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【インタビュー】 サンフレッチェ広島 柏好文選手



勝つことの難しさを知った甲府時代

まあ、とにかく饒舌でサービス精神も旺盛である。性格はポジティブで、左サイドを果敢に駆け上がるプレーと実にマッチしている。サンフレッチェ広島のMFかしわ好文よしふみのことである。

その彼がこのときばかりは真剣な面持ちで、激しい抑揚をつけて語っただけに、ひと言、ひと言に重みと真実味があった。身振り手振りを加えながら語る柏の言葉に自然と引き込まれていく。

「勝つって本当に難しいんですよね。だから、やっぱり広島ってすごいんですよ。引き分けるのも難しいっすもん。勝ち点獲ることって難しいっすよ、やっぱり……。勝つのは簡単なことじゃない。でも、広島は勝てるんです。練習試合でも、しっかり勝ちますし、最低でも引き分けという試合ではしっかりと引き分ける。そこがやっぱり、すごいなって思いましたよね」

昨シーズン、広島に加入して、柏はそれを強く実感した。

国士舘大学を卒業した柏は、2010年にヴァンフォーレ甲府でプロのキャリアをスタートさせた。前向きな性格らしく、加入1年目から「やれるという手応えはいつでもあった」と話すが、それでも「出場機会がなかなかなくて。出ても途中出場が多く、スタメンで出ることは少なかった」という。

当時の甲府はJ2を戦っていた。躍進を見せると2位でシーズンを終え、翌2011年は舞台をJ1に移した。柏にとって初のJ1だったが、出場機会を大幅に増やすと、レギュラーへと定着していった。

しかし、チームは大苦戦する。甲府は2011年シーズンを9勝6分19敗の16位で終え、わずか1年でJ2へと逆戻りした。

「甲府のときはどちらかというと、守備をしている時間が長かったので、運動量的には、いまとはまた違ったキツさがあったんですよね」

攻守にわたって激しい上下動を繰り返すウイングバックならではの表現だった。

「耐えて、耐えて。ずっと守備をしている。縦に走っているときはいいんですけど、ボールをつながれて、横にスライドさせられるのは本当にきつい。まるでサンドバッグのようですよね。粘り強く耐えるのが甲府の魅力であり、特徴でもありましたけど、やっぱり、選手としては、守備している時間が長いと苦しいですよね。攻撃で走ったほうが楽しいですもん」

勝つことはもちろん、引き分けることすら難しいということを柏はこのとき、嫌というほど痛感した。


ポジショニングひとつで相手をかわせる

ただ、甲府で過ごした時間は、彼にとって決して無駄ではなかった。2012年になると、城福じょうふくひろしが甲府の指揮官に就任する。

「城福さんとの出会いは、僕にとって大きかったですね。それこそ、ウイングバックというポジションも城福さんが甲府の監督に就任してからですからね、やるようになったのは。自分の特徴が一番発揮できるポジションを見出してくれましたし、サッカーに対する考え方も大きく変わりました」

と、城福に尊敬の念を抱くが、ミーティングではチームメイトの前で、名指しで批判されることも多々あったという。

「試合には主力として起用してくれていたんですけど、ミーティングでは一番僕の名前が出てきたんじゃないかってくらい、ダメ出しというか、指摘されましたね(笑)」

自分たちのプレーを分析した映像では、決まって柏の映像が抜き出されていたという。

「毎回っていうくらい自分の映像が出てきましたね。ふらふら動いてると、『これは何を考えているかわからない』とか『どこに動こうとしているんだ』とか、細かいところまで言われて、自分の動きをよく考えるようになりました」

分析映像には、悪い例だけでなく、良い例としても柏が登場する回数は多く、ときにチームメイトからは、「今日も柏特集だったな」と、いじられることもあったという。本人は、「攻撃のいいシーンもほとんど僕なんですけど、たいがい悪い例も僕なんですよね」とおどけてみせるが、城福の指導を受け、考えるようになった柏のプレーは、明らかに変わっていった。

「城福さんに出会う前は、例えば、自分がボールを持ってから、仕掛けようとか、アクションを起こそうという考えだった。でも、受ける前のポジショニングひとつで、相手のマークをはがせたり、ドリブルで抜く必要がなくなったりする。局面をちょっと変えるだけで、状況は大きく変わるんですよね。本当に細かいところまで考えるようになりました」

試合中にも自分がうまくなっていることを実感した。

「あっ、これが、城福さんが言っていたことかっていうのがわかる。ボールを受けるポジショニングもそう。相手を外す動きもそう。それを感じられる瞬間があったんです。そうすると、また映像を使って、城福さんは教えてくれるので、さらに理解が深まりますよね」

柏が自身の成長を実感したように、チームもまた結果を残していった。2012年、甲府はJ2で優勝する。大躍進したチームにおいて、41試合に出場した柏には、当然ながらJ1の複数チームからオファーが舞い込んだ。だが、彼は甲府に残る。

「オファーはあったんですけど、話も聞いてないんですよね」

そこには甲府に何も残していないという、彼なりの心意気があった。その場にいる人たちを楽しませようと、おどけてみたり、はぐらかしてみたりもするが、時折見せる熱い一面こそが彼の真意に思える。

「まだJ1で、甲府で、何もしていないっていう思いがあったんですよね。だからこそ、その年はチームにとどまって、甲府で何かしら自分の力を示してから考えようと……」

2013年も柏は、甲府でプレーした。城福に出会い、サッカーをより深く追求するようになった彼は、リーグ戦全34試合に出場して4得点と結果を残した。シーズンを終えると、甲府のJ1残留に貢献した彼のもとには、前年を上回る5チームからオファーが届いた。次のステップに進もうと考えていた。だから今度は、すべてのチームから話を聞いた。

「結果的に移籍金も残すことなく甲府を出てしまったので、何も残せてないんですけどね」

そう言うと真剣な眼差しから、すぐに明るいキャラクターに戻る。そんな彼が選んだのが、ここ“広島”だった。


森保監督の熱意と厳しさに心が動いた

2013年の冬だった。オファーをくれたクラブと移籍交渉を進めていくなか、柏は代理人とともにホテルにいた。その日は、広島との交渉の席が設けられていた。待っていると、その席に現れたのは強化担当者だけでなく、監督である森保もりやすはじめの姿もあった。

「森保さんだけだったんですよね。唯一、監督が来てくれたのは。直接、チームを率いる監督の話を聞けたというのは僕にとって大きかったですね」

J1連覇を達成した指揮官が、自らの言葉で伝えてくれる。

「森保さんは、ストレートに僕を必要としていると言ってくれた。こういうことを僕に望んでいるとも詳しく説明してくれた」

ただ、森保監督は甘い言葉をかけ続けたわけではなかった。

「印象に残っているのは、僕を必要としているし、広島に来てほしいけれど、ポジションは保証されていないと言われたこと。ポジションは自分で奪うものだとも」

監督が自ら足を運び、熱意を伝えてくれたことが素直にうれしかった。その上で、厳しさについて語ってくれたことにも心を動かされた。

「複数のクラブの話を聞いていくなかで、いろいろな接し方がありました。ただ、広島は、条件を提示するよりも先に、熱意だったり、チームの考え方を伝えてくれた。条件は後だから、極端な話、年俸が安い可能性もありますよね。でも、うちはこういうサッカーをしていて、君をこういう理由で必要としているというのを伝えてくれたことがうれしかった。なおかつ、森保さんが自ら足を運んでくれたということが、一番、心に響きましたね」


やはり、柏には熱いものが流れている。

「連覇したチームでレギュラーを獲得するのは簡単じゃないだろうけど、日本代表であったり、自分が上を目指していく上で、間違いなく、成長できるチームだと感じた。森保さんの言葉が本当に刺激になって、もう……即決じゃないですけど、最終的には甲府に残るか、広島に行くかのどちらかでしたね」

自分を選手として高みに導いてくれた城福にも相談した。城福も森保と同様、男だった。

「たぶん、城福さんはオファーが来ているチームのことを知ってたと思うんですよね。でも具体的なチーム名とかは一切言わずに、『カシ(柏)が一番活きるのはウイングバックだと思うよ。決めるのはカシだけど、そのポジションが一番輝けると思うから、その選択は間違えないでほしい』って言われましたね」

指導者が具体的なチーム名を出せば、選手の考えに影響が及ぶ可能性がある。それは城福が見せた気遣いでもあった。

「このクラブ(広島)には特別なスタイルというか、カラーがありますよね。それに憧れて移籍してくる選手がいる。僕もそうでしたし、そのスタイルをブレずに続けていることが結果につながっているんじゃないかって思います」


勝つことを知り、タイトルを渇望する

昨シーズン広島に来て、柏は勝つことの大きさを知った。

「勝つって本当にいいことですよね。チームには笑顔が溢れているし、練習にも勢いが出る。でも、勝っても負けても波がないというか、修正能力があるというか、それこそが強い集団だと思います。広島にはそれがあるんですよね」

話が今シーズンについてのことに及ぶと、自信を漲らせた。広島で2シーズン目を迎えた彼の心にも勝者のメンタリティが宿っている。

「今シーズンは主力が抜けた分、今いる選手たちがやってやろうという気持ちになった。そこが広島の強さでもあるし、もっと、もっと上を目指せる集団だとも思っています。最後に頂点に立っていられるようにやっていければと思う。いままではコンビネーションが代名詞でしたが、今シーズンは、両サイドや2列目が個で突破したりと、個人、個人が伸びていることで、チームにも還元されている。まだ自分自身は1点しか決めていないですけど、ゴールにつながるプレーだったり、自分で得点できるような仕掛けだったりは意識しています。相手にしつこいと思われるくらい仕掛ける回数を増やしたいですね」

広島でプレーし、自分自身が伸びていると実感しているからこそ、目標も高まる。

「個人的には日本代表を目指したい。甲府でプレーしていたときは、自分自身、なかなかそこまで考えることはできなかったですけど、いまは本当にチャンスがあると思っています。個人的な目標は、そこ(日本代表)ですけど、やっぱり優勝したいですよね。優勝したくて、甲府からここに移籍してきたんです。だから、何がなんでもタイトルを獲りたい」

そう語り真剣な表情をした後は、またおどけてみせる。加入2年目——彼はタイトルを知らない。だからこそ、それを強く渇望する。左サイドを疾走する彼は、強気なドリブルと同じく、うちに熱い魂を秘めている。(了)


取材・文=原田大輔(SCエディトリアル)
写真=佐野美樹



柏好文(かしわ・よしふみ)

1987年7月28日生まれ、山梨県出身。サンフレッチェ広島所属。MF。168cm/62kg。
韮崎高校、国士舘大学を経て、2010年にヴァンフォーレ甲府に加入。プロ1年目から試合に出場すると、2年目の2011年にはJ1を経験。J2へ降格するも、チームにとどまりプレーを続け、2012年のJ1再昇格に貢献した。2014年、数あるオファーの中から、広島を選択。1年目から左ウイングバックとして活躍している。