こんにちは。国府町怒児(こうまち ぬんじ)と申します。
野球のオフシーズンいかがお過ごしでしょうか。
野球漫画で言えば、あっさりと終わらせがちなのがオフシーズンです。
でも、実際の選手達は、より良い契約を勝ち取るためにオフシーズンも頑張っているんですよね。
そういう現実をしっかり描いているのが、『グラゼニ』という作品です。
『グラゼニ』とは
(『グラゼニ』1巻 表紙 参照)
『グラゼニ』(原作・森高夕次、漫画・アダチケイジ)は、モーニングにて2011年より掲載されている野球漫画です。
金銭面を含むプロ野球のリアルな面に焦点を当てているのが特徴です。
タイトルは、「グラウンドには銭が埋まっている」という言葉から来ているそうです。
2012年には「このマンガがすごい! 」オトコ編で第2位に輝き、また翌2013年には「講談社漫画賞」一般部門を受賞するなど文字通りモーニングのエースと呼ぶに相応しい作品です。
作品の主人公は、凡田夏之介というサイドスローの左投手です。
この選手、年によってかなり配置が変わります。
最初は左のワンポイントリリーフ※1から始まり、先発、中継ぎを行ったり来たりします。
中継ぎとして防御率1点台の成績を残した年もあれば、防御率5点台で何とか先発投手としてやっている年もあります。
結局このピッチャーは、プロ野球の中でどれくらいの位置にいるのでしょうか。
作品に引き込まれるにつれて、気になってくるかと思います。
そこで、各年の成績を2017年の日本プロ野球の記録と比較して見ていきましょう。
8年目シーズン 25歳~26歳 年棒1800万円
(『グラゼニ』1巻 42p 参照)
連載開始時、凡田投手は左のワンポイントリリーフとして活躍しています。
高卒8年目のシーズンで、1800万円の年棒をもらっています。
(『グラゼニ』1巻 71p 参照)
この時点では、プロの一軍で通用するかどうかの当落線上にいる感じでした。
解説のトクさんは「悲しいかな一球一球100%のチカラで投げなければプロでは通用しない」(『グラゼニ』1巻 71p)と評しています。
(『グラゼニ』6巻 111p 参照)
しかし、シーズン終盤に活躍を見せ、31試合登板、4勝4敗2セーブ、防御率3.01、20ホールドポイント(ホールド※2と救援勝利※3の数を合計した数字)という成績を残します。
これは現実世界のプロ野球のリリーフ投手と比べると、どれくらいの成績になるのでしょうか。
試しに、2017年シーズンに公式戦で1ホールドポイント以上を記録した選手(130選手が該当)と比較してみます。
(2017年HP獲得投手の登板数と凡田投手8年目)
まずは、リリーフ投手にとって重要な評価基準、登板数を見てみましょう。
平均値は32.77(試合)、中央値(データを小さい順に並べたときにちょうど真ん中に来る値)は、29.50(試合)でした。
凡田投手のいる階層に色を塗っています。
20試合以下の投手が最も多いものの、70試合までは極端な差がなく分布していますね。
一番右端のデータは、72試合に登板した岩嵜翔投手(福岡ソフトバンクホークス)です。鉄人か。
このデータに凡田投手の登板数を入れるとすると、全体の65位(上位49.6%)になります。
微妙に見えるかもしれませんが、厳しいプロの世界で真ん中くらいにいると考えればすごいことかもしれません。
しかも、怪我で一時期離脱してこの登板数ですからね。
(2017年HP獲得投手の防御率と凡田投手8年目)
次に防御率です。
防御率とは、投手が1試合(9イニングス)平均何点の自責点で抑えたかを示す率です。
平均値は3.762(点)、中央値3.265(点)でした。
平均こそ3点台ですが、防御率2点台でシーズンを終えている選手が突出して多いですね。
(『グラゼニ』1巻 175p 参照)
トクさんの言っていた、中継ぎの防御率は2.99までというセリフに重みを感じます。
凡田投手は防御率3.01なので、このデータに組み込むと59位(上位45.0%)です。
これもまた真ん中くらいの数値に収まっています。
(『グラゼニ』2巻 84p 参照)
因みに、去年のデータは、20試合に登板し、1勝1敗3S防御率3.38でした。
9年目シーズン 26歳~27歳 年棒2600万円
9年目のシーズンは、チーム事情から先発投手に回されることが多くなりました。
リリーフ投手と先発投手は、同じピッチャーという職業でもかなり気質が違うようで、凡田投手も違いに戸惑うことになります。
実際のプロ野球でも、先発からリリーフに転向して大成することもあれば、リリーフで好成績を残した選手が先発ではパッとしないこともよく起こります。
(『グラゼニ』9巻 131p 参照)
凡田投手は結局、13試合に先発して1勝5敗、防御率5.33という結果でシーズンを終えます。
(『グラゼニ』11巻 22p 参照)
コミックス11巻の会話から、投球回数は70イニングスちょっとだと判明しています。
ここでは仮に、70イニングスとしておきます。
今回は先発投手と数値を比べたいので、目安として2017年シーズン平均で1試合5イニングス以上登板している選手(76選手)を抜き出して調べました。
リリーフと違い、先発はイニング数を重視するので、まずはそちらからみましょう。
(2017年1試合5イニングス以上登板した投手のイニング数と凡田投手9年目)
2017年の公式戦では、年間登板イニング数の平均値が100.42(回)、中央値が116.50(回)でした。
140~160イニングスのところに壁があり、そこを越えると超一流という感じでしょう。
このグラフに凡田投手を入れると、54位(上位70.1%)です。
どちらかというと下位に沈んでいる位置にいます。
防御率はどうでしょうか。
(2017年1試合5イニングス以上登板した投手の防御率と凡田投手9年目)
リリーフ投手の防御率と比べると、3点台~4点台に集中していることが分かります。
ここでも凡田投手の防御率5.33は厳しいです。
なんと凡田投手を入れた77選手中、74位(上位96.1%)です。
(『グラゼニ』9巻 131p 参照)
確かに「大失敗に終わった!」(『グラゼニ』9巻 131p)と凡田投手が落ち込むのは無理もない数字です。
チーム事情もあって仕方ない面はあるんですけどね。
10年目 27歳~28歳 3000万円+300万円
先発投手としてはパッとしなかった凡田投手。
しかしポストシーズン※4で中継ぎとして大活躍したこともあり、年棒は3000万円プラス出来高300万円にアップします。
(『グラゼニ』14巻 108p 参照)
この年の凡田投手は、中継ぎ投手に戻り、素晴らしい働きをします。
なんと、75試合登板、42ホールドポイント、防御率1.31です。
これは、プロ野球界全体でも一級品の数値です。
(2017年HP獲得投手の登板数と凡田投手10年目)
先ほどのホールドポイントを記録した投手達と比べても、出色の登板数です。
文句なしの1位。
(2017年HP獲得投手の防御率と凡田投手10年目)
防御率も惚れ惚れするような結果です。
凡田投手を入れた130選手で、12位(上位9.2%)ですってよ奥様。
(『グラゼニ』9巻 216p 参照)
コミックス9巻で、生まれついての中継ぎと言われている通り、やはり適性は中継ぎにあったのでしょうか。
11年目シーズン 28歳~29歳 8000万円+2000万円
その後、所属球団であった神宮スパイダースと契約で折り合いが付かず、アメリカへ渡った後に文京モップスという球団に移籍します。
ライバル投手の台頭によりシーズン途中から出番を失うも、シーズン終盤に大車輪の活躍をします。
しかしここで、イニング跨ぎなど負担のかかる起用法が災いし、利き腕の靭帯を損傷してしまいます。
防御率などの記載はないものの、シーズンを通して43試合に登板したようです。
出来高の2000万円は50試合登板のインセンティブだったため、受け取れていません。
(2017年HP獲得投手の登板数と凡田投手11年目)
一応、43試合という数字は、リリーフ登板数だとこの辺りになります。
この後、手術を受け、1年半のリハビリを余儀なくされます。
13年目シーズン 30歳~31歳 8000万円+4000万円
(『グラゼニ~東京ドーム編~』10巻 56p 参照)
13年目は、手術後の負担を軽減させるために5回限定の先発投手という起用になります。
この年は異常な勝ち運に恵まれ、10試合50イニングス登板で防御率5.04ながら10勝0敗でシーズンを終えます。
データで見るとより勝ち運の偏りが分かります。
(2017年1試合5イニングス以上登板した投手のイニング数と凡田投手13年目)
まずイニング数が、60/77位(上位77.9%)。
(2017年1試合5イニングス以上登板した投手の防御率と凡田投手13年目)
防御率が67/77位(上位87.0%)。
いずれも下位グループに属しています。
(2017年1試合5イニングス以上登板した投手の勝利数と凡田投手13年目)
にも関わらず、勝利数は15/77(上位19.4% 同4名)ですからね。
どこの数値に着目するかによって、ガラッと評価が変わります。
14年目シーズン 31歳~32歳 9500万円+500万円
プロ14年目は9500万円にオプション500万円という契約で、いよいよ年棒的にも最盛期かというところまで来ています。
起用法は、先発投手です。
シーズン序盤はパッとしない数字でしたが、東京ドーム編の13巻終盤では、完封勝利など覚醒したかのような働きを見せています。
(『グラゼニ~東京ドーム編~』13巻 139p 参照)
あれだけ中継ぎ気質が強調されていた凡田投手自身も、リリーフには戻りたくないと心境を吐露するほど、先発投手にこだわりを見せるようになります。
今後どうなっていくのか、楽しみですね。
その他分かったこと
その他、いくつか凡田投手の成績について分かりそうなことがありました。
以下のレギュレーションで求めてみます。
レギュレーション
①作中に出てきた、打者対戦の場面を集計する
②『グラゼニ』1巻~17巻、『グラゼニ~東京ドーム編~』1巻~13巻を範囲とする
③日本プロ野球の1軍公式戦で集計する(2軍戦、オープン戦、ポストシーズン、海外での試合は、集計に加えない)
この集計により2つの特徴が浮かび上がりました。
凡田投手のK/BB(ケースラッシュビービー)
(『グラゼニ~東京ドーム編~』3巻 101p 参照)
K/BBは、奪三振を与四球で割った数です。
「運に左右されにくい投手の能力、特に制球力を表している」(『wikipedia K/BB』)とされます。
この数値が、3.50以上なら優秀、2.00が普通、1.50以下だと他の指標も悪化しやすいという目安になっています。
作中の凡田投手は、K/BBが3.71(27三振/7四球)でした。
該当する場面が少ない中での数値とはいえ、流石ですね。
コントロールを生命線にしているだけあって、非常に優れた結果が出ました。
凡田投手のGO/AO(ジーオー・スラッシュ・エーオー)
(『グラゼニ~東京ドーム編~』3巻 119p 参照)
次はGO/AOという指標を見てみましょう。
ゴロアウトの総数をフライアウトの総数で割って算出します。
「平均は1.08であり、この数値が高いほど全体のゴロアウトの比率が高い」(『wikipedia GO/AO』)と言えます。
これはどちらがいい悪いといった話ではなく、タイプを表しています。
凡田投手はというと、0.78(フライアウト18/ゴロアウト23)という値でした。
どちらかといえばゴロでアウトを取るタイプなんですね。
神宮スパイダース時代はフライとゴロがほぼ同じ(フライアウト9/ゴロアウト8)だったのですが、文京モップスに移ってからゴロ寄り(フライアウト9/ゴロアウト15)になりました。
登板数が多くなる中で、球数を節約してゴロで打たせて取る投球術を身につけたのでしょうか。
それとも海外で何かを掴んだのでしょうか。
まとめ
以上でございます。
凡田夏之介という投手の立ち位置が見えてきたでしょうか。
え?
個々の年の評価は分かるけど、いまいち全体を通してすごい投手なのかが分からない?
なるほど、確かに総合評価が曖昧でした。
いつの間にか一軍が当たり前になっているから、感覚が麻痺しちゃうんですよね。
一文で表すと、こうなります。
「14年も現役を続けられているだけで、めちゃくちゃすごい」です。
(『グラゼニ~東京ドーム編~』11巻 8p 参照)
用語解説
※1.投手の役割の一つ。一人の打者を打ち取るためだけにマウンドに送られる。
※2.一定の条件を満たしたリリーフ投手に与えられる記録のこと。中継ぎ投手の勝利への貢献度を評価するときに役立つ(詳しい条件はwikipedia参照のこと)。
※3.リリーフ投手に記録される勝利 のこと(詳しい条件はwikipedia参照のこと)。
※4.「スポーツ(特に球技)のリーグ戦において、リーグ戦の成績上位チームによる順位決定トーナメント(プレーオフ)を総じて表現するもの 」(『wikipedia ポストシーズン』)。日本のプロ野球の場合は、クライマックスシリーズと日本シリーズのことを指す。
参考資料(URL最終確認はいずれも2017/12/20)
『グラゼニ』1巻~17巻 森高夕次、アダチケイジ 2011~2014 講談社
『グラゼニ~東京ドーム編~』1巻~13巻 森高夕次、アダチケイジ 2011~2014 講談社
『wikipedia ワンポイント』https://ja.wikipedia.org/wiki/ ワンポイント
『wikipedia ホールド』https://ja.wikipedia.org/wiki/ホールド
『wikipedia 勝利投手』https://ja.wikipedia.org/wiki/勝利投手
『wikipedia ポストシーズン』https://ja.wikipedia.org/wiki/ポストシーズン
『wikipedia セイバーメトリクス』https://ja.wikipedia.org/wiki/セイバーメトリクス