【担当とわたし】『三千年目の神対応』加藤文孝×担当編集対談

昨年12月から「ヤングマガジン」で連載がスタートした『三千年目の神対応』。そのコミックス第1巻が6月4日(金)よりいよいよ発売します。 異世界の描写とテンポの良いボケとツッコミ、そしてかわいすぎる神様たちが魅力的な本作。今回は1巻発売記念スペシャル対談として、本作の不思議な世界観の誕生から仕事術まで、加藤文孝先生と担当編集・白木にたっぷりと語っていただきました。

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昨年12月から「ヤングマガジン」で連載がスタートした『三千年目の神対応』。そのコミックス第1巻が6月4日(金)よりいよいよ発売します。 異世界の描写とテンポの良いボケとツッコミ、そしてかわいすぎる神様たちが魅力的な本作。今回は1巻発売記念スペシャル対談として、本作の不思議な世界観の誕生から仕事術まで、加藤文孝先生と担当編集・白木にたっぷりと語っていただきました。

……加藤文孝 『三千年目の神対応』作者
>加藤先生のTwitterはコチラから!

>『三千年目の神対応』第1話はコチラから!

……ヤングマガジン白木 『三千年目の神対応』担当
>担当編集の詳しいプロフィールはDAYS NEOに掲載!

「いつなるんだろう……今か!」で始まった漫画への挑戦

──そもそも、加藤先生が漫画を描き始めたのはどのようなきっかけでしょうか。前職ではインテリア系のデザインのお仕事をされていたと伺いましたが……?

加藤:以前は飲食店の内装デザインの仕事などをしていました。今は漫画一本ですね。デザインの仕事もすごく楽しかったんですが、それと同時に、小学生のときから漠然と漫画家になりたいという思いも持っていたんです。それであるとき「漫画家ってどうすればなれるんだろう? いつなるんだろう……今か!」と思い立って。とにかく一回挑戦してみようと思ったんです。

──そこから、どうやって連載を勝ち取ったのかお聞かせください。

加藤:しばらくはイラストなどの仕事もしながら雑誌の賞に投稿もして、という日々でした。それでDAYS NEOに投稿した頃に、白木さんから声をかけていただいて担当が決まり、そこが連載の足がかりになりました。そういえば、うちの家庭の事情なんですが、実は漫画家になることにはあまり賛成されていなくて……。
白木:あれ、そうだったんですか? 初耳です(笑)。
加藤:そうなんです。最初は別の企画の連載ネームを進めていたんですが、途中で白木さんに「実際に一度、本に載ることができれば漫画家を目指すことに説得力が出て、家での作業もしやすくなるんですが……」とお話しして、「じゃあ、先に代原(※)用の読み切りを作ってみましょう」ということになったんです。ただ、最初に考えたストーリーはなかなかうまくいかなかったんですよね。それである時、全然関係ない話を思いついて白木さんに相談したら「これは面白いんじゃないですか?」と評価していただけた。そのやりとりが今の連載に繋がっていると思います。

※代原:作者急病などで、連載作品が突然休載になった際に掲載される「代わりの原稿」のこと。

 

白木:もともと加藤先生は、DAYS NEOの投稿で『青鬼』というヒューマンドラマ的な作品を描かれていたんです。それがめちゃくちゃ面白くて! 代原の前に進めていた連載ネームもショートではなくストーリーものでした。

『青鬼』はDAYS NEOで公開中!

 

──当初作っていた連載ネームで考えていたお話はどんなものだったんですか?

加藤:ドラマの『TRICK(トリック)』みたいな雰囲気でしたよね。
白木:ページ数が多めの捕物帳みたいなお話を考えていたんですが、これは中々うまくいきませんでした。そんなときに先ほどの代原の話が上がったので、息抜きも兼ねて一度8ページ構成のショート作品を考えていただいたら、それが抜群に面白かったんです。「これはショートがいいのでは?」と感じて、そちらの路線を提案しました。
加藤:たまたまその頃、Twitterに投稿していた僕の絵を白木さんが見て「なんだこの奇妙な世界観は?」と思ったようで、「この世界を漫画で描いてみませんか?」と打診してもらったんです。自信はなかったですが、何でも「できない」と言うのはやめようと思い、とりあえず「やってみます」とお返事をしました。実際すごく苦労しましたけど(笑)。
白木:ダメ元のつもりで提案させてもらったんですが、その節はすみませんでした(笑)。加藤先生がTwitterに投稿していた絵には、異世界と女の子という組み合わせのものがいろいろあって、それがめっちゃかわいかったんですよね。

 加藤先生が投稿されたTwitter画像より

 

加藤:奇妙な世界と女の子を組み合わせた絵は、意識して描いていました。自分なりの奇妙な世界、例えば虫がたくさんいる世界を描いたとして、配置する人物には「いかにも冒険好きなゴーグルを着けた男の子」みたいな選択肢もあります。でも、僕はそこに「お風呂に入りたくて仕方ないキレイ好きで、虫が大嫌いな女の子」を置くほうが面白い。変な世界を描けば描くほど、そこにいる女の子が光るかなと思うんですね。練習して女の子もかわいく描けなきゃダメだと思っていたので、練習も含めてそういった絵を描いていました。

──濃密に描かれた世界で、ラブコメを描こうと思われたのはなぜでしょう。

加藤:変な世界が舞台となるとやっぱり冒険ものが思いつきますが、そこであえて逆のものをやってみたくなったんです。最初ちょっと勘違いさせて「えっ? そっち?」みたいな。それで白木さんに「恋愛ものを描いてみたいんですが」と相談したら「面白そうですね」と。
白木:代原で載った『体育館の裏の裏』がまさにそういう感じですよね。女の子に呼び出された男の子が、告白されるかとドキドキしながら体育館の裏についていったら異世界に連れていかれちゃうという8ページの話です。見開きで描かれた和風テイストの不思議な異世界を見て、やっぱり加藤先生は天才だなと思いましたね。普通の人にこれは描けないし、この力を使わない手はない、と。加藤さんは特にデザインセンスが素晴らしいんですよ。
加藤:前職の内装デザインの経験も役立っているのかなと思います。ひと昔前の和風居酒屋や民芸居酒屋から、今のネオ和風居酒屋に内装の流行が移り変わった時期があって、その頃に仕事で店内に和のテイストをどう取り入れるかを勉強したので。

アシスタント無しでひたすら描き込む「足し算の美」

──加藤先生の絵はやはり濃密な描き込みが特長だと思いますが、世界観のベースになるような場所を取材はされたりしていますか?

加藤:ピンポイントでここ、みたいな取材はほとんどしていません。ただ、漫画家になる前も興味を持ったものは写真を撮ったりしていました。それが習慣になっているので、資料自体はたくさん集めていますね。気になるものがあれば、車での移動中にでも停めてもらって1人で建物の裏の方まで走っちゃうみたいな(笑)。そういうことは今でもやっています。ただ、今のご時世ではなかなか外に出られないのが悩みです。

──作業はいつもお一人でされているのですか?

加藤:一人ですね。白木さんからアシスタントの方に入ってもらう話が出たことがあるんですが、僕は描きながら新しく描きたいものが思い浮かぶ場合が多いんです。そこが自分の強みなのかなとも思っているので。人に任せた絵にあとから描き足す、みたいなことはしにくいですし、何か思いついてもそれっきりになってしまう。だから、今一人でやっているのは納得ずくのことです。
白木:でも、加藤さんは締め切りを絶対に守りますし、あの描き込みから考えるとすごいと思います。本当にありがたいですね。
加藤:以前の仕事で新人に「仕事は追われるより追いかける方が楽しいよ」と言ったことがあったのですが、漫画の作業も同じ感覚です。締め切りに追いかけられるよりも、先の締め切りを常に追い抜いておきたいんです。

──社会人時代に培った経験がとても活きているのでは?

加藤:そうですね。仕事は持ち帰らず、連絡がきたらすぐ電話したりだとか。サッカーなら右から左へすぐパスを出す、ボールを自分で持っておかないという感じです。仕事は一度溜め込んでしまうとどんどん溜まってしまうので。
白木:加藤さんはネームの修正も超早いんですよ。特に連載が決まる前は修正が尋常じゃないぐらい早くて、僕が加藤さんの作業を止めるわけにはいかないから、深夜にメールの打ち合いみたいになっちゃって(笑)。
加藤:ただ連載もまだ始まったばかりですから、だんだん化けの皮が剥がれてくるかもしれませんよ(笑)。『三千年目の神対応』の原稿を始めたのが去年の夏ぐらいですからまだ1年経ちませんし、今は楽しくてしょうがないんです。

──8ページの作品をどのくらいのペースで描かれているんですか。

加藤:1日に2枚か3枚描けるのが理想的なんですけど、1日ずっと岩を描いているときもあります。特に1ページ目は、なぜか2日ぐらいかかっちゃうことが多いんです。状況の説明だからかもしれないですけど、いやに時間がかかるなというのが1ページ目ですね。
白木:それは初めて知りました!
加藤:最初の1ページで全体の世界観を引っ張るからなんでしょうかね。あとは必要になった資料の撮影がうまくいくかいかないかで作画ペースも変わってきます。今も、自分の中でのスケジュールからは絶賛オーバーしていて焦っているところです。
白木:原稿はかなり先行していただいているんですけどね。
加藤:僕の場合、「足し算の美」で漫画を描いていますから、予定からリードしていないと寄り道する感覚で描き足しができなくなるのが怖いんです。デザインの仕事は「引き算の美」で、余計な要素をどんどん引いていくという作業でしたけど、その鬱憤でしょうか。漫画は足したいだけ足してしまっています(笑)。
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加藤:大友克洋先生の『AKIRA』が好きな人なんかはご存知だと思いますが、フランスのバンド・デシネ作家でメビウスという方がいて。もう亡くなられていますが、僕も含めてメビウスに影響を受けた漫画家は、黒で塗りつぶすいわゆる「ベタ」をあまり好まず、仕上がった原稿が白くなるんですよね。その白さから逃げるために、ひたすら描き込み始める。たぶん、描き込み系の漫画家には「あるある」だと思いますよ。

──確かに加藤先生の絵も、黒く見えるところはベタでなく描き込みで埋まっていますね。

加藤:描き込むのは自分の画力が理想に届かないことに対する後ろめたさだったりもするんですよね。まだうまく描ききれていないと感じているから、とにかく描き込んで埋めようとする。僕の描き込みがだんだん減ってきたとしたら、調子に乗り始めたのかもしれないです(笑)。
白木:あはは(笑)。
加藤:最初の頃は、見ている人も目が疲れるだろうし、白いコマもあった方がいいかなと思って、描き込んであるコマと白いコマで落差をつけたようとしたことがありました。でも、白木さんに「加藤先生は描き込みましょう」と言ってもらってから、気兼ねなくやっています。
白木:加藤先生の漫画は背景を見るのが楽しいんですよね 。だから好きなだけ描き込んでほしくなってしまいます。

──先生はあまりプロットを詰めず、ペンを走らせながら膨らませていくタイプですか?

加藤:10本に1回ぐらいはオチが思い浮かんで描くときもあるんですけど、だいたいは描き始めて転がるという感じですかね。ただ、最初に悩むことをせず急に描き始めても、どうも地に足が着いていないものしか描けないですね。悩むという工程は飛ばせないのかなと思います。
白木:僕は基本的には加藤さんの意思にお任せしています。ネームからこの作品は拝見していて、ボツか否かだけ決めて、何か直すことがあれば言うくらいです。加藤さんの発想をあまり邪魔したくないんですよね。他の作品では基本的に下打ち合わせをしてから入るんですけど、加藤さんの発想って全く思いつかないところから出てくるので、絵を使って説明できるネームから拝見した方がいいんじゃないかと思っています。一方でキャラについてはかなり意見を交わします。日和を出すときとかはすごく話しました。
加藤:そうですね。日和が出るまで他にも3人ぐらいキャラクターがいましたよね。
白木:あのときは「ああでもない、こうでもない」と話しましたね。

──日和が登場したとき、ミタマの額に「嫉」の文字が出てきた場面がすごくかわいかったです。あの表情はネームの段階から決まっていたんですか?

 

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白木:あの顔最高でしたね。
加藤:あのエピソードのあたりは、白木さんのご意見がすごく参考になって描けた部分ですね。詰まりに詰まった僕に白木さんが助け舟を出してくれて、一緒に考えた。だから、なおさら好きなんですよね。
白木:あのときはネームの構成を一から話し合いました。このページで何が起きて、ラストはこうみたいな。結果加藤さんがとても良いネームを描いてくださって、その上で確か8ページ目だけ変えてくださいとお願いした覚えがあります。最初はラストのコマが小さかったんですが、最終ページであの「嫉」の顔が大ゴマでこないと駄目だと思ったんです。

──女の子を可愛く描くために意識されていることは何でしょうか。

加藤:いやぁ、まだまだわからないですね(笑)。奥さんとの会話からヒントを得たことがちょっとにじみ出ているとは思うんですけど。演技指導で、「こういうとき、女の子は何ていうかな」とか「どんなポーズとるのかな」と悩んだときは、けっこうな確率で奥さんに聞いていますね。「あざとい系の子は、しゃべりながら顔をよく触る!」とか教えてもらっています。奥さん自身の性格は……ミタマよりは日和の方ですかね(笑)。
白木:なるほど(笑)。確かに打ち合わせでもよく奥様が出てきます(笑)。
加藤:あと、奥さんは全然漫画を読まないので、そういう人に面白いと思ってもらえるといいのかなというのはあります。

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奥様から演技指導を受けた、顔に手を持っていくポーズ

 

片手間のアイデアが通用しないからこその「全てが神回」

──8ページの中で毎回オチをつけるのはとても難しいと思いますが、そのあたりは悩まれるものですか。

加藤:もう毎回めっちゃ死にそうです(笑)。作画中にアイデアを考えたりもしますが、そういったときに浮かんだアイデアはたいてい通用しないんですよね。それだけのために集中して、必死で考えて思い浮かんだものじゃないとダメで、片手間が通用しないのがつらい。もう少し簡単に思いつくかと思っていたので、大誤算です(笑)。

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「神」と掛けたオチが豊富な本作。7話の「神座」オチには、白木も思わず吹き出したそう



──毎回1話だけで楽しめるオチがついていて、でも連作として物語が続く展開になっていますが、そこはやはり綿密に計算しているのですか?

加藤:オチをつけながら繋げることは、僕も白木さんも意識しています。「今回、ちょっと唐突じゃないですか?」という話し合いもよくしますが、意識して繋げるというより、危なっかしく綱渡りで繋げています。そういえば、通して読んでいただいている方は気づいているかもしれないですけど、実は20話を過ぎてもまだ1日経ってないんですよね。これは長く続けられるいいペースだぞと個人的に思っているんですけど(笑)。
白木:この間初めて夜を描きましたもんね(笑)。

──ベタベタなコメディやギャグは抑えめで、絵で意表を突いたり、掛け合いの間で笑わせてくる場面が多いように感じます。お笑いなどを研究されていたりするんでしょうか。

加藤:特に勉強はしていませんが、お笑いはやっぱり好きですよ。ダウンタウンのトークはたくさん観ています。お笑いだと、最後のオチをスカして笑わせるようなやり取りが好きなんですけど、漫画だとドンと落とさないと「どういうこと?」とわかってもらえずに終わっちゃう。だから、白木さんにネームを見せるときは「もうちょっと強くしましょう」とか「わかりやすくしましょうか」と、いつも相談させてもらっています。

──お笑い以外にも、ご趣味があったり?

加藤:ゲームが好きで『ファイナルファンタジー』と『モンスターハンター』シリーズはずっとやっていました。以前はゲームの武器やキャラクターをデザインしていた時期もあって、けっこう勉強になりました。連載が始まってからあまりゲームの時間は取れず「モンハン」の最新作も触れていないんですけど、今は漫画を描く方が面白いですね。
白木:ありがたいです。
加藤:「モンハン」を遊んでいたときはひたすら武器を強化していましたけど、今はそれが漫画の描き込みに変わっている感じですかね(笑)。

──最後に読者に向けてメッセージをお願いします。

白木:個人的には、この漫画はとにかくリアクション漫画だと思っていますので、神様たちのリアクションを楽しんでほしいですね。ミタマのポンコツリアクションや、意味不明なことが起こる世界は、やっぱり他の人ではなかなか思いつかないので、加藤先生のセンスを楽しんでいただけたらと思っています。
加藤:「全てが神回」の漫画ですので(笑)、ぜひ多くの方に読んでいただければと思います。1話1話の掛け合いだけでなく、全部通して読んでもらったときに見えるストーリーの繋がりもあったりしますし、おまけページもかなり頑張りましたので、コミックスを読んで いただける方はそこにも注目していただけると嬉しいです。

特別に描き下ろしのおまけページをチョイ見せ!
この他にもたくさんのおまけページが収録されています!

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コミックス第1巻発売中!!