『テレワァク与太話』『かさねと昴①』『18=80(エイティーンエイティ)②』同時発売記念! 山田金鉄×岩渕竜子 同窓会対談!

山田金鉄氏の『テレワァク与太話』(完結済み)と岩渕竜子氏の『18=80(エイティーンエイティ)』は、モーニングに同時に連載。 しかもこの二人、大学の同級生であり、担当編集も同じなのです。 お互いの単行本同時発売を記念して、昔話に花を咲かせつつ、漫画家遍歴を語り合っていただきました。

山田金鉄氏の『テレワァク与太話』(完結済み)と岩渕竜子氏の『18=80(エイティーンエイティ)』は、モーニングに同時に連載。

しかもこの二人、大学の同級生であり、担当編集も同じなのです。

お互いの単行本同時発売を記念して、昔話に花を咲かせつつ、漫画家遍歴を語り合っていただきました。

担当: お二人は大学の同級生なんですよね?
山田: はい。多摩美術大学の造形表現学部という夜間の学部で…絵を描く学部じゃなくて、絵以外を扱うところだったんですけど。
岩渕: 二人とも学科まで同じで。映像演劇学科。
山田: 私は中学生のころからずっと演劇が好きで、大学でも演劇をやっていて…。竜ちゃんは映画を撮ったりしてたよね。
岩渕: みんな好きなことをやってたね。最初のころは写真、映像、演劇、映画、なんでも触れるカリキュラムになっていて、4年生になった頃くらいに方向性を決めるんだけど、就職活動する人は油絵学科より少なくて(笑)。
担当: お二人はモーニングで同時に週刊連載をすることになったわけですが、学生時代から仲が良かったんですか?
山田: 最初は、当然顔と名前は知っているけど関わりはそんなに…という感じで。話すようになったのは3年くらいになってからかな?
岩渕: 卒業するまで金鉄が漫画描いてるって知らなかったし(笑)。
山田: 当時は漫画は趣味で描いてただけで、そもそもプロを目指してなかったから…作品をお互いに見せ合うようになったのも卒業してからだね。
岩渕: 『鉄腕ワビスケ』(※山田氏の新人賞受賞作)のトーン貼りとか手伝ったの懐かしい。
山田: トーンを貼る角度は決まってるとか、二人ともそんなことも知らない時代で…どこにもアシスタントに入ってなかったから。新人賞を取ってからはどっぷりアシスタント生活になったけど。
岩渕: 最初はアシスタントに入る技術すらなくて、紙面に堪え得る背景とか描けないから、卒業して2年間はまずとにかくたくさん描いて…。
山田: 大学の繋がりの飲み会が卒業後もあったりしたから、交流は続いていて、ネーム見せ合ったりとかしてたね。20代の頃は二人ともなんか鬱々としてた気がする(笑)。漫画界に片足突っ込んではいるけれど、仕事も忙しくて、中途半端が続いている感じがした。
岩渕: そもそも商業作家として頑張っていくのか? っていうのも怪しい状態だった。女性誌に投稿していたけど、商業に求められるものと自分の描きたいものが合致しない感じがあって辛かったかも。二人で一緒にサークルとしてスペースを取って、コミティアで同人誌を出したときに、自分の作品がお客さんに「ウケない!」ってことがわかって(笑)。二人ともコミティア会場内の出張編集部に持ち込みをして、そこから商業の流れがスタートしたって感じだったかな。
山田: 出張編集部はほんとにいい場だなと改めて思うよね。
岩渕: コミティアは自分の「井の中の蛙具合」がわかる(笑)。出張編集部は本当におすすめ。
山田: 増刊に載るくらいだとまだ全然で、言うほど自分が漫画描けてないな…というのがわかるというか。それにひとつの編集部でずっとやっていると、頑張れている気になるけど、何も世の中に出せてないことにイマイチ危機感が持てない。いつまでも一人の担当編集としかやり取りもしないし、そういう停滞している状態にふんぎりをつける、みたいな意味もあったかも。モーニング含めいくつかの編集部から名刺をもらって、どこでもある程度はちゃんと評価されるんだなって実感できたのは嬉しかった。自分がずっとやってきたフィールド以外でも一応認められるんだな、ってわかってほっとしたって言うのかな。
岩渕:私は『月の子供は夜踊る』(※「月刊!スピリッツ」連載、岩渕氏の連載デビュー作)のプロトタイプの漫画を持っていって、当時モーニングでは「フーン」みたいな反応されて(笑)。スピリッツに行ったら「面白いから明後日打ち合わせしよう!」ってなって、そこから進んでいった。「これを受け入れてくれる編集部はあるのだろうか…」って考えていたけど、「この編集部はこういうの求めてないだろうな」とか、そういうことはまずは考えなくていいんだなって思えて良かったな。
担当: お二人は『あせとせっけん』と『月の子供は夜踊る』でほぼ同時に連載デビューが決まったんですよね。
岩渕: 『あせとせっけん』のプロトタイプも読んでました。あれがこんなに大きくなるなんて(笑)。
山田: 自然体で描けたものがたくさんの人に読んでもらえて嬉しかった。20代の頃って凄く肩の力が入ってた気がして。「商業で、プロとしてやるなら、こういうのを描かなきゃ!」みたいな。脳内に”理想のプロ漫画家”みたいなのがいて(笑)。
岩渕: 漫画家とはかくあるべき! みたいなね…。そうすると作品に、辛い感じが出がちだよね。ひねり出す感じでネームを作ると結局うまくいかないし。
山田: とにかく、20代の日々を棒に振って苦悩したおかげで今がある気がします(笑)。
担当: 漫画家さん同士って、自分のネームとか原稿を互いに見せ合うものなんですか?
山田: 私は基本やらないですね。特にアシスタント仲間とは…ネタ盗まれないか⁉ とか考えてしまうし(笑)。
岩渕: 私たちはそもそも大学の同級生で友達で、あとから二人ともたまたま漫画家志望になったって感じだったからできたのかも。
山田: 変な色目もないし。おだて合うみたいなのもないし。辛辣なことも普通に言ってくれるから(笑)。漫画ではない分野の創作の大学にいて、批評しあうという文化が最初からあったので。人に見せることに抵抗はないけど、誰にでも見せるわけではないですね。
岩渕: 大学の友達は単純に仲が良くて、何かを作ることが前提で集まっているので、産みの苦しみを知っている同士で信頼し合ってるというか。
山田: 夜間部だったので、働きながら通ってる人もいたりして、みんなガチだったので、そこの信頼は厚かったかも。
岩渕: 今もなんだかんだ、クリエイティブ系の仕事を続けている人が多い気がします。フォトグラファー、映像制作、音響とか。
担当: 大学では漫画のことは何も教わらなかったんですか?
岩渕: 何も教わらなかった(笑)。私は映画監督をやって、その大変さに若干絶望して…。映像・演劇をやるうえでも、ストーリーが好きなんだってことがわかって、最終形態として漫画にいきついた感じです。
山田: 美術も衣装も役者も一人でやれるし、一人で映画作るみたいな感じだもんね。やりたい放題できるから私は漫画が一番いい。集団で作る楽しさもわかってはいるんだけど…。
岩渕: 自分のペースでできるのがやっぱりいいなって思う。卒業後、働きながら続けられるのが漫画くらいしかなかったんだよね。それでも働いている時って一日2、3時間描けたらいい方だから、二足のわらじ生活が一番つらかった。
山田: 何の強制力もない中で漫画を描くわけですけど、当時は生きるために別の仕事をしているので、漫画を描くのはご褒美の時間なんですよね(笑)。やりたいから、寝不足になってもしょうがない。
岩渕: 当時はYoutubeもないんで、ぜんぶ本を読んで勉強して描いてましたね。
担当: お二人とも幼少期から漫画家という道を考えてはいたんですか?
山田: ちっちゃいころから絵を描くのは好きで、小学生くらいの時は漫画家になる! と思ってましたけど、学芸会で突然主役がやりたくなって孫悟空の役をやって、以降中学から大学までずっと演劇でしたね。大学では演劇やりたいグループで固まって、一緒に公演打ったりして。2年生までやって、何か違うなと思ってやめちゃったんですけど。
岩渕: 大学に入ったばかりのころの金鉄は「演劇の人」ってイメージでした。私は小4くらいから、中学2年まで年一本くらい漫画を新人賞に投稿してたけど、中3くらいでなんとなく漫画から離れて。大学1年の時に監督として映像を撮って、疲れ切ってしまって(笑)。人の配置の調整とかにエネルギーを使うことが多くて、これはクリエイティブなのか? という感じがしてきて…。芝居も向いてないし、どんどんできることが絞られていって、3年になったときに「漫画描こう!」と思った。それで3年のうちになんらか賞を取らないと就活に使えないなと思って(笑)、頑張って取った。
山田: 実践してやり切った時にだけ感じられる”無理だ!感” みたいなのってあるよね(笑)。 竜ちゃんの方が、3年生の制作でも漫画を出してたし、私よりもビジョンが明確だった気がする。
岩渕: 金鉄は卒業制作でアニメ作ってたけど、アニメはあれが初めて?
山田: 初めて。パラパラ漫画になってればいいんでしょ…? みたいなノリで作ってみたやつを卒制にするという…(笑)。
岩渕: 卒業制作でみんな初めてのことをやり始める現象(笑)。 私もドレスを作ったな…。卒業したら漫画だ! と思ってたけど。
担当: 充実した美大生活を送ってきたっぽいですけど(笑)、お二人とも一般企業に就職したんですよね? そのあと漫画家になったことも含めて、辿ってるルートが共通していてすごいですね。
山田: 二人とも計画性はあるので。無職はいかん! みたいな(笑)。 美大でもはや普通のことですけど、卒業したあと何もない、はダメだなーと思って。
岩渕: 作品があったから、クリエイティブ系の職ならそれを見せれば就活になりましたからね。絵コンテ描けますよ~ってことでCMプランナーになりました。深夜3時になっても帰れず、朝に帰って、漫画を描けてない白い原稿用紙の束を見ると泣けてきて(笑)。アシスタント時代もキツかったけど、プランナー時代よりは大分マシ。それに比べたら今は天国です。
山田: 就職当時が一番しんどそうだったね。私はフォトショが使えるから、ってことで採用されてなぜかSEになったんですけど、すごい苦労して資格取ったら、また次のもっと難しい資格が現れて(笑)。全然漫画が描けず、それで結局辞めて、そのあとはアシスタント生活でした。
岩渕: とはいえ、なんらか経歴が積んであれば、後々つぶしも効くしね。漫画に集中しすぎると、漫画以外のキャリアが難しくなってくるから…。高卒後すぐにアシスタント先に入ると、履歴書に書ける職歴がなかったりとか。一番やりたいことをすぐにやり始めてしまうリスク、みたいなものって存在する気がする。なんだかんだ、一回就職しておいてよかった、とは思っているかも。
山田: 就活してみるということにも意味がありそうだしね。自分をアピールする経験って意外とあまりできないし、何かにつながるかもって気がする。
岩渕: 漫画やめようかなと思う時期はあった?
山田: 一時期、本当にネームが描けなくなって。ジャンプでこの年齢だともうキツいなーというのもあって…。だからって他になりたいものもないし、この技術を生かせるところに行きたいけど……でもやっぱり漫画が描きたいなあーと思ってた(笑)。ので、やめようかなと真剣に考えたことはない、ってことになるかな…。
岩渕: 私は連載2作目に移るまでが大変だなーとずっと思っていて。経済的にもそうだし、違う雑誌で連載を始める方法もわからなかった。でも結局1作目の連載が終わって半年後には『18=80』をやり始めてたから、意外とそんなことを考える暇はなかったかも。編集部の提案で1作目とは大きく絵柄を変えたけど、自分の中ではすごくしっくり来ていて、それって外側からじゃないともらえない刺激だから、ありがたいなーと思ってる。
山田: 『18=80』は、フリーハンドで描いてるけど背景がちゃんとしててさすがだなーと思う。情報整理がちゃんとされてて、不要なところはぬく、入れるところは入れる。硬さと柔らかさのバランスがいいというか。ばばーっと描いても意外と大丈夫な感じがあるよね。
岩渕: 20代からずっと描いてるけど、今が一番楽しいです(笑)。
担当: 創作における頭の使い方って、やっぱり映像・演劇とは違うものですか?
山田: どうだろう……当時は脚本も書いてたんですけど、ト書きが少なくてセリフが多いってよく言われましたね。
岩渕: 劇の脚本はどういうの書いてたの?
山田: 自分の舞台として公演してはいないけど、人物が二人いて、二人の会話の応酬を見せるものが多かったかも。“学生時代、夏休みの、陽が指す帰り道”みたいな情景があって、ずっと二人が喋ってる、みたいな。
岩渕: 金鉄が描いてる漫画は基本的に二人組が出てくるよね(笑)。私は逆に群像劇っぽいのが多い。大学3年のときの読み切りでも登場人物が多くて、いつも色んな人が出がちかも。
山田: 『18=80』も登場人物多いもんね。二人とも昔から傾向が変わってない…(笑)。 あと、悲しい衝撃的な物語の転換とか昔から苦手かも。不慮の事故とか。悲しいよーーってなってしまって…。『あせとせっけん』でも当初、名取さんが交通事故に巻き込まれて、心配した麻子さんが汗をかくのも厭わず全力で走るっていう筋書きを考えてたんだけど、悲しいからなあと思って結局やめた(笑)。
岩渕: 色々つまみ食いしてはいるけど、やりたいことはずっと変わってないね。いろいろ吸収した結果、戻って来ている感じ。
山田: この間二人でゆっくり会ったとき、「これからも自分たちの中で、旬なときに旬なアイディアのものを描いていこう!」って話をしたよね。今しか描けないものを描くというか。
岩渕: そうだね。私は『18=80』で戦争の話をちゃんと描きたいなあと思っていて。あの時代を知っている人に話を聞ける機会も減ってくるので。
山田: 『テレワァク与太話』もそう。時事ネタ…現実の社会の状況を踏襲して、こんなふうに描くこと、もうないと思うし。そもそもあんまりメタネタっぽいことは普段は好きじゃないというのもあって…。自分が漫画家で、ハード在宅ワーカーだというのもある(笑)。
担当: なんかそうやって、一緒に頑張っていこう! みたいな話ができる友達がいるって、いいですね。
岩渕: 友達は大事だなーと思います。特にお互いの仕事…私たちで言えば、ものをつくるということを理解してくれている仲間って、本当に貴重です。大学の友達は今も、他のメンバー含めて何人かで集まることもあるし。業界とは別の、ルートが違う友達がいるのもいいことだよね。
山田: これからもよろしくお願いします(笑)。

 

文責:編集部

 

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