男女の関係における永遠のテーマの一つ“「心と身体、どっちが大切?」問題”に真っ向から挑んでいるのが、Kissで連載中の石田拓実先生による『カカフカカ』。就活に挫折し、同棲していた彼氏にもフラれ、自信を無くした主人公・寺田亜希が暮らすことになったシェアハウスで再会したのは、かつての元カレ・本行智也。ここ2年ほど勃たなかった本行が、なぜか亜希だけには反応する──!?
本行の機能を取り戻すべく協力する亜希の心情や、男性と女性の意識の違いなど、作家で社会学者の元AV女優・鈴木涼美さんを交えてがっつりと語っていただきました! 2月13日発売の『カカフカカ』8巻とあわせて、ぜひご覧ください!
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取材・文/とみたまい
- …石田拓実 『カカフカカ』作者。
- >『カカフカカ』第1話はコチラから!
- …鈴木涼美 1983年東京都生まれ。東大卒、元AV女優、元新聞記者など異色の経歴を持つ。夜働く女性たちに関するエッセイや、恋愛・セックスのコラムを多数執筆。著書に『AV女優の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか』『身体を売ったらサヨウナラ』など。現代ビジネスこれまでの連載や対談を公開中。
価値観や良し悪しを断定したくない。それは読者が考えてくれたらいい
──ところで、石田先生が『カカフカカ』を描く時に一番気をつけているところはどこでしょうか?
- 石田:うーん……「登場人物の全員が、自分じゃない人間である」という前提と認識は大事にしています。みんな私と違う価値観の人だと思うので、自分の価値観が入り込みすぎないように。そもそも、価値観を断定したくもないので……何が良い・悪いとかを断定したくない。そこは読む人が考えてくれたらいいなあと。当たり前と思っていたことを「ほんまかな?」って思ってくれたら嬉しいかなと思います。「誘うのは男からが当然」とかっていうのも含めて(笑)。
- 鈴木:そういうところで「『カカフカカ』が好き」っていう人が多い気がします。寺田さんを含めて、キャラそれぞれにすごく嫌なところがあるじゃないですか。全員いい子じゃないのが、リアルでいいなと思います。それに寺田さんって、自分で自分にツッコむところがあるじゃないですか。女性って自己陶酔する生き物だから……特に10代とかは顕著だったと思いますが、寺田さんは「もしかしたら彼、最初から私のことを好きだった? いやいや私、都合よく考えすぎじゃない?」みたいな、少女っぽい妄想と、これまで生きてきた辛みの詰まった自己ツッコミを繰り返すんですよね。イタくなりそうなところギリギリで自分に歯止めをかける。
第2話(1巻収録)より
- 石田:そうですね。ある年齢を超えると、自分でストッパーをかけないと怖いし(笑)。
- 鈴木:そういう意味でも、『カカフカカ』は共感できるなあって思います。
──毎回新しい展開に入る時に、ネタに困ったりはしないのでしょうか?
- 石田:展開はこの4人のなすがまま、という感じで描いているので、特には……どちらかというと、実験に近いですよね。「今回はコレについてかなあ?」と情報を彼らに与えて、お庭に放すみたいな(笑)。
- 鈴木:『テラスハウス』みたいですよね(笑)。
- 石田:連載が始まる前に、参考として『テラスハウス』を観始めました(笑)。
- 鈴木:『テラスハウス』も多少の演出はありますが、基本的には台本がないところで、時間がただ流れている感じじゃないですか。そういうところが『カカフカカ』にもあって、リアルに映るんでしょうね。「絶対にこの人とこの人がくっつく」っていうのが読めない感じがリアルだなと思います。
- 石田:どっちが正解かなんてね、10年後にわかるのかもしれないし。
- 鈴木:連載をされるってすごく大変だと思うんですけど、結末や次の展開とかって浮かんでいないものなんでしょうか? 描き始めたら勝手に物語が動くものなのか、かなり先のほうまでプロットを立てないと描きづらいものなのか……もちろん、作家の先生でそれぞれ描き方は違うと思いますが、石田先生はどうでしょうか?
- 石田:私はしっかりとしたプロットを作って始めるということはあまりないので……少し先までふわっと固めつつ、「でも、どうなるかわからないよね」って言いながら、だんだん細かくしていく感じです。
- 鈴木:寺田さんにもわからないし、読者にもわからないし、石田先生にもわかっていない(笑)、次の展開みたいな感じですかね。でもいま、単行本の7巻がいいところで終わってるから、次の展開が知りたすぎて、ネットでネタバレとか探しちゃいました(笑)。
- 石田:ははは!
──今日は質問をほかにもいくつか用意してきたんですが、これまでの先生のお話を伺っていると、白か黒かという話ではないのかなあと……例えば「セックスしたいから好きなのか、好きだからセックスしたいのか、どう思いますか?」とかっていう質問に対して、「どっちでもあるし、あなたはどう?」ということなのかな? と思いました。
- 石田:そうですね。やっぱり私は両方とも同じように思えてしまうので。
──とはいえ、自分が夫に求められていないとか、男性の気持ちが本当にわからないとかって、いま現在深刻に悩んでいる女性もいると思います。お二人は、そういった人はどうすればいいと思いますか?
- 鈴木:『カカフカカ』を読んでいると、その悩み自体が不毛だなって思うんですよね。真剣に悩んで調べたり、浮気を疑ったり、離婚を考えたりしている自分が不毛に思えるようなカオス感があって(笑)。「女性が重く考えても、男性は大して考えてないんだな」とか「男性にとって、勃起って結構大事なんだ」とか(笑)、わかりますよね。
- 石田:ははは! まあ、相手があることだったら、一人で悩んでもどうしようもないのは確かなので、「あまり重く考えない」というのは大事ですよね。できれば気楽に。
──寺田さんが本行に聞いたように、「実際のところどう思ってるの?」みたいに聞くとか?
- 石田:それもできれば“膝詰め談判”的な重い感じじゃないほうがいいですよね。緊張しちゃうから。
- 鈴木:『カカフカカ』は笑いが入ってるのもいいですよね。人を笑わせるってすごく難しいと思うんですが……ああいったクスって笑えるような1コマとかって、お風呂に入ってる時にパッと思いついたりするんですか?(笑)
- 石田:頭の中でキャラクター同士を喋らせている時に、言ってくれる感じですかね。たぶん人って、“24時間ずっと落ち込みっぱなし”は無理だと思うので、「なーんてな!」ってツッコミを入れてみたりすると思うんです。苦しい時に苦しみっぱなしは、よっぽど胆力がないとできませんよね(笑)。
セックスって汚らわしいもの? 男性と女性の意識の違いとは
──今日はお二人がこうしてお会いしている貴重な機会ですので、石田先生から鈴木さんに聞きたいことなどがあれば……。
- 石田:あるある!(笑)『カカフカカ』を描く際に、ネットでいろんなものを調べるんですが、その中のいくつかが涼美さんのものでした。
- 鈴木:わー、ありがとうございます!
- 石田:現代日本の性に関するいろいろなことを調べていて……。
- 鈴木:私は“30代の女の鬱憤”みたいなものについて書くことが多くて、いまも連載ですごい勝手な女の言い分を書いているんです。自分はそれなりに殊勝で可愛らしいと思って生きてはいますが(笑)、自分が書いたものを改めて読んでみるとかなり勝手なんですよね。そういう意味で、寺田さんもかなり勝手だし、人のことも傷つけているけれど、「頑張って生きているんだな」ってすごく共感できますね(笑)。
- 石田:ははは! それはありがたいです。今回ご意見をお聞きしてみたいのが……「妻のことを家族としてしか見られないから、セックスできない」っていう男性がいますが、それって「セックスなんて汚らわしいものはできない」という意味もあって、行為自体が悪いものであるかのようにとらえる傾向があるんじゃないかと思うんです。それについてはどう感じますか?
- 鈴木:日本の風潮として、「家庭は聖なるもので、そこには穢れを持ち込まない」というのがあるので、男性は性を外に持ち出すしかないんですよね。そうやって夜の街や不倫が発展してきたと思うんです。私はそちら側の業界の人間だったから、家庭を不可侵な領域にして、穢れたものでもあり、楽しみでもあるものを外へ持ち出すっていうのは、ひとつのバランスの取り方かなと思っています。でも、そこに男女差をすごく感じていて……女性は性を外に持ち出さないでほしいのに、男性は妻に対して恨みがあるわけでもイジワルしたいわけでもないけれど……。
- 石田:むしろ、家庭を大事にしたいという思いで。
- 鈴木:そう。大事に思っているがゆえに、家庭は穢さず外でやるっていうのが、一致していない感じはありますよね。
- 石田:そういう意味で、男性のほうが性交に対して、穢れているイメージを持っている印象があるんですよね。
- 鈴木:それは、そもそも男性って穢れていない女性が好きだからじゃないかなあと思いますね。
- 石田:あ~、そっか。生き物として子孫を残すという意味でも……女は別に、童貞は好まないですもんね(笑)。
- 鈴木:そうですよね。私の周りのモテて遊んできた男性たちも、処女と結婚していますね(笑)。「真っ白な画用紙を、俺色に染めていく」じゃないですけど、いろいろ知っててスレてる女は好きじゃなくて、穢れなきものが好きで、たとえ自分の手であれ、その穢れなき存在をスレさせていくのをあまり好まないんですね。だから自分の中の黒いものは、すでにめっちゃ落書きされている外の壁に引っかけて帰る、みたいな(笑)。だって、男性って本当に不思議なんですけど、AV女優や風俗嬢ですらピュアそうな子が好きで(笑)、「それって存在自体が矛盾してない?」って思いますよね。
- 石田:ははは! たしかに(笑)。
- 鈴木:「素人風俗」とか、ただの語意矛盾なのに(笑)。そういったことからもわかるように、男性は基本的には何も知らない女性のほうがいいんでしょうね。だから、AV女優って……男性の仕事ではありえないことに、一番最初が一番給料が高いっていう、“年功逆序列”になっているんですよ。
- 石田:なるほどねえ(笑)。
- 鈴木:男性って「僕が教えてあげる」っていうのが好きだから、自分よりも経験が少ないものが好きなんでしょうね。だからこそ、奥さんにはなるべく無垢な存在であってほしい。すごく刺激的なセックスをしたいという願望はあれど、その相手は奥さんであってほしくないというか……奥さんがすっごい巧みにアナルを舐めてもちょっと嫌だ、みたいな(笑)。
- 石田:ははは! あ~、なるほど!
- 鈴木:その役割はプロだったり、遊び慣れた愛人だったりがやってくれたほうがよくて。
- 石田:でも「そんな奥さん、ちょっと素敵やん」って思ってしまいますよね(笑)。
- 鈴木:たしかに(笑)。外では真面目そうで、家ではアナルを舐めるのがすごい上手いみたいな(笑)。女性である私たちはそう思えるんだけど、やっぱり男性は……性的に巧みで自分を満たしてくれるほどの技術を持った奥さんは嫌なんでしょうね。そうするとやっぱり、女性と男性が求めているものって全然違ってくるわけで。女性にとっての男友達と彼氏・恋人が違うのと同じぐらい、男性が本妻と愛人に求めるものって違うんだと思います。だからこそ、本妻の位置が愛人によって脅かされるわけでもないって、女性も割り切れるといいんですけどね……。
- 石田:そのほうが、ある意味ラクかもしれませんね。本妻は本妻でプライドは保てるし。
- 鈴木:愛人は本妻にとって代わる存在では絶対にないから。たとえ本妻と別れたとしても、愛人が昇格するんじゃなくて、新しい無垢な女性が来たりするわけで(笑)。愛人は愛人のなかで順位があるかもしれないけれど、本妻の位置というのは不可侵だと私は感じています。
- 石田:不倫や愛人というのがシステムとして成り立っているのなら、問題はない気はするんですが……。
- 鈴木:いまの日本は一夫一妻制なので、そこが基本にあると、奥さんの心の安定が得にくくなりますよね。
- 石田:そうですね。正しくシステムにするなら、奥さんにもお知らせしたうえでやるのが正しいですもんね。
- 鈴木:「愛人はあなたにとって、脅威ではないんだよ」っていうのが伝わらないですよね。
- 石田:取られた感になっちゃいますからねえ。
いまの社会や文明で、恋愛と生殖をくっつけるのには無理がある
──石田先生が男女の恋愛や性愛をテーマに漫画を描かれるようになったのはなぜでしょう?
- 石田:少女漫画でデビューさせていただいたので、“自分の興味”と“読者さんが興味を持っているであろうこと”の重なった部分がそこだったんですよね。「描くならそこしかないわ」ということで。だってねえ? みんな……エロという意味ではないとしても、性行為やその前後のところって好きだよね? みたいな(笑)。恋愛と生殖がどれくらい関わっているのかも知りたいところではありますが……いまのところ、私自身まだよくわかっていないです(笑)。
- 鈴木:そもそも、いまの社会で普通とされている、“恋愛して、結婚して、子供産んで”みたいなのって自然ではないんですよね。動物としての本能で考えると、そもそも男女1対1じゃないだろうし。だから、恋愛と生殖をくっつけてしまうと、常識と本能が入り混じってしまうんですよね。
- 石田:そうなんです! 社会や文明も関わってくる。
- 鈴木:流行とかも入ってきますし。
- 石田:その時の風潮もありますから。
- 鈴木:例えばいまの時代は、お父さんが稼いでお母さんが家を守る、典型的な“ザ・家族”みたいなのって、あんまり流行ってなかったりもするし。
- 石田:難しい世の中になってきましたよね。ちなみに、セックスレスの原因のひとつとして、相手を本当に“聖なるもの”と崇めてしまうことでセックスできない、みたいな“女神信仰タイプ”の男性って……いるもんなんですかね?
第25話(6巻収録)より
- 鈴木:もちろん男性が「うちの妻は女神!」とかって認識はしていないと思いますが(笑)、やっぱり“(子どもにとっての)母という存在”や“自分が守るべき女性”というものに対する漠然とした理想や勘違い、妄想を抱えている男性は多いんじゃないかと思います。
- 石田:たしかに、母親像も信仰の一種ではありますもんね。「絶対的ななにか」みたいな。
- 鈴木:そうですね。それってやっぱり女性の感覚と違うんですよね。本妻側の人たちは、相手が自分に手を出してこなくなったら「愛が覚めたんだ」って卑屈になりますし、外で精子を引っかけられてる側の人たちは「セックスしても愛してはくれないみたい。私はただの性の対象なんだ」って卑屈になっていて、どっちもハラハラしているから、恋愛や性愛の話って永遠に尽きないんじゃないかなあと思います。関係が始まったばかりの人たちを除いては、「私、100%満たされてる!」っていう女性はほとんどいないでしょうから。
- 石田:なるほど~。いや、本当に今日はいろいろと参考になりましたし、楽しかったです!
- 鈴木:こちらこそ、石田先生とお話しできて楽しかったです。ありがとうございました!
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