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【インタビュー】 鹿島アントラーズ 土居聖真選手

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相手をぶっ倒すくらいの気迫

「言い方は悪いかもしれないですけど、ここ最近の試合では、相手をぶっ倒すくらいの気持ちで試合に臨もうと思っているんですよね」

いつも穏やかで爽やかな印象の強い土居どい聖真しょうまが、少し乱暴な口調で言い放ったため、なおさら驚いた。

「気持ちがこもってないなって思ったんですよね。自分のプレーに。むしろ、気持ちというより、気合というか。試合を見返したとき、本当にゴールを奪いに行く気持ちでやってるのかって自問自答したんです」

自身にとって初となるAFCチャンピオンズリーグ(以下、ACL)を戦うなかで、土居は痛感していた。ユースからトップチームに昇格した2011年も、所属する鹿島アントラーズはACLに出場しているが、ルーキーに出場機会が巡ってくることはなかった。それだけに、プロ5年目にして初めて体感したアジアでの戦いは、彼に大いなる刺激を与えた。

「他3チームは毎試合、決勝戦のような気持ちで戦ってきた。球際もそうだし、相手DFは1点取られたらおしまいという気持ちで身体を張ってきた。うちがずっと決定機を作らせていなくても、ワンチャンスを決められてしまうような試合も多かった。それに対して、僕らは『次もある』という感覚の選手が多かったかもしれない」

初めてのACLでは、移動の厳しさや食事の大変さなど、国内でプレーしていれば感じることのない苦労を経験した。また、ACLとJリーグによる過密日程をこなしていく難しさも実感した。

3連敗から連勝した鹿島は、グループステージ最終戦まで決勝トーナメント進出の可能性を残していたが、第6節のFCソウル戦に2−3で競り負け、ACL敗退が決まった。土居は6試合すべてに先発出場。「結果に反映されなければ意味はない」と苦笑いを浮かべたが、チーム最多となる3得点を挙げた。

時間が経ったいまでも言葉には悔しさが滲んでいる。それでも少なからず手応えはあった。

「前を向いてボールを持って、ドリブルで仕掛けたときは、相手も嫌がっているというのは感じたし、スピードを活かしてDFの裏に抜ける動きも、同じく相手は嫌がっていた。試合を重ねるにつれて、ACLでもJリーグでもそれができているなって感じていたのですが、だからこそ、開幕当初から、そのプレーができなかったことが悔しい。それができれば、チームを助けられる回数がもっと増えたはずだから……」

苦い経験からわかったこともある。

「自分たちが相手より劣っているところがあったとすれば、技術じゃない何か。それは戦う気持ちであったり、一対一では負けないという思い。目に見えないところだった」

だからこそ、冒頭の言葉が土居の脳裏に浮かんだのである。そして、その言葉に、彼は何年も前に出会っていた。
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試合に出るきっかけとなった初心

いまから2年前、トニーニョ・セレーゾが再び鹿島の監督に就任した2013年のことだった。まだ、出場機会すら得られず、悶々とした日々を送っていた土居は、一冊の本を手に取る。それは同じドリブラーであり、2010年南アフリカ・ワールドカップで活躍した松井まつい大輔だいすけ(現・ジュビロ磐田)の著書だった。土居がそこに綴られていた内容を教えてくれた。

「松井さんがフランスに移籍したばかりの頃、相手から全くボールを取れなかったらしいんですよね。海外では、相手をぶっ倒すくらいの気持ちで奪いにいかないと、ボールを取ることはできないって痛感したと書かれていたんです」

ちょうど土居がその本を読んでいた頃、ある人にも似たようなことを言われていた。それは、鹿島で長年センターバックとして活躍し、精神的支柱として後輩からも慕われていた岩政いわまさ大樹だいきだった。

「当時、試合に出られず、自分に何が足りないかを考えていたとき、大樹さんに『外国人の監督は、アグレッシブさだったり、戦う姿勢だったりというのを見ているんだぞ』って言われたんですよね。『お前に、技術があるのはわかる。それでも試合に出られないのはなんでかって言ったら、そこじゃないか』って。ちょうど、そのときに松井さんの本を読んでいたこともあって、大樹さんに言われた言葉が重なったんです。加えて……そこを意識して練習に取り組んでいたら、チャンスが巡ってきたというのもある」

「試合には出られなかったですけど、練習では調子がよかったんですよね」と話す土居に、突如、転機は訪れる。2013年8月3日に行われたJ1第19節の大宮アルディージャ戦で、いきなり先発に抜擢されたのである。そのシーズン、一度たりとも試合に起用されていなかった土居にとっては、まさに青天の霹靂だった。

「試合前日にセットプレーなどの練習をしたときも、スタメン組には入っていなかったんですよね。メンバー入りはしていたので、ベンチには入れるかなとは思っていたんですけど。それこそ当時は、メンバー入りしても、(急なケガ人などの不測事態に備えた)19人目(※試合の登録メンバーは18人)ということがほとんど。試合当日、スタジアムに出発する直前に、宿泊している寮でミーティングがあるんですけど、そこでボードにスタメンが貼られるんです。顔写真付きのマグネットに、4−4−2とか4−2−3−1といった感じでシステムに、それぞれスタメンが当てはめられてて、そこで選手は試合に先発するかどうかを知る。で、そのとき、よく見たらオレがいるみたいになって。もう心臓が飛び出しそうになりました」

トップ下として大宮戦に先発出場した土居は、それを契機に出場機会を増やしていく。

「モチベーションも高かったし、取りあえずやってやろうって、ずっと動き回っていた。そういう気持ちがいまのオレには足りないなって。がむしゃらさみたいなものが……当時は前半で体力が切れちゃうくらいやっていた」

それから1年半以上が過ぎた。2014年は34試合に出場して8得点と、自身のキャリアにおいて、初めてシーズンを通して活躍した。

「1年間、試合に出ると、いろいろな部分の成長が爆発的に早いことを実感した。やっぱり、練習だけでは得られないことが試合ではたくさんある。それがテクニック的なものなのか、メンタル的なものなのかはわからないですけど、試合に勝ったり、ゴールを決めたりすることで、自信になったりする。前までは『通用するかな』だったのが、『これで勝負できる』という確信が持てるようになった」

今シーズンはより一層、主軸としての自覚も芽生えている。一方で忘れかけていたものもあった。アジアでの厳しくも激しい戦いのなかで、初心を思い出した。 土居はそれを「殺気」とも表現する。

「ACLで得点を決めても、なんで勝てないんだっていう思いもあった。全然、ボールが来ない時期もありましたからね。フリーで手を挙げて、いくらパスを寄こせ、寄こせって呼んでも、誰も見てくれていなかったりする。『なんでだよ』って思うこともあった。それなら、自分からボールを取りにいこう、奪いにいこうと。こぼれ球だったり、クリアボールを自ら拾いにいって、ボールに触ろうと思うようになった。松井さんの本に書いてあったように、海外はきっとこういう状況なんだろうなって。いまは、ボールに触れない、パスが来ないという怒りをいい方向に、いいパワーに変えようと思ってるんです。いまのチームには、自分を使う前に、自ら仕掛けられる選手が揃っているというのもある。ただ、それでボールが来ないからといって諦めるのではなく、だったら、自分で奪いにいこうって」
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自分たちの世代で未来を築いていく

ここ最近、土居のプレーを見ていて、昨シーズンとは明らかに何かが違うと感じていたのは、背番号が「28」から「8」に変わったという単純なことではなかった。

5月10日に行われたJ1リーグ1stステージ第11節のFC東京戦。前半の34分だった。左クロスに赤﨑あかさき秀平しゅうへいが飛び込み、DFと競り合いこぼれたボールに、いち早く反応したのが土居だった。半ば強引に右足で放ったシュートはミートせず、お世辞にも華麗とは言えなかったが、ボールはゴール左スミに転がるとネットを揺すった。この得点が決勝弾となり、鹿島はFC東京に勝利。ACL敗退のショックを払拭する一撃となった。

得点は、「思い切り気持ちを込めて打った」と本人が語ったように、まさにボールを拾いにいった結果であり、彼が追い求めている“殺気”や“泥臭さ”により生まれたものだった。

ただし鹿島は、続く第12節でサンフレッチェ広島に引き分けると、第13節では首位・浦和レッズのホームに乗り込んでの大一番だったが、1−2で逆転負けを喫した。浦和戦での土居は、殺気を感じさせるような執念や自ら仕掛けようとする泥臭さを見せることができず、本人も「全くダメでした」と猛省していた。

ただ、彼はインタビューでこうも語っていた。

「いつも通りといえば、いつも通りですよね。1個ずつクリアしていかないと。ひとつひとつクリアしてきたのが僕のサッカー人生だったので。日々を平凡には過ごしたくないんですよね。スタメンで出場できるようになったからといって、それが当たり前ではない。それが日常だとは思いたくないんです。課題をクリアしたら、いまのままじゃ嫌だって、次の壁もクリアしたいって思う」
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試合に出られず、腐りそうになったこともある。何をやってもうまくいかないと落ち込んだこともある。そのたびに彼は悩み、考え、壁を乗り越えてきた。「うまい選手ではなく怖い選手になりたい」と、かねてから語っていた土居は、いま、“殺気”であり“泥臭さ”を身につけようと、新たなる自分と向き合っている。

常勝軍団と言われる鹿島のトップチームに昇格して、5年目を迎えた土居だが、自らがピッチに立ちタイトルを獲得した経験はない。

「(リーグ)3連覇を達成した最初の年だって、タイトルの獲り方を知っている選手といえば、それこそ(小笠原おがさわら満男 みつおさんたちの世代くらいだったと思うんです。そのときも結果を出しながら、勝ち方を築いていったはず。それを考えたら、僕らにも不可能ではないと思うし、いまいる全員で何かを変えていかなければならない。ひとりだけ変わってもダメだし、ひとりが変わらなくてもダメだと思う。満男さんたちのアドバイスを聞きつつ、若い選手というか僕らが、思ったり、考えたり、感じたりしていかなければいけないんじゃないかなって。そこにはまず、目の前の1試合にもっと執着するところから始めていかなければと思います」

その目には殺気とも言える強い意志が宿っていた。背番号8が壁を乗り越え、さらなる逞しさを備えたとき、鹿島は新たなる時代を築くのかもしれない。(了)


取材・文=原田大輔(SCエディトリアル)
写真=佐野美樹



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土居聖真(どい・しょうま)

1992年5月21日生まれ、山形県出身。鹿島アントラーズ所属。MF。172cm/63kg。
小学校卒業後、地元・山形を離れて鹿島アントラーズのジュニアユースへ加入。その後、ユースを経て、2011年にトップチームに昇格した。2013年途中にトップ下で起用されると才能を開花させ、昨季はリーグ戦34試合出場8得点と活躍。今季より背番号も「28」から「8」に変わり、さらなる成長と飛躍が期待される。