「ガンダムの描き直しは、終わっていないんです」安彦良和さんインタビュー第1回

本日発売の「アフタヌーン」2018年11月号から、ご本人が「年齢的に最後の連載になる」と話す『乾と巽―ザバイカル戦記―』を開始した、安彦良和さん。 『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイナーとしても、『王道の狗』(文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞)や『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(星雲賞コミック部門受賞)などの漫画家としても知られ、絵を描く人の中でも伝説的に語られる人物のひとりだ。 その安彦さんが、いま考えている内容を聞かせてもらった――。

取材:構成=木村俊介

本日発売の「アフタヌーン」2018年11月号から、ご本人が「年齢的に最後の連載になる」と話す『乾と巽―ザバイカル戦記―』を開始した、安彦良和さん。

『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイナーとしても、『王道の狗』(文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞)や『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(星雲賞コミック部門受賞)などの漫画家としても知られ、絵を描く人の中でも伝説的に語られる人物のひとりだ。

その安彦さんが、いま考えている内容を聞かせてもらった――。

安彦良和……
1947年生まれ。北海道出身。1970年に旧虫プロ入社。1973年からフリーとなり、アニメーター・アニメーション監督を続けるかたわら1979年に『アリオン』で漫画家デビュー。1989年の『ナムジ』から専業漫画家となり、『王道の狗』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』など著作多数。「アフタヌーン」にて2012年〜2016年に『天の血脈』を連載。

映像で「ファーストガンダム」の全編を描き直したい

――アニメーターとして20年間、しっかりと仕事をされた後に、約30年間、漫画家として作品を描き続けておられます。

安彦:アニメーションの世界で共同作業に携わった後には、漫画家として、基本的には地味な作品を描いてきました。その「地味さ」の中にも、良いところがあったんじゃないかと思います。いつも、違う方向の考え方が、せめぎあっていたんですけどね。

一方では、おれはメジャーな漫画家ではないんだよなぁ、といういじけた気持ちがあった。でも、もう一方では、細々と描いているからこそ、売れ線を気にしたり、意に沿わない設定で描いたりするような無理なこともなかったんだ、とわかっていて……。

裏道人生だから、好きなものを好きなように描いていられる。それでも生きていられるんだぜ、という喜びは、いまに至るまでの心の支えでもあったんです。

――「ファーストガンダム」とも呼ばれ、1979年にテレビで放映されて以来、アニメーションというジャンルを象徴する作品の1つとして国内外で愛され続けているのが、『機動戦士ガンダム』です。

安彦:僕にとって、「ファーストガンダム」は、かけがえのない物語です。

――キャラクターデザインを手がけた安彦さんは、放映開始から現在までの40年近くのうちのかなりの期間を、この物語と付き合ってきました。

安彦さんは、もともとはアニメーターで、1990年代からは専業漫画家になっています。その後、2001年からの約10年間は『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を描かれました。

ガンダムが生まれた現場に居合わせ、キャラクターをデザインした本人が専業漫画家でもあるがゆえの、説得力のある理想的なコミカライズと言われています。コミックの発行部数は、現在までに累計で1000万部を超えていますね。

安彦:思いがけず、長い連載になりました。富野由悠季(原作者)のつくった設定が魅力的だから、アニメをやっていた当時は「いいね」という感じで、相談することもあれば、以心伝心のところも含めて、作品づくりへ全面的に付き合ったわけです。

そうしたら、化学反応と言うのか、絶妙な味わいが出た。描き直しても、アムロやシャアという人物たちが直面している状況は、物語にぴったり合っているなぁ、とよくわかりました。描かれていなかったところを深めても、設定のピースにうまいこと合ってくれるような、不思議な物語なんです。

――2015年からは「漫画『THE ORIGIN』のアニメーション化」という形式で(劇場公開、配信、BD、DVDで発表された)映像化されています。安彦さんはアニメーション業界に25年ぶりに復帰することになり、総監督として携わってきました。

安彦:大事な「ファーストガンダム」ですからね。僕の漫画は、原作を補完・補強するものです。映像で生まれたものを、当時の不充分さなども補うかたちで描き直す。

だったら、最終的には映像で、「ファーストガンダム」の全編を描き直しておきたい。そういう気持ちが、つねにあります。だから、正直なことを言うのならば、「漫画『THE ORIGIN』のアニメーション化」は、僕の中では、まだ終わっていないんです。

これだけ長く付き合っても、終わっていない。これは、ついこの間に、『THE ORIGIN』の打ち上げの場でも宣言したことです(笑)。

映像化は、今年に発表したもの(『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 誕生 赤い彗星』)で一段落とされています。でも、映像で始まった作品ですから、テレビでやった「ファーストガンダム」の場面は、すべてあらためて映像化して残さなければ、仕事をやりとげたことにならない、というか……。

それをやりきる余地は、まだいくつか残っているのではないか、と道筋を探っている最中ではあります。状況を変えられる、という手ごたえもある。こんなに大事な「ファーストガンダム」なのだから、ここで幕引きはさせず、すべて映像化をしようと考えています。

「アフタヌーン」にて2012年~2016年に連載されていた『天の血脈』

漫画は、身のほどを知らない挑戦ができるもの

――そんな中で、「アフタヌーン」で新連載の漫画『乾と巽―ザバイカル戦記―』を描かれるというのには、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

安彦:『THE ORIGIN』の仕事は、まだ終わっていないと思っています。それでも、物理的にはこの間までの映像化を終えた時点で、いったん、「それだけにかかりきりになる」という状況ではなくなりました。

映像化の仕事(安彦さんの役割は総監督)は、やりだしたら、合間に漫画を描けるようなものではないんですが、『THE ORIGIN』の場合は、なんとか前作の『天の血脈』とweb連載の『ヤマトタケル』を並行して描き続けることができました。これは現場のスタッフのおかげです。

でも、「ファーストガンダム」本編のアニメ化はもっと時間がかかって、しんどい仕事です。だから、もしかしたら、漫画家は廃業なのかもしれないとは思っていた。

でも、やりたいな、このネタを描いたら、自分の漫画の最後のピースを閉じることができるんじゃないか、と思っていたものはありました。それで、さっき言ったような状況から、時間的な余裕が少しできた。

だから、前作である『天の血脈』の担当編集者に相談をして、今回の連載へとつながったわけです。

――連載の初回には「最後の新連載」というアオリがありますね。

安彦:僕は70歳ですからね。編集者との間で、「何年ぐらい続く作品になりそうですか」という話題が出た際には、「どんなに長くても5〜6年ぐらいだと思います」と言いました。

もともと、そのぐらいの漫画が好きなんです。自分でもどんな話なのかわからなくなる前で、全体をしっかり把握できながらも、描いたぞという後味がしっかり残る、というボリューム。

その予定で連載が終わったら、まぁ身体的に何もなくても、限界でしょう。だから、担当編集者から「最後の新連載、と謳っていいですか」と訊かれた時には、「いいよ、そうなるだろうし」と答えました……(笑)。

『乾と巽―ザバイカル戦記―』第1話の扉

――大正時代の軍人と記者が織りなす、本格的な歴史漫画。今後の展開が楽しみです。

安彦:これまで、明治や昭和のお話を描いてきました。簡単に言えば、大正も描いたら、自分が描いてきた歴史漫画の全体がつながるんです。もちろん、それぞれ単独で読むことのできる作品なのですが。

僕が漫画でやってきたのは、ひとりで紙に線を引くという個人的な営みから、歴史まで描けてしまうんだという試みです。漫画って、何でも描けるぞ、というこの魅力は、おもに手塚治虫さんが見つけてくれたものだと捉えています。手塚さんって、「漫画なのに深い」という世界を、どんどん開拓されましたから。

読者としては、少し高尚すぎる内容の時には、手塚さんの意図を「剣呑だなぁ」「気楽に読めない」と思いもしたのですがね。でも、いま「漫画なのに深い」と言った、その「なのに」の部分こそが、漫画のある面での本質なんじゃないか、と捉えています。

ずるいところでもあるんですが、言い逃れができるんです。歴史を扱う物語を描くなら、普通はもっと堅苦しくなりがちですよね。でも、このジャンルでは、都合が悪い時には、「いや、漫画ですから」で逃げられる(笑)。

――そうであるがゆえに、言い訳を残しながらも、本気で大事だと考えている内容を、思いっきり伝えることもできる、ということですか?

安彦:うん。かえって、すごく難しいことにも挑戦できるんです。「これはカリカチュア(風刺)ですから」と言いながら。僕がこれから展開していく物語は、これまでの中でも、いちばん難しいテーマを扱っています。漫画でなければ描けない領域も含まれると思っているんです。

何を扱うのか、と言えば、ロシア革命ですね。1917年にロシアで革命が起き、社会主義国家が樹立された。20世紀最大の出来事は、このロシア革命だと思っているんです。そして、社会主義国家にまつわる理想というものには、何億人もの人が動かされたけれど、20世紀の終わりには消えていった……。

大正時代の日本人の群像劇をじわじわと描く。そんな個人的なところからでも、近現代史の急所をも突くことができるかもしれない。

それが、漫画ならではの、「漫画ですから」と身のほどを知らない題材にもチャレンジできる自由さでもある。個人的には、漫画のいちばんの魅力は、そんなところにあると考えています。

『ガンダム』も、その世界における弱い人間と強い人間、無名の人と権力者側などの、ごく個人的な対比からできていますよね。

その物語が、所詮はサブカルチャーだけれど、されど、サブカルチャーだからこそ、間接的に「戦争とは何か」という大きな問いにも触れることになった。今回の新連載も、それと同じように捉えているんです。

 

 

 

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