【担当とわたし】『事件はスカートの中で』ずみ子×担当編集 対談

読み切り作品『塩ラーメンをすすった日に』で「第81回ちばてつや賞 ヤング部門」の大賞を受賞し、コミックDAYSでの連載デビュー作『事件はスカートの中で』(以下:『じけスカ』)がいきなりPV数1位を獲得した注目作家の「ずみ子」先生。今回は9月9日(水)の『事件はスカートの中で』コミック第1巻発売を記念して、担当編集・細谷との特別対談を公開! デビューの経緯から『じけスカ』の誕生・制作秘話までを語っていただきました!

3月の約束』で「第80回ちばてつや賞 ヤング部門」の期待賞を、『塩ラーメンをすすった日に』で「第81回ちばてつや賞 ヤング部門」の大賞を受賞し、コミックDAYSでの連載デビュー作『事件はスカートの中で』(以下:『じけスカ』)がいきなりPV数1位を獲得した注目作家の「ずみ子」先生。今回は9月9日(水)の『事件はスカートの中で』コミック第1巻発売を記念して、担当編集・細谷との特別対談を公開! デビューの経緯から『じけスカ』の誕生・制作秘話までを語っていただきました!

……ずみ子 『事件はスカートの中で』作者
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……ヤングマガジン編集・細谷 『事件はスカートの中で』担当
>担当編集の詳しいプロフィールはDAYS NEOに掲載!

「普通じゃない発想」を感じさせたネームとは?

──ずみ子先生が漫画を描きはじめたきっかけを教えてください。

ずみ子:小さい頃はよく漫画を読んでいて、小学生くらいの時には自分で描いたりもしていたんです。その後、中学・高校時代は描くことはもちろん、読むこともあまりなくなっていたんですが、ある頃から頭の中で自然にお話を思いつくようになり、それが面白いと感じるようになったんです。そのお話を何かの方法で形にしたいと考えた時に、「そういえば子供の頃に漫画を描いていたなあ」と思い出し、漫画を描き始めました。それからはいろんな編集部に持ち込みをしたり、賞に応募したりしていましたね。
細谷:僕が担当になったのは、「ヤングマガジンサード」が他社のWebコミック誌と企画した「即連載杯」という賞でネームを募集した時にずみ子さんが応募してきていて、それが面白かったので手を上げました。それが2017年のことですから、かれこれ3年くらいのお付き合いになります。

──細谷さんは、初めてずみ子先生とお会いした時の印象はどうでしたか?

細谷:「即連載杯」にずみ子さんが投稿したお話は、主人公の理想の女の子に化けた宇宙人がやってきて人を誘拐したりする、かなりエキセントリックな内容だったんです。『じけスカ』もそうですが、ちょっと変な女の子が変わった行動をする話で、「漫画は面白いけど、危ない人だったらどうしよう」と思っていたりもして(笑)。でも、実際にお会いしたらわりと大人しい感じの方で、そこは意外でした。
ずみ子:どんな人だと思われてたんだろう……(笑)。

──ずみ子先生の担当に立候補された決め手は……?

細谷:すごく個性的というか、発想が普通じゃなかったんです。いろんなものをごった煮のように詰め込んでいる新人らしさはありましたが、この人は面白いことをたくさん思いつける作家さんだという直感を受けるお話でした。また、送られてきたネームが連載一話目として読めるものだったのもよかったんですよね。続きがすごく気になる終わり方で、直接描いた方に会って「この先の展開はどうなるの?」と聞きたくなる作品でした。それでお声がけしたんです。

──ずみ子先生は、細谷さんとやっていこうと思った決め手は何でしたか?

ずみ子:提出したネームの返事がちゃんと返ってくるのがよかったです。
細谷:なんだかハードルが低いような? 編集というか、社会人として当たり前じゃないですか?(笑)。
ずみ子:それまでにも担当編集さんに付いてもらったことはあったんですが、ネームを送ってもしばらく反応がなかったり、よく分からない返事が来ることがけっこうあったんです。細谷さんはネームを出したらきちんと返事が返ってくるし、内容もちゃんと読んでくれているんだなって分かったので、安心感がありました。

 

「ネームから感じられた、「面白さの核」を生み出す力

──細谷さんが担当に付いてから、ずみ子先生と細谷さんはどういったやり取りをされたんでしょう。

細谷:最初は「ヤングマガジン」の月間賞に応募してもらったのですが、出した3本中で2本が賞を取ったので、ステップアップとして「ちばてつや賞」に挑戦してもらったんです。1本目の『3月の約束』が第80回のちばてつや賞で期待賞を受賞して、その半年後の第81回では『塩ラーメンをすすった日に』で大賞を受賞されて。それから半年で『じけスカ』の連載開始ですから、本当に順調だと思います。

 

──連載を開始された今は、どんなことを考えられていますか?

ずみ子:お話を考える苦労とか不安みたいな意識はあまりなくて、今はとにかく、読んでいただいた方の反響が欲しいなと思っています。
細谷:お話を作られている時は、いつも楽しそうですよね。ネームの修正って、回数を重ねていくと作家さんも編集もお互いしんどいので嫌になってしまう、みたいなこともあるんですが、ずみ子さんはそこを粘り強く付き合ってくれてありがたいです。

──ずみ子先生のネームは、最初に出したものからだいぶ変わるものなんですか?

細谷:毎回話し合って、練り直していただいています。お話の面白さは最初からあるので、それが根本から覆ることはないんですが、自分の考えたお話のどこが「変」で、その「変」さをどう見せると読者に伝わるのかを意識して描けるよう、何度か打ち合わせる感じです。表現には「面白いことを考える技術」と、「伝える技術」があると思うんですが、ずみ子先生は「面白いことを考える技術」はずば抜けているけど、それを「伝える技術」の方が目下の課題だと思います。
ずみ子:細谷さんと相談していると、そういう部分の判断は、自分でもまだ全然できていないなと感じます。
細谷:でも逆に言うと、ずみ子さんの頭の中からは、読んだ人が「面白い!」と感じる「核になるアイデア」はすぐに出てくるんです。それってやっぱり漫画家としてとても大きな才能ですし、その面白さを伝えるためのお手伝いをすることが、編集の仕事だと思っています。

──具体的にネーム作りでやり方を変えた、みたいなこともあったりするのでしょうか。

細谷:『3月の約束』の時に「話の構成は面白いけれど、それぞれのキャラクターの背景が弱かった」という課題が見えたので、次の『塩ラーメンをすすった日に』を描く時にキャラの履歴書となるキャラ表を書いてみたらどうかと提案させてもらったんです。そしたら、いきなりものすごく密度の濃いキャラ表が上がってきて、驚いたんですよね。
ずみ子:キャラ表を作るのはすごく楽しかったです。「このキャラが、なぜこういうセリフを言うのか?」といった内面まで深堀りをしていけた実感があります。
細谷:『塩ラーメンをすすった日に』では、キャラ表に書かれている設定の10分の1くらいしか使われていないんですよ。でも、それくらいやったからこそ、キャラの行動や台詞にリアリティが出て、大賞受賞に繋がったんだと思います。『じけスカ』でも同じやり方で、キャラ表を作ってもらいました。

『じけスカ』の主人公・坂原優夏のキャラ表。文章部分はこれからのストーリーにも関わる部分なので、まだ秘密です!

 

最初に浮かんだのは、パンツを見せてにやりとする優夏

──『じけスカ』のお話はどのように作られていったのでしょうか。

ずみ子:第1話の見開きに、主人公の優夏が駅の階段でニヤっと笑ってパンツを見せているシーンがあるんですが、その場面を最初に思いついて、優夏というキャラクターが生まれました。そこでキャラ表と、思い浮かんだシーンをいくつか描いて、細谷さんに見てもらったんです。
細谷:キャラ表を見せてもらって、なんて変わったことを考えるんだろうと思いました(笑)。ただ、面白そうなことはわかりつつも、ずみ子さんの頭の中にあるお話に僕の想像が追いつかない状態だったので、まずネームにしてくださいと話しましたよね。

1話目冒頭、わざとスカートにパンツを巻き込んで歩く優夏。

 

ずみ子:そうでした。最初に思いついたのがさっき言った階段のシーンと、もうひとつ1話目の最後の民岡さんが優夏の入った個室を上から覗き込むシーンで、ネームではその間をつないで埋めていった感じでした。優夏は普段どういう子なんだろう、民岡さんとどう出会うんだろう、とか。

1話目のラスト付近で、わざとパンツを出していたことがクラスメイトの民岡ほとほにバレてしまう衝撃の展開に。

 

細谷:そういった感じで、ネームを描いていただいている中でキャラの性格や背景もだんだん膨らんでいきましたよね。優夏の「注目を集めるのが好き」という設定とか……。

──えっ、優夏の「自分を見てほしい!」という設定は後から加わったものだったんですか?

ずみ子:最初からないわけではなかったんですけど、今ほど自己顕示欲みたいなものが大きくはなかったんです。優夏が持っている、人の視線をシャッター音として感じる能力も、担当さんのヒントから思いついたものでした。

人の視線が何かの対象に向けられた時、優夏だけに聞こえるシャッター音。「周囲の人間の注目」を漫画の中で表現している。

 

細谷:優夏は狙った行動で注目を集めているんだけれど、民岡さんは何もしなくても人から注目を集められる。この「養殖」と「天然」みたいな違いを感じてもらうために、何かしら注目されているのが直感的に分かる仕掛けがあるといいですねという話をしたんです。それに対して、ずみ子さんがシャッター音のアイデアを出してくれて。
ずみ子:思いついた時は、「来た! これは担当さんに見せなければ……!」と嬉しくなっちゃいました。
細谷:最初から奇をてらって変なキャラを作ろうとしたわけではなく、どうやってこの主人公を見せるかに頭を使って、少しずつ積み重ねていった感じですよね。それが1話目を完成させるまでの流れだったと思います。だから、ずみ子さんは狙って変わったキャラクターを描こうとしているわけじゃないんです。優夏も最初は特に変わった子だとは考えていなくて、ネームを描いている途中で気付いたと言われてましたよね。
ずみ子:6話めで、民岡さんに言われて優夏がバスの中でおしっこを漏らしてしまう自分を想像して、ちょっと恍惚とするシーンがあるんです。そこまで描いて、「あ、優夏って変わった子なんだ」って初めて気づいたんですよね。わたしはその行為を喜べないので……(笑)。

『じけスカ』取材のため、ひとりで性犯罪の裁判を傍聴!

──優夏のような「注目されたい、特別な人になりたい主人公」を描くという構想は、最初からずみ子先生の中にあったのでしょうか?

ずみ子:最初に『じけスカ』のお話を思いついた時はほとんど意識していなかったんですけど、優夏が持つ「注目されたい」という思いはもともと私の中に今も強くあって……。その意味で、優夏と私には根底で重なる部分があると思っています。私に限らず、人って多かれ少なかれ「特別な存在になりたい」ものだと思うんですけど、今回のお話はそういった人の思いに応えられるようなお話にしたいと考えていて……。読者に向けたお話であると同時に、私自身が伝えてもらいたかったメッセージみたいなものを描きたいと思っているんですよね。
細谷:今はまだ「ちょっとヘンな女の子の話」に見えている読者の方も多いと思いますが、ここからまた大きく状況が変わっていくので、そこは注目しておいてほしいです。

──センシティブな題材を扱うにあたって、世間からの見え方が気になったりはしますか?

細谷:単純に「パンツを見せて喜ぶのはいかがなものか?」みたいなモノサシで測れるような漫画ではないです。この先で描かれていく物語を見てもらえれば、今までのエピソードもちゃんと必要があって描かれていることが腑に落ちると思います。
ずみ子:そのために、去年のクリスマスは私一人で裁判所に取材に行ったりもしてますし(笑)。
細谷:昨年の年末に連載のネームの打ち合わせをしていた時、ずみ子さんが性犯罪の加害者と被害者をちゃんと見ておきたいと言われて「近々行きましょう」と返事をしたんです。そしたら、すぐに自分ひとりで裁判所の傍聴に足を運んでいたんですよね。
ずみ子:裁判所に行った帰りの駅から細谷さんに「裁判所行ってきました!」と電話しました。
細谷:それを聞いて「ずみ子さんは本気なんだ」と。いろいろな視点から物語を描こうとしていることが感じられて、僕も担当として気が引き締められました。これから先、さらに深く描かれていく部分です。
ずみ子:『じけスカ』の題材がセンシティブなことは私自身も意識していますし、そういった部分で誤解が生まれないよう、細谷さんにもちゃんと見てもらわないといけないと思っています。作品がバッシングされることが不安なわけじゃなく、自分が描いたもので誰かが傷ついたら嫌だな、という気持ちが強くあるので。お話自体は、連載がもう少し進むと、このお話で一番描きたかった核心部分が来るので、それを描いてから結末がどうなるのかを決めることになると思います。
細谷:先の展開を聞いている僕の感想としては、「この人、なんて怖いことを考えるんだろう……」という感じで(笑)、今から反響をすごく楽しみにしています。

優夏の行動を密かに撮影していた民岡さんが、駅員に見つかってしまい……!? ますます目が離せない展開を予感させる9話のラストシーン。

 

「青春のきらめきが足りない!」と指摘された結果……!?

──ずみ子先生の作品は女子高生がメインになるお話が多いように感じますが、そこは何か理由があるんでしょうか?

ずみ子:私自身、女子高生が好きだというのが一番の理由なんですけど……(笑)。女子高生ってみんな制服を着ていて同じ格好、同じ状況の中で生きているので、その集団から浮いてしまう、変なものを描きやすいというのがあるんだと思います。
細谷:同じ系統でいうと、グループ系のアイドルもお好きですよね?
ずみ子:坂道グループが好きですね。最近は細谷さんの影響でNiziProject(虹プロジェクト)もチェックするようになりました(笑)。

──逆に、男性キャラクターを描くのは実は苦手だったり……?

細谷:わりとその傾向はあるような……? 『じけスカ』も優夏のクラスメイトの高橋君をどうするか、けっこう苦労されてましたよね。
ずみ子:高橋君は細谷さんが編集部でネームを見せた時に「青春のきらめきが足りない!」と言われたと聞いて考えたキャラクターなんですが……(笑)。 第1話で、わざとドジをする優夏を見て「計算だよ」って見破るセリフはパッと出てきたんですけど。それ以降ちょっとどう描くかに苦戦しているところがあります。『塩ラーメンをすすった日に』の主人公も苦労して描いたんですが、ちばてつや賞の受賞者仲間から「ずみ子さんは、自分に害がないタイプの男性しか描かないよね」と言われてグサッと来たんですよね。

──受賞者のあいだで横のつながりができたりするものなんですか?

ずみ子:私は第81回の授賞式で集まった時に、そこに参加していた他の作家さんと仲良くなって、今もLINEのグループでつながっています。このあいだも4人で電話してましたし、意見を聞けたりするのは嬉しいし、楽しいですよ。

「自分が普通だから、変な人が羨ましいのかもしれません」

──ずみ子先生ご自身についても聞いてみたいのですが、影響を受けた作品などあったりしますか?

ずみ子:昔は「りぼん」などの少女漫画を読んでいて、『神風怪盗ジャンヌ』が好きでした。あとは兄がいるので「週刊少年ジャンプ」とかの少年漫画も読んでいたので、そのあたりに影響を受けているかもしれません。そういえば私、少し前に「少年ジャンプ+」で鳩胸つるん先生が連載されていた『剥き出しの白鳥』という漫画にゲスト出演してるんです。普通に読者としてTwitterで応募して受かったんですけど(笑)。
細谷:僕はあまりよくわからないんですが、漫画の中で脱いだとかなんとか……。
ずみ子:登場するにあたって「全裸の主人公を追いかける役と脱ぐ役、どっちがいいですか?」と聞かれたので、「絶対脱ぐ方で!」と言って、描いてもらいました(笑)。

──ずみ子先生は、ご自身を変わっているなと思うことはありますか……?

ずみ子:わりと変な人が好きだとは思いますけど、わたし自身は普通です。細谷さんにも初対面で「普通だね」と言われたことをすごく覚えてますし。
細谷:最初にも言いましたけど、奇抜な人が来るのかなと思っていたので……(笑)。ずみ子さん自身は、変じゃないです。考えるキャラクターがみんな変なだけです(笑)。

──変な人を好きになるきっかけは何かあったんですか?

ずみ子:思い当たる節はけっこうありますけど、それを口に出すと「ネタにされちゃう」と思われて仲良くしてもらえなくなりそうなので秘密です(笑)。自分が普通だから、変な人が羨ましいのかもしれません。人を観察することも好きで、気になった人の根本的な行動の理由が分かった時などはすごく面白いと感じます。

──最後に、本作の見どころについて、読者へのメッセージをお願いします。

ずみ子:今はとにかく一度読んでいただいて、できれば反響ももらえたりすると嬉しいです……という感じです。すでに読んでもらっている方は引き続きお楽しみください。最後まで読んだら、もう一度、最初から読みたくなる作品だと思いますので、よろしくお願いします。
細谷:「次はどうなるんだろう?」とずっと思ってもらえる漫画を目指して、全ての回が面白くなるように力を注いで作っています。ずみ子さんのキャラクターは、掘っても掘っても底が見えない面白さがあるので、そこにぜひ注目して読んでみてください!

『事件はスカートの中で』第1巻発売中!

 

こちらは角度によって絵の見え方が変わる「レンチキュラーPOP」。
1巻発売を祝して全国200書店に配布予定です。