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【インタビュー】 柏レイソル 工藤壮人選手



相手を壊しに行くような柏のサッカー

その日はまだ、春の到来を想像するのも難しいほど、肌に突き刺さる風がこたえる寒さだった。午前練習は2時間を超え、さすがに見学に訪れていたサポーターも身体を震わせていた。

工藤壮人くどう まさとがインタビューを行う応接間に入ってきたのは、それから彼が昼食を摂った後のことだった。挨拶をすませた工藤はどっしりとソファーに腰を落とすと、言葉を紡ぎ始める。その日の天気とは裏腹に、キャンプが充実していたのか、すでに日に焼けた彼の顔は、昨シーズン話したときよりもどこか精悍に見えた。

工藤が生き生きして見えた理由は、インタビューが始まり、今シーズンから吉田達磨監督が就任した柏レイソルが目指すサッカーについて尋ねると、ほどなくして分かることになる。

「記者会見でも監督が話していましたけど、自分たちがしっかりとボールを持って、常に攻撃姿勢を見せるサッカーとでも言えばいいですかね。1試合を通して考えれば、相手にボールを奪われることもある。そのときはチームとして守備をしますけど、それが守備のための守備ではなく、攻撃につながる守備。すべてが攻撃につながっているサッカーですね。要するに相手を壊しに行くサッカー。自分たちでしっかりとオーガナイズして、いい形を作って整えながら、ボールを動かし、人を動かして効率的にゴールを奪う。そういうサッカーを見せるために、始動日から、みんながひたむきにトレーニングに取り組んで来ました」

さらに具体的に聞こうと切り込むと、工藤は前のめりになる。

「基本的に守備をどうするとか、そういうことを考えることがほとんどなくなりましたね」


柏レイソルはこれまでの5年半、ネルシーニョ(現ヴィッセル神戸監督)がチームを率いてきた。その間、2011年のJ1優勝を皮切りに、2012年には天皇杯優勝、2013年にはナビスコカップ優勝とタイトルを手にしてきた。強豪の仲間入りを果たした柏レイソルだが、一方でそのサッカーは、独特なシステムやスタイルを掲げる相手には徹底的に対策を講じるなど、どこか相手に合わせて戦う印象があった。工藤は続ける。

「今、レイソルがやっているサッカーというのは相手どうこうじゃない。まず、相手からボールを奪うという考えではなく、自分たちがボールを保持している状況からスタートするという考えなんです。自分たちでしっかりボールを動かして、ここにボールがあるときは、この選手が動く、その選手が動いてスペースができたところにまた違う選手が入っていく。もちろんチームとしての規則性はありますけど、その中でもうまく選手の個性を活かすサッカーなんです。自分たちがこういうスタイルのサッカーをすれば、必ず相手は弱点を探してそこを抑えようとしてきますよね。それに対して、さらに2つ目、3つ目の選択肢を作って主導権を握っていくスタイルです」

工藤はそれを「今までにない快感」と表現した。

「練習の8割、9割が攻撃のトレーニングですし、守備の選手も常に攻撃でどうボールを動かしていくか、誰を動かしていくかというのが問われている。例えば、ボールを預けるにしても、その選手に対して、チームとして2つ、3つ保険をかけるというか、常にサポートしろってことは、監督からも繰り返し言われています。一方で攻撃に関してはペナルティエリアの近くでは比較的に自由度が高いんです。ある程度、こうやって崩す形もあるよという提案はしてくれますけど、それが絶対というわけではなく、そのとき、そのときで選手たちが頭を使って考えながら対応していく。規則性がある中で、臨機応変に変えていくサッカーなので、本当に頭は疲れますね(笑)」

サービス精神旺盛なため、日頃からメディアにも真摯に対応してくれる工藤だが、これほど饒舌に語ってくれるのは、練習で頭が疲れているとはいえ、今現在、取り組んでいるサッカーが整理できている証拠だろう。それこそが彼にみなぎっている充実感の正体だった。


エースストライカーとしての決意

新たなサッカーに取り組む中で、吉田監督は、選手ひとりひとりに対して複数のポジションでプレーする機会を与えようとしているという。ストライカーである工藤は、昨シーズンもプレーしていた3トップの右サイドを中心に、センターフォワードでもプレーすることになりそうだ。

「右サイドでプレーしていても、基本的には攻撃のことを考えてプレーすればいい。昨シーズンまではある程度、チームとしても守備的に構える部分もあったので、その中で、守から攻にどう切り替えればいいのかを考えていた。でも、今年は攻撃がまず一番にあって、自分たちがいかにして、どう相手の裏を取るか、他の選手と絡んでいくかというのがある」

工藤個人にスポットライトを当てれば、昨シーズンはJ1リーグ戦で7得点に終わった。2012年が13得点、2013年が19得点という記録を考えれば、チームが4位と躍進する中で、その数字はいささか寂しさが残る。

「個人的にシーズンが終わったとき、もっとやれたというよりも、もっとやらなきゃいけないという感情が込み上げてきましたね。FWとして最低限、二桁得点というのは早い段階でクリアしなければならないと思っています」 3トップの中央ではなく、右サイドを主戦場にしていれば、その結果もやむを得ないと捉えることもできる。だが、工藤はやはりストライカーだ。ゴールへの欲は誰よりも強い。

「今、取り組んでいるサッカーは1トップの選手が一番ゴールに近いとか、そういうサッカーじゃないんです。トップ下の選手もセンターフォワードをどんどん追い越していくし、攻撃的なポジションの選手には均等にゴールチャンスが訪れると思うんです。センターフォワードに必ずラストパスを合わせるというのではなく、誰でもゴールが取れるような状況が作れているので、チームとしての得点力も上がるはずです」

そして、「チームメイトと競うわけじゃない」と前置きしながらも、工藤は力強く言葉を続けた。

「自分としては前線の選手で一番ゴールを取りたい。チーム内得点王というか。昨シーズンはレアンドロが一番決めていましたけど、自分もその前のシーズンまでは2年連続くらいで一番決めていたので、今シーズンは巻き返したいなって。エースというか、ストライカーというところは意識しなきゃいけないのかなと思いますね」

エースという言葉が自らの口から飛び出す。まだ24歳と言うこともできる。されどもう24歳と見ることもできる。それは、エースとしての自覚と覚悟、そして野望を抱く、頼もしきストライカーの決意に聞こえた。


恩師である吉田監督への思い

U-12から柏レイソルのアカデミーで育ってきた工藤は、吉田監督とは中学2年生からの付き合いだという。工藤にとって吉田監督はアカデミー時代の恩師でもあるのだ。

「不思議な感じはしますよね。ただ、サッカーに対する熱さだったり、選手に伝えようとする気持ちや熱意は今も当時も全然、変わってないですね」

工藤がアカデミーを卒業してプロになった後、吉田監督は柏レイソルのチーム強化を担うダイレクターに就任した。それぞれ立場は変わったが、工藤にとってはいかなるときも、よき理解者であり相談相手だった。

「プロになってからも、常に試合は見てくれていたので、うまくいかないときには、自分のプレーについてどう思うかなど、いろいろと相談させてもらった。そういうときはいつも、たくさんある引き出しの中から、いろいろな選択肢を提案してくれました。もう少しこうしたほうがいい、あのプレーはこうするべきだったと、具体的に言ってくれるときもありましたけど、いつも1つの答えじゃなくて、4つ、5つ提案してくれる人でした」

工藤だけではないが、アカデミー時代に吉田監督の指導を受けた選手たちは、誰よりも指揮官の考えが理解できる。その吉田監督がトップチームの指揮官に就任した今、工藤は指揮官のサッカー哲学をチームに伝えることもできれば、浸透させることもできる。

「達磨さんも自分の実力というか、サッカーに対する信念をアカデミーのときから証明して、表現してトップチームの監督になった。僕たちは、ずっとそれを信じてやり続けてきた。僕もプロになり、その後、それぞれ立場は変わりましたけど、またこうして同じ職場というか、一緒にやれるとは思っていなかったので、楽しみですよね」

ただでさえ責任感が強い工藤だが、吉田監督とともに臨むシーズンだからこそ、人一倍、プレーに、ゴールに懸ける思いも強いのだろう。そんな工藤が目指す未来はどこにあるのか……。

「ストライカーとしてゴール数というのは大事だと思うんです。やっぱり、ここぞってときに取れる選手と言うか。極端なことを言えば、カップ戦の決勝戦、リーグ戦であれば首位攻防戦のように、サポーターが『ここで勝たなきゃいけないぞ』というような雰囲気をスタジアム全体で作り出してくれた試合では、一番輝いていたいなっていうのはすごく思いますね。言ってしまえば、(新聞の)見出しを飾れるかって話です」

柏レイソルにおいて最長となる5年半を率いたネルシーニョが去り、新たなスタートを切るチームに対しては、当然、不安の声も聞こえてくる。それは工藤も認めているし、だからこそ本人も「結果で示していくしかない」と語る。ただし、そうした批判や論評は変革期にはつきものでもある。何よりも、J2で優勝して迎えた2011年シーズン、彼らがJ1で初優勝を飾ると予想できた人は皆無だった。勝つことで、勝ち続けることで、周囲の雑音を払拭してきた経験と自信は他ならぬ彼らが誰よりも持ち合わせているのだ。

「これは個人的になんですけど、僕は、ここぞってときにギアを上げるタイミングがチームとして分かってきたなって思うんですよね。J1で優勝したときは、プレーしていても、負けないというか、失点しても逆転できるなという自信があったりした。それで優勝して、クラブワールドカップとかも経験でき、その後、天皇杯やナビスコカップも獲ることができた。昨シーズン終盤の7連勝もそうですけど、目標に向けてチームが『これなんか行けるな』っていう雰囲気を作り出せる」

終始、目を輝かせながら話す工藤にこちらまで楽しみになってくる。勝負事であるサッカーだけにやってみなければ分からないところはある。だが、「早く公式戦がやりたいんですよね」と、無邪気に笑う工藤を見ていると、柏レイソルの新たなスタートに期待せずにはいられない。(了)


取材・文=原田大輔(SCエディトリアル)
写真=佐野美樹



工藤壮人(くどう・まさと)

1990年5月6日生まれ、東京都出身。柏レイソル所属。FW。
柏レイソルの育成組織で育ち、2009年にトップチームに昇格。今シーズンでプロ7年目を迎える柏レイソル一筋のストライカー。2010年のJ2優勝、2011年のJ1優勝に貢献。2013年からは背番号9を身につけ、チームの得点源として活躍する。DFとの駆け引きを制して、ゴール前に抜け出す動きには定評がある。