【担当とわたし】『満州アヘンスクワッド』門馬司×鹿子×担当編集対談

コミックDAYSにて4月9日から連載がスタートし、大きな話題を呼んでいる『満州アヘンスクワッド』。そのコミックス第1巻が8月11日(火)にいよいよ発売となります。今回はそれを記念し、原作担当の門馬司先生と漫画担当の鹿子先生に、2人の担当編集を交えたスペシャル対談を実施! 激動の満州と、禁断の麻薬“阿片”を巡るスリリングなクライムサスペンスがいかに生まれ、描かれているのかを存分に語っていただきました。

コミックDAYSにて4月9日から連載がスタートし、大きな話題を呼んでいる『満州アヘンスクワッド』。そのコミックス第1巻が8月11日(火)にいよいよ発売となります。今回はそれを記念し、原作担当の門馬司先生と漫画担当の鹿子先生に、2人の担当編集を交えたスペシャル対談を実施!

激動の満州と、禁断の麻薬“阿片”を巡るスリリングなクライムサスペンスがいかに生まれ、描かれているのかを存分に語っていただきました。

…門馬司 『満州アヘンスクワッド』原作
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『満州アヘンスクワッド』第1話はコチラから!
…鹿子 『満州アヘンスクワッド』漫画
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…ヤングマガジン編集・白木 『満州アヘンスクワッド』担当
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…ヤングマガジン編集・かわかつ 『満州アヘンスクワッド』担当
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門馬先生の原作ネームが、鹿子先生の心を開いた!?

──最初に、門馬先生と鹿子先生のプロフィールをお聞かせください。

門馬司: 『満州アヘンスクワッド』でネーム原作を担当しています。もともとは普通に一人で描く作家だったんですけど、2年半くらい前からネーム原作として活動しています。
白木: 門馬先生には『満州アヘンスクワッド』だけじゃなく、マガポケで『ストーカー行為がバレて人生終了男』(原作:門馬司/漫画:芥瀬良せら)、ヤンマガで『首を斬らねば分かるまい』(原作:門馬司/漫画:奏ヨシキ)と、現在3作品を並行して連載していただいています。

鹿子: 僕は、大学で漫画を描きはじめて、読み切りデビュー後に『キングダム』の原泰久先生のところで5年間アシスタントをさせていただいていました。その後、某週刊誌で連載をしていたんですが、それが終わって手が空いたところを拾ってもらった感じです(笑)。

 

──鹿子先生はこの作品がコミックDAYSでの連載デビューとなりますが。

鹿子: 前の連載の後、自分で次の作品のネームを考えていたところ、なかなかうまくできずに燻っていたんです。そんな時にヤンマガの別の編集さんからとある企画で連絡をいただいたんですが、「今はちょっと難しいです」と断ってしまいました。そこに白木さんが『満州アヘンスクワッド』のネームを持ってきたんです。読んでみて、「これは凄いぞ!」となり、そこで心を開いて……(笑)。それから改めて企画を聞かせてもらったのがきっかけでした。
白木: その頃にちょうど僕が鹿子先生の前の連載作品を読んでいて、直接お会いしてみたかったこともあって、『満州アヘンスクワッド』の原作ネームをお持ちしたんです。

 

──企画立ち上げから連載が決まるまではどのぐらいの期間がかかったんですか。

白木: 3~4ヵ月くらいでしょうか。僕が最初に大枠の企画書を書いて、門馬さんにご提案してネームの打ち合わせをして、コミックDAYSで連載が決まって、そのあとに鹿子先生にお会いして……という流れでしたね。
門馬司: 作画が鹿子さんに決まってから連載が始まるまで、異様に早かったのは覚えてます。「えっ、こんな期間で連載できるの!?」ってくらい(笑)。
鹿子: 白木さんとお会いしたのが2019年の12月末くらいで、話をもらって手を付けはじめて4ヵ月くらいで連載開始でしたね。
白木: 鹿子先生は筆がとても速いうえに、めちゃめちゃ上手いんです。おかげさまで間を空けず連載が始められました。

 

──門馬先生は、どういった経緯で今回のストーリーを思いつかれたんでしょう。

門馬司: 『首を斬らねば分かるまい』で阿片が出てくる話をやった時に、白木さんから「阿片の話が面白いので、別でもう1本やりませんか?」という話が出たんです。それに僕が、「阿片なら、満州が舞台でどうですか?」とアイデアを出して。そこから始まりました。
白木: 元々麻薬密売モノは需要があると思っていて、何か企画を作りたいと思っていたんです。ただ、麻薬モノはドキュメンタリーが既にたくさんあって、単純にやるだけでは勝てない。その折に連載で近代の阿片のお話が出てきたので、この時代ならほとんどの人が見たことないし、歴史×麻薬モノの形にすればやれるんじゃないかと思って、企画書を作って打ち合わせの時にご提案しました。
門馬司: 僕も麻薬組織と麻薬取締捜査官の戦いを扱った『ナルコス』とか、そういった作品が元々好きだったんですよ。
白木: 門馬先生ならそういった題材は確実に得意だろうと思ったんです。ハッタリの描き方がすごく上手で、歴史の吸収力も尋常じゃなく高いですから。
門馬司: 現代日本を舞台にドラッグという題材を扱うのは難しいなと思っていたんですが、「阿片を題材にするのはどうか」と言われて、それなら、ちょっと前の時代の歴史と組み合わせれば面白そうだ、と。「その手があったか!」という感じでした。

 

──昭和初期の満州は、今まで漫画ではあまり扱われてこなかった時代ですよね。

門馬司: 作家の側から見て、昭和初期って漫画の題材にするにはまだそれほど時間も経っていないし、デリケートなところもあって触りづらいという感覚が正直あると思います。『満州アヘンスクワッド』も、最初に出した企画の段階では明治が舞台でしたし。
白木: 打ち合わせを重ねる中で門馬先生から満州という話が出てきて、結果として昭和初期の満州が舞台になった、という形ですね。
門馬司: いろいろ資料を当たっていたら、満州と阿片が深い関係にあったことに行き着いたんです。満州って、昭和初期のほんのわずかな間しか続かなかった王国でもあって、漫画の舞台にするのにもすごく面白いと思って。
白木: 第1話の冒頭で描かれている、満州国皇帝の奥さんの婉容(えんよう)が阿片中毒で亡くなったというのは有名な史実ですし、いろいろ調べていくと阿片が関わるエピソードがかなり残っているんですよ。

作中に登場する阿片窟。本作の時代背景となる日中戦争前から国際的な統制も始まっていた阿片だが、裏社会では多くの中毒者が生み出されていた。

門馬司: 作品のツカミはわりと「ああでもない、こうでもない」と毎回結構悩むんですよ。今回も「最初は芥子畑を映そうかな」とか、いろいろ考えて最後に出てきたのが、第1話の婉容を使うアイデアでした。

 

──鹿子先生は最初にネームをご覧になって、どんなイメージを持たれましたか?

鹿子: 最初、2話までのネームを見せてもらったんですが、「かっこいいチャイナ服が描けるな」と思いました(笑)。ストーリーのほうも、とにかくテンポがよくて、ページごとのヒキもすごく上手かったので読んでいて気持ちよかったですね。
門馬司: ありがとうございます!(笑)
鹿子: ネームをパッと見た時に、この話は自分の絵柄にも合っていそうだと思えました。それでお話を引き受けたんです。

この描き込みでアシスタントなし!?センスが光る作画の妙

──門馬先生のネームを漫画にしていく作業の中で、鹿子先生は何か意識されていることはありますか?

鹿子: 基本的には、いただいたネームで描かれているアングルをこちらでブラッシュアップしていく感じです。門馬先生が描いたネームの精度を高めていけば、それだけでいいなと思っているので。
白木: 鹿子先生はそう言われますが、担当として見ると、かなりネームとはアングルが変わっていますよ。
門馬司: 僕も完成した原稿を見て「ここ、ネームではどう描いてたかな…?」みたいに思うことがあります。漫画としてアウトプットされたものは、僕のネームのままでなく、やっぱり鹿子先生のオリジナルになっているんですよね。毎回、すげえなぁと思っています。
白木: 僕が特に印象に強く残っているのが、2話目にある麗華(リーファ)が桟橋で青幇の手下を銃で撃つ見開きです。ネームだとシンプルに横にいた男を「バン!」と撃っている構図だったんですけど、鹿子先生の原稿では桟橋の海面から見上げたアングルになっていて、月が浮かんだ夜空とかも入っていて。「こんな絵になるんだ…。鹿子先生、天才じゃん…!」と思いました。
門馬司: あれはすごかった。僕も見た時に震えましたね!ぜひ僕のネームと見比べてみてほしいです。

話題に上っている第2話のシーン。上が門馬先生のネーム、下が完成原稿。構図に大きな違いがあることがわかる。

 

──この時代の服装や道具などの作画資料は、どういったところで集めてらっしゃるんでしょうか?特に、阿片窟のリアルな雰囲気がすごいと感じたのですが。

鹿子: 自分で資料を探したりもしましたが、結局のところ最後は僕の頭の中に浮かんだものを絵にしているので、具体的にベースにした写真などはあまりないんです(笑)。多くが想像ですから実際の阿片窟の資料として見られると、ちょっと困ってしまいます。
門馬司: アレを想像で描いたんですか?すごいな……。
白木: これまでのアシスタントの経験も活かされている感じですかね?
鹿子: 中華風のうにょうにょした適当な模様はよく描かせてもらっていたので、そこは本作でも役に立っています。あとはモンゴルの馬……馬はもう、今までに死ぬほど描いたので(笑)
白木:確かにモンゴル民族の元から去るシーンの馬の描き方はめちゃくちゃ上手かったですね(笑)

 

──描き込みの緻密さも本作の見どころだと思いますが、鹿子先生はどのような環境で作画作業をされているんでしょう。

鹿子: 基本、絵を描くところに関してはアナログです。紙にペンで絵を描いて、それをパソコンでスキャンして、トーンなどの仕上げだけデジタルでやる形ですね。今は全部の作業を僕一人でやっています。
門馬司: えっ、まだアシスタントさんを入れていないんですか?
鹿子: 今はまだ。最初は余裕があるだろうと思っていたんですけど、やっぱり結構キツいですね(笑)。ただ、自分の感覚だと限界まで描き込んでいるという感じではないので、しばらくはできるところまでやろうと思います。
門馬司: 僕の方では、鹿子さんにどんな構図を投げてみようか、いつも考えていて。自分では到底描けないようなものも鹿子さんならすごい絵にしてくれると信じているので、ネーム上ではどんどん難しいアングルを描いてしまっています(笑)。
白木: ちなみに、これまでで本当に描くのが大変だったシーンはどこでしたか?
鹿子: 今のところは、やっぱり芥子畑ですよね。とりあえず物量が多いんで。でも、基本的に背景を描くのは楽しいんで、大丈夫ですよ。

「限界まで描き込んでいる感じではない」という鹿子先生だが、この芥子畑はやはり大変とのこと。

 

──キャラクターや風景を描くうえで、史実とフィクションのバランスに気を使っているところはあるんでしょうか。

鹿子: 人の服装や建物などはもちろん当時の雰囲気に寄せるんですけど、あまり寄せすぎないことも意識しています。ある程度は今っぽさも出しつつ、という感じで。ただ、それよりもまず門馬先生のネームに描かれている根本的なイメージがズレたらダメだと思うので、そこが崩れないように気をつけていますね。
白木: キャラクターに関してだと、鹿子さんはいろいろなパターンを考えたうえで、どんな相談でも応じてくださるんです。麗華とかも何回も直してくださいました。
門馬司: 僕がネームで描いていたものからも、けっこう変わっていますよね。

史実とフィクションのバランスを取る、歴史舞台の難しさ

──ストーリーを考えていらっしゃる門馬先生は、史実とフィクションのバランスを取る際に気を付けていることはありますか?

門馬司: 歴史をベースにする場合、史実に厳しい読者の方もいるのでなるべくなら当時起きた出来事や歴史の流れと、大きくズレないようにはしています。でも、史実とは違っても漫画として面白くなるのであれば、事実よりもフィクションを優先することが多いですね。『満州アヘンスクワッド』だと、「そもそも青幇(チンパン)のボスの杜月笙(とげつしょう)に娘がいたのか?」の部分。実際のことはちょっとわかりませんが、まあそこは「いたかもね?」くらいの感じで進めてしまってもいいだろうと(笑)。実在の人物に関わるところは、なかなか難しいです。

 

──大体どのくらいの割合でリアルとフィクションをまぜよう、みたいな指標は門馬先生の中にあるんですか?

門馬司: いやあ、難しいな……。半々か、リアルが6くらいでもいいかな……?くらいの感じですけど、それも場合に応じて変わります。基本的に歴史ものをやるときは、土台の部分には史実がガンとあった方が緊迫感や面白さが出ると思ってはいますね。やっぱりそこが崩れずに、なおかつ話としても面白くなるのが最高だなと思うし、そこは意識しています。
かわかつ: 人物に関しては本当にヤバかったらブレーキかける感じでやっていただいて(笑)。打ち合わせでは実在の人物をどう動かすかをよく話し合っています。
門馬司: 出したら絶対に面白いんですけど、危ない部分でもある。確実に史実通りに描くならいいんですけど、漫画で出す以上、やっぱりデフォルメする部分がありますから。現状でも、実在の人物をモチーフに名前を変えているキャラクターがいます。逆に、そういった人物は、これからの成り行きを楽しみに見ていただければいいんじゃないでしょうか(笑)。

 

──なるほど。ほかに意識されていることは…?

門馬司: 展開のテンポを速くすることは、かなり意識してやっています。チンタラやらずに、どんどんステップを駆け登っていくように読んでもらえるように心がけています。
かわかつ: 現在進行中の連載でも満州からモンゴルに行って、さらに舞台が新京に移って、そこでひと悶着あってからの……と目まぐるしく話が動いています。でも、最初は芥子畑を手に入れるためにモンゴルに行くとか、そういった予定はなかったですよね。
白木: 奉天ヤマトホテルの上に芥子畑があるっていう設定でした。「でもこの時代、もう飛行機があっただろうし、さすがに屋上が畑になっていたらバレるんじゃない…?」という話が出て、熱河省に行くことになり、そしたらバータルが仲間になって(笑)。
門馬司: 熱河省は、当時実際に阿片の名産地と言われた場所で、「土がいい」みたいな話も全部本当なんです。あそこに行ってくれたことで、バータルが登場して、密輸にまつわる話もできて、結果的にとてもいい形になったと思っています。

新たな芥子の栽培地を求める勇と麗華が熱河省で出会うモンゴル民族。馬を描きなれた鹿子先生の筆致が冴えわたる。

かわかつ: バータルが出てきたところでチームがすごく和やかになった感じはありますよね。今まで主人公である日方勇(ひがたいさむ)の仲間にはコメディリリーフ役がいなかったのですが、バータルが入ったことで仲間同士のやり取りもすごく面白くなったと思います。
門馬司: 鹿子先生のデザインもいいんですよね。ちょっと女性にだらしない気のいい兄貴感がちゃんと出ていて(笑)。

鹿子先生がご自身のTwitterアカウントで公開しているバータルのキャラ設定資料。

 

──仲間というと、最初に登場した麗華に加え、リンやヤオリーも仲間になってと、勇の周囲に女性キャラが増えて、なんだかハーレムっぽくなりつつあるような……?

門馬司: やっぱり漫画として読む上で楽しいに越したことはないので。阿片とか満州とか、題材が重いだけに、そういう崩しの要素というか、ドキドキワクワクできる要素も意識して取り入れています。男女の恋愛からいろいろ動くドラマもありますし、入れておいて損はないだろうという感覚です。

 

──今の勇は、麗華をはじめ仲間に引っ張られて行動している部分が大きいように思いますが、ここからさらに彼が一念発起して行動する姿も描かれていくんでしょうか。

門馬司: あまり詳しくは言えないですけど、あるでしょうね。麗華と勇の関係も、今は仲良くやっているように見えますが、実はその関係は細い糸の上に乗っているようなもので、誰かが起こした行動でそれが崩れるかもしれない。その時に勇がどうするか、麗華に限らず仲間たちとの関係がどうなるのかは注目してほしいところです。

同じくキャラ設定資料より。先生曰く「麗華は一番キャラデザに時間がかかったように思います」とのこと。

 

──最後に読者に向けたメッセージをお願いします。

門馬司: なかなか描かれたことのない題材と、描かれたことのない舞台でやっている漫画です。いろんな意味でかなり危険なんですけど、非常に素晴らしい作画家さんにも恵まれて、面白いものになっていると思います。鹿子先生と共に素晴らしい漫画にしていきたいと思いますので、ぜひ読んでみていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
鹿子: 僕は作画を担当させていただいている立場ですが、それと同時に、門馬先生の描く物語を読者の1人として楽しませてもらっていて、その意味では一般の読者の方と同じなんですよね。『満州アヘンスクワッド』はこれからもっと、絶対に面白くなっていくと思いますし、僕もその魅力を伝えるために頑張りますので、ぜひ読み続けてみてください。
白木: 門馬さんの歴史&麻薬への圧倒的知識と、鹿子さんの超絶画力が、がっちり噛み合っているすごい作品だと思います。近年まれに見る「攻めた」作品ですので、ぜひ多くの方々に読んでいただけるとありがたいです。
かわかつ: 僕は途中から担当編集として参戦したのですが、最初に出来上がったネームを読ませていただいて、満州が舞台で、テーマも刺激的で、さらにスクワッドとしての下克上要素もあってと、美味しいところばかりの内容だと思いました。回を重ねてその要素がさらにおもしろくなっていますし、先の読めない展開が今後も待ち受けているので、ぜひ読み続けていただけると嬉しいです!

 

『満州アヘンスクワッド』第1巻発売中!

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