『バトルスタディーズ』49&50巻2冊同時発売記念、なきぼくろ対談 辻マサヒロ×なきぼくろ子供がそのまま大人になっちゃったみたいな人、この人が近くにおってほしいって、ずっと思ってる。

今回の対談相手は、アパレルブランド『ブルーナボイン』のデザイナー兼代表取締役・辻マサヒロ氏。ブランドを立ち上げてから足かけ30年、“作り続ける”ことについて、辻氏は「好きの優先順位が低いから…」と言う。そして『ブルーナボイン』の服と辻氏を敬愛するなきぼくろは、「ずっと尖り続けてる人」とも。これだけだと、点と点が繋がらない…。今回の対談では、「服」と「漫画」という全く別ジャンルの世界で“作り続ける”ということに共通する、“「好き」の源流”に迫っていきたい。…と畏まった風に書いてしまったが、この辻という男…「ザ・大阪の気のいいおっちゃん」であった…。

今回の対談相手は、アパレルブランド『ブルーナボイン』のデザイナー兼代表取締役・辻マサヒロ氏。ブランドを立ち上げてから足かけ30年、“作り続ける”ことについて、辻氏は「好きの優先順位が低いから…」と言う。そして『ブルーナボイン』の服と辻氏を敬愛するなきぼくろは、「ずっと尖り続けてる人」とも。これだけだと、点と点が繋がらない…。今回の対談では、「服」と「漫画」という全く別ジャンルの世界で“作り続ける”ということに共通する、“「好き」の源流”に迫っていきたい。…と畏まった風に書いてしまったが、この辻という男…「ザ・大阪の気のいいおっちゃん」であった…。

なきぼくろ(以下、な): 辻さん、今日はよろしくお願いします!

辻マサヒロ(以下、辻): なきちゃん、久しぶりやな。対談相手って、ほんまに俺でええの?

な: もちろんです。普段辻さんと飲みに行くと、しょーもない話ばっかりして終わってしまうんやけど、本当は聞きたいことが山ほどあるんです。今日は逃がしませんよ。

辻: 普段も逃げてへんがな。

 

辻マサヒロ氏となきぼくろの邂逅。

 

辻: ビール飲む?

な: いただきます(笑)。ほんまずっとこんな感じやねん。

辻: 『ブルーナボイン』の展示会にMOROHAのアフロちゃんが来てくれて、「おもろい奴いるんで今度連れて行きますね」って来てくれたんよね。

な: 僕は、「おもろいおっちゃんいるから一緒に行きませんか?」って言われたんですよ。その時は、『ブルーナボイン』も知らなかったし、MOROHAも知らなかった。

辻: その日に飲み行ったんやっけ?

な: 展示会でビールが出てきたのは覚えてます。今日みたいに。早ない(笑)?

辻: それから一人でもお店に来てくれるようになったんやけど、多分服は見てないと思う。飲みにきてるだけ。俺は、モーニングを読んでたから、『バトルスタディーズ』のことはもともと知っててん。だからアフロちゃんがなきちゃんを連れてきてくれた時はびっくりしたよ。

な: そこからよくしてもらって、一緒に飲みに行くことが増えたんですよね。最近は二人でも飲みに行くことが増えましたが、僕は漫画を描き始めて12年くらい。辻さんはそれよりも長く服を作っている。そういう真面目な話も聞きたいんやけど、すぐに逃げていってしまうから、服を作り続けられるマインドとか、今日は僕の知らない辻さんを知りたいので、ここから真面目に質問していきますね。

 

好きの優先順位とは…、数ある「好き」に抗わない。

 

な: 野球をずっと好きでい続けられる人って少ないと思うんです。好きな時期があって、嫌いな時期もある。そういう波はあるものの、続けてるってことは結局めっちゃ好き。辻さんもそうなんかなって思うんですけど、そのことについてはいかがですか?

辻: 俺服作るのそんな好きちゃうねん。

な: もう終わりやこの対談(笑)。

辻: お姉ちゃんのお店行ったり、料理したり、家族と一緒にご飯食べたりしてるほうが好き。みんな「好きだから続けてるんでしょ?」って言うんやけど、俺の中の好きの順位があるとすれば、服を作る優先順位はめちゃめちゃ低い。ただ、服を作るのはめちゃめちゃうまいと思ってる。なぜならたくさん作ってるから。展示会に来てくれたお客さんにも「量が多いですね」ってよく言われんねんけど、質より量やと思うねん、練習って。

な: 逆を言う人はよくいますよね。

辻: 絶対に量。とことんやって、失敗して、血豆できてもバットを振り続ける奴のほうが上手いやん。

な: 続けられる人ってことですね。

辻: 俺は、ただそれをやってるだけ。いっぱいサンプル作って、「今年もアカンかった、どうすんねんこれ!」って。ちょうど今も展示会に向けて作ってる最中やから、ほんまにできひんなって思いながらやってるよ。

な: いつも「なきちゃん、もうアカンわ」って言うてるんやけど、いざ展示会に行ったらビシッと揃ってる。毎回展示会ごとにコンセプトがあって、この間は「ラブレター」。リバーシブルのスカジャンで、表は花がデザインされてあって、裏返すと切手がデザインされてるみたいな。確か前回は「道草」っていうコンセプトで、その時の服もめちゃめちゃ好きでした。

辻: もう忘れた。

な: 「好き」って、簡単にまとめられがちやけど、辻さんの言う「好きの優先順位が低い」っていう理論を最近わかり始めたんです。

辻: 運命に流されてるだけやけどな。

な: 一休さんって辻さんみたいな人なんかなって思ってるんですよ。

辻: よう言うわ。でも一休さんもよく遊んでた人やもんな。

な: 「一休み、一休み」言うて、僕も最近そんな感じになりつつあるんやけど、未来はこうありたいっていう僕の中のイメージが、辻さんなんです。“あるがまま”みたいな。

辻: ならんほうがええよ。

な: 大丈夫です、越えてみせます(笑)。 辻さんは自分のことは話さないくせに、弱音だけは吐く。20歳年下の僕が生意気なこと言っても聞いてくれて、辻さんが悩んでる時、「尖ってんのが辻さんなんやから、尖ってなかったらみんな(スタッフ)もついてこないですよ」って言うたあとみんなの前で「俺もう好きにやらしてもらうわ」って(笑)。少年がそのまま大人になっちゃったみたいな真っ直ぐさが好きで、僕もそうなりたいなって思ってます。いや越えます。

辻: 俺めちゃめちゃ単純やん(笑)。それで言うと、最近よく幼少期を思い出すことがあんねん。俺はもう晩期やんか。

な: 死にますもんね。

辻: まぁ死ぬわな。死ぬのはええねんけど、当時は「ええかっこせな」って思いながら生きてて、今より幼少期のほうがしんどかった。言うたら成長してんねん。

な: 辻さんって根は真面目ですもんね。

辻: そうやねん。実は意外と真面目やねん。

な: 全然意外じゃないです、辻さんを知ってる人はみんな知ってますよ。はみ出てる人って、真面目な人が多くて、中でも辻さんは、はみ出してることを隠さへん人。でも最近の若い子は、はみ出してることを隠そうとする。『バトルスタディーズ』でも「もっとはみ出せ」みたいなことを描いてるんです。辻さんはそれを地で行ってる人。最初に戻りますが、はみ出しながらも社会とジョイントして、辻さんは服を作り続けてきた。その尖り続けるっていうことには、「好きの優先順位が低い」というワードがヒントなんかなって思うんです。

辻: ほなちょっと違うわ。俺は服を作るのが上手くなってみたいだけ。「これでイケるわ!」っていう服を作ってみたい。

な: それはずっと言ってますよね。

辻: 40年以上服を作り続けてるけど、そう思える服を作ったことは一度もない。だから今も服を作ってるだけ。

な: 服の展示会というものに行ったのは、『ブルーナボイン』が初めてやったんです。他のブランドの展示会に行くとわかるんやけど、辻さんは服を作る量がほんまにエグい。半年に一度の展示会で、どのくらいの量を作ってるんですか?

辻: アクセサリーとかもあるからわからんけど、100点くらいやと思う。でも僕はデザイナーの友達も少ないし、周りがどれくらい練習してるか知らないから、よう言わん。年に2回しか展示会をしないから、言うたらバッターボックスに立つ回数は年2回。それでホームランなんて打てる訳ないわな。

な: 『バトルスタディーズ』でも描いてるけど、「昨日よりも遠く飛ばしたい」ってことと似てる気がしました。僕の中で漫画も野球も優先順位はそんなに高くない。辻さんに比べたらまだまだやけど、今もこうして続けられているのは、「前回よりも前回よりも」って思いつつも、全体重をそこに乗せてないから続けられてるんかなって思います。もちろん読者あっての連載なのは承知の上で!

辻: みんな、もっと「流れ」に身を任せていいと思う。

 

ほんまにこいつが文章考えてんのかな

 

辻: 『バトルスタディーズ』は、俺の指南書になってんのよ。

な: え?

辻: ほんまやねん。読んでる時にいつも思うねんけど、ほんまにこいつが文章考えてんのかなって。

な: いつもそれ言ってますよね(笑)。僕が描いてるんですよ。

辻: 冗談抜きでな、社会に適合できてないんじゃないかとか、ちょっとでもそういう悩みを抱えてる人がおるんやったら、『バトルスタディーズ』を読んだほうがいい。うちは、家族全員で読んでるよ。

な: 嬉しいです!

辻: この対談が、単行本に掲載されるわけでしょ? 俺家族から尊敬されると思うわ。

担当編集Y(以下、Y): なきさんも辻さんも尊敬し合っていて、いいですね!

辻: 俺はなきちゃんのことは尊敬してないで、『バトルスタディーズ』を尊敬してんねん。

な: こういうとこあんねん(笑)。僕は辻さんみたいになりたい。ずっと挑戦し続けてる人って歳とらへん。そして僕が漫画を描いてる時にいつも思ってるのは、読んでる人を絶望させたいんです。

辻: 絶望させたいって何?

な: 悩んでる人に読んでほしいんです。だから作中でも「頑張ったら絶対結果が出る」なんて描いたことはない。

辻: 俺は服作る時は、みんなにハッピーになってほしいと思って作ってるよ。決して安い買い物をするわけではないから、服を着た時にちょっとおもろいなとか、落ち込んでたけど、この服着たら楽しくなったなって思ってほしい。そんなことで世界は平和にならへんってこともわかってるけど、誰かがやらなアカンことやから。

な: ブルーナの服を着て飲み行ったりすると、「その服可愛いですね」って会話になる。その服のコンセプトが「お土産」で、ニュージーランドの服やった。服の話からニュージーランドの話になって1時間くらいその話をする。服自体は数万円、飲みに行ってみんなで楽しむことに数万円。その飲み会の帰りにいつも思うのが、「この(服の)価値ってなんなんや…?」。ブルーナには俺が払った服代しか利益が入らん。俺からしたら、買った服でみんなで盛り上がれたんなら、その服の価値は、買った値段以上の価値がある。難しいけど、俺が思う究極の価値は、「その人(物)がいないところでもその人(物)の話をすること」。その飲み会に辻さんがおらんくても、「この服を作ったのは辻さんっていう人で、めちゃめちゃおもろい人やねん」だけで、俺からしたら価値がある。だから『バトルスタディーズ』も、読んでくれるのはすごく嬉しいけど、俺の知らんところで、話してくれてるほうが、俺は嬉しい。

辻: なんで急に深い話すんねん。『バトルスタディーズ』を読んで救われてる人は多いと思うよ。

な: そういう対談なんです(笑)。それやったら嬉しいですけどね。

辻: だってあれは野球漫画じゃないもん。

な: 気づいてくれて嬉しいです。日常を綴ってるところがあって、先週起こったことをネームにしてるもんな。

Y: そうですね!

辻: 俺はなきちゃんがどれだけ苦労してるとか、どんな人生を送ってるかなんてわからんけど、素晴らしいセリフが出てきて、人よりちょっとだけ絵が上手い。

な: だいぶ足掻いた時期もあったけど、ちょっとだけね。

辻: ほんまに指南書やな。

な: 僕の描いてる漫画を指南書にしてる時点で、辻さんはアカンですよ。

辻: なきちゃんのことはしてないねん。『バトルスタディーズ』をしてんねん。

な: 俺が描いてるんですよ(笑)!

辻: あれはなきちゃんじゃないよ! 俺も『ブルーナボイン』の服を作る時に、違う人になる時あるよ。だからなきちゃんも、バトスタ=なきぼくろ、じゃないと思うよ。だって、じゃなかったらあんなセリフ出てこんやろ?

な: それが出るんですよね。

辻: アホちゃう。

な: 受け売りする時は、ちゃんと引用元も明かしてますから。

辻: ChatGPT使ってるやろ。

な: 使ってないです、あれはハッタリなんで。嘘ともちょっと違うけど、もし読んでる人にちょっとでも響いてるんだったら、それは体重が乗ってるってことなんで、受け売りではないですよ。いろんな名言をちょっとだけ変えてる可能性もあるけど(笑)。

辻: この前も、めちゃめちゃ良いセリフあってんけど、忘れた…。でも忘れてるってことは大したことないんやろな。

な: 僕も描いたセリフなんて覚えてないんで(笑)。

 

失敗したくない、はみ出したくない、「流れる」とはどういうことなのか。

 

な: 毎回コンセプトは何を基準に決めているんですか?

辻: 長くなっちゃうんやけど、俺は時流には応じたくない、でも俺の心の中にある自由には応じたい。モノを自由に作るためのコンセプトは必要やねんけど、それは考えの幅を制限するものではない。コンセプトを作ることによって、今まで自分が想像してなかったことを想像できるようになる。矛盾してしまうんやけど、そのコンセプトを作る時は、できるだけ時流を掴むように意識してる。「みんな何に悩んでんのかな、だからこういうのがあったらみんなハッピーになれるのかな」って。いいこと言うやろ?

な: 最高ですね。こういう発想をできる人が増えたらいいなって思う。

辻: 一回タバコ吸いに行こ(笑)。

―――喫煙所にて…

な: 担当のYは今悩んでるんですよ(笑)。

辻: 何に悩んでんの?

Y: 僕の話ですか…(笑)。30歳になって今後どうしていこうか…みたいなことをですかね…。

辻: 流されたらええやん。

Y: お二人の話を聞いていると、「流されること」がどれだけ大事なのか、理解できそうな気がするので、この後の対談の続きではそこの部分をもっと聞かせてください!

―――喫煙所から戻り…

な: 俺がどうして辻さんのことを好きかというと、この前のブルーナのコンセプトは「道草」で、俺も漫画でも道草食えみたいなことを描いたことがある。道草って、言ってしまえば流されることやと思うねん。もっと大きく言えば、近道ってなんやねんって話。

辻: 近道なんてないからな。

な: だから僕が言っていた絶望とは、「こんな漫画を読む前に…」やねん。全部は言わんけど(笑)。

辻: 漫画家がそんなこと言うなよ!

な: だから僕は主人公の笑太郎をバチバチに立たせてるんです。スターって希望も与えてくれるけど、同時に絶望も運んでくるから。

辻: 俺からしたら『バトルスタディーズ』は全員がスター。いつも思うねんけど、この作品に主人公はいない。キャラクターそれぞれに人生があって役割があって、みんなが自分らしく生きている。でもスターは大変やで。イチローさん、大谷翔平選手、落合さん、長嶋さん、王さん…挙げてったらキリがないけど、俺は彼らは、スターになりたいと思ってやってるわけじゃないと思うねん。みんなに役割があって、それを頑張ってるだけ。野球漫画って必ずスポットライトが当たる主人公がいるけど、『バトルスタディーズ』はそれがいないのが好き。

な: ありがとうございます、嬉しいです。

辻: 丸井が伝令で、うんこの話するところとか最高やったで。よう思いつくなーと思って。あれはどうやって考えたん?

 

※LESSONE/464「最後のタイム」(単行本47巻に収録)

comic-days.com

 

な: 考えたも何も、あれは打ち合わせで「丸井が伝令に行くんやけど、崩しながらなんかいい感じに辻褄合わせて最後まとめるわ!」ってだけ話したんよな?

Y: そしたらネームであれが上がってきて、天才だなと思いました!

辻: 『バトルスタディーズ』は人生の縮図やな。自分だけでは送れない人生を共有しながら生きていくみたいな。ほんまよう思いつくわ。

な: その発想は、寂しさからくる部分があると思ってて。辻さんみたいに「流されたらいいやん」って思える人が少なくて、僕は昆虫にめちゃめちゃハマった時期があって、今は少年野球にハマってる。それは道草を食うってこと。真剣に漫画は作ってるから、その道草から着想を得てる。俺にとっての「流される」ってことはそういうことで、起こったことについて、「あれよあれよという間にこっち来てもうた」で辿り着いたところは俺の知らない世界。辻さんの言うコンセプトに当てはまる部分やねんけど、道草を食う大切さを誰かに説明してもわかってもらえへん。それを感じた時に寂しくて、もっとはみ出せよって伝えたい。だから漫画を描いている気がしますね。

辻: 『バトルスタディーズ』が教えてくれるのは、誰にでもチャンスは平等に回ってきているということ。「どこかにおもろいこと落ちてないかな」って探し続けてるやつが、そのチャンスを掴める。今で言えばSNS上だけで知った気になってる人を見ると、そうじゃないんやけどなって思う。もっと外に出て流されないと。

な: ええ話やな。

辻: 失敗したってええやん。そっちに流されて違ったら違ったでええと思うねん。

な: 作中でも「失敗せえ」ってことも描いてて…、全部描いてるな(笑)! でもみんな不安を抱えてて、先のことを考えてしまうことが不安の正体やねん。これやってこうなったらどうしようとか考えるのはええけど、やってみなわからへんやん。

辻: ここまで言うてきてあれやけど、俺もめっちゃ不安やけどな(笑)。プライベートで不安なこといっぱいあんねんけど、仕事の不安はどうでもよくなる。優先順位が低いからやろうけど。

な: 優先順位が低いってかなり重要。イチローさんとか大谷翔平選手とか、野球に全ベットしてると思われてると思うけど…。

辻: 絶対ちゃうよな。あの人たちにはもっと他の何かがあんねん。

な: わからんけど、野球界とか野球少年達とか、俺たちが想像つかへんもっともっとでかい枠で何かを見ていて、「じゃあ俺はこれをやろう」っていうふうにやってると思う。

辻: 衣笠祥雄さんが昔のインタビューで同じことを言うてはった。「僕たちは野球を見てる子ども達のために野球をしてる」って。

な: 今ゾクゾクしました…。僕が漫画を描いてる理由も似てるかもしれへん。子ども、若手、「突き抜けろ」って。

辻: 服を作る時に「こんな服誰が着るねん」って思いながら作る時がある。服を選んでる人って、大きく言えば人の目が気になるから選んでる訳でしょ? 気にしないならなんだっていいんだから。「この服着たら何言われるんやろ? 自分はみんなにどう思われるんやろ?」って。実は自分がどんな服を着ようが、そんなことは誰も気にしてなくて。でもそう思うことがすごい大事やと思うねんな。

な: はみ出したいのに、はみ出したくないみたいな。

辻: 今、ブランドの名前変えたらどこのブランドの服かわからない服っていっぱいあんねん。なんのために作ってるんって思ってまうねんな。

な: 『ブルーナボイン』の服は、触ったらわかりますもんね。シャツもTシャツも、どの服も感じたことのない触感。漫画でいう「絵」と一緒。見て触ったらわかる。一回着て洗濯してみないとわからんと思うけど、ほんまに感動すんねん。首元が全然よれないとか。

辻: みんな安全なほうへ行くから買わへん。服買うのも、お酒飲むのも、お姉ちゃん遊びも、失敗したらええねん。全部お金で済む話やから。お金なくなるってみんな不安やからようやらんねんけど、それは悪循環。極端かもしれんけど、お金で済む話が一番楽やから。

な: 履き違えちゃってるんですよね。たとえば、電車なら420円で行けるところをタクシーで2500円払って行きました。そしたら2500円分の話を運転手さんから引っ張ったらいい話。

辻: せやねん! 俺も毎回タクシーの運転手さんに話しかけんねん。

Y: お二人は本当に一緒ですね(笑)。

な: 似てるやろ(笑)? 何を話すって別にない。喋って何かを感じたら、420円で電車の中で本読むよりも、2500円で移動もできて何かを感じられるほうが、俺はいい。

辻: お金で済む話やからな。それをせずに、みんな経験した気になってんのよ。だからこのスマホとかいうやつは悪やな。

な: 「スペイン」って聞いて頭に思い浮かべて、スマホで調べて写真も見て、それはただ「知った」だけ。実際に行って体験して感じな、わからんことっていっぱいあんねん。Yもよく海外行ってるけど、そうやもんな?

Y: 本当にその通りですね。今、「流れる」ということの解像度がどんどん上がってきてて、ビビってます(笑)。

辻: 俺も若い頃、上海からウルムチまで列車で72時間かけて行ったことあるよ。実際に経験してみないとわからへんことがいっぱいあった。

な: そう考えると、定住型と旅人タイプがおって、定住型って、景色が一緒で変化がないからしんどくなる。旅人タイプって、変化がありすぎてしんどいように見えるけど、ストレス発散になる時がある。それを心に置き換えて、俺は虫が好きやから、同じ帰り道でも四季折々毎日違う虫を見つけようと思って帰れば、全然違う景色になる。ちょっとそれを意識するだけで変わるねんけど。

辻: その大事さに気づくのはすごい難しいと思う。

な: そうなんです。めちゃめちゃ難しいから、それを漫画で描いてるつもりなんですけどね(笑)。

辻: みんな心の旅をしてないからな。異性ともスマホで出会う時代なんやろ? 町に行けばいっぱいおるのにスマホばっかり見て。お店もそう、町歩いてて入ってみたい店見つけても、スマホで調べて結局行かへん。行ったらええやん、みんなチャンスを逃してる。それが良くても悪くても、それだって旅な訳やんか。失敗したくないって気持ちが強すぎる。

 

「はみ出す」ことは尊くて健全

 

な: これまでの話、Yにはバシバシ入っていってると思いますよ(笑)。今はみ出すってことを実践しようとしてんねんな。

Y: 頑張ってます(笑)!

な: 打ち合わせはいつも僕の仕事場でしてるんやけど、打ち合わせ後、商店街で「今日は一人でお店に行ってみます!」ってな。

辻: 絶対大事! 俺もよく一人で飲み行くけど、そういう時に仲間と飲みに行くのはちゃうんよな。

な: ボウズでもいいやん。一人で行って店の空気を感じながら「今日ピリピリしててやばいな…」とか。

辻: 俺は招かれざる客やな…とかな(笑)。でも次行ったら「こないだも来てくれましたよね?」って会話になって、友達になったりするし。

Y: めちゃめちゃ緊張しながら入店して、結果なんの話もできずに1時間で帰りました…。

辻: 全然大丈夫。俺は初めて行った店で味もわからず帰ったことあるよ(笑)。

な: 俺も若い頃はお金がなかったから、奢ってもらうためにおじさんの話聞いてたから(笑)。『バトルスタディーズ』は、野球を好きになってくれる人が増えてほしいと思って描いてない。「はみ出す」ってことがいかに尊くて健全であるかを伝えたい。はみ出さんと、どんどんみんなと一緒になる。それなのに、みんなと一緒であることに悩んでる人っていっぱいいる。はみ出せば、また別の苦悩が待ってるから。

辻: はみ出すことを勘違いしてる人もいっぱいおるけどな。

Y: それはどういう人のことを言うんでしょうか…!

な: 興味津々やん(笑)。いっぱい聞きや!

辻: 言葉は濁すけど、打席に立つにしてもきちんとした所作はいると思うねん。ピッチャー、キャッチャー、審判に対して、礼儀はいる。でも礼儀なく打席に立つ人もおる。それは違うなと思うな。

な: 言ってる意味すごいわかりますね。それは尖ってるって言わへん、って人いっぱいいますね。

辻: 「俺今日めちゃめちゃいいバット持ってきてんねん!」って人もおるやんか。でもそのバット使いこなせてないで。みたいな感じ?

な: ほんまに尖ってる人って、誠実な人が多いから。

辻: 人生って、思うようには絶対にいかへんのですよ。流れてきたものに対して、身をかわすにしろ、抗うにしろ、一生懸命向き合ったらいいと思う。抗ってるふうに見えてるけど、本当は抗ってない、楽してかわしてるのに抗ってるように感じてる人っていっぱいおるから。「自分尖ってるんで、水が左右に分かれていくんですよ」みたいな人。そうやないねん、こっちも壁作って押していくねん。それでもアカンかった時に、押し負けて流されてったらええねん。またどこかのタイミングで踏ん張ったらええねんから。

な: それめちゃめちゃわかりますね。流されたら流されたで、流れ着いた場所で新しい発見があるかもしれんしね。

辻: そこが楽園かもしれんしね。

な: 流されないように、何を準備してんねん。準備するところ間違えてんでって思うんですよ。

辻: これ、まだ喋らなあかんの? 早よ飯食いに行こや。

な: この後まとめますから(笑)。

辻: 今まとめてしまおう。この対談記事を家族が読んだらほんまに尊敬されるわ。普段家にもろくに帰ってこない父親、普段何してんねんって思ってると思うのよ。この記事読んでくれたらちゃんと仕事してんねやってわかってくれるわ。ほんまありがとう。

な: …(笑)、こちらこそありがとうございました!

辻: よっしゃ飯行こ!

 

文責:編集部

※本対談は2026年6月に行いました。

 

 

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