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【特別対談】 塩谷司(アル・アインFC)╳ツジトモ〈前半〉


現在、『GIANT KILLING』(『ジャイキリ』)では、「アジアカップUAE大会」における日本代表の激闘が描かれている。

今回お届けするのは、闘いの舞台となっているUAEで活躍する唯一の日本人であり、元日本代表の塩谷司選手と作者・ツジトモ氏の特別対談だ。

実はアジア杯編に入る前、ツジトモ氏は塩谷選手に秘かにコンタクトを取ったそうで……。




「ジャイキリ」はUAEでも人気!?

——お二人は、お会いするのは初めてですけど、話したことはあるんですよね?

ツジトモ そうなんです。元々の経緯を僕から説明すると、『GIANT KILLING』を描く中で、かなり前から日本代表がアジアカップを戦うストーリーを考えていて。実際、2000年のアジアカップは秋に開催されていたので、それに倣おうと思っていたんです。『GIANT KILLING』の連載が始まったのが、10年以上も前だったということもあるんですけどね(笑)。今ではオーストラリアがAFC(アジアサッカー連盟)に加盟したり、状況は変化しているんですけど、今回、アジアカップを描くときに、ここはあえて逃げずに当初考えていた通りに進めようと思ったんです。

塩谷司(以下、塩谷) 『ジャイキリ』は全巻読ませてもらっているんですけど、作品の中で、秋にアジアカップが開催されているのは、そうした背景があったんですね。

ツジトモ 実はそうだったんですよ。それで開催国を中東にしようと考えたとき、文化や宗教的なことも含めて、UAEがいいんじゃないかって前から思っていたんですよね。ただ、いざストーリーが進んで、アジアカップに突入するぞってなったとき、UAEの情報がなかなか得られない。ガイドブックを読んだり、日本サッカー協会の方にたずねたりもしたんですけど、選手がプレーする場面を描くとなると、やっぱり感覚が分からない。それで、UAEでプレーしている選手っているだろうか…って悩んでいたら、塩谷選手がいるじゃないかって!




前回王者としてブラン率いる日本代表は負けられない戦いに挑む



塩谷 むしろ、今、UAEでプレーしている日本人は僕しかいないですからね(笑)。

ツジトモ それで、ライターの原田大輔さん(司会担当!)に、塩谷選手に話を聞かせてもらえないだろうかって相談したんですよ。そうしたら連絡を取ってくれて、しかも、了承してくれたって言うので、あのときは、びっくりしました。

塩谷 むしろ光栄でしたよ! ちょうど、僕が肩をケガした直後(2017年11月)くらいに電話をもらいました。もともと『ジャイキリ』は大好きで読んでいたし、自分が役に立てるなら、すぐに協力したいって思いましたよ。あのときは電話で1時間半くらい話したんですよね。実際、僕の話って作品の役に立ちましたか?

ツジトモ いやいやいや、なりましたよ。実際、聞いた話はどれも面白かったですし、めちゃくちゃ参考になりました。

塩谷 実際、僕も漫画を読んでいて、このスタジアムはあそこだなとか、このスタジアムはここだなって分かりましたよ。ここは1回、試合したなぁとか。

ツジトモ (誌面を見せながら)実は、ここはアブ・ダビで、こっちはアル・アインなんですよ。

塩谷 あっ、ホントだ。ここはまさにアル・アインのスタジアムですね。

ツジトモ スタッフとも写真を見ながら、このスタジアムは入場するところが少し坂になっているよねって話してたんです。

塩谷 はい、坂になってます。(絵を見て)ホントだ、ちゃんと再現されてる(笑)。そこまで見てるんですね。

ツジトモ ロッカールームの資料がなかなか少なくて、難しかったんですけどね……。

塩谷 言ってくれたら、写真送ったのに。

ツジトモ いやいや、さすがにそこまでは頼めないですよ(笑)。




塩谷選手の情報をもとにツジトモ氏は作画をすすめた



塩谷 僕は電子書籍で『ジャイキリ』を購入しているんですけど、iPadで読んでいたら、知っているチームメイトがかなりいましたよ。日本の漫画はUAEでも人気があって、チームメイトも興味津々だったので、ぜひアラビア語でも出版してください。

ツジトモ アラビア語かぁ……。塩谷選手はアラビア語を読めるようになったんですか?

塩谷 いや、さすがに無理ですね。というか、最初からアラビア語は諦めてます(笑)。公用語は英語なので、その勉強はしていますけどね。

ツジトモ そうなんですね。あっ、大事なことを言うのを忘れてました。いまさらですけど、優勝おめでとうございます。

塩谷 ありがとうございます。アル・アインには加入1年目でしたけど、リーグ戦とカップ戦の2冠を達成することができました。

ツジトモ Jリーグと比べて、UAEのアラビアン・ガルフ・リーグの環境や雰囲気はどうなんですか?

塩谷 アル・アインは国内でもかなりのビッグクラブなので観客がたくさん来てくれますけど、地方のクラブだとスタジアムもガラガラで、アウェイなのにアル・アインサポーターの応援が大きいときすらあります。上位3~4チームには代表選手もいたり、優秀な外国籍の選手がいますけど、下位のチームになると、それこそ外国籍選手の実力だけが飛び抜けているようなチームが多いですね。




アル・アインは昨季2冠を達成。代表選手も多い(塩谷選手は後列左から二人目)



ツジトモ サッカー自体は、どんなプレーをするクラブが多いんですか?

塩谷 アル・アインはどのチームと対戦してもボールを保持した攻撃的なサッカーを目指していますけど、他のチームは基本的に外国籍の(助っ人)選手に頼ったサッカーをする傾向が強いですね。どのチームも、ブラジル人やアルゼンチン人選手にボールを預けて、何とかしてもらうというか……。

ツジトモ アル・アインにもカイオ、ドウグラスというブラジル人選手がいましたもんね。ドウグラスはシーズン途中にトルコのアランヤスポルに移籍してしまったんですよね(※その後、7月に清水エスパルスへ加入)。

塩谷 そうなんですよ。ドグ(ドウグラス)は日本語が話せたので、すごく助かったんですよね。でも、カイオがいるので大丈夫です(笑)。実は加入する前、アル・アインが通訳をつけてくれるという話だったんですよ。でも、行ってみたら通訳がいない。その時点では、英語も全くできなかったから、どうしようと思っていたら、カイオとドグの2人が助けてくれたんです。ドグとはローマ字でやり取りするんですけど、カイオは漢字も使えるからビックリしますよ。




 





リーグ優勝の翌日、ファンから一言

——自然と、対談らしくなってきましたね。塩谷選手にとって初の海外移籍だったと思います。改めて海外でプレーしてみて驚いたことはありましたか?

塩谷 もう、驚くことばかりでしたよ。最初は本当にカルチャーショックを受けました。日本と大きく違うところを一つ挙げるとすれば、基本的にルーズなことですかね。やるときはやるけれど、やらないときは全くやらない。練習に遅れてくる選手もかなりいる(苦笑)。例えば練習が19時から始まるとしたら、数人は1時間前に来てマッサージを受けたり、ストレッチしているんですけど、半分以上の選手が10分前、もしくは5分前に来る。日本のチームで言えば、10分前はもう遅刻ですよね。それが国民性なのか、暑い気候のせいなのか…。あまり練習もやりたがらない。

ツジトモ 他の外国籍選手はそれについてどう感じているんですか?

塩谷 クロアチア人のゾラン・マミッチ監督は、UAEの選手には優しいけど、僕ら外国籍の選手には厳しいんですよね。僕らが遅刻しようものなら、めちゃめちゃ怒られます。それだけ現地の国民性を理解しているというか、諦めているのかもしれない(笑)。

——試合や練習の指導方法などに違いはありますか?

塩谷 実は、映像を見るようなミーティングはほとんどしないんですよね。日本だと試合前々日や前日には(相手チームの)スカウティング映像などを見ますけど、アル・アインではシーズンを通して2回くらいしか見ていない。だいたい試合前にロッカールームでスタメンを発表して、戦術的なことも多少話しますけど、細かいことはほとんど言われない。というのも、国内リーグは、そうしたことを徹底しなくても勝てるくらいの実力差があるし、自分たちのプレーができれば、まず負けることはないという自信があるんです。

ツジトモ UAEにおいてはレアル・マドリーとかバルセロナ(ともにスペイン)、もしくはバイエルン(ドイツ)みたいですね。逆にミーティングをした試合というのが気になる。

塩谷 それはACL(AFCチャンピオンズリーグ)の試合前ですね。UAEでプレーして感じたのは、リーグ戦よりも、ACLの価値が非常に高いということ。選手もそうだし、サポーターもACLを重視している。アジアの大会に出ることに誇りを持っていて、タイトルを獲りたいと思っている。その意気込みはかなり感じます。

ツジトモ 日本では、ACLよりもJリーグが重要視される傾向にあるので、考え方がかなり違うかもしれないですね。

塩谷 本当にそうですね。だって、リーグ優勝した翌日、オフだったのでチームメイトとドバイに出掛けたんですよ。そうしたら偶然、居合わせたサポーターに声を掛けられて、「オレらはアジアが欲しいんだ。だからACL頼んだぞ」って言われたんですよ。思わず「えっ?」ってなりましたよね。「昨日、リーグ優勝したの知ってる?」って(笑)。

ツジトモ それはすごいですね。まず、おめでとうじゃないんだ。そのACLではゴラッソな得点も決めていましたよね。




ACLに出場した塩谷選手。決勝トーナメント1回戦でカタールのアル・ドゥハイルに敗れた



塩谷 日本ではあまりUAEの情報って入ってこないですよね。日本に帰ってきて、皆さんに言われるのは、そのゴールのことと、ケガをして入院したときに、病室で白い民族衣装を着た人たちに囲まれて写っていた写真のことばかりです。「あの写真、すごいよね?」「あの人たちは王様とか貴族の人?」ってめちゃめちゃ聞かれたんですけど、実は、普通のサポーターなんですよ。ファンの人がホールケーキとかを持って、お見舞いに来てくれたんです。

ツジトモ 僕も、前回、電話で話をさせてもらったときに、それを聞いてビックリしましたもん。





実際、UAEって暮らしてみて
どんなところなんですか!?の後半に続く!


 




塩谷司(しおたに・つかさ)

1988年徳島県生まれ。国士館大学卒業後、11年に水戸ホーリーホックに加入。12年8月にサンフレッチェ広島へ移籍。DFとして活躍し、12、13、15年とリーグ優勝を経験。16年リオ五輪代表に選ばれ、グループリーグ3試合に出場した。182cm、78kg