【特別対談】あの『Deep Love』シリーズが10年の時を経て復活! 『Deep Love Again』連載スタート記念 原案・Yoshi×漫画家・久嘉めいら特別対談

9月9日からスタートした新連載『Deep Love Again』の原案・Yoshiさんと漫画を担当する久嘉(ひさか)めいらさんの対談が実現! シリーズ累計270万部と一世を風靡したケータイ小説『Deep Love』の作者・Yoshi先生と、『Deep Love』のリアルタイムの読者でファンだったという久嘉先生。連載スタートを記念して、お二人に『Deep Love』シリーズにまつわる思い出やエピソード、そして続編『Deep Love Again』の制作秘話までたっぷり語っていただきました

9月9日からスタートした新連載『Deep Love Again』の原案・Yoshiさんと漫画を担当する久嘉(ひさか)めいらさんの対談が実現! シリーズ累計270万部と一世を風靡したケータイ小説『Deep Love』の作者・Yoshiさんと、『Deep Love』のリアルタイムの読者でファンだったという久嘉さん。連載スタートを記念して、お二人に『Deep Love』シリーズにまつわる思い出やエピソード、そして続編『Deep Love Again』の制作秘話までたっぷり語っていただきました。

……Yoshi
『Deep Love Again』原案者。「自分たちで波を起こそう」と携帯サイト「zavn」を立ち上げ、“ケータイ小説の生みの親”として、さまざまな作品を発表。代表作『Deep Love』シリーズのほか、『Dear Friends』『恋バナ』『翼の折れた天使たち』など作品多数。

……久嘉めいら
『Deep Love Again』漫画家。デジタル少女漫画誌「モバフラ」で『舐めたいエゴイスト』『優等生の遊び方』などを発表。現在ウェブコミック配信サイト「モバMAN」で『情交』連載中。

■夢中で読んで、携帯没収!? 『Deep Love』大ヒット当時の思い出は……

――まずは、前作『Deep Love』シリーズにまつわるお話から伺いたいと思います。『Deep Love』ははじめに携帯サイトで配信され、書籍はシリーズ累計270万部と大ヒットしましたが、そもそも配信を始められたきっかけはなんだったのでしょう?

Yoshi:ドコモの「iモード」によって個人で作品を発信できると知り、「zavn」というサイトを作ったことがきっかけです。サイトに来てもらうためのコンテンツを考えて、小説かなと思ったんです。でも書いてくれる人は周りにいないので、自分で書くしかない(笑)。それで、5分ぐらいで構想を考えて第1話を書きました。

久嘉:5分ですか!?

Yoshi:はい、ネットはスピードが命ですから(笑)。

――『Deep Love』は援助交際、ドラッグ、レイプなど過激な内容が印象的ですよね。なぜあの内容にしようと?

Yoshi:予備校教師をしていたので、若者向けの作品にしたかったんです。また、当時は援助交際が社会現象だったことが大きいですね。読者に考えるきっかけにしてほしいと思ったんです。「愛」がテーマなので、愛を通して自身を見つめ直す物語になればと思いました。

久嘉:確かに、『Deep Love』というタイトル通り、「深い愛」がテーマになっていますよね。

Yoshi:そうなんです。はじめは、みんなただのエロ小説だと捉えていたと思うんですよ。感動的な物語なんて誰も期待していない(笑)。援助交際のシーンがずっと続くんだと思われていました。

久嘉:過激な描写に引き込まれて、「お!?お!?」と読み進めちゃうんですよね(笑)。でも、過激なストーリーの中に、おばあちゃんとか犬のパオとか、すごくきれいな存在がいて。おばあちゃんが死んだシーンは自然に涙が出てきました。

Yoshi:おばあちゃんが戦争を回想するシーンを入れるときは怖かったんですけど、結果的にはそこでアクセスが3倍に増えました。一方で「こんなもん小説じゃねえ」という感想も多かったですよ。だけど僕は、伝えたいことをたまたま小説という手法で書いていただけなので……。予備校教師をしていて「伝える」という技術はプロだったことも大きかったのかなと思います。

久嘉:予備校教師という土台が生きたんですね。

Yoshi:そうかもしれません。自分が書いたもの、考えたことが人に影響を与えることが、究極の喜び、生きた証だと思うんです。それが創作のモチベーションです。

――久嘉さんが『Deep Love』を読み始めたきっかけはなんだったのでしょう?

久嘉:友達から激推しされたんですが、冒頭から過激な文章で、止まらなくなっていました。でも当時iモードって定額制じゃなかったからパケ代がとんでもないことになって、親に怒られて携帯を没収されたり(笑)。

Yoshi:全部読むと1万円ぐらいになっちゃうんですよ(笑)。

久嘉:ショッキングだったのは、アユが義之の父親と関係を持ってしまうシーンでしたね。え? こんなことが!?……と思いました。

Yoshi:正義と悪を対比させて書きたかったんです。アユが男の子を救うために体を売るというのは、はたして正義なのか悪なのか、読者に考えてほしかった。だから久嘉さんに衝撃的に感じてもらえたというのは、「受け止めてもらえたんだ」とうれしいですね。

久嘉:なるほど……。確かに義之の父親もそうですけど、作中では愛とは程遠い人物がたくさん出てきますよね(笑)。

Yoshi:出てきますね(笑)。

久嘉:だからこそ、そのテーゼがより引き立っていると思います。深い愛というテーゼを見せるためには、アンチテーゼをとことん見せなければいけないので、「作品ってこうやって作るんだ……」と勉強になりました。

Yoshi:恐縮です(笑)。久嘉さんは、読んでいただいていた当時は、もう漫画を描いていたんですか?

久嘉:投稿とかはまだしていなくて、周りに内緒でノートに描くだけで。『Deep Love』を読んで、印象的なシーンをイラストに描いたりしていました。

Yoshi:特に思い入れのあるキャラクターはいますか?

久嘉:一番共感されやすいのはレイナかなと思うんですよね。頭はよくないけど根は悪い子じゃなくて、悪気はないけどつい間違いを犯してしまい、どんどん運命に翻弄されてしまう女の子。リアルな世界でも、ああいう気質の子はたくさんいるんじゃないかと思います。

Yoshi:レイナに比べてアユの方は、よりかっとんだ存在で描いていますからね。そこに読み手が衝撃を受けてくれるんですが、レイナの場合は等身大の女の子を意識して描いていました。

↑『Deep Love Again』プロローグ。『Deep Love』に登場するレイナの姿が……!

■「生きる意味を見つけづらい時代」だからこそテーマは“深い愛”に

――今作の連載がスタートするまでを伺いたいのですが、そもそも、なぜ続編を始めようと考えたのでしょうか?

Yoshi:今という時代が、『Deep Love』を発表した2000年前後と似ていると思いました。むしろ、より問題が深刻になっていると思ったんです。それが大きなモチベーションでした。当時は「お金第一」主義が広まっていて、その中に援助交際もありました。お金のためなら何を売ってもいいという考え方ですね。

久嘉:なぜあのような風潮が生まれたんでしょうね?

Yoshi:バブル崩壊の後でしたからね。援助交際については、「悪いと思いながらも、ちょっと流行っていた」面もありました。今は性を売ることは、もはやビジネス、バイト感覚になっています。特別悪いことじゃない、という考え方ですよね。たとえば仮想通貨とか現物じゃないものを売っていたりしていて、世の中的に「なんでもあり」という部分が表出していると思うんです。

久嘉:確かにそうですね。

Yoshi:その根源は何かと言ったら、「生きる意味を見つけづらい」ということがあると思うんです。 やはり、そこは「愛」なのかなと思ってます。だから漫画では、久嘉さんと話し合って「深い愛」をテーマにしていこうと決めたんです。

久嘉:最初にお会いしたときにも、「愛」についてお話ししましたよね。

Yoshi:お会いしたとき、久嘉さんが「本当の愛って何か、今悩んでいるんです」とおっしゃって……じゃあ、それを描けたらいいね、と話しました。久嘉さんが等身大で悩んでいることをぶつけてくれたら、面白くなると思ったんです。それが「久嘉さんと組みたい」と思った最大の理由かもしれません。

■久嘉さんの絵はぴったりだった!? 『Deep Love Again』制作秘話

――久嘉さんが『Deep Love Again』の漫画を担当する、というのはどのように決まったんでしょう?

久嘉:ツイッターで担当編集の方から打診されたんです(笑)。

担当:私がツイッターでナンパしました(笑)。そもそも最初はヤンマガ&コミックDAYSから、女性誌であるビーラブ編集部に企画の話がきて……漫画家さんを探している中で、久嘉さんの描く作品の「激しさ」は『Deep Love』にぴったり合うなと思いまして。

久嘉:自分で言うのも変ですが、お話を聞いてまず、「私の作風で『Deep Love』か……なるほど!」と納得しました(笑)。

担当:暗さや、業の深さ、激しさが久嘉さんの持ち味なんですよね。ドロドロ系(笑)。

久嘉:昼ドラみたいな漫画を描いているので、それも『Deep Love』に合っているのかなと思いました。だから話を聞いてめちゃくちゃうれしかったですね。

――Yoshiさんと久嘉さんの打ち合わせは、どんな感じで行われているのでしょうか。

担当:最初に久嘉さんに描いていただいたネームをYoshiさんが見る、という形ですね。ネームをもとに打ち合わせしています。

Yoshi:ストーリーは久嘉さんがメインで作っています。僕が原作を描いたら、久嘉さんには原作そのままを描いてもらうだけになってしまうかもしれないので、今回は原案だけ担当しようと決めていたんです。その分、お互いに悩みが多いですけどね(笑)。

久嘉:Yoshiさんはプロデューサーだと思っているんです。最初に大まかな構成や流れを打ち合わせして、テーマを「深い愛」に決めて、そこから着想を得て描く、という感じですね。

Yoshi:骨組みを話して、久嘉さんに肉付けをしてもらう、というイメージです。はじめに久嘉さんと「愛についてどう思うか」などをかなり話し合ったんです。だから核となる部分の共有はしっかりできていると思いますね。最終的に、久嘉さんと自分の世界観が融合した形になれたらいいですね。

――久嘉さんにゆだねて、作品がどうなるかを楽しんでいる、と。

Yoshi:そうですね。どうしてもこうしてほしい、というところだけ伝えます。

久嘉:これまでに結構、紆余曲折はあって……。たとえばレイナを引き続き登場させて主人公にしようかとか話し合いました。最終的にはまったく違う主人公を立てましたが。

Yoshi:僕としては、あまり原作に引っ張られすぎないように、久嘉さんに自由に描いてほしかったんですよね。たまに先輩面して言うことは、「大事なのは僕たちがどう思うかじゃなくて、読んだ人がどう思うか」ということですね。ストーリー展開もどう読者を裏切るか……とか、そういう部分は気になります。だから久嘉さんが出してきたものを楽しみにしています。

――どうしてもこうしてほしい、というポイントとは、具体的にはどんな部分ですか?

Yoshi:やっぱり愛の部分ですよね。ここを久嘉さんがどう描いてくるか。「ああ、俺より深いなあ……」というのが理想です(笑)。ときにはアドバイスをすることはあるかもしれませんが、それを採用するかは久嘉さんの判断でいいと思います。

久嘉:ありがとうございます。私はこの『Deep Love』という作品に自分を選んでくださった意味を大事に描いていきたいですね。普段の漫画で出している持ち味をフルに発揮したいですし、そのうえでYoshiさんの要望を取り入れて、より良い作品にできればと。1+1が100になるように頑張りたいですね。

――はじめにあがってきたゲラを見て、どういう感想を持ちましたか?

Yoshi:「絵がうまいなあ」と(笑)。僕もコミカライズはいっぱいやったので、合う、合わないはすぐ分かります。僕の知り合いの女の子たちに、久嘉さんが描いたアユのイラストを見せてみたら、みんな「アユっぽいですね」って言うんです。やっぱり、そこの“当て勘”がなにより大事だと思う。 あと、久嘉さんのほかの作品を読んで、人間の暗い部分を描こうとしているところが似ていると思いました。鋭いところを突くんですよ。

久嘉:ありがとうございます! 『Deep Love』の当時の読者って、今は30代ですよね。読者当時の10 代の頃思っていた「愛」と、30代で出会う「愛」の違いを出せればいいなと思っています。子供の生命を親としてどう守るべきなのか……など10代では考えることがあまりなかった愛を盛り込んでいけたらと考えています。

↑紆余曲折の末、主人公は病気の子供・里麻を持つ楓に。親としての愛など、新しい“深い愛”が描かれていく。

Yoshi:そこが、前シリーズで僕が考えていたことと共通しているんです。つまり読者に「考えてもらいたい」ということですね。簡単には答えが出せない部分を描くのは、本当に難しいですよね。そこにチャレンジするのに、久嘉さんはぴったりなんじゃないかなと思うんです。

久嘉:今まで自分の作品で、たとえばいろんな人の目線での同性愛なども描いているんですが、考え方のぶつかり合いを描くのが面白いんです。面倒くさいキャラほど「すごく分かる」と共感してもらえることが多いので、生々しい感じをたくさん描きたいですね。原作リスペクトを忘れずに。

――では、『Deep Love Again』で特に注目してほしいポイントはどこでしょう?

久嘉:主人公の楓は、当時の『Deep Love』の主人公と同じで愛に飢えているんですが、それゆえ愛に憧れているという面もあるんです。だからこそ子供を産んだりするわけですが、でも実は「愛こそが一番怖いものだった」と知ることになります。自分の価値観が根本から覆されることになる、そこを描くのが今から楽しみですね。

Yoshi:当時は読者も若かったので、深いところまで描いても分からない部分があったと思うんです。でも愛は見る角度によっていろいろな形がある。そこを考えさせる漫画を久嘉さんなら描けると思っていて、その中で読者が自分なりの愛を感じてくれたら面白いかなと期待しています。

■主題歌は西野カナ!? スマホならではのアイデアが続々

――ところで、コミックDAYSで連載する印象はいかがですか?

Yoshi:もはやコミックは紙よりネットで読む方が普通ですし、特にスマホは合っていますよね。新しい読者が広がっていく媒体だと思っているので、非常に期待しています。読んで面白かったらすぐ友達に紹介できるのも良さですよね。

久嘉:当時の『Deep Love』もiモードで読む小説でしたし、今回の漫画もまたスマホなどのモバイル端末で読んでもらえるのはうれしいですね。

Yoshi:携帯とかスマホって画面に集中できるので、映画館のような感覚で読めるんですよね。当時も、布団の中で読めるようにわざと夜中に配信したり、「こういう音楽をかけて読んでほしい」とか要望を出したりしていました(笑)。そういう試みもやってみたいですね。シーンごとに音楽が流れたりとかね。主題歌を西野カナに頼みたい(笑)。

久嘉:(笑)。

――Yoshiさんは、ヤングマガジン編集部から小説版『Deep Love』も刊行されるとか…。

Yoshi:かつての『Deep Love』の第一部をリライトしたものを刊行する予定です。当時の読者も大人になっているので、そうした人たちに向けて、こちらでは「生きる意味」をテーマにしています。

久嘉:どのぐらいリライトしたんですか?

Yoshi:全面的に変えています。主人公はアユのままですが、出会う人たちがいろいろ変わっていて、以前より深みのある内容にしました。“アニメ化”が目標なので、その原作になることをイメージして描いています。

――最後に、連載を楽しみにしている読者の方へメッセージをお願いします。

Yoshi:実は『Deep Love』第一部を発表してから18年ぐらい経っているんですよね。18年経って、当時の読者も新たな悩みがいっぱい出てきていると思うので、もう一度考えるきっかけにしてもらえたらなと思います。

久嘉:私は原作の『Deep Love』の持ち味を存分に生かしつつ、当時の読者の方が楽しんでいただけるように描きたいと思うのと同時に、私にしか描けない『Deep Love』にしたいと思っています。

Yoshi:潜在読者はたくさんいるはずなので、コミックDAYSにはトップページでデカく扱ってほしいです(笑)。

――始まったばかりの『Deep Love Again』がどうなっていくのか、楽しみにしています! 本日はありがとうございました。