【特別対談】『マーダーボール』肥谷圭介先生×ウィルチェアーラグビー日本代表・岸光太郎選手対談!

絶賛発売中の『マーダーボール』コミックス第1巻刊行を記念して、肥谷圭介先生とウィルチェアーラグビー日本代表の岸光太郎選手による対談が実現! 『マーダーボール』連載の裏話やウィルチェアーラグビーの魅力、そして2020年に東京で行われるパラリンピックへの思いなど、さまざまなお話を伺いました!

【特別対談】『マーダーボール』肥谷圭介先生×ウィルチェアーラグビー日本代表・岸光太郎選手対談

絶賛発売中の『マーダーボール』コミックス第1巻刊行を記念して、肥谷圭介先生とウィルチェアーラグビー日本代表の岸光太郎選手による対談が実現! 『マーダーボール』連載の裏話やウィルチェアーラグビーの魅力、そして2020年に東京で行われるパラリンピックへの思いなど、さまざまなお話を伺いました!

…肥谷圭介
『マーダーボール』作者。『サンクチュアリー 〜僕に彼女ができない理由〜』で第60回ちばてつや賞ヤング部門準優秀新人賞、『その子の笑顔が世界を救う』では第29回MANGA OPEN山田芳裕賞を受賞。代表作に『ギャングース』など。

…岸光太郎
ウィルチェアーラグビーチーム「AXE」の選手兼監督。20年以上のキャリアを誇るベテランで、2009年からは日本代表でも活躍。パラリンピックにはロンドン2012とリオ2016に2大会連続で出場している。

――お互いに初めて会ったときのことは覚えていますか?

岸 肥谷先生が日本代表合宿の見学に来た時ですね。そこで初めて「ウィルチェアーラグビーのマンガを連載する」という話を聞いたんです。

肥谷 まだ連載するかどうかは決まっていなかったんですが、とりあえず見学させてもらおうと合宿にお邪魔しました。それが最初でしたね。

岸 実は初めて会った時の先生の印象がまったく残っていないんです(笑)。「マンガになったらどんな風になるのかな」と思っていただけで、マンガになるという実感もあまり感じていませんでした。

肥谷 初めて見学した合宿がいきなり日本代表の合宿で、当然ながらそこには緊張感が張り詰めていたんです。なので「僕がここにお邪魔していいんだろうか」と感じていました。みなさんに「お前は何者だ!?」と思われているんじゃないかなと……。

岸 どうしてもそういう雰囲気は出てしまいますね。それでも「よろしくお願いします」と挨拶をしたことは覚えていますよ(笑)。

――岸選手にお会いする前から『マーダーボール』の構想を持っていたんですね?

肥谷 前作の連載終了後に『マーダーボール』の立ち上げまで一緒だった担当さんが、「ウィルチェアーラグビーはどうですか?」と提案してくれたんです。当時はまだ競技についてほとんど知らなかったので、その担当さんが「まずドキュメンタリー映画の『マーダーボール』を観てください。観たら今度は観戦してみましょう」と誘ってくれました。そして実際にウィルチェアーラグビーを観てみたら、本当に面白かったし、かっこよかったんです。観戦後の帰り道に「どうですか?」と聞かれたので「やります」と答えて、連載に向けてスタートしました。

岸 ウィルチェアーラグビーのどんなところにかっこよさを感じたんですか?

肥谷 車いす=マシン、そしてそれを乗りこなす選手たち、というところがかっこよかったですね。競技としての激しさよりもまずそこに惹かれました。そこから「ラグ車(ウィルチェアーラグビー用の車いす)に乗ってみたいなぁ」と思い始めたんです。でもまだラグ車は買えていません(笑)。

岸 自分専用のラグ車が欲しいんですか?

肥谷 そうなんです。今は競技をするためではなく、資料用にラグ車を買いたいなぁと思っています。

――岸選手がウィルチェアーラグビーを知ったきっかけを教えてください。

岸 リハビリテーションセンターを退所する時に「体力を維持するためになにか運動したい」と体育の先生に相談して、そこでウィルチェアーラグビーを勧められたんです。大会を観に行き、肥谷先生と同じように「車いす、かっこいいなぁ」と感じて、「ちょっとやってみたい」と思ったのが最初ですね。日本ウィルチェアーラグビー連盟が設立される頃です。

肥谷 岸さんはウィルチェアーラグビーの魅力はどこだと思いますか?

岸 ぶつかり合いがある激しいスポーツであるという点は外せないですね。

肥谷 まずはそこですよね。「わかりやすいし絵になるのでぶつかり合いを中心に」と担当さんに言われていたので、『マーダーボール』でもウィルチェアーラグビーならではの車いす同士のタックル、その激しいぶつかり合いをメインに描こうと考えていました。

岸 でもただぶつかるだけでなく、相手の戦力をいかに削るか、スペースをどうやって突いていくかなど、知的さや狡猾さも要求される戦略的な面が大きいところもウィルチェアーラグビーの面白さなんです。最初は攻撃的なハイポインター(主に攻撃中心の選手)ばかりを見ていても、少しずつ守備に徹するローポインターやチームとしての戦い方が気になってくる。そんな競技としての深さも魅力だと思います。

肥谷 本当にその通りですね。何度か観戦や見学をしているうちに、魅力はぶつかり合いだけじゃないと気づいたんです。オフェンス時の連携やディフェンスの仕方など、チームとしてとても考えられた動きをしている。それを知るほど観るのが面白くなり、魅力を感じられるスポーツですね。

――『マーダーボール』は日本ウィルチェアーラグビー連盟が監修として全面協力し、主人公・海野アサリが倉橋香衣選手を彷彿させるなど実際の選手がモデルになったキャラクターも数多く登場します。岸選手はマンガの制作に協力してほしいと言われた時、どのように感じましたか?

岸 ウィルチェアーラグビーはあまり知られていない競技なので、正直に言うと「マンガにして大丈夫なんだろうか? 面白いんだろうか? 読者はどう思うんだろうか?」と考えてしまいました。それでも描くというのならぜひいいものを作り上げて欲しいと思ったので、関係者みんなで協力していこうと決意しました。

肥谷 ウィルチェアーラグビーについてみなさんから教えていただいたことは、すべて『マーダーボール』に使っています。僕や担当さんがわからないことは読者もわからないと思うので、練習や合宿にお邪魔したときに「この練習はどんな内容なんですか?」「このプレイとこのプレイの違いは何ですか?」など、どんなことでも聞くようにしているんです。

岸 そういえば担当さんが突然動画を撮りに来たことがありましたね。

肥谷 それはある週のネームを描いているときに、対戦相手となる守備側の選手の配置をどうしたらいいのか分からなくなってしまったんです。このままではマズイと急遽担当さんにお願いして、練習場所でカメラを回してもらいました。おかげでその週の連載を無事乗り切ることができたんです。

岸 それは何よりでした(笑)。

肥谷 みなさんには本当に色々と協力していただいています。実は今でも練習にお邪魔するとピリピリとした緊張感を感じるので、「いきなり質問をしていいのかな」と考えてしまうんです。

岸 全然聞いてもらっていいですよ。大丈夫ですよ。

肥谷 練習を見ているときに選手の方たちと目が合うと、ドキッとしてしまうんです。「怒っているのかな」って……。

岸 そんなことないですよ。いつもどおりの練習やプレイを見せて、少しでも作品に描いてもらえたらいいなと思っているだけです。もしかしたら先生と目が合う選手は、「俺のことを描いてくれ!」とアピールしているのかもしれないですね(笑)。

――完成した『マーダーボール』はいかがでしたか?

岸 第1話を読んだときは「そうか、こんな感じになるのか」と思ったと同時に、「これからどう展開していくんだろう」と思いました。障がいのことも描かなければいけないし、競技のことも描かなければいけない。それを同時に描いていくのは大変だろうなと思いました。その後のストーリーでは、カレーの食材で指示を出すシーンが面白かったですね。

肥谷 各家庭によって入っていたり入っていなかったりする微妙なカレーの食材で指示を出すことも考えましたが、ややこしくなるのでやめました(笑)。

岸 最近の話では「究極の個人技だ」というセリフが出てきましたが、それは正しいと感じると同時に、それだけではないという思いもあります。しかしその方向で、今後のストーリーがどのように展開していくのか楽しみですね。

肥谷 今後の展開では……実は岸さんが登場します。

岸 えっ!? どんな感じで出てくるんだろう?(笑)

肥谷 メガネをかけていて、話し方もそのままです(笑)。

岸 楽しみにしています(笑)。そういえばラグ車に乗っている選手が僕たちが思っているより猫背になっているなど、実際のウィルチェアーラグビーとは違う描き方になっているところもありますね?

肥谷 マンガなので迫力を見せたい、それは激しすぎるほどでもいいと思っています。特に違う描き方をしているのはスピード感かな。実際の競技はそこまで速くないだろうと(笑)。

岸 そうかもしれません(笑)。

肥谷 あとはラグ車ですね。守備側のバンパーを長めに描いています。これも本物はそんなに長くないだろうと(笑)。

岸 でもそのほうがわかりやすいですからね。

――『マーダーボール』を通じてウィルチェアーラグビーに興味を持った読者も多くいると思います。そこから競技を観てみたいと感じた人に向けて、ウィルチェアーラグビー観戦のポイントを教えてください。

岸 「車いす同士でぶつかり合っているバカな競技を観に行こう!」という感覚でいいので、まずは観に来てもらえるとうれしいですね。基本的にはボールを持ってゴールすればいいという単純なルールなので、詳しく知らない状態で観ても楽しめると思います。知らない競技を観にいくというのは敷居が高いと思いますが、まだ観たことがない人は大会でも練習でもいいので、一度生で観てほしいですね。

肥谷 ルールがわからなくても、どちらのチームがどの方向に攻めているのかだけわかっていれば、それだけで単純に楽しめると思います。あとはある特定の選手だけを見てみる。最初はハイポインターがわかりやすいと思いますが、ローポインターを見続けるのも楽しいんです。

岸 そうやって見続けているうちに、細かなルールやチームとしての戦い方なども理解できると思います。ウィルチェアーラグビーは奥深い魅力を持った競技なんだと感じてもらえるとうれしいですね。

肥谷 魅力といえば実は私が最も好きなプレイは、サイドラインからインしようとしてくる選手を、岸さんが入れないようにずっと止めているところなんです。

岸 あれはほかの競技にはないプレイかもしれないですね(笑)。選手がコートに入れるかどうかギリギリのところで止めないといけない。少しでも間隔が狭いとファウルを取られるし、逆に広いと簡単に入られてしまう。うまくいくと自分も気持ちがいいプレイですね。

肥谷 あまりに深いプレイなので、まだ『マーダーボール』には登場させてないんですが、いずれマンガの中の岸さんが誰かに対して披露するかもしれないですよ(笑)

 

――『東京2020パラリンピック競技大会』への思いを教えてください。

岸 日本は2016年のリオで銅メダルを獲得しましたが、それで納得しているわけではありません。「東京で金メダルを獲る」というのがチームの目標です。まずは今年の8月にオーストラリアで行われる世界選手権に向けて、そして東京2020に向けて、確実に前進していきたいですね。僕個人としては、目の前の大会それぞれに対してひとつずつしっかりと臨み、その積み重ねによって結果が出ればいいなと思っています。代表でプレイするのは楽しいし、外国の選手たちと対戦するのも面白い。この楽しさはまだほかの人に譲りたくないですね。

肥谷 『マーダーボール』の連載を通じてパラスポーツの魅力を知ってしまったので、『東京2020パラリンピック競技大会』をとても楽しみにしています。そしてウィルチェアーラグビーの日本代表が、世界を相手にどんな戦いを見せるんだろうとワクワクが止まりません。2020年に向けた僕の役割は、『マーダーボール』をきっかけにウィルチェアーラグビーやほかのパラスポーツに興味を持ってもらうことですね。

――それでは最後に、お互いにエールをお願いします。

肥谷 これからも僕が好きなあのプレイを見せていただければと思います(笑)。ウィルチェアーラグビーの日本代表はとても強い。世界選手権、そしてパラリンピックでの活躍を楽しみにしています。

岸 テレビなどの映像ではなかなか伝わらなくても、マンガだからこそ伝わるという部分があると思います。そういった強みを発揮して、どんどん内容が深くなっていくことを期待しています。もちろんコアになり過ぎるのは難しいと思いますが、『マーダーボール』を読むことで「こんな戦略や戦術があるのか」と選手も気付かされるようなマンガになっていくとうれしいですね。

肥谷 そういったマンガになっていけるように、これからもよろしくお願いします(笑)。

岸 わかりました。よろしくお願いします(笑)。




■ウィルチェアーラグビーの世界を体験!! ぶつかるって気持ちいい!!

今回取材にお邪魔した「AXE」の休憩時間をお借りして、コミックDAYS編集部員がウィルチェアーラグビーに挑戦しました! 「AXE」の峰島 靖選手にご指導いただき、初めてのラグ車&ウィルチェアーラグビー体験の様子をお届けします。

…峰島 靖
「AXE」に所属、日本ウィルチェアーラグビー連盟理事。試合解説や体験会での講師を務めるなどウィルチェアーラグビーの普及活動を行いながら、選手として東京2020での活躍も目指している。

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◆ラグ車を自在にコントロールすることが勝利への鍵!

操作性を追求したラグ車は、初心者にはまっすぐ走らせることも難しい。タイヤを漕ぐ力の強弱、ブレーキング、上半身の体重移動など、ラグ車をコントロールするには単純に漕ぐだけではないテクニックが必要!
試合は長いときには1時間以上にも及び、最後まで走り続けるスタミナも重要なんです。

◆理想のパスは山なりに!ボールが描く美しい放物線は、ゴールへの架け橋だ!

パスはチームスポーツならではの醍醐味のひとつ。ゴール前に走り込む峰島選手にパスを通せたときの快感は病みつきになってしまうほど。肥谷先生もロングパスはウィルチェアーラグビーの魅力と語っていましたよ。

◆その衝撃は50G以上!? ラグ車同士のぶつかり合いを体験!


※gif画像となっています。動画が再生されない場合は再読込を行ってください。

車いす同時のぶつかり合いは体が宙に浮いてしまうほどの衝撃。試合では前後左右からぶつかられるので、車いすが横倒しになってしまうこともあるんです!体育館に響き渡るラグ車同士がぶつかった衝撃音は、迫力満点!

※選手指導のもと安全には十分注意して行っております。

 

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