『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』が小学館漫画賞一般向け部門を受賞しました。講談社の青年誌作品として受賞するのはなんと10年ぶり。奇しくもその2010年に受賞したのは現在もモーニングで連載中の『宇宙兄弟』だったこともあり、「小山×泰」で対談をさせていただきました。漫画賞、お互いの作品、プライベートに至るまで、自由に語りあってもらいました!
(聞き手 ハコヅメ担当編集T渕)
泰氏 泰三子です。よろしくお願いします。
小山氏 小山宙哉です。よろしくお願いいたします。
小山氏 泰さん小学館漫画賞受賞おめでとうございます。
泰氏 ありがとうございます。小山さんと対談させていただけるなんて光栄です。
小学館漫画賞一般向け部門を受賞した小山氏と泰氏の共通点
――ひとつ目の共通点ですが、お二人とも連載開始から4年で受賞されているんですよね。
小山氏 そうなんですね。
――その後『宇宙兄弟』は講談社漫画賞も受賞されているので、同列には並べられないのですが、小山さんは小学館漫画賞受賞の知らせを最初に聞いた時どんな気持ちでしたか?
小山氏 嬉しかったです。講談社で賞を獲るなら分かりやすいんですけど、小学館っていう他社が講談社の漫画を受賞させてくれるっていうのがかなり特別なことなんじゃないかなと思ったので、よかったなと。
――小学館漫画賞の方が先でしたね。
小山氏 はい、翌年講談社漫画賞をいただきましたね。
――泰さんは最初お知らせを聞いた時どんな気持ちでしたか?
泰氏 びっくりしました…担当さんの電話のテンションでとんでもない賞をいただいたんだなとわかった感じです(笑)
――当時から『宇宙兄弟』はファン層も広く厚いビッグタイトルでしたが、メジャーな賞を獲る前後で、何か変わったことはありましたか?
小山氏 特に変化はないです(笑) ただ授賞式の時にものすごい多くの人に会うので、名刺をたくさんもらったりいろんな人を紹介してもらったり、賞を取ったことでいろんな方々が祝福してくださったり評価をいただく、というのが今までにはなかった経験でしたね。
――その時に「ウチ(小学館)でも是非描いてください」的なアプローチは当然ありましたよね?
小山氏 あったと思いますけど…(笑) 僕、実は小学館に最初持ち込みに行ったんですよ。「IKKI」に。その翌日に講談社のモーニングに持ち込んで。
――松本大洋さんが描かれていたからですか?
小山氏 そうですね、大洋さんファンなので同じ雑誌に載りたいなって思いはあって。「IKKI」に持ち込んだら、台詞が多いなどアドバイスをいただいて、台詞をその日のうちに削って、それでモーニングに持ち込みましたね。
――もしかすると小学館で活躍されていたかもしれないですね(笑)
小山氏 小学館漫画賞の授賞式には、持ち込みで僕の漫画を読んでくれた編集さんも来てくれてたと思います(笑)
――今年は情勢的に延期とのことでどうなるのか分かりませんが、例年は豪華でたくさんの人に来ていただけますからね。
泰氏 私は受賞しても特に変わったことはない…ですね、誰ともお会いできないので。ただ受賞のお祝いで増ページ16ページ頂いたのはありがたかったです(笑)
――また、デビュー前にお二人とも担当編集者に黙って仕事を辞めてしまったとか。珍しい共通点です。
小山氏 僕は言いましたよ。当時の編集さんが担当に付くって連絡があったときに「会社辞めます」と返信しましたね(笑) 編集さんは「いやいやそれはまだちょっと早い、これから賞を獲って準備をしていきましょう」という感じでした。
――仕事を続けながら漫画を描くのではなく、すっぱり辞めようと思ったのは漫画に集中しようと思ったからでしょうか?
小山氏 会社に勤めながら賞に出す漫画を1年ぐらいかけて描いていたので、意識的には早く漫画を描きたくて、賞を獲って担当さんが付いたらすぱっと辞めていいかなという勢いがありました。
――泰さんも私に黙って警察辞めちゃいましたよね。「担当編集者にプレッシャーをかけている」と理解しました (笑)
泰氏 そうですね。漫画を描いたことのない私が、他の絵が達者な人より先に雑誌に載せていただくには、それなりに漫画以外のところで心理的な交渉をしないと不利なのかなと思ったので、いきなり最後の切り札を切ったら、すぐ連載になってよかったなという感じです!
――やめたから連載になったわけではないですよ(笑)
泰氏 ただ連絡が返ってくるスパンは辞めてからの方が短くなったので、脅しが効いたなと思いました。
――小山さんはそういう意図はなかったですか?
小山氏 僕はなかったですよ(笑) でも急がないと担当さんが変わってしまう可能性を考えましたね。早くそっちの世界に行きたいって思っていたんじゃないかなと思います。
ご家族について
――この機会に泰さんから小山さんに訊いてみたいことなどありますか?
泰氏 あまり漫画に関してレベルの高いことは質問できないんですけど、お子さんお二人に「パパって実は、小山宙哉なんだよ」ってカミングアウトをしたのはいつですか?
小山氏 カミングアウトみたいなことはしてないですね。長女の方は僕が漫画を描いているところを見ていたし、次女の方は成長するにつれて知っていった感じですね。
泰氏 すでに知った状態で成長されてるんですね。
小山氏 長女の方は照れがあって、学校でも内緒にしてるみたいですけど、次女は逆に喜んで言いたがる感じですね。子どもによっても反応は全然違います。
場所は違えどキャラクターの「日常」を描く
泰氏 宇宙の話をずっと描いている間、小山さんの頭の中はやっぱり宇宙のことでいっぱいなんでしょうか? 時々現実に戻ってらっしゃるんでしょうか? その切り替えについて伺いたいです。
小山氏 ネームを描くときは入り込む感じですね。宇宙にいるってことと、キャラクターの想いみたいなものに、いつも入り込むようにしてます。
泰氏 宇宙にいるキャラクターの心情に入り込んでいるときの先生の精神状態ってどんなものだろうかと読んでいてすごく思います。私が描いているのは日常なので大したことないですけど、けっこう精神的に辛い部分もあるのかなと。
小山氏 宇宙を舞台にしていますけど、同じようにキャラクターは日常を生きていることを意識して、地球上で生活しているのと変わりなく考えるようにはしているので、多分同じなのかなとは思います。
作品作りで意識していること
泰氏 『宇宙兄弟』って、大人向けの青年漫画として面白いのはもちろん、小学生も夢中になって読んでいて…。先生は読者の年齢層を意識されて描いてらっしゃるのか教えてください。
小山氏 読者層に関しては年齢はそれほど意識してなくて、小学生でも読める子もいれば、ちょっとわからないって子もいるし、あまり気にはしていないですね。だけど「小学生にも読んでほしい」という思いはあるので、漢字が読めなくてもわかるように、いつか※総ルビ版を出したいという思いはあります。
※すべてにふりがなをふっている単行本のこと。
――単行本化された時の読み味を主軸において漫画を描かれている方が増えていますが、お二人とも雑誌連載で世の中にアピールしているという印象を受けました。小山さんは連載開始時から1話読み切った時の満足感みたいなものは意識されてますか?
小山氏 そうですね。読み切り感が強い方が好きなので、連載として話は続いていくけど、1話ごとにちゃんとテーマがあるのが理想ですかね。作るのは大変なんですけど(笑)
泰氏 最初はモーニングに載せていただくということだけを意識して描いていました。自分が載るスペースを考えた時に『宇宙兄弟』と『島耕作』の間の息抜き漫画としての役割だとしたら、巨大なヒキや大きなコマとかを使っても仕方ないから、ちょっとした起承転結があって、4コマ感覚で読めるようなものを出すと、読者が「宇宙兄弟よかった! ハコヅメで一息して、さあ島耕作いくぞー!」と息抜きみたいに読んでくれるかなと(笑) ただそれだけの作戦です!
小山氏と泰氏の観察眼
――小山さんから泰さんに聞きたいことってありますか?
泰氏 いいですいいですそんな。恐縮です(笑)
小山氏 元警察官ということで、内容が詳しく描かれていて興味深く読ませていただいているのですが、警察を辞めた今でもその頃の「使命感」みたいなものって残っていますか? 街を歩いているときに気になる人、怪しい人を見つけてしまったり…。そういう時ってどうするんですか?
泰氏 警察で叩き込まれたものなので、職業病でそれは一生抜けないと思います。街を歩いていたら必ず対向車のシートベルトは見ちゃいます。意味ないのに(笑)
――泰さんは初めて編集部に来て、ほぼ全員職質対象者だって言ってましたよね?
泰氏 女性は別です。女性はみなさんお綺麗な方ばかりで、さすが私の愛するモーニング編集部だなと思いました! 編集の方って、目がおかしくないですか(笑) 小山先生の観察眼からしても、ちょっと特殊だなと思われませんか?
小山氏 あーー。色んな人がいますけどね…。やっぱり寝不足なんじゃないでしょうか?(笑)
泰氏 やっぱりそうなんですかね。
――まあH谷(もう一人のハコヅメ担当)は職質対象でしょう? zoomでもそう見えます。
H谷 そうですね…。最近よくされます。
泰氏 これ(H谷)をスルーしたら仕事をしてないことになりますね(笑)
――コミヤマ(宇宙兄弟担当)には職質しますか?
泰氏 しますします。目が何をしている人かわからないっていうのが気になりませんか? この人が普段どんな仕事をして、どんな生活をしているのか想像がつかない感じが編集者さんだと思います。
――それは目でわかるものですか?
泰氏 目というか表情ですね。
――社会人としての緊張感がないとか?
泰氏 仕事をしていて、ストレスはしっかり溜まっているけど、時間に縛られた生活をしていない服装とか表情とかですかね。うまく言えなくてすみません。
小山氏 警察の観察眼でキャラクターを描くというのは、新しいですよね。
――小山さんもいろんな分野の方を取材していると思いますが、JAXAなどの宇宙関係の方や医療関係の人、それぞれに共通した空気があったりしますか?
小山氏 多分それぞれ何かあるんだなと思いますね。たとえば宇宙飛行士の方々は目がキラキラしているというか、少年の心を持ったまま大人になったんだなと感じます。選ばれる人はそういう違いはある気がします。
もし宇宙に行けるとしたら
泰氏 先生は宇宙に行けるとしたら行ってみたいと思いますか?
小山氏 行ってみたいですね。怖いですけど…。
泰氏 怖いとは思うんですね。だけど好奇心が上回るという?
小山氏 まあそうですね、死ぬまでには行ってみたいですね。おじいちゃんになってからとか(笑)
――JAXAの招待リストには並んでいるんじゃないですか? ここまで宇宙開発を盛り上げてくれた人なら、民間で行けるようになったら招待されると思いますよ。
小山氏 どうなんですかね? そうだと嬉しいです(笑)
泰氏 先生が宇宙に行ったあとに、どんな作品を描かれるのか見てみたいです!
小山氏 プレッシャーですね…(笑)
泰氏 先生じゃないとできない人体実験みたいですよね。人類で先生しかできないじゃないですか? 私が死ぬ前に、ぜひ見せてください(笑)
小山氏 (笑)
泰氏 これは言おうかどうか迷ったんですけど、『ハコヅメ』で『宇宙兄弟』を下ネタの回で引用してしまって、先生が怒っていたらどうしようと思っていたんですが、みなさん大人の対応で誰も話題にも出さないでくれて…。その節は申し訳ありませんでした(笑)
小山氏 泰さん今日はありがとうございました! 『ハコヅメ』は内容が具体的で、出てくるネタがすごくリアルなので、「僕も描きたいな」と思うくらい警察官って面白い人たちなんだと感じます。話が尽きないほど毎日いろんな出来事が起こる舞台は、漫画に向いていると思うので、今後がすごく楽しみです。
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※表紙は変更になる可能性があります。