桑原太矩(『空挺ドラゴンズ』)×樺ユキ(『こびとのシイタと狩りぐらしの森』) 単行本発売記念、初対談!

桑原太矩(『空挺ドラゴンズ』)×樺ユキ(『こびとのシイタと狩りぐらしの森』) 単行本発売記念、初対談! 実は同じ武蔵野美術大学出身! 両氏の単行本発売を記念して、画材の話題から作品のテーマ、好きな漫画家まで語り尽くす!

桑原太矩


2010年アフタヌーン四季賞にて『鷹の台フリークス』で佳作、2011年同賞にて『ミミクリ』で準入選を受賞。2013年から2015年まで「good!アフタヌーン」にて『とっかぶ』を連載。2016年6月より同誌にて『空挺ドラゴンズ』連載開始。2020年には『空挺ドラゴンズ』のアニメが放送・配信された。最新単行本13巻が7月7日(木)に発売。

桑原太矩 (@kwbrtk) | Twitter

樺ユキ


2020年モーニング新人賞 第10回THE GATEにて『THE PINK DISTRICT』で奨励賞、第77回ちばてつや賞一般部門 にて『ともだちセラピー』で奨励賞を受賞。モーニング2021年11号での『未来保険』掲載を経て、『こびとのシイタと狩りぐらしの森』が初連載作。待望の単行本1巻が6月22日(水)に発売。

樺ユキ🌳こびと1巻6/22発売 (@muukasa) | Twitter

 

実は同じ武蔵野美術大学出身! 両氏の単行本発売を記念して、画材の話題から作品のテーマ、好きな漫画家まで語り尽くす!

──お二人とも同じ大学ということですが、学科は違うのですか?

桑原太矩(以下、桑原):自分は「視デ」でした。視覚伝達デザイン。いわゆるグラフィックデザインを学ぶところです。

樺ユキ(以下、樺):私は油絵学科の版画専攻なのですが、校舎がすごい離れてて奥地でした。

──印象に残ってる授業はありますか?

樺:専攻していたリトグラフが印象に残っています。銅版、木版、シルクスクリーン、リトグラフの4版種から3年次に選択できるんですけど、私はリトグラフにしました。

桑原:リトグラフってあれですよね。大理石の。

樺:そうですね。今はアルミ板の上で刷るんですけど。昔からのやつは石ですね。

桑原:油で刷るんですよね。

樺:油と水の反発を利用して刷るんです。銅版画とかもやりたかったんですけど、ちょっと腐食液が怖くて出来ませんでした(笑)。

桑原:結構な色してますもんね。

樺:腐食液を使ったジワジワした線がすごく好きだったんです。

桑原:自分の学科は「デザインとはそもそもなんぞや?」というところから考えるような、どちらかというとアカデミックな学科だったんですが、自分にはそれが合ってたみたいで。徹底的に調べて、問題の本質を理解して、どうしたら解決できるかという思考法を学べたのが大きかったです。シナリオを考えるときにも通じてるし「基本はいっぱい調べなきゃだめだよ」っていうのを叩き込まれたのは大きかったかもしれないですね。

 

──樺先生は授業から漫画に影響受けたところはありますか?

樺:今興味を持ってることのきっかけになる、いい授業がいっぱいありましたが、予備校の時の方がやっぱり影響を受けていると思います。

桑原:予備校の時に得られるものって確かに大きいですよね。美大って「デッサンとかを勉強する」イメージがあるかもしれませんが、実際は入学後にはデッサンなんてやらないんです。デッサンというのは素養の一つなので、それは身につけた前提で授業が行われます。だからデッサンは美術予備校で習うんです。デッサンって観察と実践の繰り返しなんで、なんにでも通ずるとこありますね。

樺:そうですね。毎日お題を出されて、描いて評価されて、次の日また0からっていう繰り返しを毎日毎日やらされ続けるっていうので、すごい鍛えられた感じがあります。漫画を描いていると、デッサンしていた頃を思い出すんですよね。影がこう落ちてここが反射光で、とか。

桑原:樺さんは白でも原稿を描いてますよね? 黒だけじゃなくて、黒を描いた上に白で描く。

樺:なんか彫刻みたいな描き方をしていて。まず形を白と黒でとって、あとから削って形を作るみたいな。油絵もけっこう絵の具を盛ったり取ったりの繰り返しなので、それが今の描き方に影響しているような気がします。

桑原:ちなみに、今の原稿はデジタルで描かれてますよね?

樺:そうです。今は全部デジタルでやってます。

桑原:デジタルと油絵の考え方は、確かに近いものがあるかもしれない。描いたものの上からどんどん描写を足していけるところとか。線を消したりとかも比較的しやすいから。

 

──桑原先生はアナログですよね?

桑原:そうなんですよ。トーンはデジタルですけど、線は紙に描いてます。ただ、自分も描いたものを消すことが多かったので、紙が強くないと毛羽立っちゃって……。とにかく表面が強い紙が欲しくて、何も描いてないケント紙を長い間使ってました。だけど、最近ロットが変わったせいかすこし線がにじむようになってしまって。それが気になって、漫画用原稿用紙を買ってやってみたら、全然それが起きなくて、さすが専用に設計されたものだなってなって。デジタル・アナログそれぞれの悩みってどちらもあって、アナログはそれこそ紙ロットとか、トーンがなくなっちゃうとか。デジタルは最初期にデジタルを導入された場合、人によっては容量が小さくて今は使えないデータになっちゃってるとか、原画が存在しないって状態になってる方もいたりとか、悩ましいところがありますよね。

樺:カラーイラストはマーカーですか?

桑原:あれはカラーインクです

樺:あ!カラーインクなんですね。水彩にしてはすごいしっかり色がついてるから、水彩ではないなと。水彩だと影とかもあんまりはっきりは出ないはずだけど、雲とかはにじみが出ているから、使い分けてるのかなって思ってました。

桑原:水彩だともうちょっと淡い色合いになりますよね。全部カラーインクで描いてます。でも、本格的に使い始めたのは1巻の表紙が初めてで。

 

──なぜ使おうと思ったんですか?

桑原:デビューが決まった時に、大学の友人がカラーインクセットをプレゼントしてくれたんですよ。あと、水彩絵の具だと発色があんまりよくないのが、わかってたんです。水彩絵の具は、自分の場合原画はいいんですけど印刷に向かないんですよ。肉眼で原画を見る分には問題ないんですけど、スキャンしてデータに落とし込んだ時に絶対向かないなっていうのはわかっていたので、水彩はまず無理だとなって。油絵も高校の時に美術の授業でやっただけだったのと、めっちゃ時間かかるんで、それもなしだろうと。あとは水彩顔料系のガッシュですよね。染料じゃなくて顔料(※)の。それも自分が使うとおそらく古臭くなるだろうと。絵が、昔のイラストっぽくなるだろうなって思っていました。

※溶剤に溶ける着色剤を染料、溶けないものを顔料といいます。 筆記具以外では、染料は繊維を染めるために、顔料は塗料や化粧品で色を出すために用いられます。 染料は溶剤に溶け、複数の色を混ぜ合わせることで比較的容易に新たな色を作ることができます。

 

樺:確かにカラーインクはすごい鮮やかですよね

桑原:鮮やかに出ます。後、重ね塗りがしやすいというか、下地を塗ってその上から塗っても調和してくれるから、影色だけ先に塗ってその上からメインの色を塗っても、ちゃんと発色してくれる画材なんです。

樺:そうなんですね。カラーインクって混色するんですか?

桑原:混色します。で、カラーインクは混色してもそこまで彩度が落ちないんですよ。普通は水彩絵の具とか顔料系を混色するとグレーに近くなっていって、どうしても彩度が鈍くなっていくんですけど、カラーインクならその心配がない。あと、俺は逆にデジタルだと時間がかかってしまって。

 

大学で学んだことが作品へ繋がる

──樺先生は、連載のテーマになぜ小人を選んだんでしょうか。

樺:もともとシルバニアファミリーやミニチュアが好きで、子供のころに友達と遊んでいて。それと、図鑑を集めていて、描く前から結構持っていたのもありますね。あと、『ピクミン』っていうゲームがあるんですが、出てくるキャラクターの図鑑みたいなのがあって、架空のモンスターについて「何科で何を食べる」とかが書いてあるんですが、それが面白くて。いつか、こういうのを描きたいなって思っていました。必要以上にたくさんのことが書いてあるものが好きなんです。『MOTHER』というゲームがすごい好きで、攻略本も持ってるんですけど、旅行ガイドみたいな攻略本なんですよ。

 

桑原:写真がすごい載ってるんですよね。

樺:持ってます?

桑原:持ってます持ってます(笑)。

樺:ああいうのがすごい好きで。なんて言うんですかね、いろいろなものが載っている、っていうものが作りたいんです。小人とどう関係してるのかはわかりませんが、スケールを小さくすれば、自分でも考えられるんじゃないかって感じていたのかもしれないです。

 

──『空挺ドラゴンズ』を読んで、どう感じましたか?

樺:絵の感想になっちゃうんですけど、雲の描き方がすごくいいなあって思いました。空間の演出の仕方とか影の描き方とか、きれいだなあって思って。しかも天気とか光の射し方とか、ドラゴンが入ってくるときの雲の柔らかさみたいな描写がすごい。

桑原:雲は描くのが楽しいですね。曇って不定形の連続なので、気をつけてないとやっぱり手癖だけで描いちゃうんですよね。それを修正するために、写真を見て修正したりする感じです。模写ともちょっと違っていて、どういう雰囲気を出すのかを、最初に考えています。最初から写真を見ながら描くのもよくなくて、奥が明るいのか、暗いのかだけでも雲の持つ意味合いが全然変わってしまうんですよね。描きたいシーンの雰囲気に合った雲を描いてから、あとでリアリティをもたせるようにしています。

 

樺:3巻目に出てきた山の描き方も好きでした。私「バンド・デシネ※」が好きで、それに近い描写、質量が感じられるのがすごいなって思って。それと、ドラゴンのデザインが、深海の生物をイメージできるように描かれていて、どういうところでそういう風にしていったのかなって思いました。

※「バンド・デシネ」(フランス語:bande dessinée)は、フランスなどの地域の漫画のことです。

 

桑原:ドラゴンは、最初に翼を使わずに飛ぶ生き物を考えたんです。龍はきっと翼で飛ぶ生き物ではないなって。それで空を泳ぐように飛ぶ生き物だろうってイメージして描いたので、海の生き物に近づいていったところはあるかもしれませんね。

翼の生えたドラゴンを自分が描くと、今までに描かれてきた西洋的世界観の一つみたいな感じになってしまい、それを食べるというパロディにしかならないと感じたんです。それだったら、独自の生物を「龍」って呼んでる世界にしようと。

 

樺:お料理はもともとお好きなんですか?

桑原:そうですね。もともと料理をしていたんですが、1話のネームをやり取りしているときに「桑原さんは料理するんですか」って聞かれて、「だったらレシピも載せましょう」って言われたんです。作中でも、もうちょっと作り方を細かく描いた方がいいです、と。

 

樺:桑原さんってアシスタントさんはいらっしゃらないんですか? 私はアシスタントさんがいますけど、『空挺ドラゴンズ』は桑原さん以外が描くのは無理ではないかと思っていて。

桑原:最初はいなかったですね。今は原画を取り込んだ後の作業をしてもらう人がいます。仕上げのゴミ取りと基本トーンを張ってもらったり。『こびとのシイタ』も マントにしていた「さつまいもの葉」の水をはじく感じとか、アシスタントさんにお願いするの大変じゃないですか?

 

樺:多分描いてもらうのは大変だろうと思って、1,2話は一人で描きました。当たり前ですけど、今でも人に描いていただいたものは、自分が描いたものとは違うものになってしまうので、最終調整はしています。

桑原:背景は頼み方が難しいですよね。でも、自分で描いていても、正直、描き終わって原稿データを担当さんに送った後に「ああ全然描けてないな」って思っちゃうんです。ほかの作家さんの作品を見てたら悔しくなってしまって。

 

──食事シーンは両作ともに印象的ですよね。

樺:そうですね。そういうシーンがあると、キャラクターが生きてるって感じが出せる気がします。『空挺ドラゴンズ』は、食べ物のバリエーションが豊富で 、食べた後のリアクションが回を追うごとにだんだん大きくなっていってる気がしますけど、どうでしょうか?

桑原:そうだと思います。最初は照れもあるのと、おいしい食事を食べることを官能的に描くことに抵抗があったので抑えてて。後半になればなるほど、キャラクターが勝手に動いてそうなったのと、ストーリーを描くために食べる描写に微妙な表現を入れるページを割けなくなった、という現実的な問題もあり、顔芸になっていったのはあるかもしれないです。でも自分の中に下積みがないと、できなかった表現かもしれないですね。いきなりあれをやると、たぶん違う漫画になっていたと思うんです。話が進むごとにミカが自然に顔芸してくれた、みたいなとこはあるかもしれないですね。

樺:乗組員がみんな料理上手ですよね。

桑原:料理をする人はある程度限られてる…あ、でもなんだかんだでみんな料理してるかもしれない(笑)。

樺:私も料理は好きなんですけど、やっぱり漫画の作業の方を優先してしまって、簡単にできるものしかやらないから、作ってるシーンを見るのは好きです。動画とか映画もそうですけど、海外の料理番組も見るのが好きですね。

 

──小人たちは何を食べているんでしょうか?

樺:どんぐり、木の実、野イチゴとか山にあるものを主食にしています。

桑原:あの小人のサイズ感だと、虫との関係は気になりますよね。やっぱり蜜とか得られるから、虫って重要なんじゃないか、とか。

 

樺:そうですね。ドングリとかクリの中に虫がいるじゃないですか。あれ、食べるとドングリとかクリの風味がするらしいんですよ。だから、ああいう環境だったら虫はいいおやつなのかもしれないと思ってます。

桑原:あとはアブラムシの甘露※とか。

※アブラムシなどが分泌する、糖分を多く含んだ液体のことです。

 

樺:そうですね。ハチの蜜を集めたり、とかもしているかもですね。

桑原:仕事場にちっちゃい庭みたいなものがあって、そこに虫が集まるんですが、それぞれの動きがめちゃくちゃ面白いんですよね。昆虫の世界って寄生の世界なんですよ。うちにはレモンの木があるんですが、アゲハ蝶が来るんです。でも、アゲハ蝶が生んださなぎのだいたい半分から三分の二くらいは何かしらのハチに寄生されていて。地中に卵を産む虫も、何かに寄生させて産んだりとか。庭に季節ごとに来る虫とか見るだけでも、こんだけ面白いんだってなりますね。

樺:人間も、昔は唾液で発酵させたお酒があったとか、面白いですよね。しかもそれを歓迎の席で飲まなきゃならない、みたいな。猟の仕方とかも、毒を川に流したりとかして。知ってしまうとちょっと考えてしまうことって、たくさんありますよね。作中でも、人間の残骸というか、そういうことをシイタたちは知らないので、疑問に思いながら辿っていくようになるのかな、とは思っています。

 

話題は好きな漫画家の話に

──影響を受けた漫画家さんはいますか?

樺:漫画を描くきっかけになった作品は、さっきも話した「バンド・デシネ」だったんですよ。二コラ・ド・クレシーっていう作家さんがいるんですけど、その人のカラーマンガが大好きで、それから漫画を描き始めました。

桑原:あ、だから(10話の)カラーなんだ。カラーに挑戦してみようかなっていう動機は、「バンド・デシネ」が自分の出発点だからなんですね。

 

樺:そうですね。背景と、そこにいるキャラクターとかを、すごい描きたかったんですよ。「あ、こういうのでも漫画として描いていいんだ」って思って描き始めました。

桑原:「バンド・デシネ」は、いわゆるコマ割りではなく、カット割に近いですよね。それこそ現代の「バンド・デシネ」も3×3の9コマだったりしたりして、今の日本のマンガ文法とは違うような気がしますもんね。

樺:「バンド・デシネ」と言えば、最近、近所に「バンド・デシネ」の専門店ができたんですよ。そのお店をやっている人がフランスの方なんですけど、翻訳の仕事もされていて。お店よりも翻訳が本業みたいなんですけど『空挺ドラゴンズ』のフランス語版の翻訳をされていました。

桑原:なんと(笑)! そんなところで思わぬ繋がりが…! そしてまさか、国内に翻訳してくれている方がいたとは(笑)!

 

──意外な接点がありましたね。お二人とも本日はお忙しい中ありがとうございました。

 

 

 

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