錦糸町って一体どんな街!? ~小綺麗な『錦糸町ナイトサバイブ』作者と歩いてみた~

単行本1巻発売を機に『錦糸町ナイトサバイブ』の作者・松田舞氏と一緒に「錦糸町がどんな街なのか?」を探るため、色々と歩き回ってみました!

先日Twitterで、ある街について語ったこんなTweetが注目を集めた。

挙げられている画像はコミックDAYSで連載中『錦糸町ナイトサバイブ』の1ページ。見切れている部分に書かれていたセリフはこうだ。

「ご近所にスカイツリーができるから
どうにか小綺麗にしなきゃっつって
頑張ったけどちょーーーっと間に合わなかった街
それが錦糸町よ!!」

…辛辣ゥ!!!!

わりと挑戦的なその前段階のセリフも含めて、これってどこまでホントなの…? ということで、今回は単行本1巻発売を機に『錦糸町ナイトサバイブ』の作者・松田舞氏と錦糸町をブラついてみた。

さっそく訪れたのは、ちょうど日が暮れゆく薄闇の錦糸町。

今回待ち合わせに指定されたのはこちら、作中にも登場した錦糸町の「喫茶桃山」。飲み屋街の並びに、静かな明かりをたたえて佇んでいる。

店の前には、白Tがまぶしい綺麗なお姉さんが。

 

お姉さん:あ、取材の方ですか。初めまして。松田舞です。

 

――作者だった! すみません、本日はよろしくお願いします。

まずは中でお話を、ということで連れだって入店する。錦糸町で24時間営業という喫茶桃山、中には本棚がずらり並び、テーブルを兼ねた昔ながらのゲーム機もちらほら。常連らしいお客さんが何人か、静かにそれぞれの夜を過ごしている。

作者がなぜ、錦糸町を描くことになったのか

――素敵なお店ですね。地元のかた御用達のお店なんでしょうか?

松田:どうなんでしょう。私は錦糸町出身じゃないんで…。

――えっ! 出身じゃないなら、なぜよりによって錦糸町を舞台に?

松田:そもそも、最初は錦糸町というより“夜間診療の歯医者さん”というシチュエーションから浮かんだんです。以前歯科助手として働いていたことがあったので、その経験を活かせればと。錦糸町という舞台は、担当編集のK島さんが提案してきたことで。

――それでは先生ご本人は、錦糸町はそれまで全く馴染みがなかったんですか?

松田:いえ、元々東京の東側のほうに住んでいたので、何度か来たことはありました。バイト先も近かったので、「バイト帰りに取材できるな~」と思い、私も軽い気持ちで「いいですね」って…。ネットで人気のお店を調べたり、フラフラ散歩するところから始めました。取材と言ってもカメラはiPhoneですし、何も考えずに歩いてた感じです。

↑主人公・小夏や賢ちゃんたちが訪れる「とんつう」。ネットの記事を読んで訪れたところ、実際うまかったらしい。

――作中の錦糸町観は、取材しながらホヤホヤの実感として得てきたところを描かれていたんですね。夜間診療の歯医者さんということで夜中に取材したり、大変なこともあったのでは?

松田:怖い目に遭ったことは1回もないですよ。変な人は見かけましたけど。

――例えばどんな…?

松田:路上で飲み会を繰り広げている人がわりと多くて。これだけ飲み屋さんがあるのに!(笑)

↑ちなみに先生曰く、「今年の夏は暑すぎて少なかった」らしい。

松田:あとは、WINSの周りはおじさんばっかり。

↑本記事の取材日にもチラホラと見かけた、“錦糸町”おなじみスタイル。

――作中に登場するよなか歯科やキャバクラにも、モデルはあるんでしょうか?

松田:よなか歯科は、自分が働いていたところに間取りだけ少し似てるくらいですね。キャバクラも“錦糸町で働いてた”っていうキャバ嬢の方に話を聞いたりしましたが、モデルになった場所とかはないです。

――“夜間診療”のアイディアは、そもそもどう思いついたんでしょうか。

松田:主人公の小夏のビジュアルだけ最初に決まっていたので、幼く見える子が夜の街にいたら面白いなと思ったんです。完全に医療ものになると描くのが大変そうですし、歯医者ってけっこう地味だし、口の中ばっかり描くハメになるのも嫌だなと思って、別のところで新味を出そうかと…(笑)。

↑思わず「フムフム」とためになる歯ネタも随所に。歯みがきは丁寧にしよう!

松田:なので、歯医者ネタを入れるとしても分かりやすい範囲でとは気を付けています。担当さんも、自分が歯医者さんにかかった時の資料をくれたりするので、それを参考に。

――なるほど。では次は、錦糸町のオススメスポットについてお伺いしたいのですが…

隣の席の人:それは実際に街を歩いたほうが分かりやすいと思うので、行きましょうか。

――はい! …って、え? 誰?

松田:担当のK島さんです

――ええっ!? いつからそこに?

K島:最初っからいましたよ。

松田:K島さんのことは全く気にしなくて大丈夫ですよ。さあ、行きましょう!

作者と一緒に錦糸町のナイトをサバイブ!

――この時間(23時頃)でも、営業中のお店が結構ありますね。

松田:夜でも人がけっこう多いんで、わりと歩きやすいです。北口駅前とかはすごく綺麗だし、家族連れも多いんですよ。ただ一部にはやっぱり客引きもいるので、かわせるように歩きやすい靴がおすすめです。

↑多すぎる客引きを防止するために、錦糸町駅前には嘉門タツオ氏が歌う「ぼったくりイヤイヤ音頭」が流れている。

松田:駅前だとイヤイヤ音頭が流れてるんで、客引きもそれを避けてちょっと外れた通りにいるんですよ。数人で来ると居酒屋のキャッチがすごいので、1人ずつ別れて歩いた方がいいかも。

K島:僕はあんまり捕まったことないですけど。

松田:K島さんは同業者だと思われてるんじゃないですか?

――先生が「ここ行ってみたいな」というスポットは?

松田:あ、ちょうど、このラーメン屋さんとか。

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松田:鯛ラーメンで、チャーシューがすごく美味しいらしいんですよ。でもいっつも並んでて、並ぶのがいやで入らなかったんですけど…今行けそうだな…。

――取材中、取材中!

松田:行ったラーメン屋さんでよかったのは、北口の「タンメンしゃきしゃき」。しゃきしゃきでした。……あ、この高架下も、最近描いたところですね。

K島:河内音頭の回ですね。あの回はわりと面白かった。

↑錦糸町きっての盆踊りイベント・河内音頭はいわば「イーストエンドのフジロック」。(by小夏)

松田:去年も取材に行ったんですが、この縦長の会場にびっしり人がいて。昔ながらのお祭りでありながら、すごく今っぽいんですよ。「こんなに盛り上がってるの初めて見た!」と思って、絶対描こうと決めてたんです。

K島:あの回は、テイク1でばっちりのネームが上がりましたね。

松田:その前の回は全ボツくらって大ピンチでしたけどね…。

――打ち合わせはいつもどこでされてるんですか?

K島:そりゃもうココです。

松田:そうですね、ココとか。

――なんだこの公園。

松田:いや、ノッといてなんですが、K島さんと錦糸町で会うの初めてですよね? いつも「錦糸町遠いから」とか言って取材にも来ないし。私はちゃんと、たまに錦糸公園のベンチに座って人を観察してみたりしてますけど。

K島:そう、我々は決してガイドブックを作っているわけではない。地図上の何かや有名店ではなく、面白い生き物を見つけて描くほうが大事なんですよ。

松田:いや、だから、もうちょっと錦糸町に来てくださいよ。

K島:善処します。

最終結果:錦糸町は一体どんな街?

松田:錦糸町は、K島さんみたいなダメな人でも受け入れてくれる街です。

K島:「酔っ払いは多いが悪人はいない」とでも言いましょうか。

松田:1話が少しだけネットで話題になった時も「こんな街じゃない」って炎上したのかと思ったら、みんながそれぞれの錦糸町観を語っていて…「みんなにとっても愛すべきディープな街なんだなあ」って感じました。遊びは何でもあるし、自分がおじさんだったらこの街から出られないだろうと思いますね。欲を言えば住みたいくらい。

――錦糸町の雰囲気が、ちょっとつかめてきた気がします。そういえば、ちょうど1巻も発売したてということで、見どころを教えていただけますか?

松田:主人公の小夏ちゃんを見てほしいです。小夏ちゃんを中心に、誰でも気軽に読めるように世界を回しているので…愛してあげてほしいなと。K島さんは?

K島:…キャラクターの好感度は高いし、おちゃらけているようでストーリーラインは意外と緻密だし。僕は松田舞という漫画家を、石黒正数氏と東村アキコ氏のハイブリッドだと思ってます。…と言うと失笑されるので、記事には書かないでください。

――わかりました、書きません! それでは…聞くまでもないかもしれませんが、最後にひとつだけ質問させてください。“錦糸町はどんな街ですか?”

松田:「住めば都」…ですかね。私、住んでないですけど(笑)

取材を終えた後、再び錦糸町の夜に消えた作者・松田舞。足しげく通い、錦糸町のそこかしこで暮らす人々を見つめ続けるからこそ、その手が描く“錦糸町”も生きた街になっていくのだろう。