【『蟲籠奇譚』1巻発売記念特別対談】 “愛でる派”西塚emד食べる派”地球少年。 「虫を怖がるのは今日でおしまい」対談!

コミックDAYSで大人気連載中の『蟲籠奇譚』を描く西塚em先生と、“昆虫食”にまつわるさまざまな活動を行っている「地球少年」こと篠原祐太さん。今回は、8月8日(水)の『蟲籠奇譚』第1巻発売を記念して、“虫”をこよなく愛するお二人の特別対談をお届けします! 虫を「愛でる派」の西塚先生と、「食べる派」の篠原さん。虫の魅力を知り尽くしたお二人が、はたしてどんな虫トークを繰り広げるのか!?

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コミックDAYSで大人気連載中の『蟲籠奇譚』を描く西塚em先生と、“昆虫食”にまつわるさまざまな活動を行っている「地球少年」こと篠原祐太さん。今回は、8月8日(水)の『蟲籠奇譚』第1巻発売を記念して、“虫”をこよなく愛するお二人の特別対談をお届けします! 虫を「愛でる派」の西塚先生と、「食べる派」の篠原さん。虫の魅力を知り尽くしたお二人が、はたしてどんな虫トークを繰り広げるのか!?

…西塚em。
『蟲籠奇譚』作者。
『蟲籠奇譚』1話はコチラから!
…「地球少年」こと篠原祐太。
「地球少年」の名で、昆虫食や自然の魅力を発信中。虫料理企画の主催から、虫料理ケータリングなど幅広く虫にまつわる活動を行っており、虫の魅力を伝えるワークショップなども実施している。特製の「コオロギラーメン」はめちゃくちゃ美味しいと評判。
地球少年 / 昆虫食の人 (@yshinoearth) | Twitter

実は虫が好きではなかった!? 二人が“虫好き”になったきっかけは…

――今回は、虫を「愛でる派」と「食べる派」の対談ということで、虫の魅力を存分に語っていただければと思います。お二人が虫を好きになったきっかけは何だったのでしょう。

西塚 実は成人するまで、虫が好きではなかったんです。ですが、あるとき、図鑑で虫と花が一緒にいるボタニカルアートを見て、幼虫にもいろんな種類があることを知り、「なんか可愛いのがいる」と思ったんです。それで水彩画のモチーフにしたいと思い調べるうちに、種類によって違う特徴や変なクセを持っていることが分かって興味を持ちました。

担当 そもそも、なぜ図鑑を手に取ったんでしょう。

西塚 昔から図鑑が好きだったんです。クラゲやきのこの図鑑を、学校の図書館で見ていました。荒俣宏さんの図鑑が特に好きで、「これをいつか揃えるぞ」って思っていました。その中のひとつに、虫の図鑑もあったんです。

篠原 それまでは、虫との接点はなかったんですか?

西塚 マンションの上の方の階に住んでいるので、小さいころはあまり虫を見かけなかったんです。それに、母親がめっちゃ虫嫌いで(笑)。刷り込まれて、怖いモノだと思い込んでいた部分もあったんですよね。でも、図鑑で興味を持って、調べてみたらやっぱり可愛くて。見た目がオシャレなところも可愛いです。

担当 絵と実物の間には、結構距離がありませんか?

西塚 そうですね。それから1年ぐらいはまだ触れなかったんですけど、虫が好きな友達がいて、ある日、虫を手渡しされたんです。信頼している人から渡されたから、怖さも薄れまして。ウニャウニャとしていて、「これは可愛いぞ」と思いました。

担当 そこをつないでくれる人の存在は大きいですね。

西塚 はい。だから私もそういう存在になりたいな、と思いました。 

篠原 そのとき触ったのは、どんな虫だったんですか?

西塚 蛾の幼虫で、タバコガという虫ですね。そのあと自分で育てたりもしました。爪をかじってきます(笑)。

篠原 どの虫が一番お好きですか?

西塚 キアゲハの幼虫がずっと好きなんです。色が派手ということも好きな要素ですが、写真でしか見たことがなくて。だから偶像崇拝みたいになっています。妄想の中で、可愛いキアゲハがアイドルなんです。でも、庭がないので呼べないんですよね。  

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↑西塚em先生が虫の怖さが薄れるきっかけとなったタバコガの幼虫。

 

本能のままに生きている虫の方が、人間より信頼できた。

――では、篠原さんが虫好きになったきっかけは?

篠原 あまりきっかけとかはないんです。僕は東京の高尾山の近くの生まれで、家を出れば山で虫がたくさんいる、という環境でした。小さいころから暇さえあれば山に入って虫を獲ったり、観察したり、飼育したりしていましたね。それで、獲ってきた虫を家で飼っていたら数が増えすぎて、だんだん“プチ動物園”みたいになっていきまして(笑)。

西塚 それはすごいですね(笑)。篠原さんは今まで虫を嫌いになったことはないんでしょうか?

篠原 1回もないですね。今も昔も、人よりも、一番信頼できる存在だったので。でも、小中高と学年が上がるにつれてだんだん抵抗を感じる人が増えていく中で、自分がおかしいんじゃないかと思い、「虫好き」と言えず苦しんでいました。「好き」「食べる」と言い出したのは、4年半ぐらい前からです。20歳になる直前までは誰にも言っていませんでした。

――公言するようになったきっかけは何だったのでしょう。

篠原 好きなことを封印して、まわりに合わせていたことにモヤモヤしていたんです。一人の空間で愛でるだけだったので、「このままだと後悔するな」と。小中高の狭いコミュニティーと違って、大学に入っていろいろな人がいると分かったのも大きいですね。あと、昆虫食のレポートをFAO(国際連合食料農業機関)が出しているのを見て、「よし、国連の後ろ盾を得たぞ」と(笑)。

西塚 篠原さんは、“虫好き”なことを最初は誰に告白したんですか?

篠原 最初はSNSです。20歳になるまで、本当の意味での友達はいなかったですから。SNSの距離感がちょうどよくて言いやすかったんですよね。最初は結構ネガティブな反応が多かったんです。「急にどうしたの?」とか「キャラづくり?」とか。それから少しずつ、「料理振る舞うときに呼んで」という人が出始めて、マンツーマンで料理を振る舞い始めたんです。

西塚 今ではご活躍されていますが、はじめはなかなか受け入れられなかったんですね。

――最初に虫を食べたときのことは覚えていますか?

篠原 小さいころだったので覚えていないんです。たぶんバッタとかだったと思うんですが……。美味しいというよりは、幸せだなという感じでしたね。

西塚 好きすぎて食べちゃいたい、という感じですか?

篠原 そうですね、それが近いと思います。バレないようにこっそり食べていました。観察するとか、家で飼うとかの一環に、食べるという行為もあったんです。

――人間より虫の方が信頼できた、ということですが、虫と人間では何が一番違うんでしょう? 篠原さんの考える虫の魅力とは何でしょうか?

篠原 「本能のままに生きている」ところですかね。一個体一個体、同じ虫はいないんです。本当に、生きている命だなと感じられて、その瞬間が一番虫と関わっていてうれしいときですね。家で5000匹ほど飼っていますが、一匹たりとも同じ動きする虫はいませんから。外見的な部分はもちろん、餌の好みも、食べたときの味も一匹一匹違っていて。

西塚 確かに、もし猫が5千匹いたとしても、猫好きなら見分けがつきますもんね。

篠原 『蟲籠奇譚』の中で、人間サイズの幼虫が出てくるじゃないですか。実は、結構あこがれの世界なんです。僕も虫に恋に落ちたことがあって、過去に2匹の虫と付き合ったことあるんですけど――

一同 虫と付き合っていた!?

篠原 はい、でも相手のサイズが小さいので、極端な話、キスとかできないんですよ! もしも自分が虫のサイズになるか、虫が自分のサイズになって、肉体も含めて愛し合うことができたらどれだけいいんだろう……という妄想をしていたこともありました。

西塚 それはどんな虫だったんですか?

篠原 アフリカのマダガスカルゴキブリというゴキブリです。7~8センチぐらいあるような大きなサイズのゴキブリですね。虫は、知れば知るほど分からなくなっていく、というところも、たまらなく心がくすぐられるんです。

――恋愛対象の虫と、愛でたい虫、食べたい虫の違いはどこにあるんでしょうか?

篠原 あまり明確な線引きはないんです。ただ、恋愛対象になる虫は、特にずば抜けて心が揺れ動いた虫ですね。ずっと見つめていたい、という感じです。西塚先生は、人間サイズの幼虫を描いているときは、どんな感覚で描いているんですか?

西塚 ギュッとしたい、という感覚です。小さかったら、ギュッとするとつぶれてしまいますから。大きかったら体も丈夫なので、ギュッとしても大丈夫……という妄想が絵に出ているのかもしれません。

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↑生物部のマスコット!?“いもむー”。可愛らしい幼虫が登場するのも『蟲籠奇譚』の魅力。 

内臓の動きに興奮する!? 西塚em先生の“推しポイント”は?

担当 『蟲籠奇譚』が始まる前に調べたんですが、地球上の生物の種類で、圧倒的に多いのは虫だそうですね。だから虫を好きな人って、もしかしたら人生を一番楽しめているのでは。

篠原 絶対そうですね。生活していても、楽しくない瞬間はないですから。この時期は、外を歩いていると楽園みたいな感じです(笑)。

――(笑)。西塚先生は虫のどんなところが好きなんですか?

西塚 やっぱり、幼虫が好きなんです。実は猫も好きなんですが、猫は「にょろ」っとしていますよね。幼虫も「にょろ」っとなっているので、そこがまず好きですね。

担当 第1話でも、猫みたいな顔の虫(サトキマダラヒカゲ)が登場しますね。

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↑ねねが「なんかねこっぽい!」と言ったサトキマダラヒカゲの登場シーン。

篠原 西塚先生は、成虫より、幼虫の方が好きなんですね。

西塚 幼虫の方が“肉”っぽくていいですね。内臓が好きだった時期があったので、その感覚に近いのかな。食事のあと、食べた葉っぱがお腹の消化管から見えるところが好きなんです。

篠原 ああ、わかります!

西塚 アゲハチョウとかも、色素が薄いので、内臓が動いているところが見られるんです。そこに興奮してしまう(笑)。

――そうなんですね(笑)。お二人のお話を聞いていると、虫には、まだ我々が知らない楽しみ方や魅力がたくさんあるようです。

篠原 多くの人が、虫の魅力的な部分をちゃんと見ていないだけ、ということはあると思います。『蟲籠奇譚』の中で、「芋虫の顔を見る」という視点がありますが、実際にワークショップで子供に「顔が違うんだよ」という見せ方をすると、「本当だ!」ってなるんです。多くの人が意識的に見ていないからこそ、実はいろんな可能性があるのではと思っています。

西塚 なるほど。

虫は“仮死状態”にしてから調理する!?

――篠原さんは、フィールドワークで奄美大島に行ったり海外に行ったり、子供たち向けのワークショップをしたり……といろいろな活動をされていますが、原動力はやはり「虫の良さを知ってもらいたい」という思いからですか?

篠原 そうですね。虫に限らず、いろんな面白いことが自然にはあふれているんです。でも知らないから怖くて、変なイメージだけ強まっていってしまうのは、残念なことだと思います。しかも、それが次の世代に引き継がれていってしまう。虫取り網の持ち方を知らない子もいますから。虫のことを知るきっかけはあってほしいと思うんです。

担当 西塚先生も、図鑑を開かなかったら嫌いなままだったかもしれないですね。

西塚 図鑑開いて良かった(笑)。でも、私も小さいころ、イナゴを食べた気がします。捕まえてきたら父が「これはうまいんだぞ」って、オーブンで焼き始めて。感想は「まぁ食えんこともないなぁ」くらい。焼く前に、どうやって殺すかを考えていた覚えがあります。

――虫はつぶすと形が変わっちゃいますよね。調理前の処理はどうやるんでしょう?

篠原 冷蔵庫に入れて、仮死状態にしてから調理することが多いですね。水に沈めたりもします。

西塚 虫の生命力ってすごいですよね。驚かされることがあります。

篠原 本当にそうですね。一昨年、冬山に行ったとき、ゴキブリをリュックに入れたままにしちゃったときがあって、マイナス20度ぐらいだったので凍ってしまったことがあったんです。かわいそうなことをしてしまったと思ったんですけど、山を降りて、氷が解けたら、なんと生きていたんです。そのときに虫のたくましさに感動して、ますます好きになりました。

――篠原さんは昆虫食を実践しているわけですが、虫が死んでしまうと、やはり悲しいんでしょうか。

篠原 そうですね……そこはジレンマがあるんですが。他の生き物を食べて生きていかなければいけない以上、せめて、大好きで美味しいものを食べて生きていきたいと思っているんです。その分、自分ができることには全力で取り組んでいくのが自分の人生だと考えています。

担当 『蟲籠奇譚』の虫塚も、そういう葛藤を抱えていますよね。虫が死ぬのを見るのが辛い自分は変なんじゃないか、とか。今のお話と通じるものがありますね。

西塚 私にもそういう部分があるんだと思います。キャラクターを描くときは、自分を分割していますから。どこかには、必ず自分の要素が入っています。ねねはいませんが(笑)。

篠原 ねねはいないんですか(笑)。

西塚 自分の理想の女の子として描いているので。ねねに入っている自分の要素は、口が悪いぐらいですね(笑)。

初めて食べるならセミがおすすめ! 食べて美味しい昆虫は?

――『蟲籠奇譚』に登場する虫で、これは美味しい、というのはありますか?

篠原 そうですね~。作中に出てくるアゲハ系、芋虫系は美味しいというか、ユニークで面白いものが多いですね。体の機能がシンプルな分、どの植物を食べているのかその虫を食べたときに分かるんです。作中にナミアゲハが出てきますが、ミカンの葉を食べるナミアゲハの幼虫は、柑橘系のような、さわやかな香りがします。ほかにも、パセリを食べているキアゲハはほのかにパセリが香る味がします。そういう違いが個体によってありますね。

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↑食べるとパセリのような香りがするというキアゲハの幼虫。西塚先生も「アイドル」と絶賛。

――どうやって食べるんでしょう?

篠原 幼虫ごとの味の違いを知るなら、シンプルに茹でるのがいいですね。茹でると身が引き締まって香りも閉じこもります。

――では、初めて昆虫を食べる人におすすめする虫は?

篠原 この時期だと、獲りやすくて味もいいのはセミですね。公園にいるアブラゼミやミンミンゼミでもいいし、サイズが大きくて抵抗があるならヒグラシもいいと思います。味的に食べやすいのは癖がないコオロギとかイナゴ。物足りなさを感じるかもしれませんが、初めての人にはいいと思います。

――セミって、どんな味なんでしょう? 樹液を吸っているから甘いんですか?

篠原 枝豆みたいな、まったりした感じの甘みはありますね。

西塚 篠原さんが、今までで一番味が気に入った虫はなんですか?

篠原 みんなに食べてほしい虫は、桜の木によくついている毛虫で、モンクロシャチホコ。みんなが日常生活で怖がっている毛虫ですね。昆虫食の世界では美味しいとされています。

西塚 みんなが桜毛虫って呼んでいる虫ですね。

篠原 茹でて食べるんです。漫画でも描かれていましたけど、モンクロシャチホコは毒がなくて、かぶれたりしない種類なんです。『蟲籠奇譚』は、そういう虫に対する誤解をちゃんと解いてくれていますね。

西塚 私も食べてみたい。自分で獲ってきても、育てて見ているだけになっているので、今年は食べる方も……。虫と一体化して、強くなろうと思っています(笑)。

西塚em先生と担当が明かす、『蟲籠奇譚』誕生秘話

 

篠原 そもそも、なぜ虫を題材にした漫画を描こうと思ったんですか?

西塚 もともとは水彩で虫と少女の絵を描いていたんです。それから、好きだったホラー漫画を描いて自費出版していて。そこで満足していたら、コミティアで「漫画描きませんか?」って担当の平野さんに声をかけられて。始めは騙されているんだろうと思ってました、内臓とか売られるんじゃないかと(笑)。そのときはいろんな人に声をかけられて、「今日はバイヤーが多いな」って(笑)。

担当 コミティアってそういう場所じゃないですよ!(笑)

――(笑)。

担当 それから、最初はホラー漫画の打合せをしていたんですけど、ちょっと行き詰ったときに、たまたま西塚先生が4ページのギャグ漫画を描いていて、こっちの方が面白い! と。その作品は『蟲籠奇譚』の第2話のような感じですね。本物の虫が出てくるんですけど、ちょっと嘘が入っていて、女の子がその虫に寄生されちゃってウワー! みたいな話で。西塚先生、意外とギャグ好きですよね!? 面白いし、なんでホラー漫画を描いていたんだっていう(笑)。

西塚 好きなのはホラーなんですよね(笑)。

「地球少年」が選ぶ『蟲籠奇譚』のおすすめポイントはここ!

――西塚先生は、篠原さんの活動についてどんな印象を持たれていましたか?

西塚 私は人づてに、「(篠原さんが手がけている)コオロギラーメンめっちゃおいしいらしいで」と(笑)。絶対食べたいと思っていました。いつかイベントに行きます!

篠原 いつでも作ります!

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↑人気ラーメン店との共同開発で話題となった「コオロギラーメン」。ラーメン一杯につき、100匹のコオロギを使っているとか。

 

――では、篠原さんは『蟲籠奇譚』を読んでどのような感想を持ちましたか?

篠原 この1巻の終わり方なんで、続きが非常に気になります!(笑) ストーリーが面白いので、楽しみながら虫の魅力が伝わりますよね。虫ってひとくくりにされちゃうことが多いけど、『蟲籠奇譚』の中で、幼虫の一匹一匹がそれぞれ何を食べるか、どういう顔をしているか描かれているのはすごい。この作品を通じて、虫に興味を持つ人が増える可能性を感じています。

西塚 いまの言葉は録音して聞き直したいですね。

篠原 僕は今まで、一緒に虫を獲りに行って食べるというアプローチを一貫して行っているんですが、やっぱり苦手な人は入って来られないんですよね。でも、漫画だったら、入れる人も多いだろうなと思うんです。『蟲籠奇譚』は可愛さもありつつ、リアルな話もあります。両方の良さを持っていると思いました。

西塚 虫が好きな人に読まれるのが、一番緊張します。歓迎していただけたらうれしいですね。

篠原 虫好きな人って、細かいところを掘り下げていくのが好きで、結果的に初心者が入って来られなくなる空気感を作りがちなんです。でも、細かいところにこだわりすぎると、愛好家たちだけで楽しむ場になっちゃう。自分たち以外の人たちも受け入れて行かないと世界が広がらないし、いいイメージも作れない。そういう意味でも、虫を描く漫画はすごく大事だと思います。

――では最後に、お互いの今後に期待することは?

篠原 さきほどの、幼虫によって味が違うという件からつながるんですが、今は幼虫の糞を使ったお茶が作れるんです。たとえば桜の毛虫だと、桜のフレーバーティー、アゲハの幼虫なら柑橘っぽいお茶になるんです。今まではそういった違いをイベントで見せるだけで終わりでしたが、たとえばそこに西塚先生のイラストの要素を追加する、というのをやってみたいです。アゲハの顔のイラストを用意して「生産者の顔が見えるお茶」と見せるとか(笑)。

担当 「私が出しました」みたいな(笑)。

篠原 『蟲籠奇譚』を読んで、そういうことがやれたらなって思っているんです。お互い、虫好き同士でも、やっぱり切り取り方や掘り下げたいポイントが違うから、お互いを掛け合わせたときに生まれるものに興味があります。連載が続いていく中で、そういうものも生まれてくれば、より世間の虫への見え方が変わるのかな、と思います。

西塚 虫が好きな人の話を聞くだけで、どんどんアイデアが湧いてきますね。虫に対する考え方も一人ひとり全然違っているから、いろんな虫との付き合い方が勉強できたらいいなと思いました。ひとりで漫画を描いていると、自分が考えたことだけになってしまいがちで、世界が狭くなっちゃう。今日お話を聞かせていただいて、性的な意味で、みたいな考えをする人が私のほかにもいたんだなって、ちょっと安心しました。虫が好きでもぜんぜんおかしくない、ということを、読者の人にも感じてもらえたら、うれしいですね。

――ありがとうございました!

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↑篠原さんに持参していただいた、自家製の「トノサマバッタのパンナコッタ」。150匹のバッタを粉末にして混ぜたもの。「バッタは草を食べているので、お茶っぽい味とトノサマバッタの香ばしい味が加わります」(篠原さん)

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『蟲籠奇譚』1巻好評発売中!