【第3回】もうひとつの『彼岸島』 -松本光司 目次コメントの世界-

作者の健康度が、『彼岸島』のストーリー展開に影響していた!? ヤンマガの作者コメントから『彼岸島』の真実を読み解く検証コラム・第3回です。

 

みなさん、こんにちは。ライターのナカザワです。

 

『彼岸島』著者・松本光司先生の「目次コメント」を検証するこのコラム。

早くも第3回目をむかえました。

 

過去回はこちら

 

子煩悩な一面など、先生の人物像がいっそう明らかになってきましたね。

 

また一方で、『彼岸島』創作の元となる「原動力」を探ってまいりました。

心優しい松本先生は何ゆえ、

このアナーキー、アンモラル、アバンギャルドな作品を創造しつづけるのか――。

 

私としても最近この作品のことばかり考えてすぎて、

五重の塔から落っこちる夢を見たり、

物陰からふと、笠をかぶった男が出てくる気がしたりと、

ヒガ充 (彼岸島が充実している、の意) な日々を送っています。

 

 

さて今回は、先生のプライベートの部分でなく、

パブリックな面にもスポットを当ててみようと思います。

 

 

 

【検証結果4 プロ意識がすごい】

 

当然のことですが、

松本先生は創作し、多くの人に読んでもらうことを生業となさっています。

つまり、『彼岸島』は先生の考え方・生き方の分身である一方、

ビジネスの一環でもあるわけです。

 

そのことは目次コメントにも如実に表れており、

2003年44号

一週間後の6日(月曜日)に単行本④巻が出ます。買ってくれるとうれしいです。

 

2003年45号

今日、単行本④巻が出ました。是非買ってください。

 

と、頻繁に登場するのが、単行本の宣伝です。

 

2週連続で告知というのもなかなかだと思うのですが、

今までの連続最多記録は、4週も続けて行なった「第7巻」の告知でした。

2004年29号

単行本⑦巻が7月6日(火)に出ます。よろしくお願いします。

 

2004年30号

単行本作業をしています。7月6日に⑦巻が出ますので、よろしくお願いします。

 

2004年31号

来週、単行本⑦巻が出ます。7月6日です。よろしくお願いします。

 

2004年32号

単行本⑦巻が明日出ます。よろしくお願いします。 

 

1か月前からカウントダウンのごとく宣伝する、念の入れようです。

 

 

目次のわずかなスペースも活用してしっかり告知する。

そんな松本先生のプロ意識の高さ。

 

宣伝以外のコメントでも、作品に傾ける先生の情熱が垣間見えます。

 

2003年26号

担当さんの奥さんの実家に打ち合わせのFAXを送りました。忙しい所すみません。

 

ちなみにその号はこんな内容でした。

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「第二十三話 目撃」

 

この絵がFAXされてきたらめちゃくちゃ怖いですね。

 

こちらも打ち合わせの様子をつづるコメント。

 

2009年 1号

相変わらず打ち合わせは温野菜の火鍋です。

 

想像するに、鍋を煮詰めるがごとく

編集者とじっくりストーリーを練っているのでしょう。

 

同じ号で対照的に、

えらい手短な打ち合わせをしてた人もいましたが。

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「第二百六十五話 赤黒い眼」 分担があっさり決まる

 

そして、宣伝の周到さや打ち合わせの真剣さ以上に

松本先生のプロ意識を感じさせるのは、

休載がとても少ないということです。

 

特になんと

「作者急病」による突然の休載は、15年間一度もないのです!

 

 

とはいえ先生も人間。

コメントにはしばしば身体の不調を訴える内容が。

 

時には体調不良に苦しみながらも必死に原稿を仕上げ、

心待ちにする我々読者のために頑張ってくれているのですね。

 

 

ところで、ためしに今まで同様、

コメントと『彼岸島』の展開とを見比べてみたところ、意外なつながりが。

 

体調不良がひどいときほど、その週は

静かに緊迫感の漂うシーンが増えているのです。

回想シーンが異常に多く見られた点も印象的でした。

 

派手なアクションを描くと身体に響くからなのでしょうか…。

 

2005年31号

おしりにオデキができました。座ると痛くて大変です。

 

2005年32号

おできが治ってきました。

 

2005年34号

おできが完全に治りました

 

3週にわたってオデキに苦しんでいた回。

 

ここで描かれていたのが、明と冷が出会った第一話の回想です。

 

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「第百十六話 合流」

 

静かに漂う「不穏さ」といつも以上に多い「ハアハア」が、

まるで先生の病状をなぞっているかのようです。

 

 

2003年47号

風邪をひいてしまいました

 

2003年48号

まだ風邪をひいております。非常にやっかいです

 
タチの悪い風邪に苦しんでいるときも、やはり回想シーン。

 

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「第四十話 電話」

 

 兄貴が島に初めて上陸したときの話です。

そもそも「舞台が病院」というところに松本先生の無言のSOSを感じます。

 

さらにこちらはおそらく先生が最も苦しめられた症状。

 

2005年15号

尿管結石になりました。痛かったです

 

2005年16号

まだ石が出ません

 


その間『彼岸島』では珍しいことに

延々2週にわたって島の回想・来歴が語られていました。

登場人物はみんな固唾を飲んでじっと見守っています。

  

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「第百三話 報告書」

 

静かなるハアハアは、やがてハッハッに変わります。

耐えがたい結石の痛み・「いつになったら石が出るのか」という不安が、

重ね合わされているのかもしれません。

 

 

しかし翌週、松本先生は気力・体力を完全に取り戻します。

 

2005年18号

石が出ました。ホッとしてます

 

 

ついに治癒! 石が出たのです!

長き苦闘の末、笑顔を取り戻した松本先生。

 

そして、

不死身の象徴のようなあの男が、満を持して登場するのです。

 

 

 

 

 

 

 

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「第百四話 最強の兵士」

 

 

 

 

 

どうですかこの余裕の表情。

 

 

 

 

ここから先は再び、お馴染みのサバイバルアクションが展開されます。

松本先生がご無事でよかった…。

 

もしも先生の尿管結石が治らなかったら、

その後の『彼岸島』はロジックで戦う密室劇になっていたかもしれません。

 

 

ちなみに、松本先生はそういったトラブルを未然に防ぐべく、

日頃から健康に大変気をつかっています。

2006年13号

最近ダイエットを始めました。きついです。

 

2006年15号

最近、草食です。 

   :

   :

2006年42号

最近、やせてきました

 
この半年にわたるダイエットはとてもきつかったらしく、

同じ時期のストーリーと無意識にリンクしていました。

 

 

 

ランニング 

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「第百四十五話 水の音」

 

 

スイミング

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「第百四十六話 下水道」

 

 

トロッコ

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「第百四十八話 外へ」

 

 

丸太

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「第百六十九話 一縷の望み」

 

 

と、やたらハードなアスレチックが連発。

おそらく先生自身がジムやジョギングに精を出したのだろうと

想像されます。

明たちがそれを追体験するスタイルですね。

 

というわけで、みなさん。

先生のプロ意識をひしひしと感じていただけましたでしょうか。

 

松本先生、これからもお身体に気を付けて、面白い作品を描いてください!

 

 

……さて、

我々の調査もいよいよ大詰め。

 

ついに、今まで隠されていた真の「目次コメント」へ光を当てるときが来ました。

 

 

次週、最終回。

15年間・600回超に及ぶ連載の過半数を占める、350個ものコメント。

その正体とは?

先生が『彼岸島』を創りつづける真の理由とは――!?

 

つづく

 

 

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