40'sランドスケープ~40歳の景色~ インタビュー【吉田直樹】

「モーニング」は今年で創刊40周年。人間でいえば「不惑」の年を迎える。『40’sランドスケープ』は、各界のトップランナーにご自身の「40歳/不惑の年」を振り返っていただくシリーズ企画である。 今回インタビューに答えるのは、37歳から40歳までの2年半で、多くの問題を抱えた『ファイナルファンタジー14』を「新生」させ世界的な人気作に押し上げた、ゲームクリエイター・吉田直樹。契約社員から取締役にまで登り詰め、今なお現場の最前線で戦い続ける「情熱屋で理屈屋」らしい仕事論とは――。

「モーニング」は今年で創刊40周年。人間でいえば「不惑」の年を迎える。『40’sランドスケープ』は、各界のトップランナーにご自身の「40歳/不惑の年」を振り返っていただくシリーズ企画である。

今回インタビューに答えるのは、37歳から40歳までの2年半で、多くの問題を抱えた『ファイナルファンタジー14』を「新生」させ世界的な人気作に押し上げた、ゲームクリエイター・吉田直樹。契約社員から取締役にまで登り詰め、今なお現場の最前線で戦い続ける「情熱屋で理屈屋」らしい仕事論とは――。

(取材・文:門倉紫麻 写真:市谷明美(講談社写真部)

※この記事はモーニング38号に掲載されたインタビューのフルバージョンです。

『ファイナルファンタジー14』とは

インターネットに接続し、世界中のプレイヤーたちと冒険を楽しめるMMORPGというジャンルのゲーム。世界的に高い評価と人気を誇り、登録アカウント数は2500万を超え、現在も新規プレイヤーは増え続けている。

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自分にしかやれないことをやっている感覚があった

 

 「ちょっと顔が酷いことになっていて、すみません」

 取材陣からの「大変な時に申し訳ありません」という声に、吉田直樹はそう答えながら席に着いた。
 取材前日に、吉田がプロデューサー兼ディレクターを務めるオンラインRPG『ファイナルファンタジー(FF)14』に問題が発生し、寝ずに対応していたという。だがその表情は本人が言うような「酷い」ものではまったくなく、生き生きとして見える。
 吉田の肩書は「スクウェア・エニックス取締役執行役員」。だがこの日トラブルに最前線で対応していたことからもわかるように、現場で手を動かし続けている人だ。
 もともとゲームクリエイターとして裏方にいた吉田が、ゲーム好きの間で広く知られ始めたのは11年ほど前。2011年、FFシリーズの14番目となる作品(以下『旧FF14』)に、リリース後すぐに多くの問題点が発覚、抜本的な立て直しを余儀なくされるという異例の事態になった。そのプロジェクトのトップに立ったのが、当時37歳の吉田だ。
 『旧FF14』をプレイし続けているユーザーのために1万個以上の問題点を修正しつつ、一方では新しい『FF14』(以下、『新生FF14』)をゼロから開発するという、「前代未聞の、馬鹿げた計画」を自ら提案し、わずか2年半後の40歳でそれを成し遂げた。
 40歳の誕生日は開発の真っただ中にあり、「イベントの打ち上げで行った居酒屋で、スタッフから“40”って形の眼鏡をもらったのだけ覚えています(笑)」と、感慨もなく過ぎた。

 「もともと自分で年齢を意識することはないんですよ。今ももうすぐ50歳ですけど、周りが『もうすぐですね』と言うので、そうなんだなーと思うだけです」

 リリースまでの日々の中で、特につらかったことを聞くと「正直、つらかった記憶はあまりないです」。

 「『自分にしかやれないことをやっている』という感覚があって、楽しかったんですよ。計画を立てたのは自分だし、それを会社が承認してくれて、みんながやる気になっている。比較対象もないですし、結果がどうあれ思い切ってやるしかなかった。だから、つらいとか苦しい思い出より、楽しかった思い出のほうが多いんです」



人間の意識や感情は、論理的ではない出来事を起こす

 

 リリースされた『新生FF14』は多くの支持を得て軌道に乗り、現在では世界中に熱狂的なファンを持つ巨大なタイトルになった。だが「常に大変なのは過去よりも今」と吉田は言う。

 「『旧FF14』の失敗があった後は、小さいけれど非常に強力なお客様との良い関係性が作れたと思っていました。それを支えにして、新生を迎えてからは、ずっとスケールアップを続けてここまできました。しかし、2020年ぐらいから、規模が大きくなり過ぎたことで予測不能なことが起きるようになった。経験を重ねたことによって、僕の危機管理能力もある程度は高くなったんですが、それを遥かに上回る、論理的じゃない出来事が起こるようになりました。ちょっと極端な喩え話になるかもしれないんですが…」

 と、そこから意外な、だが吉田という人物をよく表す話につながっていく。

 「最近、量子力学にハマっていて。結局この世界のすべてというか自然法則は、数学を適用するとほぼきれいに解けてしまう。つまり、論理的にできているわけですよね。だから僕は、起こりうることはある程度予測できる、できるだけ驚いたり、動揺したりしないようにしよう、と思って仕事をしているんです。
 でも人間の意識とか感情というものは、その集合体が大きくなると、相互作用によって思いもしないことを引き起こす。プレイヤーの方たちのコミュニティのサイズも、開発チームのサイズも大きくなったことで、そこに働く意識が掛け算されて、『論理的じゃないな』『不思議だなあ』と思う出来事が増えたんです。開発チームの中でいうと、油断という簡単な言葉で定義してしまえるのかもしれないんですけど…これまで通りに淡々と当たり前にやればいいはずのことが、人が増えたことによって意識共有が減ったり、ちょっとした嚙み合わせの悪さがあったりしてできなくなっていく。そのあたりは、予測しようとするのではなく、常に『当たり前なこと』を繰り返して、日々の仕事に浸透させる努力をする必要がある、と感じています」 

 10年前に大変な状況でも「楽しい」と思えていたのは、規模の小ささゆえに起こる出来事も「論理的」な範囲に収まっていたからなのだろうか。

 「うーん…そんなことはないんです、きっと。でもあの頃とはベクトルがちょっと違う。マイナスからスタートして、上昇していく時は、小事は無視して、勢いで突き進むことができるんです。でも物体は質量が上がれば上がるほど慣性の法則が強く働くようになる。今のようにプロジェクトの質量が上がった状態で一度左へ振れたら、右へ戻す時にはものすごい力が必要になる。その違いだと思います。新生に至るまでの頃は、スポーツカーのようなイメージで、ドリフトターンが余裕でできていました。でも今は、16トントラックを運転してるようなもの。ドリフトターンをしたら横転する。でも、多くの人に楽しんでもらおうとするなら、ハンドルさばきには大胆なものが要求されます。エンターテイメントは飽きたら終わりだと思うので」

 まさに論理的かつおもしろい喩えに引き込まれていると、今度は「それは多分漫画も同じで」と、日ごろよく読んでいるという漫画に話を寄せていく。

 「特に連載漫画は必ず引きを作って、次の回の頭にその答えの一部を持ってきますよね。そしてその回の終わりには、また次の引きを作る。その連続じゃないですか。ゲーム開発とは違って漫画制作は究極の個人クリエイティブですよね。一人でプレッシャーと戦って、常に創作を続けるって並大抵のことじゃない。漫画から学ぶものは多いです」

 量子力学も漫画も(ということはおそらくほかの多くのものが)、吉田の中ではゲームと同一線上に並び、相互的に影響を与え合っているようだ。

 

 

やりたいことをやるために、やりたくないことを一生懸命やる

 

 「モーニング」連載作からも好きな作品として『神の雫』や『テセウスの船』などいくつかを挙げ、『島耕作』シリーズについては、自身の仕事観と重ねてこう話す。

 「島耕作は、チャンスがあれば、みんなが嫌だということでも引き受けて、どんどん跳ね上がって(出世して)いきますよね。僕も同じことをしてきたように思うんです。出世のためにやっていたわけじゃないのですが、人が嫌がる仕事を引き受けるのは大事なことだと思うので」

 40歳の島は、京都に赴任して楽しそうにしていましたね、と言うと「プライベートが楽しそう過ぎますよね。島耕作と僕とで全然違うのがそこです」と笑う。

 「ここまでの企業戦士だったら、普通はプライベートを充実させる余裕はないと思います。赴任した先で、タイプの違う人たちの仕事を理解しようとしていますよね。そうすると、覚えたり考えたりする時間がたくさん必要なはず。そこはスーパーマン過ぎるなと思っていました(笑)。僕はこの11年、外部の方と食事をする機会は年10回くらいしかない。元々あまり進んで人と仲良くなりたいとは思わない性格だからかもしれないですが……」

 ほかにやらなければいけないことがあるから、ということだろうか。

 「あ、逆です。やらなきゃいけない、じゃなくてやりたいことがあるからです」

 仕事は「楽しいこと」であり「やりたいこと」だという姿勢が一貫して感じられる。

 「やりたいことをやるために、やりたくないことを一生懸命やる。本当にやりたいことの手前で嫌なことを全部片付けたりするうちに、いろんな人が協力してくれるようになっていく。等価交換かもしれませんね」

 今年に入って、『旧FF14』から10年続いてきた大きな物語が、最新の拡張パッケージ『暁月のフィナーレ』にて、ひとまず完結を迎えた。吉田は「ひとつめの大きなサーガを完結させることができて、ほっとしています」と言い、そのことを先述の『テセウスの船』に喩えた。

 「僕はミステリマニアなのですが、『テセウス』はものすごく緻密に練られていて、すさまじいと思って読んでいました。人気もあったと思うのですが、連載を引き延ばしたりせず完結に向かってきちんと描かれていましたよね。引き延ばすのは作品のためにもよくないし、今の時代にもそれが合っていると思う。『暁月のフィナーレ』も、これまでプレイしてきてくださった皆さんには、描きたかったテーマがキチンとお届けできていると嬉しいです。今はそれを既に過去にして、新しい物語が始まっており、それを作っていく僕たち開発チームもワクワクしています」

 

 

「良いか悪いか」で考えるのはやめたほうがいい

 

 40歳を前に「自分はこのままでいいのか」「冒険すべきか」と迷っている人は、常にやりたいことに向かって進んできた吉田からはどう見えているのだろう。そう尋ねると、「どちらを選んでもよいんじゃないでしょうか」とさらりと答えた。

 「世の中に基準というものはなく、あるのは雰囲気だけです。その『40歳を迎える』という雰囲気に対して、『良いか悪いか』で考えるのはやめたほうがいいと僕は思います。自分が冒険したければすればいいし、したくなければしなければいい。冒険したら偉いということもまったくありません。あるのは、なんとなく『冒険したほうが良さそう』と感じる、あるいは『冒険、良いね』と誰かが言ってくれそう、という雰囲気だけです。あと、仕事だけに一生懸命になるということが、良いことでもないですからね」

 こんなにも仕事に一生懸命な吉田だが、それを他人に求めたりはしないのだ。

 「仕事はそこそこに家庭を大事にしたり、趣味を謳歌したりするのも、素敵なことだと思うのです。仕事のために何かを犠牲にするのは違う。でも、ほかのやりたいことのためにたくさんのお金が必要なら、やりたくなくても仕事を頑張って、その対価で大好きなことをやればいい。誰かがやりたくないと思っていることを肩代わりするのが仕事で、その対価としてお金がもらえると僕は思っているんです。みんなそうやって、自分が生きていくためのお金を稼いでいる。その理屈をもう1回整理して考えると、気が楽になると思う。僕は、ゲームを作るのが好きなんです。仕事だという感覚はほとんどない。結果的に、自分でゲームを作るのは面倒だ、と思っている人の代わりにゲームを作って対価をいただいている、ということだと思います」

 もし、40歳の自分が今ここにいたら、なんと声をかけるだろうか。

 「『そのまま頑張ったら良いことがあるから、頑張りなよ』って言いますね。基本的に、頑張ると最終的には良いことしか待っていないと思っています。仮に結果が失敗だったとしても、頑張りは誰かが必ず見てくれているし、経験として残るから、プラスにしか働かない。まあ…疲れている時に頑張りすぎると体には良くないので、ほどほどに、ではありますけど(笑)。『ここは頑張ります』とチームのメンバーに言われたら『よし、応援するわ。一緒に頑張ろう』と言うし、『今は頑張れません』と言われたら『よし今は休んどけ』って言う。良いでも悪いでもない。だって頑張るのは本人ですから」

 

 

情熱屋だけど、理屈屋でもある

 

 吉田の話には「僕の性格上」「僕はもともと」「僕は結構」など、自分という人間を客観的に定義づけるような言い方が時折混じる。自分のことをどんな人間だと思っているのかを改めて聞いてみると、少し迷って「見た目ほど悪い人間じゃないと思います、っていうぐらいかな(笑)」。

 見た目からも「悪い人間」とは思えないが――。

 「いやあ、すごくよく言われますよ。入社したての若いスタッフが震えながらあいさつに来たりして(笑)。待ってくれ、それじゃ仕事にならないよ! って思いますもん」

 おそらくその震えは、悪い人間に対してのものではなく憧れている人間に対してのものだろう、と感じつつ「では実際は悪い人間ではなく、いい人間ということでしょうか?」 と少し意地の悪い質問を投げてみる。

 「いい人間でもないですよ(笑)。でも、それを論じるならまず、「いい人間」の定義を先にする必要がありますよね」と言った後、すぐにこう続けた。

 「もしかすると、情熱屋だけど理屈屋でもある、という言葉が当てはまるかもしれません」

 ここまで話を聞いて感じていた吉田像に、ぴたっと収まるひとことが出る。それは、40歳の頃から変わっていないのだろうか。

 「もっと前から変わっていないですね。情熱を持って仕事をするのは、高校の時におもちゃ屋さんでバイトさせてもらった時の店長の影響がすごく大きいと思うし、理屈のほうは・・・・・・母親がとにかくめちゃくちゃ理屈が強い人なので。昔と変わったのは体力ぐらいかなあ。体重もそんなに変わっていないし…。でもプレイヤーの方には『老けた!』ってすごく言われるんですよ。みんな気軽に10年前の動画を出してきて今と比較したりして。いや、ちょっと待ってくれよ、10年経ってるんだからそりゃ老けるでしょ! と(笑)」

 プレイヤーとのこんなやりとりを聞くと、吉田と彼らとの距離がいかに近いものなのかがよくわかる。これは『新生FF14』の開発時から現在まで継続しているYouTubeなどでの生配信「プロデューサーレターLIVE」(PLL)の存在が大きい。『旧FF14』の失敗で失ったユーザーとの信頼関係を取り戻すために、開発の状況を吉田自らの口で説明し、プレイヤーからの質問に率直に答え、修正が終われば報告し――という配信を11年間で70回以上繰り返してきた。

 『FF14』のプレイヤーである編集者が「開発者の考えや意図がユーザーに直接丁寧に説明される場はそれまでなかったですし、意図を知ることでよりゲームが楽しめるのだということも知りました」というように、PLLは画期的な試みだ。吉田の言う「強力なコミュニティ」は、こうしたプレイヤーに対する誠実な対応によって出来上がった。信頼関係を築くことを目標にしていたとはいえ、ここまで強力なものが芽生えると予想していたのだろうか。

 「想定以上の空気に支えていただいてる、と思っています。相互理解ができない、悶々とした空気が漂う状態にならないようにしたいと思ってきたので、ありがたいです」

 編集者が「プレイヤーの意見を受け止めるという意味では、高難易度レイド(※強敵に複数のプレイヤーで立ち向かうコンテンツのこと)の難易度調整では試行錯誤があったと思うのですが…」と具体的なゲーム内容について質問を続けると、それにも率直な答えを返していく。

 「当時多くのイベントでプレイヤーの方にお会いするたびに『吉田さん、もうちょっと難しくしてもいいんじゃないですか?』と言われたんです。我々も負けず嫌いなので、よーし、じゃあ難しくするぞ! とバーンと難易度をあげたら、クリア者の数が極端に減ってしまって。あ、これはしまったなと(笑)」

 クリア者のあまりの少なさは、プレイヤーの間で語り継がれる「事件」になるほどの衝撃を与えた。

 「それまで以上に論理的に数値を設定し、ガチガチに難しくしたのですが、プレイヤーの皆さんの言葉をどの程度真に受けるかについての練度が、当時の僕たちにまだ足りていなかった。それ以降、クリアした時の達成感は意識しつつ、『簡単だったぞ!』と言われるくらいがちょうどいいのかな、と考えるようになりました。トップ層の数%のプレイヤーしかクリアできない難易度では、多くの人に楽しんでもらえないので」

 さらに編集者が、「そのキャラクターらしいセリフやしぐさにも、すごくこだわって作られていると感じます。主人公を操作するプレイヤーとして『今言いたい』と思うセリフや、『自分では思いつかなかったけれど、ここでこう言えたらかっこいいな』というセリフがちゃんと選択肢に入っていたりする。それもやっていて気持ちがいいところです」と漫画の編集者らしさも感じさせる感想を話すと、「そこはずっとチームのみんなで丁寧にやってきているので、伝わっているんだとしたらすごく嬉しいです」と応じた。

 「チームとしての積み重ねが効いてきたんだなと思います。1つのゲームをひたすら何年にもわたってみんなで作り続けることって、なかなか難しいんです。作る側も飽きてしまったり、次のチャレンジをしたくなったりで、ほかのチームに行く人も出てくるものなんですが、うちのチームは割と多くの人がずっと一緒に突っ走ってくれている。スタッフが昨日より今日、今日より明日、もっと良くしていこうと思って仕事をしています」

 

 

外国にいるような、カルチャーショックを受けるだけでもいい

 

 吉田と現役プレイヤーである編集者、2人の会話を聞いていると、こうしてユーザーといいコミュニケーションを積み重ねてきたことがよくわかる。

 「ただ…僕が“謎のYouTuber”みたいな扱いをされるのは想定外でしたね(苦笑)」

 PLLを通じて、苗字である「吉田」はニックネームと化し、吉田自身は『新生FF14』を体現する、愛すべき存在としてプレイヤーの間に定着した。

 「リアルの友だちのお子さんと会った時に『わあ、吉田だ!』って言われたんですよ。『うちはいつもテレビでPLLを流してるから、この子もそれを見て吉田さんをYouTuberだと勘違いしてるんだよね』と。僕はPLLをゲームに関する情報を発信するメディアとして使っていただけなんですけど…」

 苦笑いしながらそう話す。裏方だった自分が期せずしてアイコン化したことを、どう捉えているのだろう。嫌ではないですか? と聞くと「嫌か嫌でないかで言えば、正直、嫌ではあります」

 「誰にも知られないほうが楽ですもん(笑)。調子に乗りやすい性格というのもあるんですが、それまでは取材もほとんど断っていて、表には出ないようにしていたんです。とにかくゲームを作っていればいいと思ってきた。ですので…今、すごく悩んではいるんです。最近ではこうしてゲーム関連以外のメディアからも注目していただいてありがたいのですが、注目の対象は『FF14』であってほしいんです。プレイヤーの方が増えてくれれば、と思って取材もお受けしていますが、『FF14』を知らない方たちに、僕に関する誤解が広まるリスクも増えてきて…このままだと『FF14』自体によくないイメージがつきかねないなと。自分を広告塔にするのも戦略のうち、と割り切ってきたんですが、僕個人のモチベーションにも関わってくることなので、そろそろ考え時だなと思っています」

 自らがいつまでもアイコンとして立ち続けることの葛藤を、多くのプレイヤーも目にするであろう場で、こうして率直に口にする。これまでも吉田の誠実な発言をプレイヤーが受け止めてきたこと、そんな彼らを吉田が信頼していることがあらためて伝わる。
 一方で、ゲームに慣れていない人への目線も吉田は忘れない。今回の取材を前に、筆者は初めてのオンラインRPGとして『FF14』をプレイした。ほかのプレイヤーたちと共に今この場に「いる」こと自体に、こんなにも緊張と興奮があるのかと驚いた――そう吉田に伝えると、嬉しそうな声で「外国に行ったような気分ってことですよね!」とひとことで筆者の感情を言い表してみせた。

 「ゲームだと思って入ってみたら、この中を走り回っているのはみんな人なの? と。そのカルチャーショックだけでも僕はいいと思っていて。あれを知らないままにしておくのは、勿体ないと思います」

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60歳になってもゲームを作っていそう(笑)

 

  現在吉田は、『FF14』の仕事と並行して、シリーズ最新作『FF16』の開発にも携わっている。

 「ただ『FF16』の場合、僕はプロデューサーとしてのみ関わっているので、作業量はそれほど多くはないです。開発ディレクターを筆頭にチームがものすごく頑張っている。まだ僕の印象が前に出すぎているので、どういうメンバーで作っているか、今後お伝えしていこうと思っています。もちろんゲーマーの端くれとして、僕も納得いかないところには口出しはしていますが、やはりゲームはディレクターのものであるべきだと思っています」

 『FF16』では、これまでのFFシリーズのファンに対してはもちろん、若い世代のプレイヤーをどう取り込んでいくかにも心を砕いているという。

 「世界中の、特に若い世代の皆さんにも遊んでいただきたいと思っていて。10代後半から20代後半ぐらいまでの方は、『FF』の名前は聞いたことはあっても、実際にプレイしたことのない方が多いんです。それと、今のゲームはボタンを押せばキャラクターが銃を撃つし、剣をふるう、直感的な操作ができるゲームが主流で、ターン制のコマンド(命令)を選んで戦うという、昔ながらのRPGのスタイル自体になじみがなくなってきているのも事実です。ですので『FF16』のバトルは、かなりアクションベースにしています。世界中の人に改めて『FF』ってすごいゲームだなと思っていただけるようなものにしたい。もちろんすべての需要を満たせるとはまったく思ってないので、チームのみんなにも『俺たちが面白いと思っているものを作って、それが好きだと言ってくれる人にしっかり届くことを、まず大事にしよう』と言っています」

 こうしてまた新しいことを始めている吉田だが、ここから先の人生をどんなふうに思い描いているのだろうか。

 「あんまり先は見てないんですよね。残りどれぐらいあるかもわからないし、中身は中学2年生のまま止まっているし。でも来シーズンはもっと鍛えて、もっと(趣味である)スノーボードうまくなるぞとは思っています(笑)。ゴルフはやらないんですかと、いろんな人に聞かれるのですが、僕は凝り性で負けず嫌いなので、ゴルフを始めたら多分会社を辞めるんですよ。ゴルフにはシニアプロもあるので、プロを目指してしまう。なので、ゲーム作りがもうしんどい、引退しようと思ったらゴルフをやろうかなと。世界中をゴルフバッグ1個で回るのとかいいですよね。スノボも1年中雪を求めてさまよい歩いてもいいし」

 意外にも、ゲーム以外のことに、思いがどんどん広がっていく。

 「・・・・・・って言いながら、『FF14』をこの先もっとすごいものにしてやるぞ、と今も強く思っているし、60歳になってもゲームを作っていそうな気もします(笑)」

 

(了)

 

吉田直樹 NAOKI YOSHIDA

 

1973年北海道生まれ。ハドソン勤務を経て、2005年スクウェア・エニックスに入社。『ドラゴンクエスト』シリーズなどを手掛けた後、2010年『ファイナルファンタジー14』のプロデューサー兼ディレクターに就任。ワイン好きとしても知られるが「すべて『神の雫』から教わりました」(吉田談)。

 

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