【特別対談】『デガウザー』渡辺潤×『ブルーストライカー』柴田ヨクサル 師弟対談!

『デガウザー』『ブルーストライカー』渡辺潤×柴田ヨクサル対談

コミックDAYSで大人気連載中の『デガウザー』を描く渡辺潤先生と、同じく大好評連載中の『ブルーストライカー』の原作を担当する柴田ヨクサル先生。30年近くもの間、「ヤングマガジン」で多彩な連載を続けてきた大ベテランと、力強いセリフとスピード感あふれる物語で読む者の心を熱くする“鬼才”が、実は師弟関係だったことをご存知でしたか? 今回は、7月11日(水)の『デガウザー』第1巻発売を記念して、特別対談をお届けします! スペシャルプレゼントの情報もお見逃しなく!

…渡辺潤
1990年「ヤングマガジン」『代紋(エンブレム)TAKE2』(原作:木内一雅)の作画担当として連載デビュー。同作完結後も、『RRR(ロックンロールリッキー』『三億円事件奇譚 モンタージュ』『クダンノゴトシ』と同誌で多彩な作品の連載を行い、さらなる人気を集める。2018年より「コミックDAYS」で『デガウザー』を連載中。

…柴田ヨクサル
1992年「ヤングアニマル」にて『谷仮面』でデビュー。その後、同誌連載の『エアマスター』、「週刊ヤングジャンプ」連載の『ハチワンダイバー』が、それぞれアニメ化・ドラマ化されるヒットを飛ばす。その後も「イブニング」『妖怪番長』を連載し、その続編ともいえる『カイテンワン』、「月刊ヒーローズ」で『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』を連載中。「コミックDAYS」でも、『ブルーストライカー』(作画・沢真<さわ まこと>)の原作を担当している。

■泊まり込みもアリ! 合宿のような仕事場で出会った師弟

――まずはお二人の関係から。柴田先生は、デビュー前に渡辺先生のアシスタントだったそうですね。

渡辺 僕が『代紋TAKE2』の連載をしていたころに、ヨクサルくんが「ヤングマガジン」(以下「ヤンマガ」)で賞を獲って。そのころに僕がちょうどアシスタント募集をしていて、紹介されて来ることになったんだよね。

柴田 ええ。受賞したときはまだ北海道にいて、それを機に漫画家になるために上京しました。

――もう30年近く前のお話になりますが、当時の柴田先生の印象はどうでしたか。

渡辺 頭のいい子だなと感じましたね。仕事もすごくできるし。僕が20代前半で、彼が10代終盤。まだ、プロの現場というよりは合宿みたいな感じでしたね。みんなで買い物に行って、料理を作って。

担当 渡辺さんのところは、昔から今と同じスタイルだったんですか?

渡辺 そう。泊まり込みで作業をしてもらっていました。でも、当時はもっとボロいアパートで、みんなでザコ寝をしてた。

柴田 昔の漫画家のスタイルですよね。今のような在宅アシスタントなんて考えられなかった時代で。僕も『ハチワンダイバー』(以下『ハチワン』)まではアナログで描いていましたが、仕事場は渡辺先生のところと同じ雰囲気でした。

渡辺 最近だと、デジタルで描いている漫画家さんはアシスタントと一度も直接会わずに仕事する場合もあるそうですけど、僕からは考えられないです。直接会わないと、どうニュアンスを指示していいかピンと来ないし…。古いタイプなのかな(笑)。

柴田 僕がいたころから30年近くスタイルを変えずに週刊連載を続けているって、すごいですよね。先生みたいな大物の漫画家さんってだんだん描かなくなっていくじゃないですか。キツくないですか?

渡辺 『代紋TAKE2』の連載を終えて、数年休んでいた時期があったんだけど、その時は漫画家をやめようかとも思ってたんだよ。

柴田 えっ、そんなこと考えてたんですか!?

渡辺 漫画描くのってキツいもん(笑)。でも、僕の師匠で同じ学年のハロルド作石先生が新しい意欲作を描き続けているのを見ると、置いてかれるような感じがしちゃって…。その時期、ヨクサルくんも『ハチワン』でガンと出てきたよね。上と下に挟まれて、「あっ、僕もやらなきゃな」と思わされた(笑)。

■柴田先生も絶賛の“線の上手さ”で描かれる『デガウザー』

柴田 渡辺先生がやめたらもったいないですよ! 渡辺先生の持っている“線の上手さ”って技術として圧倒的で、僕は日本一だと思ってますよ。あの線はアナログでしか出ないし、もう普通の漫画の中では絶滅しかかってるといっていい。

渡辺 いやいや、それは言い過ぎでしょ?(笑)

柴田 今連載している『デガウザー』も、その線を見られるだけでも本を買う価値があると思いますよ。昔ながらの職人さんって、いるじゃないですか。最終的に“良さを追求していくしかない”みたいな境地にたどり着いた人。渡辺先生もそれですよ。

↑渡辺先生が「コミックDAYS」で連載中の『デガウザー』。人物の線の美しさに注目!

渡辺 じゃあ、仕上げをデジタルでしちゃったら価値がなくなるってこと?

柴田 そうじゃなく“デジタルで描いても出ない線”なんです。デジタルで描く場合、細かい部分はペンのサイズを下げて描くんですが、アナログのペンで描くのと違って、質感みたいな部分が均一化された同じ線になっちゃう。その差がカケアミの“抜き”とかに出るんです。

担当 渡辺先生の原稿は“芸術的”ですよね。『デガウザー』もそうですが、僕は『クダンノゴトシ』の第1話のクダンが出てくる場面で衝撃を受けました。

↑担当編集が衝撃を受けた『クダンノゴトシ』のクダン登場シーン。

柴田 以前、渡辺先生が「僕の原稿ってトーンを貼らない状態のほうがきれいなんだよね」って言われてたことがあって。生原稿だとそれが本当にわかりますよね。

担当 本当にきれいなんですよね。

柴田 漫画って、トーンを貼ることでいかにも漫画らしいメジャー感が出ますけど、人物の線だけを見る場合、トーンは線のきれいさを消しちゃうんです。何も処理を入れていない渡辺先生の生原稿の線を見ると、うっとりするぐらい美しいですよ。

――あくまでも線を見るなら、線画だけの状態が一番美しいんですね。

柴田 僕がアシスタントをしていた当時からそうでした。だから、『デガウザー』もぜひ紙のコミックスで、線をじっくり見てほしいですよね。

■アナログの巨匠が「コミックDAYS」で連載を始めた理由とは?

――今まで、紙の雑誌の媒体を中心に描いてきた渡辺先生が、デジタルの「コミックDAYS」で連載を始めたのは、どういった経緯があったんでしょうか。

渡辺 最初は「ヤンマガ」本誌で新しい連載を始めるつもりで打ち合わせをしていたんですが、僕の担当さんが2人とも「コミックDAYS」に関わりがあって。

――そういえば、雑誌と兼務のスタッフも多いですよね。

渡辺 それで、「コミックDAYS」でやるっていう選択肢もあります、と話をもらったんです。最初は僕も気乗りしなかったんだけど、彼らが「社運をかけてますから!」というし…。

担当 実際に社運をかけてます!(笑)

渡辺 あとは漫画家として年齢を重ねてきて、今の自分がこれまでとあまり変わってないように感じたんだよね。本人は一生懸命頑張っていても絵はそんなに大きく変わらないし、世界観を変えても構成には自分の癖が出てしまう。

――漫画家さんの作風と直結する部分ですから、変えるといっても難しいですね。

渡辺 その状況で、「ヤンマガ」本誌で違う作品を連載しても「ああ、今までやってきたことと一緒だな」感が自分の中に出てくるんじゃないかという予感があって。

――“飽き”みたいなものとは違う…“慣れ”のような感覚でしょうか。

渡辺 『モンタージュ』を始めたときは「えっ、「ヤンマガ」でミステリー?」という雰囲気もあって。でも成功したから、次の『クダンノゴトシ』はホラーにして、従来の「ヤンマガ」の読者ではない、OLさんとかの女性層をちょっとイメージして描いたんです。

柴田 『モンタージュ』以降、続きを見たくなるようなサスペンス作品も、渡辺先生のお得意になった感じがありますね。

渡辺 自分ではそんなに得意だとは思っていないんだけど…(笑)。「ヤンマガ」での連載もそれなりの感触はあったんだけど、連載終了後に「LINEマンガ」とかに再録されたら、「ヤンマガ」読者じゃないお客さんから、違った反応がもらえてね。

――デジタル媒体だと、想定に入れていた女性読者が触れることは多そうです。

渡辺 そう。あと、スマホで漫画を読む若い子たちは過去の作品を知らないから、30年近くやっている僕も、まったくの新人と一緒の立場で読まれることになるんですよね。

担当 『クダンノゴトシ』は「LINEマンガ」とかでめちゃめちゃ反響があって、売り上げもよかったです。

渡辺 その時に、デジタル媒体の可能性を実感したんですよね。

――最近はデジタルで過去の作品も手軽に読めるようになり、先生の過去作品のように完結した作品を積極的に選んで読む読者も増えている印象がありますね。

渡辺 スマホで漫画を読む新しい読者にとっては、昔の作品も新しい連載も、同じ扱いなんだと思います。極端な話、デジタル媒体って初めて連載する新人の漫画と、手塚治虫先生の漫画を同じ扱いで選ぶ読者が多い世界だから、ワクワクすると同時に怖い場所でもありますよね。

――新人と、手塚治虫先生が同じ土俵で戦うみたいな感じですね。

渡辺 また、僕やヨクサルくんのように過去作がある人にとっては、昔の作品が今につながるところもあります。僕自身、自分では好きだけどあまり世間に浸透しなかった『RRR(ロックンロールリッキー)』っていう作品があるんですが…。

――先生がおひとりで描かれた、「ヤンマガ」連載第2作ですね。

渡辺 もう10年前の作品ですが、それがデジタル配信されて読んだという人からファンレターをもらって、それがすごく嬉しかった。自分の過去の作品が読まれる機会が増えたことで、今の新しい読者に評価してもらえるって、ありがたいことですよ。

担当 デジタルだと、タイトルや作家名で検索してすぐに読めますから、過去の名作につながりやすくなりましたね。

渡辺 その一方で、新しい『デガウザー』は、ヤクザあり、ボクシングあり、都市伝説ありという、“渡辺潤の集大成”みたいなものにしたいとも思っていて。

担当 見てもらうとわかりますが、『デガウザー』にはそれらの要素が全部出てきてます(笑)。

渡辺 そういう漫画を、デジタルという自分にとって新しい場所で連載をすることで、今までとまた違ったチャレンジができると思った。それが「コミックDAYS」で連載することになった理由です。

――『デガウザー』はデジタル媒体に向けた新作ということで、戸惑われた部分もあったのでは?

渡辺 デジタルでの入稿になって、最後の仕上げをコンピュータ上でしてもらう形なので、僕の手元に残る紙の原稿がこれまでの連載と違い“描きかけ”なことには戸惑いました。

担当 最終原稿は必ず渡辺先生が紙に印刷してくださって、それを打ち合わせ場所で確認しています。最近の作家さんだとメールでデータを送って、それで確認という方も多いですが。

渡辺 そこは、やっぱり自分の目でちゃんと見ないと把握できないから。

――描くときに、コマ割りなどの表現手法を変えた部分があったりはしましたか?

渡辺 構成の話だと、見開きという概念がないことにはちょっと悩みました。最初のうちは構成の選択肢が減って「武器を奪われた」感がありましたね。

担当 そこの違いは大きいですね。見開きを上下2段のコマに分けて見せるとかも難しくなりますから。

渡辺 コマ割りも、スマホで読むことを考えて、なるべくシンプルにしようと意識しています。見づらいと思われると読み飛ばされてしまうし、そういったバランスを取るのは難しいですね。

柴田 僕は最近ではいろいろ諦めて、デジタルの連載でも見開きを使わせてもらってます。もう辛抱たまらなくなっちゃって(笑)。

渡辺 『デガウザー』では最初に見開きを使ってしまって、紙と違うことに気付いて途中でいったん封印したんです。でも今は逆に、見開きをスマホのスライド操作で見せることを意識して、一度に全体が見えないからこそ意味があるような描き方に挑戦しています。

担当 19話以降で見開きの出ているエピソードを注意して読むと、そうした工夫がされている部分がわかりますよね。

渡辺 でも、将来スマホの画面が折りたたみになると、また見開き構成が当たり前に使えるようになるかもしれないし、そこは環境が一気に変わり得るデジタルならではの難しさだと思います。

――確かに、ガラケーからスマホのような急激な変化が、この先も十分あり得ます。

渡辺 とはいえ、本来の“漫画の形”を意識しておけばいろいろな演出にも対応できますから。これから漫画家を目指す人は現時点の状況や、ひとつの表現手法に縛られないほうがいいでしょうね。

■自分の物語を別の人が描く。そこから新しいものが生まれるのが“原作”の楽しさ

――柴田先生が『ブルーストライカー』の原作を手掛けることになった経緯はどうでしょう?

柴田 少し前に「週刊ヤングジャンプ」の『プリマックス』で原作を経験して、自分じゃない人が作画をしたほうが面白くなるのが分かったんです(笑)。テーマは、ストリートファイトができるアプリゲームというアイデアに対して、単純に僕が昔から好きだった“特撮”と、“年齢を重ねたけれど何も持たない男が頑張る姿”を重ねたもの。僕自身の、頑張る気持ちを描いている部分もありますね。

渡辺 原作だけ担当だと、“ヨクサル汁”みたいなエキスはなくなっちゃうんじゃない?(笑)

柴田 代わりに僕、可愛い子が描けないですから…(笑)。でも自分の考えたお話を違う人が描くと、新しいものができて楽しいんです。それの楽しさを覚えたので、また原作をやらせてもらうことになりました。作画を担当されている沢先生は「コミックDAYS」の作画コンペで選ばれた方で、やる気も実力もすごいですよ。

渡辺 ヨクサルくんの原作ってネームを描いて渡す“ネーム原作”でやってるよね。自分でも絵を描く人だから聞いてみたいんだけど、作画の先生が自分の原作の意図と違った描き方を始めたらどうするの?

柴田 そういった判断は、基本的に沢さんにお任せしています。「絵を描いているとき、ネームにないセリフが浮かんだら、それを入れてしまっていいです」と最初から伝えていますね。原作担当はリレーの3番手みたいなもので、バトンを渡したら最後は作家さんが走る。僕はそういう意識でいます。

渡辺 じゃあ、よほど話の方向性を、お互いにしっかり理解しあっているんだ。

柴田 原作をやってわかったんですが、絵を入れたときにネームにあるセリフがシーンに合わなくなることはあるんですよ。「この絵で、このニュアンスのセリフはないな」みたいな。その場合、作家さんの判断でセリフを削るのは問題ないし、それが本当の完成形です。

渡辺 それだと、ストーリーも作家さんの考えで変わっちゃったりしないの?

柴田 ああ、もちろん根っこのストーリーはいつも自分の頭に思い浮かべていて、作家さんと担当さんの3人で、メールや電話を使って詰めていますから。

渡辺 メールで? 必ず顔を見て打ち合わせする僕からすると、未知の世界だなあ…。

――ほかの連載では、ご自身で作画もされています。作画はデジタル環境なんですよね。

柴田 僕が今、アシスタントなしで連載ができているのはデジタル環境のおかげです。渡辺先生のようにものすごく線が上手い、アナログだからこそ価値がある方のような例外を除けば、今から漫画家を目指す人がデジタル環境を選ぶのは自然なことだと思いますよ。

渡辺 下書きの時に位置を変えるとかも、描きなおさずに動かせるんだよね。

柴田 デッサンの確認や直しも、アナログで描くときは原稿用紙を裏表ひっくり返したりしていましたが、デジタルだとそのまま絵を反転させて確認できますからね。

渡辺 僕はいまだにそれをやってます。アタリを表側に描いて、裏側に軽く下書きをして、それを参考に表側にきちんとした下書きを入れて…と。それを続けていると、描く手が気付くと右手から左手になってたりもして。

柴田 アナログでやっていた時は、僕もそういう感覚でした。デジタル作業は、トーンやベタもワンクリックですけど、アナログだと筆ペンではみ出さないように塗るのにもある程度の技術がいりますよね。

渡辺 ベタフラッシュとか、トーンフラッシュも本来ものすごい技術がいる。でも、デジタルで描いたら、みんなコンピュータできれいに描けるんだよね。その分、人の手による味とか、面白みはなくなったけど。

柴田 そういう部分に味を求めるのはもう無理ですよね。だからこそ絵の良さって、これからどんどん渡辺先生みたいな「アナログでしか絶対出ない線」的な部分に求められていくと思います。

――そういった要素が楽しめる漫画家の原画展なども、最近増えている気がしますね。

柴田 『デガウザー』も原画展を開くとか、本の帯ででっかく宣伝するとかしたほうがいいですよ。線の“抜き”の上手さとか、なかなか通じにくいとは思いますけど、渡辺先生の腕って僕からすると“神”ですよ。

渡辺 でも、最近はどんどん描くのに時間がかかるようになってきちゃってね。その点、複数同時に連載をやっているヨクサルくんはすごいよ。

■徹底的にネームにこだわるプロ意識! 『デガウザー』は毎回必見!

――連載中の3作品のうち、2つはご自身で絵も描かれていますね。

柴田 今はたくさん描こうとしているんです。次々と描きたいものがあるにも関わらず、人間の寿命という持ち時間の中だと、それは描き切れないという意識があって。だから、今のうちに少しでも早めに、たくさんの漫画を出していったほうがいいと思っています。

渡辺 作品ごとの作業の時間配分とかはどうしてるの?

柴田 ひとつの作品のペン入れをしながらほかのネームを考えたり、並行してやる形ですね。ペン入れをしながらネーム用に思いついたことをメモして、そっちがノッてきたらしばらくネームに専念して…。

渡辺 ヨクサルくんは棋士でもあるから、そういうことができるのかな。僕だと頭がゴチャゴチャになっちゃう(笑)。

――プロの棋士の方たちとの対局企画が組まれるほどですもんね。

渡辺 アシスタントをしてもらってたときも、同年代の子と比べてどこか大人だったし、自分の中でルールみたいなものがきっちり決まっていて、常に新しい答えを更新している感じがしていました。当時から情熱もすごかったし。

柴田 今も、漫画は仕事ですけど、全身全霊をかけてやっていく職業として価値があると思っています。渡辺先生もそうでしょうけど、漫画家ってとにかくずっと漫画を描いてるんですよ。そうでないと続かないです。家から出ないから外が暑いってことも知らず、ニュースもネットの文字だけで見て知る、みたいな。

渡辺 漫画家あるあるだ(笑)。

柴田 でも、漫画を描いていてその物語の中にいるから、外に出られなくてもとりあえずOKという(笑)。それに、ネットの発達で漫画を発表できる場所は増えましたけど、ちゃんと見せられる場はやっぱり雑誌や公の漫画サイトで…。結局この業界って“椅子取りゲーム”じゃないですか。そんな中で描かせていただけるなら、それはとても幸福なことです。

渡辺 僕には真似できない部分もあるけど、漫画家としては、描けるなら描くよね。「一生にあと何本描けるんだろう?」という思いは僕にもやっぱりある。自分で描ける量に限界はあるし、長生きできたとしても僕ももう50歳だから。

柴田 僕も80歳まで生きられたとして、コンスタントに漫画が描けるのは60代ぐらいまででしょう。人生って短いですよ。

渡辺 まあ、例外みたいな先生もいるけど。ただ、僕がこれから送り出す漫画を増やそうとすると、ヨクサルくんみたいに原作をやるのも、ひとつの選択肢としてアリなんだろうなあ。

柴田 渡辺先生も原作をやりましょう。「コミックDAYS」で2本同時連載しましょうよ(笑)。

渡辺 死んじゃうよ(笑)。あと、僕はネームに自信がないから、ネームを描いて担当のOKをもらえても、それで十分に面白いものに到達させる自信がないというか…。『デガウザー』も毎回、ネームを3回くらい描きなおしているからね。

担当 たまに編集部からの修正がない一発OKの時があるんですが、その時も「今回修正ないの?本当に大丈夫?」っていう質問を必ずされるんですよね。自信がないとかではなく、「もっと面白くできるはず」って意識を常にお持ちなんです。

渡辺 修正がないっていわれても、不安になっちゃうんだよ。担当のOKに対して、今忙しいんじゃないの? 適当に見てない? って思ってしまう(笑)。

担当 打ち合わせでも「ちゃんと面白いですって!」みたいな、謎の言い合いをしているときがありますね。僕らも手を抜くなんてことは絶対にないんですが(笑)。

柴田 そういえば、僕がアシスタントだったころからですが、渡辺先生は常に3話ぐらいストックを持つように作業を進めているんですよね。僕はそっちのほうができません。(笑)

渡辺 原稿を落とすのが怖いから、そういう進め方になってる。先行していれば、後からいいアイデアが出てきたときに遡って布石を入れたりできるじゃない。特にミステリーだと仕込みを後から思いつくこともあるから、余裕が必要だと思うんだよね。

柴田 基本的には持ち時間があればあるほど、漫画はいいものができますよね。時間がない中で苦しんで、それが裏返って奇跡的なネームができることもあるけど、それはだいたいその時だけ。実際の仕事の現場では、持ち時間に余裕があったほうがいいのは確実です。

渡辺 とはいえ、最近は年齢のせいか作業に時間がかかって、なかなか厳しいよ(笑)。僕自身だと、自分の仕事は隔週ペースぐらいがぴったりだと思ってるんだけどなあ…。

担当 ダメです。絶対ダメ(笑)。週刊で載っていてほしいですから!

――そうした高いプロ意識で描かれている『デガウザー』ですが、連載では藤明虹や山本寧々子といった重要なサブキャラクターが登場し、いろいろな謎の輪郭が見えてきました。今後はどうなっていくんでしょう。

渡辺 『デガウザー』では、人物の関係性みたいな設定は決めてあるけれど、それをどんなペースでどう展開させていくかを絞りきっていないんです。主要キャラとして登場した藤明も、主人公の矢口とはわりと不安定な関係ですし…。

柴田 描いている側としては、自由で面白そうですね。その分、苦労もありそうですけど。

渡辺 毎回苦労してるよ(笑)。だからこの先、矢口たちがどうなるかは読み続けてのお楽しみ、ということで…(笑)。

――わりとライブ的に展開が変わり得るんですね。

渡辺 ただ、見せ場については各話の中で毎回作るように心がけていて、ミステリーらしい仕掛けもいろんな部分に仕込んでいます。後になって「そういえばあのシーンで…」と感じる伏線もあるので、そこを楽しんでいただけるよう、うっすらでもいいから毎回ちゃんと読んでもらえると嬉しいですね。

柴田 渡辺先生のコマ割りはすごく見やすいので、デジタルで読んでももちろん楽しめますが、僕としてはやっぱり先生の芸術的な“線”を見てほしいです。紙のコミックスで、渡辺先生の“線”の美しさをぜひ堪能してください。

――ありがとうございました!



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