想いの表れだと思うんです。努力や頑張りを悟らせない姿は、監督としてカッコいいなと思います。あと、ベンチにあんなふうに座っている監督って実際にはいませんよね(笑)。マンガならではの描き方ですが、あれも好きなポイントです。
僕が監督になったら? きっと、達海に近いんじゃないかと思います。相手の監督や選手から、「何考えてるんだ、アイツ」「次はどんな作戦でくるんだ!?」って思われるような存在になりたい。チームの選手に対しては、日ごろは大雑把に見ている感じだけれど、大事な場面でのひとことが的確で「うわ、いいところを突くな」って思われる。そんな存在が理想です。
3「自分の限界への挑戦」
▲東京ダービーに臨むETU。十分な戦術練習をしていないことに不安を隠せない選手たちに、この勝負は「自分の限界を超えるかにかかってる」とハッパをかける達海。(#12より)
「敵わないと思う相手が現れたら、『コイツを抜けたらカッコいいな』と想像して頑張る」
敵わないなと思う相手が現れたときは、「コイツを抜けたらカッコいいな」と思って頑張ります。誰かを抜きたい、上回りたいという気持ちは、自分よりすごいモノを持った相手に出会うと、自然とわいてきますね。上回るための方法が自分の欠点を直すことであれば直しますし、長所を磨けば彼より魅力的な選手になれるというのであれば、長所を伸ばすためのトレーニングをします。もちろん、頑張ってみても「敵わないな」って思うことはありますよ。「メッシみたいになれ」って言われても、なれませんから。
でも、メッシが持っていないものを自分が持っているとは思うので、その強みを伸ばしたうえで、監督がメッシを起用するのであれば、それは監督がメッシという選手を好きだったと受け止めるだけ。自分のプレーを好んで起用してくれる監督もいるだろう、と考えます。だから生まれ変わったらメッシやクリスチアーノ・ロナウドみたいな選手になりたいなと思ったりもしますが、その一方で、また自分でもいいと思っています。
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