――2020年、夏。スポーツ誌「Number」甲子園特集のインタビューでふたりは出会った。漫画家・なきぼくろ、スポーツライター・村瀬秀信。
異なるスタイルで「野球を書く」ことを生業にするふたりが「潔くなんかいられない」野球の世界、村瀬氏が40年来の愛を注ぎつづける「横浜DeNAベイスターズ」について、ディープに語らう。
1975年、神奈川県生まれ。茅ケ崎西浜高校野球部卒。作家、ライター。大洋ホエールズ時代からの熱狂的ベイスターズファン。著書に『4522敗の記憶』『止めたバットでツーベース』(双葉社)、『ドラフト最下位』(KADOKAWA)など。
なきぼくろ(以下、な): 「Number」のインタビューは、僕にとって不思議な体験だったんです。「この話を聞きます」っていうインタビューではなくて、村瀬さんは僕という人間に興味を持ってくれて。1年生の時にPL学園が出場辞退になった話。アレ、普段インタビューであんまり話すことはなかったんですよ。でも、いつの間にか懐に入られていて、つい言っちゃってた。不思議やなあって(笑)。
村瀬秀信(以下、村): 僕もプロになりきれてないところがあるんですけど、結局「知りたい」って欲が一番なんですよね。取材相手に興味があるかって、ライターとしてすごく大事で。野球って「呪い」だと思うんですよ。僕なんかは公立高校の野球部で燃えきれず、そのままどこにも行けず野球を追いかけて、野球のことをタラタラ書いていて……。だから、どうしてなきぼくろさんは高校で野球を捨てられたんだろう? って。ずっと好奇心があったんです。『バトルスタディーズ』はそもそも連載を追いかけていたから、インタビュアーとして声を掛けてもらった時は、ヨシ来た! と。
な: 「野球を捨ててなぜ漫画家に?」っていうのは他の取材でもあったんですけど、なんだろう……はじめてなのに何度も会ったことがあるみたいな感覚。インタビュー中、ずっと幸せな時間だったというか。「今までフワ~っとさせてきた出場辞退の話も、村瀬さんなら上手く汲み取ってくれるんちゃうか?」と。それでアカンかったらしゃーないくらいに思ってたら、記事もめっちゃおもろくて!
村: ひっくりかえるくらい嬉しいですねえ!
な: あの日は「今日はよろしくお願いします~」から、僕もう心のドアオープンしてましたもんね。えらい早いな~って(笑)。インタビューが終わったあとも「村瀬さん最高でしたよね~」って担当さんとも話していて。もう一回じっくり話ししたいなと思って対談お願いさせてもらいました!
(「Number」誌の記事はWebで読めます!)
「この思いを引き出してくれ」。
声にならない叫びを言葉に紡ぐ。
な: インタビューで話を引き出すために、ライターさんに必要なスキルってなんかあるんですか?
村: テクニカルなものは、僕は持ってないんですよね。
な: 天然ってことですか?
村: たとえば『4522敗の記憶』は、僕はベイスターズが終わると思って書いたんです。半ば遺書のつもりで。(球団の親会社が)DeNAになる前から取材をしていたんですけど、その時は球団が消滅してもおかしくない、選手だって誰も残りたくないってところまで行っていて。ベイスターズに関わる人の思いを書いて、全部さらけ出して、ベイスターズを追うのも野球のことを書くのもやめようと思っていたんです。だから、まずはじめにベイスターズへの愛憎と、どうしてこうなってしまったのか? っていう興味があったから文章を紡げたんだと思っていて。なきぼくろさんに対しては、まず名門野球部からデザインの専門学校へ進んだ、人としての興味。それと、そもそも僕の世代はPL学園に対する憧れがずっとあって。
な: 好奇心が大きいほどいい取材ができるんですか? 当然、ない場合もありますよね?
村: 佐々木朗希や大谷翔平を取材させてもらったこともあるんですが、彼らの凄さはみんなわかってることじゃないですか。だから僕なりの角度がつけにくい内容だと「そそられない」感覚はあります。だからってゲテモノ食いばかりしてるわけじゃないけど、取材相手が「引き出してくれ」と思っている何かが見つけられた時が、光る原稿を書ける時だと思いますね。
「潔くなんかいられないよな」と、
倉本のヘッドスライディング。
村: 「この一言、この一場面で世界が変わる」って考えたことはありますか?
な: えらいカッコいい。いやあ、全然ないかも。読み手が何を感じ取るか? ってあまり考えないタイプなので。それ考えておけばもっと売れたかもしれないですね(笑)。
村: いやいや(笑)。『バトルスタディーズ』って言葉の力がすごいじゃないですか。作家やライターならわかるんですよ。文章でしか表現できないから。この漫画、名言のオンパレードじゃないかって。
な: この前TVの収録でケンコバ(ケンドーコバヤシ)さんにいじられましたけどね、ポエムやん!って(笑)。村瀬さんに訊きたかったんですけど、『止めたバットでツーベース』とか、パンチラインがガツンとあるじゃないですか。漫画で言うたら、一番言いたいセリフみたいな。これってどうやって引き出してくるんですか?
村: 言葉って狙っても響かない。コピーとは違う物語ですから、前後の流れや蓄積があってこそ生きてくるものじゃないですか。
な: 漫画は毎週18ページの中でパンチラインをひとつボンとぶつけるものだけど、書籍だとまずタイトルがひとつのパンチラインになるから、作り方違うけど勉強なるわ~って。(言葉が)出てこない時もあるんですよね?
村: そうですねえ。タイトルが一番時間かかりますね。『4522敗の記憶』なんて、最終締め切りの10分前にやっと出てきたものなので。
な: あんまり本を読んでこなかったんですけど、まずタイトルがあって「どういうことやろ?」と読み進めていく。村瀬さんの本を読んで、もっとライターさんの文章に触れてくればよかった~って後悔しました。そういえば昔『セーラー服と機関銃』ってタイトルエグいなと思ってて、改めて本のタイトルって、文字を操る人ってカッコいいなあって。
村: 僕もなきぼくろさんが紡いだ言葉でガツンと来たのがあって。横羽間戦の9回に笑太郎が本塁憤死をする時に、大庭が言うじゃないですか。「一生懸命生きてんだ。潔くなんかいられないよな」って。アレ痺れましたねえ。
な: ありがとうございます! 僕も大庭は好きなキャラなんですよね。
村: 一昨日、ベイスターズはカープにボロ負けしたんですよ。
な: え?
村: ベイスターズに倉本(寿彦)って選手がいてね。ちょうど横浜高校出身で今季は控えの内野手なんですけど、昨年レギュラー争いの最中に一塁にヘッドスライディングして小指を骨折したんです。それでシーズンを棒に振った。大した場面でもないのに何やってんだ! っていう非難もあって。昨オフに話を聞いたら、実は恐怖心が芽生えてしまって、もうヘッドスライディングできないかもしれないって。
な: ほうほう。
村: でも一昨日、15-0でぼろ負けの展開。サードにボテボテのゴロを打った倉本が、一塁にヘッドスライディングしたんですよ。びっくりしちゃって。SNSじゃ「また離脱する気かよ!」「ヘッスラ禁止令出せよ!」なんて批判する声もあったんだけど、僕はあの場面に準(なぞら)えてしまったんです。野球ってそういうものじゃないですか。気持ちとか怨念をぶつけて生き残るために殺し殺され合う、ドロドロとしたものだと思っていて。
な: なるほどなあ。わかりますその気持ち。僕も高3の春に腰イワして調子落として。自分の何かを打破したくて……気づいたら一塁めがけて飛んでたな。
村: 土俵際まで追い込まれた時に、生き残ろうってどこまで思えるかっていうね。そんなアッサリ潔くいられないんですよ! だからあの一言一句に、僕は魂を持ってかれたんですよね。
「一流の野球」なんてわからない僕が、
ペンを執って何ができるか。
村: なきぼくろさんは本当にひとりひとりの感情を緻密に描いてますよね。何巻まで描くんだろう……本当に描きたいことを描いてたら200巻くらいいっちゃうんじゃないかっていう。
な: 可能な限りは描いていきたいですよね。「甲子園目指すぜ! おー!」みたいな爽やかさだけじゃないぞって。負けた時に意外とケロッとしてる高校球児を、フィクションの世界だとリアルに感じてもらえない時ってあるんです。負けたのに、出場停止なのに、そんなすぐに切り替えられる? みたいな。でも、3年がいなくなるって嬉しかったりするものだったりするんですよね。
村: 僕も野球を書いてこそいますが、弱小公立野球部だったから「一流の野球」なんてわからない。じゃあ何ができるかって、テーマとしてはフツーのおっさんが社会でも直面するような人間としての感情。失敗したら、クビになったらどうしよう……打てなかったらレギュラー奪われる……って、そういう場面の選手が弱い自分にどう折り合いつけて奮い立たせるかとか、そういう人たちのありのままの感情を伝えるという使命感を持って野球に関わっていて。
な: それ共感しちゃいますね。野球漫画の場合、他の漫画家さんも最先端を調べまくってると思うんです。トレーニングとか、セイバーとか。僕も興味あるけど絶対勝てないんですよ。それよりも人間がどういう表情をするのか? どんな言葉を吐くのか? ってことを描きたいと思ってしまいます。
村: でも、ずっとコンプレックスはあるんです。一流の野球、僕もわかるよ! って言いたい。以前、同年代の強豪野球部出身の方に取材した時、「実は僕も神奈川で高校野球をやっていて……」と言ったら「おお、どこだったんですか!」って喰いついてきて。「茅ヶ崎西浜という……」って言った瞬間「なんだ公立かよ」ってガッカリされたことがあって……そうだよね、エラい違うよね! って(笑)。やっぱり名門私立と公立じゃあ、同じ野球じゃないんだなと……。
な: そうですか? 僕は公立と試合するのめっちゃ楽しかったですけどね。
村: え! PL学園なのに?
な: 公立とやる時、向こうはPLや! って100%で来てくれるんです。ウチのエースの球を打ち返したらエラいベンチが盛り上がって。テンションがローの時にそういう姿を見ると、野球を楽しむっていう基本を思い出させてくれるというか。私立同士だとバチバチなんでケツの嗅ぎ合いみたいになるんですけど、公立相手だと向こうが楽しそうやからこっちもハイでいけるっていう。でも、僕は公立で……っていう人は村瀬さん以外にも多いし、どっかでみんなそういう体験してるんですかね(笑)。
村: 18つ下の後輩がプロに入ったんですよ。古村(徹)っていう投手で。ベイスターズに指名されてもちろん喜んでたんですけど、それよりもドラフト後に話を聞いたら、夏の大会後に横浜高校のメンバーと桐蔭学園の文化祭に行った? すげーな! メールもやってんの? すげー!って。すごく嬉しかったんですよね。いつまでも名門私立に認めてほしいのが、僕たち公立野球部の性なのかもしれない(笑)。
な: でもそういえばPLの時、カバンでマウント取ったりはありましたね。
村: カバンですか。
な: 部活引退した後って実家から通うんですけど、暇なんで下級生の練習手伝うんです。普段は電車で「PL学園」ってでっかく書いてあるカバン、見えへんよう裏側にしておくんですよ。でも車内で大阪桐蔭が騒いでるときは、学校名が見えるよう表にしてましたもんね。夏の予選で勝ったからひっくり返したろって(笑)。
村: ありましたね、カバンマウント。僕は名門私立が乗ってきたら車両変えてましたよ(笑)。
村瀬さん、忘れられない試合はありますか?
村: ベイスターズの優勝が見れるのは人生で1回か2回って、ファンの間で言われてるんですよ。
な: 竹の開花みたいですね。
村: ベイスターズは、38年周期なんですよね。1960年、1998年。次は2036年ですか。あと14年後。散り散りになった熱き星たちがグランドクロスのように集結し、とんでもない奇跡的な優勝を起こす年。それこそ前回は松坂(大輔)擁する横浜高校の奇跡まで起きた。
な: 夢がありますね! 村瀬さんはやっぱり「人生のベストゲーム」はベイスターズの試合なんですか?
村: 2016年のCSファイナル、広島戦の第3戦ですね。12球団で一番最後にCSに行ったのがベイスターズで、(CS制度がセ・リーグに導入された)2007年以降、はじめてAクラス入りを果たして。
な: だいぶ長いこと待たされましたね!
村: 2002年に最下位になってから2015年まで、「最下位以外」になったのが4回しかなかったですからね。CS1stで巨人と当たった時、東京ドームのレフトスタンドから三塁側が真っ青に染まって……感動的でしたね。そして巨人に勝って意気揚々と広島に乗り込むんですけど、今度はマツダスタジアムが真っ赤に染まっているんですよね。横浜はレフト側にちょこん、といるくらいで……。
な: スタジアムの上のところですよね。
村: そうそう。パフォーマンスシートというところに少ししかいないんですよね。マツダスタジアムの雰囲気に呑まれて開幕2連敗で迎えた第3戦。横浜はもうあとがない。その中ではじめてリードして迎えた8回に2死満塁のピンチで打者は4番の新井貴浩。絶体絶命のピンチで、その日一軍登録されたばかりの須田幸太がコールされるんです。先発としては伸び悩んでいたんですけど、その年は中継ぎのエースとして本格的に開花して。ただ、終盤に肉離れで離脱をして今季絶望と診断されていたんです。それでも須田は諦めずに治療とリハビリを続け、このCSファイナルの第3戦、絶体絶命の場面にギリギリ戻ってきた。
な: いいですね。
村: 須田は全球ストレートの真っ向勝負。新井もファールで粘る。そんな7球目も一塁後方へのファールになった。でもこれに猛然と突っ込んできたのがライトを守っていた梶谷(隆幸)。
な: ああ、巨人に移籍した。
村: 梶谷も若手時代は本当に苦しんでいた選手で……中畑(清)監督がどうしてもコイツを一人前にしたいからと我慢の起用を続けていたんだけど、まったく上手くいかない。それでも毎日スタメンで起用されるから客からボコボコに叩かれて「プロ野球選手はどうやって辞表を書けばいいんだろう……」と本気で悩むくらい追い込まれていた時期もあった。その後、才能が花開いてレギュラーを勝ち取るんですけど、この年はCS1stの巨人戦で左手の指を骨折。怪我を押して出場をしていて。そこに新井がライトへのファールフライを打ち上げるわけです。須田の気迫が勝った。その梶谷がね、フェンス際の打球に突っ込むんです。骨折した方の手でダイビングをして、壁に激突しながら捕るんですよ。真っ赤な満員のマツダスタジアムが静まり返る。梶谷が痛みを堪えながら、やおら立ち上がってベンチに歩いていく。レフトのベイスターズ応援団のちっさい一角だけが声張り上げて、泣いていて。応援団が叫ぶんですよ。「横浜に帰ろう! 勝って横浜に帰ろう!」って。
な: ええな、情景が浮かんできますね。めっちゃアツいわ(笑)。
村: その8回にはセカンドの石川雄洋も同じようにフェンスに突っ込んで好捕していてね。ずっと勝てなかった。万年最下位のチームで「てめえら勝つ気あるのか!」ってずっと野次られていた選手だったんですよ。須田も、梶谷も、石川も。その彼らが目の前で『どうなってもいいから勝ちたい』って気持ちを存分に見せてくれた。その姿を見たら……アッ……この話をするといつも泣きそうになるので間を置きたいんですけど(笑)。
な: そういうのってファンだから、ずっと選手を見てるからわかるんですもんね。漫画のキャラクターで言うと、ずっと読んでいく中で感情の変化が見えてくる……みたいな。僕がその試合パッと見ただけだったら、ただ飛び込んだだけに見えるかもしれない。
村: そうそうそう。ファンと選手の間で「しっかりやれバカヤロー!」「うるせえ、二度と来んなバカ!」っていう長い時間があった上の……ですからね。プロだから勝ち負けは大事なんだけど、野球をずっと追いかけてきて、本当に報われる瞬間ってわずかだけど、そういう瞬間なんですよね。
な: なるほど、そういうのってやっぱ泣いちゃいますよね。
村: 泣いちゃうね~~。野球は人生で一番涙腺がゆるみます。
「最下位なんてクソ食らえ!ウンコチンチン!」
村: あとベイスターズと言えば、中畑清さんですね。
な: 「絶好調!」の人ですね!
村: そう。お調子者っていう文脈で語られることが多いですけど、ベイスターズを立て直した功労者ですよね。それこそ死に物狂いになって前を向かせてくれた。でも最初は嫌いだったんですよ。元巨人のスター選手だった中畑が監督になって、GMが高田繁なんて、ベイスターズは「小さな巨人」じゃねえ。オロナミンCじゃねえんだよって。
な: 元ネタわからんですって(笑)。
村: だから監督1年目(2012年)は最初、批判的に見てたんです。でも、中畑さんは1年間必死だったんです。泥臭くて、カッコ悪かった。人間、必死になると格好なんてかまってられないんだなって。負けても負けても会見拒否をしないんです。それで開幕から連敗を重ねて……もう言うことがなくなってくるんでしょうね。「チームは最下位ですが……」と記者に訊かれて「最下位なんてクソ食らえ! ウンコチンチン!」って(笑)。
な: すごいなあ! そんなセリフ出てこないですよ。ウンコチンチンて(笑)。
村: プロ野球の監督が言うか!? って。そうか、それくらいこの人は土壇場で踏ん張ってるんだな、この人を信用してもいいかも……とだんだん心酔してきて。
な: 中畑さんが監督になる前はそんなにひどかったんですか?
村: 本(『4522敗の記憶』)に書ききれないくらいひどい話がたくさんありましたよ。
な: なるほどなあ。中畑さんのアツさが選手だけじゃなくて、村瀬さんにも伝わったんですね。
村: 就任1年目のシーズンが終わった時に、監督室でインタビューをさせてもらったんです。「実は僕、中畑さんのことが嫌いでした。でも、1年間見させてもらって、このチームを本当に変えようとしてくれてることがわかりました。ありがとうございます」って素直な気持ちを伝えて。そしたら「ありがとう、ありがとう……」って号泣されて。それを見て僕も泣いちゃって、インタビューにならなくなって(笑)。中畑さんとは、そういうインタビューばっかりでしたね。
な: 自分の頑張りをそうやって誰かに認めてもらえたら、そら泣くわな~。
村: 追い詰められて、それでもなんとかしたいという時に、やっぱり人は潔くなんていられないじゃないですか。その気持ちが見えるから、やっぱり野球は面白い。
大洋ファンで何が悪い!
と開き直れなかったあの時代。
な: こうやって話を聞いていると、球場行きたなってきますね。ハマスタの近くは車で通ったことがあるんですけど。
村: DeNAになってから、いい球場になりましたよ。オレンジの座席も青く塗られて。
な: オレンジのイメージ、確かにありますね!
村: そもそもオレンジなのがおかしいんだよ。なんで巨人の色なんだよ。
(横浜ファン歴25年、担当編集・Nも深く首肯)
な: N君にも聞いたんですけど、やっぱり巨人は嫌いなんですか?(笑)
村: 嫌いというかね……(笑)。ベイスターズの球団創立70周年を振り返る球団制作のPVがあって。その中で大洋の帽子をかぶっている小学生が、巨人ファンの友だちが集まっているのを見て、帽子を隠すんですよ。それを見てね……ああ、あの子は小さい頃の俺だ! って。
な: なんやそれ、いっちゃんおもろい!
(公式PVをしばし視聴しながら……)
な: え、横浜って漁業から始まったんですか!?
村: そう。今はマルハニチロって会社ですけどね。あ、これは平松(政次)さんですね。
な: パワプロでよく使ってました。カミソリシュート! ……あ、このシーンですね。なんやこれ……めっちゃエモいやん!
(公式PVは動画で観れます)
村: ふぅ。いかがでしたか?
な: 最初っからベイスターズの話聞いとったらよかった! おもろいわ~。今度ハマスタ連れてってくださいよ。ビール飲みながら試合観ましょう!
村: いいですねえ。ぜひとも! バーベキュー席でも取りましょうか。
な: そんなんあるんですね! うちのチビらも一緒にいいですか?
村: ぜひお子さんも。洗脳しますから(笑)。
(なきぼくろ氏洗脳完了!)
取材終了、お疲れさまでした!
……からの延長戦!
村: 今日はありがとうございました!
な: いやホンマ、楽しかったです!
(しばし歓談があったのち……)
村: ちなみにN君の「忘れられない試合」ってあるんですか?
担当N(以下、担): 7点差をひっくり返した、2013年の多村(仁志)のサヨナラ3ランですね。
村: ああ、西村(健太朗)から打ったやつ! 懐かしいなあ。5月10日でしたね。
担: というか今日、5月10日じゃないですか!
村: おお、9周年!
な: なんでそんなピッチャーだの日付だの、すぐ出てくるんですか(笑)
村: そういえば、ベイスターズは今日どうですかね~。
担: 一応3点は先制していましたけど……。
村: あら。そうですか?
担: 初回に3点を先制し3回にロメロが投手にストレートの四球を与え、そこから一死ニ、三塁のピンチを背負って……取材の時間が迫っていたので、そこで僕は速報のチェックをやめました。
村: あ~~~そうですか。じゃ、今日は見なくても大丈夫そうですね。
担: だいたい予想はつきますね。
な: コアなファン同士の会話って本当におもろいですね(笑)。さっきの「多村のサヨナラ……」「西村!」「5月10日!」みたいな。
村: でも、なきぼくろさんにとっての「伝説の延長17回」みたいなものでしょう?
な: いや、日付まで覚えてませんよ! 大西(宏明)さんがレフト前にタイムリー打ったのが延長何回……イニング忘れてますもん。あの頃はビデオ擦り切れるまで観たのに。だってふたりは……日本一の年のことも覚えてるんですもんね?
担: 言われてみれば……そうですね。
村: 僕たちには語るべき年が1年しかないですから。なきぼくろさんは1998年、あの年は正月から「神様」が神奈川にいたってご存知ですか?
な: いや知らんすよ(笑)。
村: 正月の箱根駅伝で神奈川大学が初優勝。大学ラグビー選手権では関東学院大学がこれまた初優勝。横浜高校が甲子園春夏制覇で、都市対抗で日産自動車(横須賀市)が優勝。で、横浜ベイスターズは38年ぶり日本一。
担: そして横浜フリューゲルスが天皇杯で優勝と……。
な: エグいて。
村: 僕は最後に神様がいなくなる音も聞きました。
な: どんなんですか?
村: ドラフト会議で松坂(大輔)のクジを西武が引き当てる、という……。
な: 神様の滞在時間えらい短いな~~。
村: それからベイスターズは松坂のかけらを追い求めるんですよ。小池(正晃)獲って、翌年に田中一徳を獲って……。
担: あの時松坂さんがベイスターズに来ていたら、黄金時代が始まっていたかもしれないですよねえ。
村: でもやっぱり、1998年は「伝説の延長17回」を含めておかしな年でしたよ。だから僕、翌年はノストラダムスの予言で地球は終わると本当に思ってましたもん。
な: そっか、そんなのありましたね!
村: ベイスターズが優勝したんだったら、もう世界も終わるんだろうなって。納得できる年だったんですよね。
担: ……あら。
な: どしたんですか? ボイスレコーダー撮れてないとか言わんとってくださいね!
担: いや。勝ちましたね。
(野球速報アプリから[De3-1巨 試合終了]の通知が届く)
村: あ、そうですか。こんな日もあるんですね。
担: 5点くらい取られてるかと思いました。
な: なんかふたりが野球少年に見えてきました(笑)。おもろいからベイスターズの話、絶対記事に書いてくださいね!
(書きましたよ、なきぼくろさん!)
撮影:よめぼくろ
文責:編集部
※本取材は2022年5月10日、なきぼくろ氏の仕事場にて感染対策に十分留意した上で行いました。
※本記事は単行本『バトルスタディーズ』33巻に収録された対談記事に、未公開部分を加えた完全版です。
▼33巻と同日発売の『バトルスタディーズ』32巻に収録されている平石洋介氏との対談記事も公開中!▼
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