『おお振り』ひぐちアサの“あの頃”に迫る! 『初期傑作選』発売記念インタビュー

月刊アフタヌーンで好評連載中の野球漫画『おおきく振りかぶって』。現在29巻目に至る本作はアニメ化を果たし、今年の9月には2度目の舞台化を控えますます盛り上がりを迎えている。そして本日7/23(月)、作者の黎明期を飾る初期作品集『ひぐちアサ初期傑作選』が発売! 初期作品について作者・ひぐちアサから寄せられた“ここだけのコメント”を特別掲載いたします!!

『おお振り』ひぐちアサの“あの頃”に迫る! 『初期傑作選』発売記念インタビュー

月刊アフタヌーンで好評連載中の野球漫画『おおきく振りかぶって』。現在29巻目に至る本作はアニメ化を果たし、今年の9月には2度目の舞台化を控えますます盛り上がりを迎えている。そして本日7/23(月)、作者の黎明期を飾る初期作品集『ひぐちアサ初期傑作選』が発売!
そこで本記事では、初期作品について作者・ひぐちアサから寄せられた“ここだけのコメント”を特別掲載いたします!!

 

 

——『ひぐちアサ初期傑作選』発売にあたり、読み返してみていかがでしたか。

ひぐち:いろいろ思い出しながら読みましたが、なんといっても、当時は時間があったんだなあと思いました。スマホどころかデジカメもない時代に、背景のための写真をまず撮りに行き、現像に出し、プリントしてきて自分でトレスし、登場人物の服も毎回設定して、もちろんアナログでスクリーントーンを自分で貼っています。毎晩寝る前に次月の分のシナリオを読み直し、20回くらい推敲した上でネームにしてました。おかげで初見では何を言ってるのかよくわからない台詞回しになっている部分も多々ありますね。

——投稿作『ゆくところ』では同性愛、身体障害、家族崩壊など複数の難しいテーマを扱われていますが、どんな思いから題材に選ばれたのでしょうか。また、アフタヌーン四季賞を選ばれた理由をお聞かせください。

ひぐち:同性愛もアルコール中毒も身体障害も、心惹かれるというと語弊がありますが、描いてみたい題材でした。しかし、あまり商業的ではないと考えていまして…世間を見渡したとき、アフタヌーンが一番、この作品を載せてくれそうな雑誌だと思いました。ページ数の制限のない新人募集も当時は四季賞だけだったので、ページ数含めて、アフタヌーンしかありませんでした。

↑それぞれに事情を抱える少年たちの交流からは、何が生まれるのか。目が離せないストーリーテリング。

 

——『ゆくところ』について、「投稿作でしかカッテはできないものと考え、スキホーダイやろうと思っていました。」とあとがきに書かれていますが、先生がこの作品で一番「スキホーダイ」されたシーンを教えてください。

ひぐち:一番というと難しいですが、シナリオをかなり長い時間かけて推敲しているので、どのシーンも描きたかったと思います。

——続く『家族のそれから』は初めての月刊誌連載で、様々なことをご経験されたと思います。今も心に残っているエピソードなどありましたら教えてください。

ひぐち:ネームを提出したら、「編集長に『倍にしてみて』と言われた」と担当さんに言われ、どういう指示なんだ!と思いました。後に聞いたキャッチコピー(?)ですが、アフタヌーンは‘放牧主義‘だそうで、まさに当時の編集長だった由利さんは放牧主義だったんだなあと今になって思います。 この後の『ヤサシイワタシ』でも、「前半描いて」と一言、言われましたし、由利さんの漫画の読み方、指示の端的さには、凄みを感じていました。 あとは…連載は3か月分くらい溜めてからスタートしたかったのに、たしか1か月分のストックしかない状態で連載が始まることになったんです。それでびびりまくっていたら、「連載って本来そういうものだし」と担当さんに言われて。「確かに…」とは思いましたが、初めての“締め切り”に、すごいプレッシャーを感じました。

——『家族のそれから』のあとがきでは、「その時思ってることはわりとその時しか思ってないもんだということがわかりました」と仰っていましたが、18年経った現在、この作品に対してどういう想いを抱いていますか。

ひぐち:読み返したら、キャラクターが私の思うとおりに動いていて、なんだか全員私みたいでした。テーマは盛り込んだんだろうとは思うんですが、漫画として、なんというか…下手ですね…当然といえば当然ですが。

↑死んだ母親を介して繋がっていた、義理の親子関係。自分なりに妹を守ろうとする兄、しっかり者の妹、優しいけれど“父”ではない人――それぞれが人間らしい。

 

——『ヤサシイワタシ』は先生ご自身の体験を元に誕生した作品とのことですが、漫画として世に出そうと思われたきっかけはなんだったのでしょうか?

ひぐち:当時は、これを描かないことには次が出てこないという糞詰まり状態だったので,この題材で何回もネームを切ったような…よく覚えてないですが15〜20回くらい直したんじゃないですかね。

——『ヤサシイワタシ』は「自分の受けたショックを追体験させるチャンス」とあとがきで仰られていましたが、この作品について読者から向けられた言葉の中で、心に残っているものがありましたら教えてください。

ひぐち:お一人、自殺を思いとどまったことがある、と書いてきてくれた方がいまして、この答えが欲しかったから描いたのかもな、と思った記憶があります。

↑不器用な女と、巻き込まれる男。ひぐち作品は、“不足のない人”なんていないことを教えてくれる。

 

——先生の作品では、登場キャラクターそれぞれの<家族>についても細かく設定されていることが多いですが、何か理由があるのでしょうか。

ひぐち:キャラクターを描こうとすると、その生活の背景に家族は写りこんでくるので、そこに見えないと不自然だから、家族を作らないとお話が進まないですね。

↑人間を描くうえでは、その人をかたちづくる“家族”や環境が見えてくるのは自然なこと。

 

——今回の傑作選に含まれる3作品をつくった経験の中で、『おおきく振りかぶって』の制作に“特に活きたこと”がありましたら教えてください。

ひぐち:“長期の連載をしたい!”という強い思いは生まれました。

——先生は『おおきく振りかぶって』について以前「いくらでもこのマンガを描いていたい!」と発言されていますが、現在まで連載が進んだ今も同じお気持ちでしょうか。これから描きたいエピソードなど、お話しいただける範囲でお聞かせください。

ひぐち:できればいくらでも描いていたいのですが、先日ドカベンもついに連載46年目で完結しましたし、自分は年齢的にいくつまで描けるかな、とか、考えるようになりましたね。インタビューなどで「三橋たちの3年間を描きたいです」と言ってきましたが、作中の3ヶ月間を描くのに10年かかってしまったので、単純計算だと…ちょっと、まずいですね。しかし連載は今、1年目の初冬まで進みました。冬の間にやりたいことがありますし、春になれば新入生も入って来ます。三橋たちの3年間を描き切れるようにがんばりますので、どうかこれからもよろしくお願いいたします!

↑出会った当初はコンプレックスの塊だった少年たち。3年間を過ごした時、たどり着くのは…?

 

――ありがとうございました!