『バトルスタディーズ』38巻発売記念、なきぼくろ対談【完全版】 東裕也✖️なきぼくろ お前が後ろにいたから安心できた 中学時代、世界大会で4番を打った東裕也さん。小窪哲也さんと並び、“超有名人”としてPLに入寮。一塁手・東さん、右翼手・なきぼくろ氏。“右のホットライン”を繋いだ球友と語らう!

愛され大王・東裕也さん。今宵、PLと元チームメイトへの愛を語ります!

愛され大王・東裕也さん。今宵、PLと元チームメイトへの愛を語ります!

タラコ唇が印象的な、東裕也さんがモデルになった「南裕也」。

東裕也(以下、東): まずはお前に一言だけ言っておくわ。自分で「俺が南や」とは、一切言ってないけど、取引先の方とか、大学の同期とか、「バトスタに出てくる南ってお前よな?」って言われるんよ。作中で南のこと「エロガッパ」って言うから、1年くらい俺のあだ名がエロガッパやったわ。それだけは謝ってくれよ。

なきぼくろ(以下、な): そんな話いらんねん(笑)。

 

 

野球エリートの中にもランク付けが?

 

東: え? 何? ぶっ込んでいいの?

な: 待って、俺が先に行くわ(笑)。俺らの代は、小窪哲也と竹内(亮)っていうピッチャーと、東の3人が超有名人としてPLに入ってきてん。俺は中学の時は、シニアリーグのチームに入ってて、この3人はボーイズリーグに入ってたから試合で戦うことはなかったけど、ずっと情報は入ってくるくらい有名人やった。テツ(小窪哲也)と東のキャッチボールを見て、みんなが度肝を抜かれたのは有名な話やで。てかシケモク吸うなよ(笑)。

東: もったいないやろ(笑)。逆に俺は、お前のこと全然知らんかってん。初めて見た時は「こいつ無理やな」って思ったんよ。PLでレギュラー獲るには力が足りんやろなって。でもええ奴やし、努力をしてる姿もたくさん見たし、キャッチャーから外野手に転身したりして。ノックでも「行ってこい」をひたすらやってたな。

な: あれはきつかったな(笑)。ちょっとでもボールを弾いたら「行ってこい」ってグラウンドを走らされるんよな。PLならではの練習で。

東: あれはお前には必要なことやったよ。足も遅いし頭も悪いし(笑)。

な: やかましいわ(笑)。

東: でも最後の夏は、こいつがライトで俺がファーストで。甲子園は仲間の声が全然聞こえへんのやけど、手を上げるだけで次どんなプレーをしたいかっていう意思疎通がとれるくらいの信頼関係だったよな。後ろにお前がいるってだけですごい安心できた。ただ肩は弱いし、足は遅かった(笑)。

な: 恥ずかしがんなよ、褒めて終わればいいのに(笑)。

東: うっさいわ。セーフティバントばっかりしてたくせに。そのくせ、「そこに転がしてアウトになるんやったらやめたほうがいい」っていうバントしてたよな。何が腹立つって、ちょっと悔しそうな顔して帰ってくるんよ。

な: しかも、1回2回の話じゃなかったな(笑)。

東: ただ守備だけはうまかった。

 

 

お猿のお山の大将は君だ!

 

な: 猿山みたいに誰がどういう立ち位置になるかっていうのは、入寮してから大体4日くらいで決まるんやけど、東はやかましいのにみんなのことを引っ張っていくから、東の山みたいのができてたんよ。松ちゃん(松本晃)とか俺は一人やったから、そこで意外とすぐに仲良くなったよな。

東: そうやな。

な: 東は一年生の時から、帰ったり脱走したりしててんな。仕事の時ってみんな切羽詰まってるから、何かが引き金になって東と衝突して、そしたらこいつ俺の耳元で「お前調子乗っとったら○すぞ」って言うてきて。

東: 俺そんなこと言った?

な: 言うたよ。俺もトゲトゲやったから、「ほんなら○してみいや」って言うたら、三年生の寮を歩いてチャカ堂の包丁持って俺のとこ来たやん。

東: 嘘つくなよ。

な: 嘘ついてへんわ!

東: 一年生で入りたての頃はみんな尖ってるからしゃーないやん。尖ってるというか、いっぱいいっぱいやってんな。洗濯物間に合わせなアカンとか。

な: 寮内では、1部屋に一年生が9人、それが2部屋あって。各部屋に先輩の指導員が2人ずつ付くから基本的に部屋もピリピリしてんのに、2段ベッドの下に指導員が寝て、その上が東やってん。ほんでこいつ普通に自分のこと慰めてて(笑)。ありえないでしょ。

東: よう覚えてんな(笑)。笑いながらやろ。

な: その2日後に普通に帰ってたやろ。

東: ちゃんと先輩に見つかったから。「お前どこいくねん」って言われて。

な: 河村(泰伸)さんも会いたがってたで。

東: 今度お店に挨拶行ってくる。

な: 河村さんが最後の大会の最終打席で、2安打打ってたのに東に代えられたんやて。覚えてる?

東: お前あん時ベンチおらんかったもんな。簡単に説明すると、二転三転してん。「準備せえ」って言われて、俺もスパイク履いて準備してたんやけど、結局河村さんで行くことになったから、俺はアップシューズにまた履き替えてん。ほんで一番最後に急に「東行こう」ってなって、そのままポイントのアップシューズで代打行ったから(笑)。

な: あれスパイクちゃうかったん?(笑)

東: アップシューズ。

な: やばいやん(笑)。ほんで見逃し三振ちゃうかった?

東: 振ってる、振ってる!

な: 嘘つけ、チンコ大きく見せようとすな(笑)。

東: 満塁で見逃し三振したんは甲子園だけや。

な: 河村さんの時は見逃しじゃないんや。そのことを河村さんとも話しててん。

東: 9回表二死満塁やったよな、代打で出て、ほんなら相手もピンポイントでアンダースローのピッチャー出してきてん。俺苦手にしてたやん。

な: せやから東が河村さんの代打で打席に立った時、俺らは「終わった…」って思ったもん。

東: ……、…いや。

な: なんも言わへんのかい(笑)。

東: あんな場面足震えるがな。ほんで先輩の夏を潰してもうて。

な: 東ってナイーブなところあるのに、イップスにならへんし。プレーには全く影響なかったよな。

東: なんか俺チャンスに弱いみたい。

な: みんな知ってるで(笑)。

 

 

右のホットライン開通!

 

な: 死ぬほど運動神経悪くて、バスケとか下手くそやったよな。

東: ちゃうねん、跳ぶ競技が無理やねん。バレーとか。

な: 野球は守備うまかったのにな。元々遊撃手やったし。

東: 右のラインやったら俺らが一番やったと思うよ。

な: あのラインは自信あったな。サードとレフトがやばかったよな。

東: サードは、一生ワンバン放ってくんねん。肩だけ強いからややこいし。でも球の回転だけは綺麗やから一回も落としたことないねん。

な: 谷中(昭仁)な(笑)。でも全部俺がバックアップ行っててんで。

東: それは知らん(笑)。

な: 東は試合中も練習中も散々いじってくんねん。何も権限ないのに俺に「一周行ってこい」って言うてきて。

東: 言われる前にやらなアカンやろ、一応副キャプテンやったし。

な: でもそんなこと言う東やけど、下が入ってきて俺が腰痛めてレギュラーが怪しくなった時、雨天で練習してる俺に東が近づいてきて、「後ろはやっぱお前じゃないと…なぁ?」って。寒いこと言って出て行ってたわ(笑)。東は愛のある男やったな。

東: 俺たちはホットラインやったな。真剣なのはもちろんやけど、その中でちょけたほうがええから。お前と松葉(大介)と、あとカズ(藤井主文)な。やっぱり厳しい空間で毎日練習して、試合の中ではちょっとでも楽しみたいなって思ってたから。

な: 大阪大会の決勝まではほとんど覚えてないけど、商大堺に勝って甲子園決めてんな。奇しくも河村さんの代の最後の試合も商大堺で、当時二年生で試合に出てた子が、俺らの代でキャプテンになってて。ラストバッターに、ヒット打たれたら同点っていう場面やったんよな。

東: セカンドの鈴木(雄太)がボール捕るやん、普通のセカンドゴロやで。ブルブル震えてたがな。

な: 一、二塁間に地を這うようなゴロが転がってきて、その時俺「絶対俺のところくんな」って思ってて(笑)。ほんまにスローモーションに見えててんけど、鈴木が見たことない手の伸び方して(笑)。

東: あの場面はファースト、セカンド、ライトの3人全員震えてんねん。

な: セカンドからファーストに放るだけやのに、東にめちゃめちゃ難しいボール放ったやろ。

東: ちょっとホーム寄りの難しいの放ってきたな。ほんで俺、興奮しすぎてウィニングボールなくしてるがな。

な: めっちゃ覚えてるわ、ボール捕った瞬間手あげてマウンド行ったよな。印象深い話ってそれとかやんな。

東: 思い出深い話でいったら、小窪がキャプテンで、抽選会に行くせいで練習に遅れるから監督に怒られることも確定やって。ノックの前にマウンド集まって「絶対に今日は怒られるなよ」ってよう言うてたな。

な: 懐かしいな。副キャプテンは谷中と東で、俺が寮生長やって、集まる時は基本その4人で話してな。

東: グラウンドの中では出川(=なきぼくろ)より俺のほうが偉いから、よう「行ってこい」言うて。寮帰ったら、こいつのほうが偉いから「あれはやりすぎやって」って言うてきよって。

な: 偉ないし、ええように言うな(笑)。寮に戻って下級生に大事なこと言わなアカンとき、最後しまった感じになるのに、東が全部崩すねん。「今日何周走ったん?」って。

東: ほんまにいつもちょけてたな。

な: そのおかげで下級生との溝みたいなのはなかってんな。

 

 

置き土産。

 

な: 連載が始まる時に、取材でPLの写真を撮りに行く時も、東についてきてもらって。

東: 当時副編集長だった方も一緒でな。

な: 水野さんな。だから卒業してからも一番連絡してたのが東やってん。あ! ほんでムカつくこと思い出した。明治大学を退学したのっていつやったっけ?

東: 三年生の時やな。

な: 俺が当時付き合ってた子と天王寺駅のエスカレーターを下っててん。ほんなら、反対側から東が上がってきて、「おお! 東やん!」ってなって。その後彼女と別れた後に、俺が一人暮らしをしてた家に来てくれたんよ。俺は専門学生やったから、課題の絵を描いてる後ろでこいつが、「お前はほんまにすごいな、やりたい道進んで。刺激になったからほな帰るわ」って出て行ったんよ。俺も気持ちよくて、帰っていった後にトイレ入ったら、こいつウンコ残していきよってん。

東: そこは残して行ったほうがおもろいやん。

な: 俺もそれを写メ撮って「今日はありがとう」って(笑)。東はそんな感じで誰とも仲良かったから、いろんなやつの情報を持っててんな。小窪が今何してるとか。

東: こいつの家にうんち行った時は、1Rに住んどったんやけど、食パンをフライパンで焼いて、ミートボール乗せて食っとったで。そんな奴がよう偉なったのう、浜ちゃんに「先生」なんて呼ばれて(笑)。

な: ほんまに全部観てるな(笑)。嬉しいけど。

 

 

苦しい練習を絶えぬき、いざ甲子園へ。

 

東: 世界中で一番厳しい練習をしてたと思うし、これだけやって負けたくないって気持ちで戦ってたな。ただ僕らは調子に乗ってた。春のセンバツで広島の広陵高校が優勝してたんやけど、甲子園では僕らの前で敗退して、そのときに「行ける!」って思ってしまったんやな。最後の打席で見逃し三振してるし。

な: ミスター満塁男やのにな。

東: その後3年くらいはずっと後悔してた。知ってるやつもテレビで活躍してるし。もう少しちゃんとやってればって思うよ。

な: 負けるべくして負けた感じもあったしな。夢から溶けるみたいな感じあったで。松ちゃんが4三振やったっけ?

東: 4三振と1四球かな。

な: 松ちゃんが4三振って考えられへんことになって、アルプスに土下座して謝ってて。だから正直その試合も楽しめてなくて、戦ってる感が強くて。やっと終わったっていう安堵感のほうが強かった。

東: 正直、誰と戦ってるかがわからなかった。チーム全体が必死すぎてな。

な: 甲子園終わった後みんな泣いてて、雨も降ってたから帰りのバスの中が辛気臭い雰囲気になってて。そしたらやっぱりこの男が突き抜けるんよな。屁こいてん。

東: せやな。

な: その音がもうダメで、実が出た音しててん。それをカズが、「実出てるやん」ってツッコんでドーンってなって。その後ようやくみんなが「引退やなー」って明るく終わってんな。

東: 「明日から夏休みやー」ってな。でも一番の思い出はあれやな。8月1日の帰りや。大阪大会決勝の後。

な: その日はPLの花火大会やってんな。人が溢れるから甲子園からの帰りの道路も規制されてて。でも俺らは学校に帰らなアカンから、PLのバスだけ通行の許可が下りててん。脇は人だらけで、みんなが「おめでとー!」って言うてくれてて、いつもは厳しいコーチがそのときだけ、「窓開けて挨拶せえ」って言うて、みんなで手振って挨拶して。寮帰ってから目の前のでっかい花火をみんなで見てな。

東: あれは最高やったな。ご正殿のところに並んで礼してなんかやっとったやろ。

な: 何十万人の人を前に小窪が挨拶して。その後、教祖様が出てきて、手を上げたら花火が上がるねんけど、最初に東がその真似しててんな(笑)。

東: そんなことやってないよ(笑)。

な: やってたって。花火は上がるはずないのに、小窪の挨拶が終わった後に東が手あげててん(笑)。

東: 俺がやらなって思うやろ(笑)。それにあれやん、後輩があいつと一緒に行ってたから怒った記憶あんねん。

な: そうやん(笑)。変な投げ方する付き人に、大好きな彼女を奪われてんな(笑)。

東: 奪われてはないねん。花火の日だけやねん。特別な日やから。

な: 久々にちゃんと話せて良かったわ。最後に言わせてもらうわ、

東: なんや?

な: インタビュー中はテレビ切れや。

東: プチッ。ほんなら俺も最後に、出川が後ろにおってくれてたことで、すごい安心してたってことだけは言うといてください(照)。

 

 

文責:編集部

※本対談は2023年7月、感染対策をして取材を行いました。
※本記事は単行本『バトルスタディーズ』38巻に収録された対談記事に、未公開部分を加えた完全版です。

 

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