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【インタビュー】 ヴィッセル神戸 森岡亮太選手



試合によって波のないチームを目指す

インタビューの序盤ということも手伝って、険しい表情を浮かべながら森岡もりおか亮太りょうたは、1stステージを振り返った。

「開幕時点で思い描いていた目標とはほど遠いですよね。1stステージを通して勝ったり負けたりと波が激しかったですし、試合内容に関しても、いい流れでゲームを進められた試合と、そうではない試合と、両極端な展開になってしまった」

所属するヴィッセル神戸は4勝7分6敗の13位で1stステージを終えた。チームのゲームメイクを担う背番号10が、この成績、この順位で満足するわけはない。

「個人的にも直接得点に関わるプレーが、ゴールもアシストもそうですけど、少ないとは感じています。そこに直結するプレーが足りなかったことも、チームの結果に影響したとは思っています」

厳しい言葉が口をついて出るのは、チームにも、自分自身にも課題が明らかだからだ。

「それじゃいけないんですけど、試合によって波があるのが、神戸のチームカラーみたいになってしまっている。そこはネルシーニョ監督にもすごく指摘されています」

森岡は1stステージを思い起こし、自分たちの意図するサッカーができていた試合として、第5節のヴァンフォーレ甲府戦を挙げた。

「ホームでやった甲府戦は理想的でしたね。得点が決まった時間帯も良かったですし、90分を通して、チームとして余裕を持って戦うことができた試合だったかなって思います」

森岡が例に挙げたその試合は、開始4分に石津大介が先制すると、前半終了間際にもその石津が追加点を決めて2−0で試合を折り返す。後半に入っても攻撃の手を緩めず、さらに2得点を加えた神戸は4−1で勝利した。森岡は得点こそなかったものの、いくつも決定機を作り出し、相手ゴールに迫った。チームとしても中央をパスワークで突破して相手を翻弄、高い位置でボールを奪えば素早くカウンターを仕掛けるなど、得点差以上にゲームを掌握していた。

しかし、森岡が指摘するように、それが続かない。1stステージに関していえば、連勝は第4節の広島戦からその甲府戦によるものが最後だった。「だから……」と森岡は続ける。


「ネルシーニョ監督にはチームとして波があることに対して、本当によく怒られていますね。前半の内容が良くなかったりすると、ハーフタイムにロッカールームでめちゃめちゃ叱咤されますから。でも、僕らもそれはわかってるんです。内容がいいのに怒られたら、『何で?』ってなりますけど、自分たちでも出来が悪いことはわかっているから、言われても仕方がないかなって。実際、ハーフタイムに監督に怒られた試合は、後半、みんなが気を引き締めることで、内容も良くなりましたからね。それをわかっているから怒るんだろうし、監督の言うように、波のないチームにしていかないといけないですよね」

ネルシーニョ監督は、森岡にとってプロ6年目にして初めての外国人監督である。

「それ以上に、今まで指導を受けてきた中で、一番実績のある監督でもある。それもあって、僕もそうですけど、チーム全体が高いモチベーションを保てている」


自分のプレーに満足したことがない

そう言って、彼が目を輝かせたのには理由がある。自らを「どちらかと言えば、完璧主義者というか理想を追求するタイプ」と語る森岡は、聞けば、これまで一度も試合で満足したことがないという。

「周りの人に『今日は良かったね』って言われても、自分ではそんなにいいとは思っていないことのほうが多い。自分が思い描いているレベルにはほど遠いなという感覚しかないんですよね。それに、試合に関しては、覚えていないことのほうが多いんです。要所、要所というか、インパクトのあるプレーについては覚えているんですけど、どちらかというとミスした場面のことを思い出す。周りからみたら何気ないことでも、自分のなかではそういうプレーのほうが重要だったりするんです」

森岡といえば、正確なボールタッチと、類い稀なるパスセンスで、得点、アシストとゴールに直結するプレーが魅力である。「満足した試合がない」と話すのは、いかにも創造性や独創性がものをいう司令塔らしい発言であると同時に、彼のキャラクターを端的に表している。

振り返れば、2010年に神戸に加入した森岡は、ルーキーイヤーから公式戦のピッチに立つ機会を得ていたが、出場した8試合すべてが途中出場だった。リーグ戦デビューは、J1第27節の名古屋グランパス戦。その試合で25分間プレーしたのが最長で、短いときはアディショナルタイムに送り出されることもあった。

出場試合数こそ激増したが、プロ2年目も3年目も状況はさほど変わらない。スタートから出場するよりも、誰かに代わってピッチに入ることのほうが圧倒的に多かった。


「当時は、チームとしてもなかなか結果が出ない時期で、どちらかと言えば守備的なサッカーをしていた。それに、もともと守備的な選手ではなかったので、攻撃する回数が少なければ、やっぱり楽しくはないですよね。その上、結果もついてこないし、試合にも出られないということもあって、もどかしかった。だから、少しの時間ですけど、出場したときは、どれだけ自分らしく、楽しめるかということを考えてプレーしていました。もちろん、チームのために最低限のことはやりましたけど、ボールを持ったときは、思うようにプレーしてやろう、自分の力を発揮して終わろうという思いでいましたね」

1年目から自分のプレーに手応えは感じていた。ただ、それを確固たる自信に変えるインパクトを残せずにいたのだ。

そんな森岡に転機が訪れたのは、チームがJ2を戦った2013年のことだ。それは、若き才能に期待を寄せたクラブが、エースナンバーである背番号10を託したシーズンでもあった。

「プロになって4年目のシーズンでしたが、ケガもあって、最初はなかなか試合に絡めていなかったんですよね。チームもJ2で上位にはいたんですけど、満足のいく結果と内容が残せていたわけではなかったんです。そんな状況で(第28節の)FC岐阜戦と(第29節の)モンテディオ山形戦で連敗して。結果が出ていない中で、続く(第30節の)東京ヴェルディ戦で、急遽、先発で使ってもらったんです。その試合で自分は1得点1アシストをマークしてチームは2−1で勝利した。そこから続けて先発で出場させてもらえるようになって、チームは5連勝したんです。舞台はJ2でしたけど、自分の中で継続してプレーできているという感覚も得られたし、それに合わせてチームも結果が出てきたことで、周囲が自分を見る目も変わってきた」

途中出場では、負けているか同点の苦しい状況がほとんどだから「点を取るか、取らないか」だったのが、先発出場すれば、当然ながら0−0からのスタートであり、「1試合を通してチームを勝利に導くことが問われる」ということを実感した。

スタメンに定着するインパクトを残した試合として、森岡はJ2時代に先発した試合をターニングポイントに選んだ。ただ、やはりそこは完璧主義の彼のことだ。スターティングメンバーに名を連ねるようになったからといって満足したわけではない。

「そのヴェルディ戦で自分のプレーが良かったと思えるのは、得点の場面とアシストした場面の2つくらいです。久々に先発出場したから、体力的にもきつくて、全然、納得のいくプレーなんてできなかった。たぶん、前半も最後のほうは疲れていて、覚えていないくらいですからね」

第30節から出場した13試合で森岡は5得点を挙げる大活躍を見せ、チームもJ1自動昇格の2位を勝ち取ったが、充実感を得ていたわけではなかった。

「このときは、得点こそできていましたけど、それくらいでしたね。パフォーマンス的には90分で考えれば、2~3シーンくらいしか、いいと思えるようなプレーはできていなかった。他のプレーはどうだったかと言えば、やっぱりよくなかったですよね」


昨シーズン、フルに活躍できた自信

J1に昇格した昨シーズン、森岡はプロになって初めてシーズンを通して活躍した。リーグ戦34試合出場4得点。日本代表にも選ばれ、青いユニフォームに袖を通した。

「学生時代も含めて、ケガなく1年間を通してプレーできたことがなかったので、新しいステップに進めたかなという気はしています。それまでは、常にどこかでケガをして、試合に出られなかったり、練習ができなかったりというのがあったので。キャンプから休まず、シーズン最後までプレーできたことは、自分の中で新しい感覚を得られましたね」

シーズンを通して活躍できたことで、主力としての自覚も芽生えた。日本代表に選ばれたことで、追い求めてきた理想はますます高くなった。

そんな彼の前に登場したのが、J1優勝経験もあり、海外、それもサッカー王国ブラジルでの豊富な指導経験もあるネルシーニョである。さらに自分を高みへと導いてくれるのではと、森岡が目を輝かせるのは必然だった。

「ネルシーニョ監督は、選手それぞれのポジショニングも含め、細部にこだわる。その一方で、試合の状況によって、選手にその都度、その都度、考えてプレーすることも求める。すべて言われた通りのことをするのではなく、その場、その場でもっといい選択肢が必ずあると思うので、それぞれの判断力というものも問われているとは感じています」

選手個々が決断を委ねられているということは、それだけ責任も増す。

「直接、失点につながるようなミスに対しては、やっぱり厳しいですけど、チャレンジしたために生じたミスに対しては、それほど怒らないですね。それだけ、監督はチャレンジしたことを認めてくれるんです」

チームの攻撃を彩る森岡からしてみれば、それだけ自分の持てる能力の試し甲斐があるといったところだろうか。2ndステージから神戸にはFWレアンドロが加わり、森岡はマルキーニョスとともに前線のトライアングルを形成する。「自分のプレーの感覚を伝えるには、むしろはっきり物を言う外国人のほうが、コミュニケーションを取りやすい」と話す森岡だけに、連係の精度が高まってくるこれからが楽しみだ。

2ndステージの開幕戦では清水エスパルスに5−0と快勝。森岡自身も先制点をマークし、今シーズン、最高とも言える理想的なゲーム運びを見せた。だが、続く第2節では湘南ベルマーレに1−1で引き分け。ネルシーニョ監督に指摘される「安定感」を築くには、まだ時間がかかりそうだ。2ndステージ序盤は連戦が続く。第4節にはガンバ大阪との阪神ダービーが控えている。森岡の言葉は自然と熱が帯びる。

「ダービーは、やっぱりスタジアムの雰囲気がいつもとは違いますよね。サポーターの思いが選手レベルにも伝わってきます。他の試合とは異なるプレッシャーがあるからこそ、勝ったときのサポーターの喜びもわかる」

ダービーの重みは理解している。神戸が波のないチームを目指すならば、ガンバ大阪との一戦も当然、勝ちにいく。監督に指摘される悪しきチームカラーを打破するために。

チームが「安定」という新たなるチームカラーを手に入れたとき、その先には、きっと、森岡が感じたことのない満足感や充実感が待っているはずだ。(了)


取材・文=原田大輔(SCエディトリアル)
写真=佐野美樹



森岡亮太(もりおか・りょうた)

1991年4月12日生まれ、京都府出身。ヴィッセル神戸所属。MF。180cm/70kg。
久御山高校卒業後、2010年に神戸へ加入した。プロ1年目からリーグに出場すると、類い稀なるテクニックを活かして頭角を現す。幾度もケガに見舞われるも、2013年から背番号10を背負いチームをJ1昇格に導くと、昨シーズンは自身初となるリーグ戦全試合出場を果たし、名実ともにチームの大黒柱へと成長した。