こんにちは。国府町怒児(こうまちぬんじ)です。
いかがお過ごしですか?
寒くなる気温に体が付いていかず、風邪を引いていないですか?
そんなときは、菌やウイルスが憎くなりがちですよね。
でも、『もやしもん』という菌の出てくる漫画を読めば、ちょっとその考えも変わるかもしれませんよ。
『もやしもん』とは
(『もやしもん』13巻表紙 参照)
『もやしもん』とは、菌の見える青年、沢木惣右衛門直保(さわきそうえもんただやす)が農業大学で成長していく1年を描いた作品です。
農業大学と菌という珍しいモチーフと、緻密な取材に基づいた豊富な情報量で、他の作品とは一線を画す世界観を確立しています。
掲載雑誌は、2004年から2013年途中までが「イブニング」、2013年途中から2014年まで「モーニング・ツー」でした。
連載期間中には、2回にわたってアニメ化。
さらに、第12回手塚治虫文化賞マンガ大賞や第32回講談社漫画賞一般部門など輝かしい賞も受賞しています。
『もやしもん』の特徴
(『もやしもん』3巻57p 参照)
『もやしもん』の特徴と言えば、膨大な数の菌の描き込みです。
種類も作中で150種類を越えており、人間ドラマに加えて相当な熱量を菌にも注いでいることが分かります。
そこで私は思いました。
「じゃあ、一番菌の多く出ているコマはどこなのだろう」と。
ということで今回は、菌の多さを調べていこうと思います。
レギュレーション
①ページ上の菌の個体の多さを比べる
(『もやしもん』2巻100p 参照 赤字筆者)
②顔と形から種類が判別できる範囲を一体とする(画像の場合は18体)
③範囲は、コミックス版『もやしもん』1巻~13巻の範囲とし、おまけページは含めない
④コマ単体部門、見開き部門、菌の種類別部門の三つで測定する
(『もやしもん』9巻24p 参照)
⑤合体している菌は一体としてカウントする
コマ単体部門
コマ単体部門では、一コマの中にどれだけの菌が描かれているかが争われました。
栄えある1位に輝いたのは、こちらのコマです。
(『もやしもん』1巻54p 参照)
コミックス1巻の、自治寮内で酒を作ろうとしているシーンです。
日本酒を腐敗させる菌である、ヒオチ菌が大量発生していたんですね。
コマ単体で、208体も描かれていました。
これは、2位以下を大きく引き離したすごい記録です。
(『もやしもん』2巻106p 参照)
2位は、コミックス2巻で、研究室の床に集まった菌たちがわちゃわちゃ話しているコマです。
全部で140体出てきました。
(『もやしもん』3巻130p 参照)
普段、衛生上あまり人間の体に良くないと思われがちな菌たちですが、
こうして人間っぽく意思を持って活動されると、どうも憎めなくなりますね。
(『もやしもん』1巻168p 参照)
3位は、樹教授が沢木に発酵の過程を説明する場面の容器です。
この小さいコマに11種128体います。
最初は雑多な菌のいる甕(かめ)ですが、酵母の働きによって糖が分解され、アルコールが作り出されていきます。
本当に自然はよくできています。
総じて菌の多いコマは、序盤に固まっていた印象です。
最初はまず、菌の見える世界に馴染んでもらおうという意図でしょうか。
見開き部門
見開き部門では、ページを跨った見開きに対象を絞って調査をしました。
大きくスペースを使えるだけあって、菌たちが縦横無尽に漂う様子が多く見られました。
(『もやしもん』5巻144-145p 参照)
最も多かったのは、フランス行きの飛行機に乗ったときのシーンですね。
すごい描き込み量です。
全部で263体もの菌が飛び交っていました。
「アメリカ日本と旅してます」「フランスも発酵が盛んなんだヨ」といった菌たちのセリフから、菌たちも飛行機で運ばれて世界を渡り歩いていることが分かりますね。
(『もやしもん』13巻208-209p 参照)
最終話で、樹教授に菌たちが初めて直接コンタクトを取る場面が2位でした。
205体もの菌が一斉に挨拶してくれています。
発酵に携わってきた人間としては、本当に得がたい体験だったんだろうなあと、樹教授に感情移入してしまいます。
(『もやしもん』6巻108-109p 参照)
3位は、フランス編でマリアのワイン貯蔵庫を見たときの場面です。
169体いました。
フランスでは、P・ クリソゲヌム(青かび)、L・フルクチボランス(ヒオチ)など日本とは別の呼び方になっていますが、菌のビジュアルを見て「あっ、この菌は見たことある」と確認できるのも、この作品の魅力の一つです。
菌の種類別部門
菌の種類別部門では、作品を通した出現数が最も多かった菌を探っていきます。
要は、どの菌が一番出てきたかということです。
(『もやしもん』3巻112p 参照)
1位は、A・オリゼーでした。
1957体が出てきました。
150種以上いる作中の菌の中で、堂々のトップです。
(『wikipedia「コウジカビ」』参照)
A・オリゼーは、通称コウジカビと言って、発酵に関わる菌です。
日本では昔から、味噌や醤油、鰹節などを作る過程で活用されてきました。
2006年に、日本醸造学会から『麴菌をわが国の「国菌」に認定する』旨の宣言が出て、現在も国菌の座に君臨しています。
国技の相撲、国鳥のキジと同列なんですね。
(『もやしもん』12巻31p 参照)
作中では、主人公の沢木が種麹屋の次男ということもあり、相棒的な位置付けでした。
よく沢木の頭や肩に乗っかっている場面が見られます。
さらには菌の主役と言ってもいい扱いで、雑学コーナーのMCのような役割も担っていました。
登場シーンも1巻の1話から最後まで満遍なく出番がありました。
(『もやしもん』10巻 7p参照)
作中に「主役を食えます」(『もやしもん』10巻 7p)というセリフがありますが、あながちオーバーではありません。
沢木の登場は2998体だったので、単純な数で比べると3分の2程度は出ていたことになります。
(『もやしもん』1巻97p 参照)
そして2位は、S・セレビシエでした。
登場した個体は1952体と、なんと1位のA・オリゼーと5体差という僅差につけました。
S・セレビシエは、いわゆる酵母菌のことで、A・オリゼーと同じく発酵に関わる菌です。
糖分が大好物で、お酒やパンなど幅広い用途に欠かせない存在です。
菌たちのよく使う「かもすぞ」(発酵させる、腐敗させるなどの意味)という言葉を『もやしもん』中で初めて使った菌でもあります。
確かに作中にはお酒の話がよく出てきましたが、主役級のA・オリゼーにここまで肉薄するとは。
登場したコマ数を比較すると、A・オリゼーが712コマなのに対して、S・セレビシエは374コマ。
なので、S・セレビシエは少ない登場チャンスを活かして、より多く登場していたことになります。
丸と棒状の足(のようなもの)という、大量に描きやすい形状が追い風になったのでしょうか。
なお今回の集計では、きょうかい酵母や研究室の酵母など額にマークのあるものは、S・セレビシエとしてはカウントしておりません。
(『もやしもん』6巻31p 参照)
3位は、コマ単体部門でも出てきたL・フルクチボランス、通称ヒオチ菌です。
やはり一コマで208体も登場した影響が大きかったようです。
その後も、ワインなどのテーマのときにちょこちょこと出番をもらい、トータルでは543体いました。
顔も相俟って渋いキャラクターが印象的でした。
因みに、A・オリゼーと仲間のA・ソーエ(醤油麹菌)は404体でした。
作中ではよくA・オリゼーと一緒に出ていた印象だったのですが、データを取ってみたらヒオチ菌の方が多かったのが意外です。
まとめ
以上で調査を終わります。
「農大を舞台にした菌と人と菌 菌と菌の群像劇」(『もやしもん』10巻 7p参照)とあるように、実際かなりの菌が跋扈(ばっこ)していたことが分かりました。
人間にとって菌の有益な面も有害な面もどちらも描いていたところが素晴らしかったです。
最後に、番外編として菌の種類が最も多かった一コマを紹介したいと思います。
雑菌だらけの美里・川浜部屋は最大18種(『もやしもん』13巻42p)、不衛生極まりないUFO研究会も最大18種(『もやしもん』3巻51p)止まりでしたが、一コマだけ20種類も菌のいたコマがありました。
(『もやしもん』4巻173p 参照)
院生の長谷川が、不器用なりに沢木に詫びるシーンの研究室です。
※A・アセチ、A・アルテルナータ、A・オリゼー、A・ニガー、B・サブチリス、C・グロボーサム、C・トリコイデス、F・ロゼウム、S・セレビシエ、L・アシドフィルス、L・カゼイ、L・プランタルム、L・ブレビス、L・ヨグルティ、L・ラクチス、M・ムセド、P・クリソゲヌム、R・ジャバニクス、S・エピデルミディス、T・コニンギの20種
参考資料(URL最終確認はいずれも2017/11/05)
『もやしもん』1巻~13巻 2004~2014 石川雅之 講談社
『麴菌をわが国の「国菌」に認定する―宣言―』日本醸造学会
『wikipedia コウジカビ』https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%82%A6%E3%82%B8%E3%82%AB%E3%83%93