【担当とわたし】『あなたソレでいいんですか』前田悠×担当編集対談

ベテラン作家が多数活躍するイメージのある「イブニング」で、未経験の新人作家がいかに連載を獲得したのか。そこには流れを引き寄せる力があった!? 「イブニング」で連載中の『あなたソレでいいんですか』のコミックス1巻が8月23日に発売されたことを記念して、作者・前田悠先生と担当編集・今村が対談!イブニング新人賞出身の新鋭に、“新感覚ヒロイン”の誕生秘話から連載スタートまでの道のりを、たっぷり語っていただきました!

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ベテラン作家が多数活躍するイメージのある「イブニング」で、未経験の新人作家がいかに連載を獲得したのか。そこには流れを引き寄せる力があった!?
「イブニング」で連載中の『あなたソレでいいんですか』のコミックス1巻が8月23日に発売されたことを記念して、作者・前田悠先生と担当編集・今村が対談!イブニング新人賞出身の新鋭に、“新感覚ヒロイン”の誕生秘話から連載スタートまでの道のりを、たっぷり語っていただきました!

……前田悠。
『あなたソレでいいんですか』作者。大学では2回留年。
『あなたソレでいいんですか』第1話はコチラから!
……イブニング編集・今村。
『あなたソレでいいんですか』担当。大学では色白だったそう。
今村編集の詳しいプロフィールはDAYS NEOに掲載!

■「仲間たちは僕を置いて就職してしまった」

――まずは前田先生のデビューまでの道のりをお伺いできればと思います。

前田:初めて漫画を描いてみたのは、大学6年生のときですね。と言っても、原稿ではなくネームを描いただけですけど。
今村:…たしか、4年制大学でしたよね!?
前田:2回留年しました(笑)。
今村:映画サークルに入っていたんですよね。
前田:はい。サークルでは絵コンテや脚本を描いたりしていました。でも、卒業までに監督としてメガホンを取ったのは共同製作の1本だけで(笑)。卒業が近づくにつれて「このまま何も作らないで終わるのは嫌だな」と思ったんです。
今村:それで漫画を? 映画ではなく?
前田:映画を撮るにはたくさんの人に手伝ってもらわないといけなかったので。仲間たちは僕を置いて次々と就職してしまいましたからね……。なにか一人で作れるものはないかと考えて、興味があったので漫画を描くことにしたんです。好きだった短編小説をネームにしたりしていました。

――それから本格的に漫画の道を歩き始めたんですね。

前田:それから2年くらいして初めて8ページぐらいのオリジナル漫画を描いたんですが、「これはとても駄目だ」と思いました(笑)。
今村:どんな内容だったんですか?
前田:男の子がデパートで迷子になる、という話です。その子は自分が迷子になっていることを周囲に悟らせたくない、と思っていて、その心理描写だけで話が進むんです。最後には、警備員のおじちゃんに話しかけられて泣いちゃう、というストーリーでした。
今村:おもしろそうじゃないですか! 心理描写で物語が展開していくあたりは、今描いている『あなたソレでいいんですか』に通じるところがあるかもしれませんね。
前田:そうですね、でも出来はひどいと思っていたので、持ち込みも賞に応募したりもしませんでした。

――初めて作品を投稿したのはいつ頃ですか?

前田:賞に応募したのは、そこからさらに2年ぐらい先なんですが、初めは「アフタヌーン」の四季賞に応募しました。その時は二次で落ちてしまったんですが、翌年に『お通夜の二人』という作品を描いたのでそれをイブニング新人賞に投稿しました。
今村:お通夜の二人』で、イブニング新人賞奨励賞を受賞されたんですよね。

■「いきなり連載のネーム考えるのか……」

――そこから「イブニング」とのつながりができたわけですね。

前田:そうですね。バイトの休憩中、エレベーターの中にいるときに受賞の電話がかかってきたんです。でも、エレベーターの中の電波が悪くて、少しパニックになりました(笑)。

――それから今村さんが担当に?

今村:ちょうど僕もイブニングに異動してきたばかりで。イブニングに来て初めての担当希望だったのでテンション高かったと思います。ただ、元気いっぱいに電話したのに電波が悪くて「タイミング悪かったなあ…」と。
前田:今村さんが担当になってすぐに「連載のネームを描いてきてください」と言われたんです。いきなり連載のネーム考えるんだ……と衝撃でした。連載なんてまったく考えてなかったですから。
今村:実は奨励賞って新人賞の中では一番下の賞で。本当は上の賞を目指してコツコツ頑張るのも手かもしれませんが、「鉄は熱いうちに打て」という内なる声が聞こえてきまして。「連載狙ってもらおう」と思ったんです。
前田:そうだったんですか!(笑)。
今村:お会いして話してみて、引き出しもめっちゃ多そうでしたし。チャレンジはたくさんしてもらうに越したことはないと思いまして。やっぱり苦しかったですか?
前田:はじめは読み切りを何本か描いて、そのあと連載について考えていくのかな、なんてのんきに構えていたので、「連載か……」と(笑)。でも話を聞いたとき、「これは出し惜しみしちゃだめだ」と気合が入りました。

――連載用のネームはどのようなものを描いたのですか?

前田:歴史モノで描いてみたい時代があったので、その時代のオリジナルストーリーを描けたらなと思っていました。何パターンかネームを描いて持って行ったんですが、全然だめで……。どうしたらいいんだろうと迷走しました
今村:最初にその歴史モノの話をしていたときは盛り上がったんですが、何回かネームを描き直してもらううちに、だんだん脂がなくなっていって。あきらかに前田さんのノリが落ちていたんです。

――すんなり連載、とはいかなかったんですね。そのあとはどうしたんですか?

前田:なかなかこれだっていうネームが仕上がらず、数ヵ月が経ってしまっていて……。そんなときに代原コンペがあると聞いたんです。
今村:編集部内で、せっかくいい才能が集まっているのだからチャンスを増やそう、ということで、10ページの代原コンペが開催されることになったんです。ちょうど詰まっている時期だった前田さんに、どうですか?とお話を振ってみました。
前田:お話をいただいたとき読み切り用のアイデアを何個か持っていて。
今村:タイミングが絶妙でしたよね。
前田:そうですね。そして10ページだから、つかみがキャッチーな方がいいなと思ったんです。なので最初のページで女性が痴漢されているところから始まる『おじさんと私』のネームを描いたら、掲載されることになったんです! いつかは紙媒体に載りたいと思っていたので、本当にうれしかったですね。

↑代原コンペで掲載になった『おじさんと私』。主人公が「最初のページで痴漢されている」という衝撃シーンから始まる。※記事の最後に『おじさんと私』を全ページ特別公開中!

 

今村:10ページという短さが逆によかったですか?
前田:それまでは、読み切りを描くとどうしても長くなってしまう癖があったので、10ページでコンパクトにやらなきゃいけないということも、いい刺激になりましたね。
今村:連載案で難航していたときの前田さんは、1話目の冒頭をまず風景からゆったり描いてましたもんね(笑)。それが1ページ目からキャッチーにするという工夫をしたことで描き方が変わりましたよね。出し惜しみしなくなった。
前田:そうなんですよ。実はコンペの話がくる少し前から変えようと思ってはいたんですが。
今村:10ページの代原を試してみたことが、連載ネームを作るためのいい経験になりましたか?
前田:そうですね、コンペで勝ったことも自信になりました。奨励賞をとった『お通夜の二人』は、知り合いから「あまり前田さんっぽくないね」と言われたんです。人柄的に意外だったらしくて。なので、コンペではもう少し自分らしい作品を描こうかなと思って、ギャグが入った作品にも挑戦してみました。
今村:それからは、ネームが「1ページ目から何か起きている」というスタイルに変わりましたね。『おじさんとわたし』が載ったあとに「あれがきっかけで、僕の中で殻がひとつ破れました」と言っていたのが印象的でした。
前田:そのほうが、読んでいる方も読みやすいですしね。新人の作品だから、そうでもしないと読んでくれないのかなと気づいたんです。
今村:なるほど! 実は『おじさんと私』が載ったとき『よんでますよ、アザゼルさん。』の久保保久先生も読んでくださっていて、「今村さん担当なんですか、読みましたよ」と言ってくださったんです。
前田:とてもうれしいです!
今村:『おじさんと私』は、痴漢に疑われてしまったおじさんがラストで被害女性に守られるように手を引かれて去っていく、という終わり方なのですが、久保先生は「最後におじさんが「ニヤッ」って笑うひとコマを入れて、実は痴漢していた、というオチにするという手もある」とおっしゃられて。さすが久保さん!と(笑)。
前田:僕には絶対に思いつかないなと思いました(笑)。
今村:そうならないところが前田さんの味でもあると思いましたよ。
前田:いやいや…(笑)。

■「自分の殻を破るつもりでとりあえず描いてみた」

――それからはどんな道のりだったのでしょうか?

今村: 10ページの代原が載ったあと、次の作品に向けて打ち合わせしていて、「この人痴漢です」のようなキャッチーなつかみがいいね、と話していたんです。でも、よく考えてみると「この人痴漢です」を超えるつかみって意外と限られてくるなと気づきました。
前田:それで「これしかない」という感じで、包丁を持った男を出すことにしたんです。包丁男が出てきて、女の子が動じなかったら面白いんじゃないかと思いました。短く24ページにまとめたんですが、ウケがよくなかった。話を無難にまとめちゃった、と言われました。

↑24ページに無難にまとめてダメ出しされたネーム。連載第1話のヒロインと包丁男が登場する。連載とは違うラストに注目!

 

今村:包丁を持った男と動じない女の子っていう組み合わせがすごく面白いと思ったんですけど、後半失速してしまったんです。この組み合わせならもっと脱線できるはずなのに、きれいに収束してしまったような気がして……。それで「何十ページかかっても、最後オチなくてもいいから、脱線しまくってみてください」と言ったら、めちゃくちゃ長いネームを持ってきてくれました(笑)。
前田:24ページだったのが64ページになりました(笑)。これは脱線しまくっていて、『あなたソレでいいんですか』の1話目に近い感じになりましたね。

↑「脱線しまくって64ページになった」というネーム。『あなたソレでいいんですか』の1話目に近い形になっている。

 

↑64ページと、圧巻のボリュームのネーム。

 

今村:そのときも結構スパンが空きましたよね(笑)。
前田:結構かかりまして……4、5ヵ月は空きましたね。もう忘れられているだろうなって頃に「できました!」と連絡して。そのときの今村さんの反応がよくて。
今村:しかもちょうどそのタイミングで、部内で連載コンペをやるという知らせがありまして。絶妙なタイミングで前田さんから連絡が来たんです(笑)。64ページで長いけど、すごくおもしろかったので、「実はちょうど連載コンペというものがありましてね……」と切り出しました。
前田:僕も自分の殻を破りたいという思いでとりあえず描いたものだったので、まさかこれを連載コンペに出すことになるとは思わず……(笑)。どういう形で連載にするんだろう??とすら思いましたね。
今村:前田さんって、なぜかいつもタイミングがめちゃくちゃいいんですよね。最初の電話くらいです。タイミング悪かったの(笑)。
前田:本当ですね(笑)。
今村:とりあえず連載コンペに間に合わせるために2話目ネームも作ってもらわねばということで、急ピッチで打ち合わせしました。
前田:“ボーイミーツガール”みたいな作品が好きだったこともあり、男女2人が出会ってどちらかが包丁を持っている、という襲う側、襲われる側がいる形に決めました。
今村:毎回違う男女で。タイトルはとりあえず『突発的犯行オムニバス(仮)』にでもしときましょう!と。かなり急いでましたよね(笑)。『〇〇と包丁とわたし』という内なる声も聞こえてきましたが、時間もないのでグッと飲み込みました。
前田:しかもコンペの締め切りが迫っていたので、「2話目のネームを1週間でなんとしてでも描き上げてください」と言われたんです。前の読み切りも半年ぐらいかかっているのに、1週間なんて無理だと思ったんですけど「チャンスを逃す」のが怖くて、必死で描きました。なんとか期日には間に合わせることができたのですが、2話目も50ページぐらいになっちゃいました(笑)。
今村:最悪、2話目が間に合わなくても1話目だけで提出しようと思っていました。でもなんとか仕上げていただけたので、2話分で連載コンペに滑り込ませたんです。

■「“持ってる男”かもしれない」

――連載コンペに出した作品の反応はどうでしたか?

今村:コンペには前田さんの作品も含め、たしか20本ぐらい集まっていたんですが、編集部のみんなが前田さんの作品を結構プッシュしてくれて。会議では、「1話目の女の子がよかったから、この女の子を固定キャラにしたらいいのに」という意見があちこちから出ました。
前田:僕もこの二人の話をもっと続けたら面白いんじゃないかと思っていたので、その通りになれてよかったです。

――では、連載はそのコンペで決まったんですね。

今村:いえ、実は「あと一歩がんばれ」という感じでした。それで、ネームを直してもらうんですけど、今までみたいに時間をかけて直していたら、せっかく良い感触だった編集部内の反応も薄れてしまうんじゃないか……と危機感を覚えたんです。「ここは巻かないとまずいな」ということで、ペースを上げてもらいました。あそこから、前田さんの描くペースも急激に上がりましたね。
前田:コンペのときはすでにもう1話分ネームを描いていたんです。連載2話目の原型のようなストーリーで、タクシー運転手が登場する話です。このキャラクターが僕も今村さんも好きだったので。
今村:それには作戦もあって……。提出したのはオムニバスの漫画でしたが、もし会議の場で「絶対に襲う襲われるの関係でなく、偶然出会った男女に包丁が絡むというだけでも良いのでは」なんて意見が出たら、「実は、そんな2話目も、もう用意しています!!」といけたらいいなと。でも会議での反応は「そんなのいいからとにかく1話目の女の子!」というものでした(笑)。

↑前田先生が描いた幻のネーム。包丁を持った女がタクシーに乗ってきて、本当に幽霊だったというもの。連載第2話の原型となった。

 

――編集部の“1話目の女の子推し”が強かったわけですね(笑)。

前田:そうなんです(笑)。それで、1話目の女の子を固定キャラにして、2話目のタクシー運転手の回にも登場させて。そんな感じで1話目と2話目のネームを描き直したらOKが出たんです。
今村:編集長が1話目の女の子を面白がっていたので、ほかの連載案に目が行ってしまう前にキメねば……と思い、急ピッチで進めてもらいました。
前田:有力だと言われたので、ここからじっくり練っていくのかな~なんて構えていたのにやたらと急かしてくるなあ、と(笑)。そしたら「連載、決まりました」と言われまして。
今村:連載コンペの翌月ぐらいには決まりましたよね!
前田:バイトの休憩中に喫茶店にいたら、電話がかかってきたんです。でも、あまり大声で喜べない状況だったから、小声で「あ、マジすか」って(笑)。
今村:こっちはテンション高く電話したのに「なんかあまりうれしそうじゃなかったな…」って。このときもタイミング悪かったですね(笑)。でも前田さんって、“持ってる男”なところがある気がします。もちろん連載が決まったのは実力と頑張りがあってこそですが、タイミングよく代原コンペのときに読み切り案があったり、連載コンペのときにいい設定ができていたり。こちらからの電話はとても間が悪いのに(笑)。
前田:本当にラッキーとしか言いようがないです。

■「トーンを削るって、どうやるの?」

――代原掲載、連載決定と順調に進まれた前田先生ですが、その間にアシスタント経験はないんですか?

前田:連載開始前に、4日間だけ『トモダチゲーム』の佐藤友生先生の仕事場に入れていただきました。技術的なことももちろんですが、連載で大事なことは平常心だよ、と教えていただいたことがとても印象に残っています。
今村:昔担当していた佐藤友生さんは大変面倒見の良い方で、アシスタントに入っていてデビューした新人さんにも「(担当はさておき)佐藤さんの仕事場を紹介してもらえたことが本当に大きい」とよく言われるんです。前田さんもヘルプで現場に行かせてもらえないかと思い、久々に電話しました。「あ、今村のやつなんか頼もうとしてるな」という空気を感じましたが(笑)。
前田:短い時間でしたが、佐藤先生のもとで学べて良かった、と思いましたね。

――他にはどんなことを学べたんですか?

前田:まずプロの漫画家の生原稿を見たのが初めてだったので、「ウワー、こんなにきれいに描くのか!」と感動しました。アシスタントの方との丁寧な接し方も勉強になりましたね。ただ、僕はめちゃくちゃ使えなかっただろうなという申し訳なさもあって……。なにしろ基本的なことが何もできなかったので。「トーンを削るって、どうやるの?」というレベルでした(笑)。

――アシスタントをやりながらネームを描いて連載を狙う、という方が多いと思いますが、そういう方法を考えたことはなかったのでしょうか?

前田:やってみたいとは思っていました。
今村:実は『創世のタイガ』の森恒二先生がアシスタントを募集していたときに、前田さんの受賞作や代原をお見せして打診したことがあるんです。そうしたら、「この人はアシスタントをするより早くオリジナル作品を描いたほうがいい」と言われまして。「なんてやさしい言葉なんだ!」と(笑)。
前田:たぶん気を遣って言ってくださったんだと思いましたが、本当に励みになりましたね。今でも辛いときの励みになっています。
今村:森先生は『あなたソレでいいんですか』の連載が始まってからも読んでくださっているそうで、森先生の担当から「森先生が面白いと言っているよ」と聞きまして。うれしいかぎりです。是非2巻発売のときには帯コメントをお願いしたいです。1巻はもう出てしまいましたので!

■「浮かんでいるセリフだけLINEで送ってみる」

――連載をスタートされて、苦労しているところはどこでしょう?

前田:やっぱりネームが遅いということですね。ついこの前まで、一作に半年かかっていた人間なので。あと、僕はアナログで作業しているので、デジタルを導入しておけばよかったなあと……。

――アシスタントはどうされているのですか?

前田:アナログで作業してくれるアシスタントの人手があまりないので、今は妹と、素人の同居人と、昔のバイト先で知り合ったアシスタント経験のある方に手伝ってもらっています。必要なときに2日間ぐらいですね。
今村:その方々のスケジュールを押さえられるかどうかも進行に関わってきますよね。

――打ち合わせにはLINEも活用していると伺いましたが。

前田:僕が描くのが遅いので、ネームをLINEで送らざるを得ないんです。
今村:理想のパターンはもちろんネームが完成してから直接打ち合わせ、という形ですが、打ち合わせに行っても「ネームできてません」ということのほうが多く、そうも言っていられなくて(笑)。だから、「できている分だけでも、写真撮って送ってくれませんか」とお願いしているんです。それもなければ、浮かんでいるセリフやキーワードだけでも送ってください、と。
前田:今村さんに説明しようと思ってLINEを送っていると、自分の中で整理されることがあるんですよね。「このキャラクターがこういう行動をするのは、こういう考えが根本にあるからですかね?」と僕が疑問形で送ったりします(笑)。「知らねーよ!」って感じだと思うんですけど。
今村:とにかく断片的でもいいので送ってもらって、「これってもしや〇〇ってことですか!?」と聞くと「いえ、全然違います」と返ってきたり(笑)。
前田:ずっと家にこもって描いていると気持ちがどんどん落ちていくので、LINEでやり取りできるのはありがたいですね。
今村:僕はなるべく気持ちが前向きでいられるよう日光を浴びるようにしています。

――LINEで打ち合わせ、というのは、よくある方法なんですか……?

今村:いえ、あまりないです……(笑)。
前田:ないんですか……初めて知りました(笑)。
今村:お会いしたときに雑談しまくっているので成り立つ方法なのかも。キャラの行動原理の分析や浮かんだシチュエーションなどがLINEで続々送られてきて「おお!いいですね!」とだけ返すときもあります。ちゃんと読んでるのかよ!って怒られそうですが、ちゃんと読んでますからね(笑)。そして色々と考え方を握り合ってからまた直接お会いして打ち合わせして…という流れです。
前田:返事が素っ気ないときは好感触ということで(笑)。

■「損得勘定のネジが外れているキャラを描いてみたい」

――連載コンペで絶賛された1話目のあの女の子のキャラクターは、どのように生み出されたのでしょうか?

 

前田:あの女の子は、理想のヒロインというよりは「こういうふうに生きている人がいたら面白いな」という思いを突き詰めたキャラなんです。損得勘定のネジが外れている人を描いてみたら面白いと思ったことがきっかけですね。

↑連載コンペで好評だった『あなたソレでいいんですか』のヒロイン。ポーカーフェイスで突拍子もない発言をするぶっ飛んだ性格が魅力的!

 

――毎回ストーリーを考えるのは大変ですか?

前田:大変ですが、毎回なんとかひねり出しています(笑)。
今村:前田さんは、これから原稿を描き始めたらもう間に合わないのでは、というぐらい、ネームに時間をかけるんです。もはやここまでか、というタイミングで一気にネームが仕上がる感じで。「ダメだ。編成担当に頭下げて休載をお願いしよう」という朝に、LINEに大量の通知が来ている。「前田悠さんが写真を送信しました」が20通ほど。ネームの写メですね。「写真を送信しました」が表示されたときの安心感たるや(笑)。そして描き始めると早いんですよね。
前田:そうかもしれないですね(笑)。パッとアイデアを閃くことはあまりなくて、七転八倒しているうちにいつの間にかできていた、という感じなんです。追い詰められると力が湧いてくるとかそういうわけではなくて、本当に元気なくなるんですけど、やらなきゃいけないですから。
今村:夏休みの宿題は8月30日から仕上げるタイプですかね(笑)。
前田:そうはなりたくないんですけどね……。でも睡眠を削って描くことはなくて、ちゃんと寝るようにしています。一度だけ睡眠を削ってやったことがあったんですが、最後の1日は生きる屍のようになってしまったので、あまり意味はないかなと思ってるんです。

――連載でこれだけは大事にしよう、と決めていることはありますか?

前田:う~~ん。。
今村:そこは締め切りって言ってくださいよ!(笑)
前田:まあ、そうですね(笑)。
今村:あとはノッて描いてほしいなあ、と。前田さんの作品はセリフ回しが面白いんで、そこに脂が乗っていているとうれしいです。ここでこんな言葉が出てくるのか! と、急に他人事ではなくなるような、ハッとなるセリフなんかも魅力だと思ってます。
前田:今村さんは「全然ダメですね」というようなことは言わないんです。こちらのテンションが上がるようにすごく気を配ってくれるんです。僕だったら怒っていると思います(笑)。
今村:あ、今すごくいい言葉が…!

■「脱線しまくってほしい」

――最後に、今後の作品の展望を教えてください。

前田:これからいろんなキャラが出てきて、作品内の人間関係が面白くなっていけばいいなと考えています。

↑新キャラも続々登場。今後のヒロインを取り巻く人間関係に注目だ。

 

今村:新キャラ楽しみですね。もちろん先の展開をいろいろと話し合ってはいますが、“脱線”しまくってみたことで生まれた企画なので、打ち合わせた内容なんか超えていい意味で脱線しまくってほしいと思ってます。

――今後の“脱線”を楽しみにしています!本日はありがとうございました。

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■読み切り『おじさんと私』を特別公開!!