12月11日に、待望のコミック第3巻が発売された『オメガ・メガエラ』。本作では、男女のほかに3つの性別が存在し、男性も妊娠が可能で――ちょっと待って、男も妊娠できるってどういうこと？ と思った方、ご安心ください。この解説記事を読めば、『オメガ・メガエラ』、そして「オメガバース」の愛憎入り混じる世界にどっぷりひたれます。
BLの人気ジャンル「オメガバース」ってなんだ！？
［１話］
『おっさんずラブ』の大ヒットでも注目を集めた男どうしの愛の世界。
上司×部下、警官×ヤクザ、さらには「えんぴつ×消しゴム」の擬人化まで……あらゆる関係性を愛でて楽しむボーイズラブ（以下BL）界において、いま人気を博しているのが「オメガバース」というジャンルである。
「オメガバース」とは、ただ単に「男が妊娠する」という特殊設定のみを指すのではない。その作りこまれた緻密な設定をBLマンガ、小説レビューサイト「ちるちる」の中の人が解説してくれた。
ちるちる「男が妊娠する世界、といっても、BLを知らない人にはぴんとこないでしょうね。『オメガバース』とは、男女のほかにα（アルファ）、β（ベータ）、Ω（オメガ）の3つの性があり、αの男女、βの男女、Ωの男女という、計6種類の性別を持った人々が存在する特殊な世界観と、それを題材にした作品群のことを指します。ざっくりと、人口の10%〜20%しかいないエリート層がα、人口の大多数を占める一般人のβ、αよりも希少なΩ、という階層になっています」
『オメガ・メガエラ』の世界における人口比率を図にするとこうなる。
ちるちる「αの女性とΩの男性が性行為を行った場合、妊娠するのはΩの男性ということです。なぜ男も妊娠できるようになるかというと、Ω性の人には周期的に”発情期”が訪れ、両性具有のような状態になるからです。しかも、発情中のΩは、αやβを惹き付ける強いフェロモンを発し、男性でも“濡れる”というわけです」
αの男女間、βの男女間では女性が妊娠するが、Ωは男女ともに妊娠できる。Ωには女性の生理周期と同じように、妊娠しやすい期間である「発情期」が定期的にやってくる。その期間のあいだ、Ωのフェロモンに当てられたαは、理性のタガが外れたように欲情してしまう……。
αとΩのあいだを遮る社会階層の壁、その壁をガラガラと突き崩してしまう動物的な欲望、この両者が作用して、身を焦がすような愛のドラマを盛り上げるのだ！
もともと「オメガバース」の設定は、北米の二次創作ファンが、狼の群れに実際に存在する階級意識を参考にして作り出したとも言われている。それがいつしか誰でも自由自在にアレンジして使える「オープンソース」としてファンの間で共有され、おもにBL漫画や小説の題材として広く好まれるようになっていったという。
『オメガ・メガエラ』の世界では、支配するα、虐げられるΩという関係性を逆転させかねない、ある法則が存在する。「αの子供は、Ωからしか生まれない」というルールだ。
［１話］
狂おしいほどの愛！ 華麗なる一族をめぐるΩの愛憎劇
［１話］
Ωの漆間犀門（うるしま さいもん）は、αが代々当主を務めてきた華麗なる財閥一家・英（はなぶさ）家に嫁いだ第一夫人……のはずだった。彼は英家の次期当主である征十郎（せいじゅうろう）とのあいだに子をなすことができず、本家のなかで不吉な「メガエラ」として疎まれるようになってしまう。そのうち、玲鴎（れお・Ω男性）、獅乃（しの・Ω女性）が相次いで征十郎との子を産み、犀門は第三夫人に転落する。
［１話］
αが支配する社会で、Ωの人生は、αの子供を産めるかどうかにかかっている。「メガエラ」の烙印を押された犀門は、なんとかして征十郎の愛を取り戻したいと考えていた。
［１話］
チャンスは、意外なところからやってきた。英家の現当主・善治郎（ぜんじろう）は、傾きかけていた英財閥を立て直したカリスマ経営者。善治郎は、自らの隠し子・馬宮（まみや）を探し出してほしいと犀門に持ちかける。そして、もしその子がαであれば、犀門と征十郎の養子としてもよいと――。
［１話］
ところが、犀門がやっとの思いで探し当てた馬宮は、αではなかった。Ωであることを隠して生きてきた、戸籍のない15歳の少年。そこで犀門は、ある大胆な計画を思いつく。馬宮をαと偽り、英家に迎え入れるのだ――。Ωが性別を詐称することは死に値する重罪。それでも馬宮は、この命懸けの計画に乗ることを決め、Ωの悲惨な境遇を抜け出そうとするのだった。
［１話］
そうして、「真宮」と名前の漢字を変えた馬宮は、征十郎の子として迎え入れられる。英家の跡取りをめぐる壮絶な家督争いに巻き込まれていくことになるとも知らずに――。
跡継ぎ争いで真宮のライバルとなるのは、英家の2人のαの子供たち。獅乃の第一子にして、容姿端麗、成績優秀、エリート校である甲種第一高等学校でも絶大な人気を誇る麗子（れいこ・α女性）。
［３話］
［７話］
幼い頃から厳しい英才教育を受けてきた麗子は、突然現れたライバルの真宮に対しても正々堂々と戦おうとする。ある事件が起こるまでは……。
もう1人は、獅乃の第二子にして善治郎が熱望していた男性αの伊織（いおり）。ところが、彼は姉の麗子から「ポンコツ」呼ばわりされ、学校でも「エセα」と影で噂される“出来損ない”のαだった。伊織は「家督争いには興味がない」というが……。
［２話］
『オメガ・メガエラ』３巻発売！ 生徒会長選が開幕！
第3巻では、真宮と麗子の家督争奪戦が本格化する。ある日、真宮と麗子を呼び出した善治郎は、甲種一高の生徒会長選挙で麗子が会長に選ばれたなら、後継ぎとして認めると宣言する。しかしその一方で、真宮に対してはこう言い放つのだ。
［８話］
どんな手段を使ってもいいから、麗子を落選させろ。これが、真宮に与えられた跡継ぎの条件だった。学校に編入したばかりで難題を突きつけられた真宮は、生徒会の会計・橘有憲（たちばな ありのり・α男性）を麗子の対立候補として立てようとする。だが、有憲もまた、ひとクセもふたクセもある人物なのだった――。
［10話］
自らを “リリィ”と名乗る有憲は、麗子の幼馴染。小さな頃から強くて優しい彼女に憧れていた。ところが、少しでも憧れの存在に近づこうと女装するようになって以来、手のひらを返したように冷たくなった麗子が大嫌いなのだという。麗子への対抗心を燃やすリリィは真宮と手を組み、圧倒的に不利な状況を覆すため、ある秘策を用意する――。
こうした状況の中、英家の晩餐会では、真宮が征十郎の子として正式に紹介され、社交界デビューを果たす。征十郎の第二夫人に昇格した犀門はパーティを見事に取り仕切り、征十郎との距離が縮まったことに、言い知れぬ喜びを感じる。
［10話］
征十郎との甘美な一時に酔いしれる犀門だが、その裏では、第一夫人の座が脅されることに恐怖する獅乃、真宮がαであることに疑いを持ち始めた玲鴎……それぞれの思惑が交錯していく――。
［10話］
最後に、丸木戸マキ先生からのコメントを紹介する。
「この作品は、BLを普段読まない方にも読みやすいのでは、と思っています。
設定がSFチックですので、最初のハードルがもしかしたら高く感じられるかもしれません。でも、この世界で生きている人たちも、現実を生きる私たちと同じように『αはこうあるべき』『Ωはこうするべき』という価値観に縛られ、もがいて生きています。
この世界では男女の性差よりも、α、β、Ωの違いのほうが大きな意味をもつので、例えば最下層とされるΩたちは、男女平等に虐げられているのです。そのような状況において、キャラクターたちがそれぞれどのような選択をして、どのように人生を送ろうとするのか、その生きざまを見守っていただけたら嬉しいです」
人気の設定「オメガバース」をベースに、階級社会、家督争いに翻弄される人間の愛と業を描いた『オメガ・メガエラ』。
真宮の運命からますます目が離せなくなるコミック第3巻は、12月11日に発売！ 第１話〜２話はコミックDAYSで無料配信中なので、この機会にぜひチェックしてみてくださいね！
※この記事は2018年7月に現代ビジネスに掲載されたものに加筆・修正を加えたものです。
